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入れ替えスキルでスキルカスタム  作者: 斗樹 稼多利
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大金と進化の影で


 今日はギルドに顔を出して早々、別室へ案内された。

 移動中、案内してくれている女性職員から話を聞くと、先日のデッドリーメイカー絡みの依頼の調査と精査が済んだから、追加の報酬を支払うとのことだ。

 調査隊が出発してから十日。思ったよりも日数が掛かったな。


「こちらでお待ちください」


 通されたのは依頼の話をした時と同じ会議室で、中にはドロンさんとベイルさんのパーティーがいた。

 久々の再開に近況を聞くと、ベイルさんのパーティーは今回の調査の案内と護衛をしていたようだ。

 だから少し事情を知っているけど、難しい話には加わっていなかったから詳細は知らないらしい。

 一方のドロンさんは、冒険者を辞めることを手紙で実家へ伝え、今日までは力仕事の依頼をこなしながら食いつないでいたそうだ。


「返事は届いたんですか?」

「昨日、届いだ。好ぎにじろっで、書いであっだ」


 それはなによりだ。

 追加報酬を受け取り次第、以前にも言っていたように冒険者を辞め、ベイルさんが紹介してくれる大工の下へ行くらしい。

 新しい仕事を頑張るよう励ましていると、最後のタバサさんのパーティーも到着。

 雑談を交わしているうちにギルドマスターがやってきて、全員が着席した。


「皆、集まってもらってすまない。既に聞いているかもしれないが、先日君達に頼んだ依頼の精査が終わったから追加報酬を支払う」


 そう告げられて念書と交換で渡されたのは、金板三枚に金貨三十五枚。

 金貨に換算すると、百八十五枚になる。

 しかも全員が同じ額だ。


「こ、こんな大金なの!? パーティー毎に、じゃなくて一人当たり!?」


 あまりの大金にリズが驚いてる。

 いや、俺も含めて全員が驚きを隠せていない。

 なにせ調査隊に協力した、ベイルさんのパーティーも全員驚いているんだから。


「ああ。精査の結果、これだけの額を払うに値すると判断した」


 嘘でも夢でも幻でもない、現実だ。


「学者や研究者が小難しい事をブツブツ言っていたが、こんな大金になるとはな」

「彼らからすれば、お前達が持ち帰り、巣窟内にも残っていた研究書だけでも大きな価値があるらしい」


 冒険者の俺達には全く分からなかったけど、やっぱり分かる人が見れば価値があるんだな。


「特に死霊魔法に関する研究書、あれが大きいな」


 なんでも死霊魔法に関する研究は、あまり進んでいないらしい。

 上位のアンデッドでないと使えないのに加え、倒さないと危険ということで、研究に用いられるのは持ち帰られた死体のみ。

 そのため研究は遅々として進まず、ほとんどが推測や憶測ばかりだそうだ。

 ところが今回のデッドリーメイカーは知性ある武器を作るため、死霊魔法に関して自ら研究していて、その記録を残していた。


「それを見てもらったガルア唯一の死霊魔法の研究者は、狂ったように歓喜していたよ。これまでの説をひっくり返す大発見だとな」


 狂ったような歓喜ってどんなのだ。

 恐ろしそうだけど、ちょっと見てみたくもある。


「さらに、今回お前達が倒した、あのドルドスとかいう魔物の素材も高値が付いた」

「あれから素材が取れるのかい?」

「取れるどころか、あいつの骨自体が良質な素材だから、生産ギルドや商業ギルドが欲しがっていた。追加報酬には、そうした素材や研究書の買い取り金を分配した分も含まれている」


 素材の買い取り含めてこれって、一体どれだけの値段になったんだ。

 こっちは聞くのが怖いから、聞かないでおこう。

 ただ、どの素材をどこが買い取るかで相当揉めたことは教えてもらった。

 それについての話し合いだけで四日も掛かったって、ギルドマスターが苦笑いしながら語っていた。


「最後にもう一つ。今回の依頼達成で、何人かのランクを上げることが決定した。名前を呼ばれた者はカードを更新するから、ギルドカードを提出してくれ」


 報酬を受け取ったら辞める予定のドロンさんを除き、Eランク以下の全員が呼ばれ、それ以外だとベイルさんとマウロさんがBランクへ上がった。

 俺達の中ではリズがEランクへ上がり、俺達に一歩近づいたと喜んでいる。

 ギルドマスターが提出されたカードを更新しに行っている間、思わぬ大金をどう使おうか決めておこう。


「これだけあれば、家を買う資金は十分じゃないかな」

「十分過ぎるわよ。逆にお釣りが出るわ」

「四人で、金貨……。えっと、えっと……七百……四十枚!」

「正解」


 これに貯めている資金を加えれば、家を買うどころか、その後の生活資金にも当分困らなさそうだ。

 だからって働かない選択肢を選ぶほど、金の誘惑に溺れるつもりは無い。

 偶然手に入れた大金で身を持ち崩したなんて、末代までの恥にしかならない。


「一先ずジルグ、このお金預かってくれない? 空間収納袋に入れていても、自分で持っているのは怖いから」


 そう言ってアリルが金の入った袋を差し出してきた。


「僕もお願いするよ」

「私、も」


 いやいや、俺だってこんな大金を持ち歩くのは怖いよ。

 だけど、奪われるかもしれない空間収納袋よりも、次元収納の方が安全か。

 了承して全額を預かって時空収納へ入れると、三人はあからさまにホッとしていた。俺は一人落ち着かないよ。


「あんなツマラナイ奴でも金になるなら、ちょっとは役に立ったって訳だな」


 なんだレギア。お前、起きていたのか。


「そういえば、お前の事については触れなかったな」

「俺様のような訳の分からない存在は、面倒なだけなんだろう。だからこうして、お前とつるんでいられる訳だ」

「つるんでるんじゃなくて、お前がつきまとっているんだろう」

「ハッハッハッ。細かい事は気にすんな」


 気にするっての。

 自分のことなのに他人事のように言って笑うレギアに呆れていると、ギルドマスターが戻ってきた。

 どうせなら、こっちから突っ込んでみるか。

 憑依している氷石のタグを取り出し、ギルドマスターへ声を掛けた。


「ギルドマスター、これはどうすれば?」

「おいジルグ、テメェ俺様をこれ扱いすんな」


 お前みたいな自分勝手な奴、これ扱いで十分だろう。


「ああ、それか。そのまま君に任せることになったから、よろしく頼む。懐かれてるみたいだし、上手くやっているようだからな」


 完全に丸投げか、こんちくしょう!

 懐かれてるんじゃなくて、つきまとわれてるんだよ!


「という訳で、今後もよろしくな。相棒」

「誰が相棒だ!」

「そう喜ぶな。俺様が相棒と認めたのは、人間ではお前が初めてなんだからよ」


 喜んでないわ!

 うん? 人間では、ってことは。


「人間以外だったら、前に誰かと一緒にいたのか?」

「まあな。最初は面白い奴だったが、段々とツマラナイ奴になっていったから見限った奴がな。それ以降は、お前と会うまで一匹狼さ」


 人間以外だからエルフとかドワーフとか獣人族とか、そういう他種族かな。


「で、そいつは今どうしてるんだ?」

「知るか。あんなツマラナイ奴がどうなっていようと、俺様は関係無い。仮に知っていたとしても、なんでお前に教えなきゃならない」


 出たよ、喋りたがらない時の台詞。

 はいはい、これ以上は何も教えてくれないんだな。


「なんだ? 前の相棒に嫉妬か?」

「んなわけあるかっ!」


 お前みたいなのと、どう付き合っていたのか気になっただけだ。

 おそらくは今の俺と同じように、こいつが勝手につきまとっていたんだろうけど。

 ニヤニヤ笑うレギアを見ながらそう思いつつ、ランクが上がったカードを受け取って喜ぶリズが絡んできたから、良かったなと褒めてやる。


「用件は以上だ。皆、先の件は本当にご苦労だった。どうか今後も頑張ってくれ」


 最後にギルドマスターから言葉を貰い、解散。

 ぞろぞろと会議室を後にしてロビーの方へ向かう。

 俺達とタバサさんのパーティーは依頼を探しに掲示板へ、ドロンさんは冒険者を辞める手続きのため受付へ、ベイルさんのパーティーは元々休みだったようで、ドロンさんを知り合いの大工の下へ連れて行くベイルさん以外はギルドを出て行った。


「どれに……する?」

「相変わらず大した依頼は無いね」

「というか、あれだけのお金を手にしてすぐに仕事を探すのも、なんだか妙な気分ね」


 アリルの言うことは分かる。

 あんな大金を手にしたんだから、今日くらいは仕事をせずに遊んでもいいんじゃないかって、心の片隅で思っている自分がいるから。

 だけど、そういう訳にはいかない。


「あれは運が良かったと割り切っておけ。元々は、あんな額を受け取るほどの仕事じゃなかったんだからさ」


 そう、あの大金は結果的に運が良くて手に入れた物。

 今回ギルドが入手した品に価値が無くて、もっと少ない金額だった可能性もあるんだ。

 たらればが上手く作用しただけだから、調子に乗るのは良くない。


「それはそれだけど、頭で分かっていても気持ちは納得し辛いっていうか」

「僕もそんな感じだね。ちょっと複雑」

「私……も」


 俺だってそうなんだよ。

 でも、どこかで線引きしておかないとズルズル落ちていっちゃいそうだから、それだけは避けないと。

 ああそうだ。追加報酬が入ったから、約束通り従妹コンビと甘味巡りして奢ってやらないと。

 ……一応、ロシェリ達も誘っておくか。今の気分を変えるのにも、ちょうどいいだろう。


「ユイとルウと甘味巡りに行く時、一緒に来るか?」

「いいのっ!?」


 瞬時に反応して食いついてきたロシェリの迫力が凄い。

 肉だけでなく甘味にも目覚めたもんな。


「行ってもいいなら行くわ。勿論、ジルグの奢りよね?」

「せっかくお金がたくさん手に入ったのに、約束したのはユイちゃんとルウちゃんだけだからとか、器の小っちゃいことは言わないよね?」


 うわあ、奢らないといけない状況を作られたよ。

 ここで断れるほど空気を読めない訳じゃなし、そもそも奢る気でいたからいいんだけどね。


「いいぞ、奢ってやる。今夜にでも二人と話して日取りを」

「にーちゃーん!」


 甘味巡りについて話している最中に、子供の叫び声とギルドの扉が勢いよく開かれた音が重なり合い、ギルド内へ響き渡った。

 何事かと振り返れば、慌てた様子の男の子がこっちへ駆けて来た。

 さっきの声はこの子か? というか、にーちゃんって俺か?


「にーちゃん、にーちゃん、大変、大変なんだよ!」

「よし、まずは落ち着け」


 やっぱり俺だったか。

 というかこの子、見覚えがあるような……。

 ああ、思い出した。ギルド前で従魔達を待たせている間、あいつらと遊んでいる子供の一人だ。


「何があった?」

「にーちゃんのとこの、ムッキムキの魔物が大変なんだよ!」


 どれだ。全員がムッキムキだから、分からん。

 まさか全員か?


「とにかく来てくれよ!」


 腕を掴んで引っ張るから、ロシェリ達も伴って駆け出す。

 ギルドの外へ出て従魔達を待機させている場所を見ると、いつも従魔達と遊んでいる子供達がポカンと立ち尽くしていて、その視線の先には従魔達……が……?


「なんだ……あれ」


 従魔達をいつも待たせている場所。

 そこにコンゴウカンガルーがいる、メガトンアルマジロがいる、ビルドコアラがいる。そしてマッスルガゼルが……いない。

 代わりにそこには、筋肉の鎧を纏うという言葉に相応しい逞しさをした、大柄で二足歩行型の魔物が腕を組んで仁王立ちしている。

 本でしか見たことがない、ミノタウロスっていう魔物のような肉体、腰には何かの皮を巻いて股間を隠していて、顔は角が立派になったマッスルガゼルで、額には従魔の刻印が見える。


「あの、なんとかガゼルってのが叫びだしたかと思ったら、体が大きくなりながら立ち上がって、こんな姿になっちまったんだよ!」


 大変ってこのことか。

 しかしこれって……。


「進化、したの?」


 だよなあ。そうとしか考えられないよな。


「おいおい、こいつはマキシマムガゼルじゃねえか」


 誰かと思ったら、いつの間にかベイルさんが隣に来ていた。


「マキシマムガゼル? それがこいつの名前なのか?」

「ああ。マッスルガゼルの上位種で、ミノタウロスのライバルと言われている魔物だ」


 マジか。まさかそんな魔物に進化するなんて。

 しかも当の本人は、どうだと言わんばかりに筋肉を隆起させてポーズ決めてるし。

 ちなみに「完全解析」だと、どう出るかな。




 マキシマムガゼル 魔物 獣型 雄


 状態:健康


 主人:ロシェリ


 体力1466 魔力162  俊敏1034 知力552

 器用511  筋力1460 耐久1388 耐性683

 抵抗657  運374


 スキル

 突進LV7 跳躍LV5 蹴術LV6 威嚇LV5 屈強LV6

 威圧LV2 不屈LV3 硬化LV3 挑発LV3 咆哮LV1


 閲覧可能情報

 身体情報 適性魔法 趣味 三大欲求




 数値が少し上がっているのは、進化の影響かな?

 ただ、新しいスキルは習得しなかったようだ。


「……どうせ、進化するなら、モフモフ……したのに、なってよ……」


 残念そうに呟くロシェリには悪いけど、こいつがモフモフになるのをイメージできない。


「はっはっはっ。少しは斬り甲斐のありそうなのになったな」


 斬らせないぞ?

 いくら暑苦しくてむさ苦しくてムッキムキのガッチガチでも、大事な仲間だからな。


「やっぱり……ガッチガチ……」


 諦めきれずにマキシマムガゼルに触れたロシェリが、肩を落として落ち込んでいる。

 いくらなんでも、無謀な賭けだったな。

 この後、アリルとリズにも協力して貰い、三人でロシェリを慰めた。





 ****




 今回の会議は問題無く進んでいた。

 最後にホルスの若造が、こんな報告をしなければ。


「皆様にお配りした、ガルア基地からの報告書の写しにあるように、ゼオン副騎士団長及びその家族による、元息子であるジルグ殿と使用人に対する暴行疑惑が浮上しました」


 手元にあるのはホルスの言う、ガルア基地から送られて来た報告書の写し。

 それにはかつて出来損ないに行い、今も役立たず共へ行っている教育的指導の内容が、まるで悪い事のように書かれている。

 しかも出所はガルアへ研修に行っているバレルからで、既に取り調べが行われたようだ。


「ゼオン殿、これは本当なのですか? 本当なら、ご子息への虐待に当たりますよ」

「使用人の件も、報告書を見る限りは体罰の範疇を越えていますな」

「奥方様や他の子息も、これに加担しているようですね」


 報告書を読んだ他の副団長達が騒ぎ出した。

 うるさい。我が家のやり方に口を出すな。

 役立たずを粛清して教育することの、何が悪い。


「これは問題ですぞゼオン殿。民を守るべき騎士団の、それも副騎士団長がこのような事をしていては」


 奴のニヤけた笑みに苛立ちを覚えるが、落ち着け。

 ここで感情任せに動いては、私の立場が危うくなるだけだ。


「……ホルス殿、裏取りも無しに悪者扱いは迷惑です」

「裏取りなら先ほど済みました。ゼオン殿の出勤に合わせて、部下をあなたの屋敷へ向かわせましたから」


 なっ、いつの間に。


「結果は黒でしたよ。あなたの屋敷の護衛に使用人、その全員が証言してくれました」


 あいつら、今日まで金を払ってやっていた恩を仇で返したのか!


「あなた方からの報復と暴行の激化を恐れていたので、なかなか話してくれませんでしたが、自分達が受けた内容や元息子のジルグ殿に行っていた虐待の内容、それと辞めた方々の受けていた内容も全て話てくれました。勿論、真実のベルによる確認は行いました」


 ホルスの若造の説明に私以外の全員がざわめき、騎士団長からは鋭い視線が飛んできた。

 くそっ、不味いぞ。なんとかこの場を切り抜けてあいつらを教育し直し、証言は戯言だったと改めさせなければ。


「ホルス、その件に関する報告書はあるか?」

「時間が無かったので証言をまとめただけですが、準備してあります。おい」


 指示を受けたホルスの若造の部下が、新たな資料を配りだした。

 私には事もあろうか、汚物でも見るような目で卓の上へ放り投げた。

 こいつ、上司に向かって何様のつもりだ。


「どれどれ……。ほう、これは……」

「殴る蹴るは当たり前、毎日のように罵声を浴びていたと」

「息子を階段から突き落とした!? いくら気に入らないとはいえ、一歩間違えれば死んでいたかもしれないぞ!」


 うるさい、うるさい、うるさい!

 悪いのは出来損ないのあいつや、愚図な使用人共だ。

 それに対して教育的指導を施してやっていた私の、何が悪いというのだ。

 今にも燃え上がりそうな怒りを必死に抑え込む私に対し、騎士団長は凍えそうなほど冷たい眼差しを向けてきた。


「ゼオン、お前には少々話を聞く必要があるな。誰か取り調べの手配を、すぐにこの件で聴取をする」


 なっ!? 聴取だと、それではまるで私が容疑者のようではないか!


「お待ちください。これは我が家に関する事、ならば当主として私が然るべき対応を」

「何をふざけた事をぬかすか、貴様!」

「き、騎士団長。私は決して、ふざけてなど」

「だったら何故、家庭内の問題に留まると思った!」


 騎士団長が激怒する理由が分からない。

 これはどう見ても、我がグレイズ家内部での問題のはず。

 だからまずは、当主として私が解決のために動くのが筋というものだ。


「使用人や護衛に対する度を越えた暴行と暴言、同様の事を元息子へ行った虐待行為、さらに身内が同じことをしているのを黙認していたんだぞ。夫婦喧嘩や子供への躾とは訳が違うと、副騎士団長、いや、大人ならば分からないはずがないだろう!」


 説明混じりの叱責に言葉が詰まってしまう。


「とにかく、貴様を拘束して聴取を行う。容疑が固まるか晴れるまで、権限は全て凍結。代理は貴様の副官に務めてもらう」

「そ、そんなっ!」

「この件は貴族管理局にも報告した上で、貴様の家族、いやグレイズ家そのものに然るべき対応をさせてもらう。連れて行け!」

『はっ!』


 命令を受けた副隊長数人が私を拘束し、会議室から連れ出していく。

 くそっ、放せ! 私は何も悪いことなどしていない!

 そのまま私は別室へ連れて行かれ、何日も取り調べ官との押し問答をすることになった。

 何故だ、何故こうなったんだ。




 ****




 退屈、退屈、退屈。

 もう退屈なのには飽きたし、何もせずボーッと時間を過ごすのにも飽きた。

 相棒がいなくなってから、ただ無意味かつ適当に漂って時間を潰していたけど、いい加減に飽きた。

 あいつ抜きで遊ぶのが楽しいか分からないのが不安で、何十年も何もせずに過ごしてきた。

 だけどもう限界。いい加減に遊んで暇つぶしをしないと。

 僕一人で遊ぶのは初めてだけど、最低限の暇つぶしになればいいな。

 さて、何で遊ぼうか。……うん?


「ちくしょう。いつまでも俺を、こんな場所に閉じ込めやがって。寒いんだよ」


 なんか狭い部屋で、若い人間のオスが毛布に包まって喚いている。

 ちょうどいい。体格も良いし、あれにしておこう。


「ん? なんだ、この白い靄は。わっ、ちょっ、待て、あっ、ぐっ、うぅぅぅ……」


 僕が口からオスの体に入り込んでいくと、苦しそうにしてやがて黙る。

 うわっ、何このオス。身体能力は結構良いのに、スキルはクソじゃんか。

 「能力成長促進」なんて先天的スキルを授かっているくせに、戦闘向きのスキルが一つもないとか、ハズレもハズレの大ハズレだよ。

 でも憑依しちゃったし、当面はこれで遊ぶしかないか。

 それにしても、久々だから何か違和感があるな。

 しばらくはゆっくりして、僕がこの体に馴染むのを待つか。

 というわけで、まずは一眠りしよう。おやすみなさい。


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