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入れ替えスキルでスキルカスタム  作者: 斗樹 稼多利
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暴虐


 今日は訓練に励もうと思っていたら、既にノワール伯父さんもゴーグ従兄さんもリアン従姉さんも出勤していて、朝食の席にはシュヴァルツ祖父ちゃんと奥さん一同、それと従妹コンビしかいなかった。


「伯父さん達はもう出勤?」

「うむ。お館様の長女のフィラデリア様と、次男のオルムンド様の通う学校が長期休みに入り、帰省される予定でな。王都まで迎えに行くための打ち合わせがあるそうだ」


 あっ、そうなんだ。


「わざわざ迎えに行くんだ」

「家によって自力で帰らせるそうだが、辺境伯家ともなればそうはいかん」


 ご尤もです。

 道中に何かあったら大変だし、どこかから狙われないとも限らないもんな。


「さらに言えば、この迎えにお館様も同行さなる」

「わざわざゼインさんが? なんで?」

「そういった理由でもいいから王都に行って、向こうでの顔つなぎやら社交界への参加やらで、パーティーへ顔を出さなくちゃならないんだよ」


 ああ、はいはい。貴族特有の面倒な関わり合いね。

 領地を任されているからって、そこに引きこもっていられない貴族の面倒くささは嫌だね。

 やっぱり俺、あの家を追い出されて助かったや。

 そういえば使用人や護衛の皆は大丈夫かな? 一応手紙で、不味い事になるかもって伝えておいたけど。


「というわけで、少ししたらノワールはしばらく不在になる。ゴーグとリアンは辺境伯家の警備があるから、ジルグ達はできるだけ数日掛かりの依頼は避けてくれ」


 要するに俺達がこの屋敷、というより家族を守れってことね。了解。


「分かった。どうせ冬はそういう依頼は少ないし、問題無いよ」


 ロシェリ達へ視線を向けると、朝食を口にしながら同意するように頷いてくれた。

 約一名、返事は適当で食べる方に夢中だけど気にしない、気にしない。


「そうか、助かる。わしはわしで従士隊長を代行せねばならんから、何かと忙しくなりそうでな」

「「お従兄様、お従姉様、頼りにしてます!」」


 おう、頼りにしてくれ。

 そうだ、忘れる前に……。


「ユイ、ルウ。この前約束した甘味巡り、いつなら都合が良い?」

「「えっとぉ、次のお休みは」」


 声だけでなく、動作まで揃えて次の休みを思い出している姿を大人達が微笑ましく見守り、俺も和やか気分になっていると、廊下の方から駆け足での足音が聞こえてきた。

 段々と近づいてくるその足音の主は、勢いよく扉を開けて部屋に入って来た従士隊員の一人だった。


「た、大変です、シュヴァルツ殿!」

「何事だ。こんな朝早くから」

「騎士団のガルア基地内部にて暴動が発生したと、お館様の屋敷へ連絡が」

「何だと!?」


 報告を聞いたシュヴァルツ祖父ちゃんが驚いたけど、俺達も少なからず驚いている。

 どうして、そんなところで暴動が起きたんだよ。


「詳しくは分かっていません。分かっているのは、暴れているのは一人だけということです」

「一人? たった一人なのか!?」

「はい。ですがとてつもなく強くて、手が付けられないそうです」


 騎士団が手を付けられないって、どんだけ強いんだそいつは。


「魔物ではなく、個人でそれだけ強い。しかも一人ということは、クーデターの類ではない。一体何が起きているんだ」


 顎に手を当てて考え込むのも分かる。

 上位種の魔物が出たのなら、一体でも脅威になりうる。

 クーデターなら、人数次第では騎士団でも対処できないだろう。

 だけど暴れているのは一人。

 しかも騎士団内部ってことは、侵入されたか中にいた誰かが暴れていることになる。

 いったい何がどうなって、そんな事になっているんだ。


「とにかく情報が足りん。わしもお館様の下へ向かうから、ジルグ達は屋敷にいて家族を守ってくれ」

「分かった。気をつけて」


 こういう時は祖父ちゃんの指示に従おう。

 バタバタと部屋を出て行くのを見送り、朝食を中断して何かあった時に備えての準備をする。

 防具を身に着けて武器を持ち、一旦この場を離れて従魔達の下へ向かい、敷地内の警戒に当たらせたら屋敷内に戻った。


「待たせた。従魔達は敷地内の警戒に当たらせたから、俺達は指示通り屋敷で待機だ」

「オッケー」

「できれば何事も無いといいけどね」

「それが……一番」


 確かにその通りなんだけど、そう思い通りにいくかは分からない。

 できれば騎士団の方で、なんとか解決してもらいたいな。


「おいおい。強そうなのが暴れてんだ、行って斬ってこようぜ」


 なに、ちょっと飯食いに行くみたいな感じで言ってるんだ。


「駄目だ。勝手には動けない」

「ちっ、ツマラナイ奴だ。これで斬り甲斐のある奴だったら、覚えてろよ」


 言ってろ。ここには守る家族がいるんだ、お前に合わせて勝手ができるか。




 ****




 人を殺す、壁を壊す、人を蹴散らす、人を壁に叩きつけ、追撃して殺すと同時に壊す。

 あははは。楽しいな。

 あいつがいないのは残念だけど、やっぱり人を乗っ取って暴れるのは楽しいや。


「くそっ、なんだこいつ。こんなに強かったのか!?」

「そんなはずはありません。あいつ、同期の中でも最弱ですよ!」

「だったらこの強さは、うおぉぉっ!」


 煩いなあ。

 人がせっかく楽しんでいるのに。

 喋っている暇があったら、さっさと掛かって来なよ。


「集まれ! 集まって前後から同時に攻撃だ!」


 誰かの指示で槍を構えた人達が現れ、通路の前後から一斉に突き刺そうとしてきた。

 でも効かない。

 僕のスキルで体の表面に薄い魔力の鎧を作って防御しただけで、どの槍も防がれている。

 なんだよ、せっかく待ってあげたんだから、もう少しマシな攻撃してよ。これじゃあツマラナイよ。


「バカな!? この数の攻撃を防いだだと!?」

「こんのおぉぉっ!」


 どれだけ力を込めて押しても無駄だよ。

 君達程度じゃ、この魔力の鎧は壊れないって。


「もうちょっとマシな攻撃してよ、ねっ!」


 別のスキルで両手を魔力で包み、爪の生えた一回り大きな手を作って振るい、槍を全部破壊する。

 驚いている隙に何人かを爪で切り裂き、蹴とばし、殴り飛ばす。

 こいつらは弱いけど、肉を切り裂いて悲鳴を聞いて返り血を浴びるとテンション上がるなあ。

 できれば、もう少し手応えのある奴はいないかな。

 そこだけが盛り上がりに欠けるんだよね。


「そこまでだっ!」


 おっ、いい一閃。

 鋭い一振りを避けて攻撃した奴を見ると、これまでの奴等より良さそうな鎧を纏った男が、剣と盾を手に凄い形相で僕を睨んでくる。


『大隊長!』


 大隊長? へえ、ということは少しは強いのかな。


「バレル! 貴様なんのつもりだ!」


 バレル? ああ、この体の名前か。


「なんのつもりもなにも、ちょっと暴れてるだけじゃないか」

「基地を破壊し、多くの仲間を殺め、傷つけておいて何がちょっとか! 私が成敗してやる!」

「やれるものなら、やってみなよ!」


 接近して爪を振るい、数合打ち合って距離を取る。

 うん、やっぱりここまでの雑魚よりかは強いね。


「いいね、君とは遊べそうだね」

「遊ぶ、だと? 舐めているのか、貴様!」


 怒りの籠った剣戟を避け、防ぎ、反撃を盾で防がれる。

 なかなか良い遊び相手だ。

 だけど、こんな通路じゃ狭くて楽しみきれないな。


「ちょっと、場所を変えるよ!」


 剣を右手で掴んで、左手の爪で周りの壁を破壊。

 そっちへ飛び出して大隊長って人も引っ張って連れ出したら、手を離して対峙する。


「さあ、ここの方が広いんだから全力を出してよ? でないと、ツマラナイよ?」

「おのれっ、舐めるのもいい加減にしろ!」


 おぉっ、やっぱり広い方が動きが全然違うね。

 さっきまでより、ちょっとは楽しめそうだ。


「ほらほら、もっと本気出してよ。もっと楽しませてよ!」


 さっきより激しくて鋭い攻撃が次々に来る。

 でも、まだまだ足りない! もっと楽しみたい!

 そうだ、もう少しだけ本気を出してみよう。

 必死になれば、もっと楽しませてくれるかも。


「これで、どうかな!」

「ぬう!?」


 今度は足を魔力で包んで、獣の足みたいに爪を出して蹴ってみた。

 防がれたけど盾は半壊して、破片が周囲へ飛び散っている。


「くぅっ! その手足は何なんだ。貴様には、そういった類のスキルは無かったはず」

「そんなのどうでもいいじゃないか。今は」

「大隊長、離れてください!」


 うん?


「魔法一斉発射。てぇっ!」


 大隊長って人が離れたら、いつの間にか展開していた雑魚達が一斉に魔法を放ってきた。

 へえ、大した威力じゃなさそうだけど、数が多いから少しは楽しめそうだね。


「はあぁぁぁぁっ!」


 魔力の爪で「魔斬」を発動して、一つも避けずに全てを切り裂いていく。

 あはは! いいね、雑魚は雑魚なりに楽しませてくれるね。

 できればもっと強い魔法を撃ってもらいたいけど、あいつらじゃこれくらいなのかな。


「よっと」


 最後の一つも切り裂いて破壊したら、雑魚達は揃ってキョトンとしてる。

 何が起きているのか、理解しきれていないみたいだね。


「バカな、あれだけの魔法を……」

「ねえ、もう終わり? まだ魔力に余裕があるなら、もっと撃ってきてよ。僕を楽しませてよ」

「う、うわあぁぁぁっ! フレアランス!」


 笑いながらお願いしたら、なんか一人が叫びながら魔法を撃ってきた。

 だからぁ、爪を一振りすれば破壊できる、こんな弱い魔法はもういらないって。


「こんなのはいいから、もっと強いの使いなよ。せっかく外に出たんだからさ」


 ひょっとしてここにいる人達の魔法って、この程度が精一杯なのかな?

 だとしたら魔法は期待外れだね。あっちの大隊長って人と、接近戦している方が楽し――。


「シャークブラスト!」


 おぉっ? ちょっとはマシな魔法が来たよ。

 しかも鮫の数が三十はある。

 なんだ、やればできるじゃんか。


「そうこなくっちゃね!」


 口を開けて迫って来る水の鮫の向こうで、なんかヒゲのおっさんが決まった、って感じの顔してるのが見える。

 勘違いも甚だしいね。この程度で僕がやられるはずがないのに、気づかないのかな?

 それとも、気づきたくなのかな。

 どっちでもいいや、とにかくこれ全部斬っちゃお。


「てりゃりゃりゃりゃっ!」


 あっはっはっ!

 やっぱりこれぐらいじゃないと、楽しくないよね!

 さっきまでの弱い魔法とじゃ、斬り応えが違うよ。

 斬って斬って斬って斬って斬りまくって、最後は蹴散らす!

 はい、終わり。


「ば、バカな……私の渾身の魔法が……」


 いやあ、ちょっとはスッキリしたや。

 そのお礼に、あのおっさんは苦しまないよう、サクッと殺してあげよっと。

 ほいっと。


「なっ……」


 それがヒゲのおっさんの最後の言葉だったよ。

 僕の「瞬動」スキルで接近して、魔力の爪で首を切り落としてやった。

 ううん、この肉と骨を断つ時の感覚は何度経験しても良いものだね。

 生暖かい血の感触と匂いも最高だよ。


「に、逃げろ!」

「ひいぃぃっ!」


 あっはっはっ、今度は追いかけっこかい?

 いいよ、付き合ってあげ――。


「ぬおぉぉぉっ!」


 おっと、また大隊長か。

 両手で剣を持って振っているから、さっきより威力はありそう。

 それでいて鋭さと速さは落ちていないから、やっぱりこの人はそこそこできるね。

 まあ、攻撃は全部避けてるけどね。


「くそっ、当たれぇっ!」


 当たらないよ。この肉体が死んだら、憑依している僕も死んじゃうからね。

 あっ、でも受け止めるくらいはいいか。

 魔力の爪で……よっと。


「はい、当たったよ」


 というか、魔力の爪で受け止めてあげた。

 お望み通り当たったんだから、これで満足かな?


「その余裕からの行動が、命取りだ!」


 うん?

 なんで魔力の爪に刃が食い込んでいくんだ?

 咄嗟に後ろに跳んだから首は掠めただけだけど、指は親指を残して全て切り落とされた。

 「魔斬」? いや、「魔斬」は魔法しか切れない。魔力で作っただけの、この爪は斬ることができない。

 だとしたら何だ?


「どうだ、我が先天的スキル「魔力断ち」は。このスキルは相手の魔力を斬り、斬った相手の体内の魔力を断つ!」


 魔力を斬って、魔力を断つ?

 ……本当だ、指を斬り落とされた右手に魔力が集まらない。

 なるほど、当たれって言っていたのはこれを狙ったのか。でも……。


「さっきまでそれを使わなかったってことは、何か条件があるんだね。それか何かしらリスクがあるか、はたまたその両方か」


 表情には出さないけど、眉がピクッてしたから図星だね。

 だけど、そんなのどうでもいいか。

 久々に僕に痛みを感じさせてくれたお礼に、惨たらしく殺してあげる。


「ハッハァッ!」

「むうっ!?」


 おお、さすがやるねぇ。

 さっきまでよりちょっと本気を出したのに、防いだよ。

 で、も!


「ぐぶっ!」


 ほら、怪我をした手で攻撃しないって思い込んでいるから、直撃を食らうんだよ。

 僕も多少なりとも痛いけど、使えなくなったら死ぬ前にこの体から脱出すればいいだけだしね。

 だから怪我した手であろうが、関係無く攻撃に使う。

 直撃を受けてよろめく隙に、斬られていないもう一方の魔力の爪で鎧ごと滅多切りにする。

 あっ、寸前で後ろへ跳ばれたから、攻撃が浅い。

 この感触は切断まではいってないね。精々、内臓をいくつか傷つけたくらいかな。


「がっ、ふっ」


 でもまあ、こいつが死ぬまでの時間がちょっと伸びたくらいだから、別にいいか。

 それじゃあサクッと息の根を止めたら、ここの外に出てもう一暴れ……。


「あれ?」


 体から力が抜ける。

 脚が震えだす、寒気がする、意識が朦朧とする。

 なんで? 一応は鍛えられているこの体は、まだ限界に達していない。

 僕の力による強化にも、もう数日は耐えられるはず。

 なのにどうして……。


「ああ、そういうことか」


 切り落とされた指と、首の小さな傷口から出血が止まらず、それどころか激しく出血している。

 不調の原因は、これによる失血状態によるものか。

 あいつの先天的スキルは「魔力断ち」っていうのだから、これはあの剣に備わったスキルかな?


「はぁ、はぁ……。貴様は終わりだ。「出血」スキルが備わった、我が剣を受けたのだからな。そのまま、血を失って死ぬがいい……。ごぶっ!」


 ああ、やっぱりか。

 ということはあの剣、コウモリやヒルみたいな血を吸う魔物の素材が使われているのかな。

 攻撃が当たれば良かったのは、魔力の爪ごと斬ることじゃなくて、この体に出血させるためだったのか。

 不適な笑みを浮かべた大隊長は、吐血すると気を失った。

 今なら楽に殺せるけど……。


「……気が変わったよ。ちょっとは楽しませてくれたし、久々に痛みを感じさせてくれたお礼に、殺さないでおてあげるよ。でも……」


 最後の笑みがムカついたから、手足の骨を踏んで砕いておく。

 踏む度に痛みで目が覚めたようだけど、痛みでまた気を失った。


「さて、今回はここまでかな」


 出血が止まらず意識が朦朧としそうになったから、失血死する前に憑依を解いて体から抜け出す。


「あっがっ……だ、だう……」


 ありゃ、こいつ壊れちゃってる。

 まあ仕方ないか。僕のスキルで脳の制御を外して、限界以上に能力を引き出したからね。

 憑依中は別のスキルの効果で体も脳も耐えられるけど、憑依を解いたら負担が一気に来るから、憑依対象は心も体も壊れちゃう。

 スキルを使わなければ壊れないけど、そうする理由が無いし、久々の憑依だから感覚を思い出したかったんだよね。

 さてと、準備運動はバッチリだし感覚も思い出したから、別の遊び場でも探そうかな。

 次はたくさん殺したいから、できるだけ人が多い場所がいいな。

 だとしたら王都って場所がいいかな。あれだけ人がたくさんいるし、一人ぐらいは僕を楽しませてくれる人がいそうだし。

 うん、次の遊び場は王都にしようっと!



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