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入れ替えスキルでスキルカスタム  作者: 斗樹 稼多利
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鍛えて訴えて


 アトロシアス家の裏にある、ベリアス辺境伯家所属の従士隊の訓練場。

 今日はそこで行われている訓練に参加させてもらい、修業に励んでいる。

 圧倒的に対人戦の経験が少ない俺達にとって、対人戦を前提にしている従士隊の訓練への参加は、とても貴重な修業の場だ。

 対人戦だからこその注意点、従魔達も加えての集団戦、多対一の不利な状況での戦い方の模索、武器を失うか破損して使えなくなった時の対処法。対人戦の経験を積む以外にも、あらゆることを学ばせてもらっている。

 でも、祖父ちゃんと伯父さんには未だ勝てない。


「はぁっ! はぁっ! 参り、ました」

「うん。前よりは良くなっている。しかし、まだまだ未熟だな」

「分かってる、って」


 こっちはだいぶ疲労しているのに、手合せしていたノワール伯父さんはまだまだ余裕がある。

 まだ無駄な動きとか、力みとかがあるのかな。


「分かっているならいいんだ。さあ、次だぞ」

「息つく間も無い連戦で辛いだろうが、これも修業だ。さっ、立て」

「ああ、やってやるよ!」


 ノワール伯父さんに続いて、今度はシュヴァルツ祖父ちゃんとの手合せか。

 容赦無いけど、これも自分が望んでのこと。頑張りますか。


「ゆくぞ」

「おぉっ!」


 力強い剣戟を捌き、避け、受け流しながら回り込んで背後を取って無防備な背中を狙う。


「甘い」


 そう呟いたシュヴァルツ祖父ちゃんは、そのまま前方へ跳躍して攻撃を回避すると、着地と同時に身を翻して反撃しようとしてくる。


「ウォータージャベリン!」


 すかさずバックステップをしながら魔法を弱めに放つ。

 それを「魔斬」スキルで斬りながら接近するシュヴァルツ祖父ちゃんを迎え撃ち、何合か打ち合う。

 数値の上ではほぼ互角なのに、打ち合いで押される。


「ほれほれっ、どうしたどうした」


 大振りしている訳でもないのに当たらず、余裕を持って避けられるか防がれる。

 ノワール伯父さんもそうだったけど、何でこうも動きを見切られるんだ。

 自己強化魔法は互いに何も使っていないし、「動体視力」スキルは俺にもある。

 なのにどうして、動きに差が出るのか分からない。これが積んできた修業と経験の差なのか。


「ほいっと」

「うおっ、とっ!」


 軽い調子で攻撃を捌かれ、足払いで転がされて剣先を突きつけられた。


「参りました……」


 潔く降参すると剣を引いてくれた。

 ああ、また負けたか。何が足りないんだ?

 前に注意された、動きを見すぎているっていう点も含めて改善すべき点は直りつつあるのに、何が悪いんだろうか。

 それとも、単純な力不足なのか。


「ノワールの言う通り、欠点は修正されつつあるな。では、何が足りないと思う?」


 それが分からないから悩んでいるんだよ。

 もう少しだけ考えてみても分からないから、素直に分からないと返した。


「単純な力量や経験もあるだろうが、今のお前に足りないのは武器への知識だ」

「知識?」

「要するに相手の武器は何ができて、何ができないのか。何に優れていて、何に弱いのか。そういった知識が足りないんだ」


 武器に関する知識……ね。


「人によって武器は違うし、扱い方にも違いは出る。しかし、その武器でやれることは限られている。形状、長さ、重さといった点から何かしらの長所があり、短所がある。それらに関する知識があれば、どういう攻撃をしてくるのか、どういう攻撃ができないのか、そういったことを判断して戦うことが出来る」


 そういうことか。

 どんな武器であれ形状が決まっている以上は、やれることに限度がある。

 それを知識として知っておけば、相対した時にどんな攻撃をしてのか推測できるってことか。


「勿論、それだけじゃ駄目だ。同じ剣でも形状一つ変われば扱いに変化は出るし、思いもしない使い方をしてくるかもしれないし、武器の欠点を補う術を持っている場合もある。だが、そうしたことへの対処は応用編だから、まずは武器の基本的な特性や特徴を学ぶことだな」


 これは対人戦でないと学べないことだな。

 魔物の中にも武器を使うのはいるけど、武器を最も扱うのは人だ。

 戦闘経験を重ねていても、それが魔物なのか人なのかだけで、必要な知識は変わってくるんだな。


「そして学ぶのに一番良いのは、多くの者と手合わせをすることだ」


 そう言い切ったシュヴァルツ祖父ちゃんの後ろには、様々な武器を手にした従士隊の隊員達がノワール伯父さんに連れて来られて待機している。

 あっ、はい。分かりました、この後はその人達と手合わせするんですね。


「実際に自分で使うという手もあるが、それだと今の武器の扱いに慣れた体のバランスを崩しかねない。その点を考慮すると、実際に体験するのが良いと私達は思っている」


 体のことを気づかってくれるのはありがたい。

 でもだからって、いきなり実体験はどうなんだろう。

 普通は武器の特徴を解説して、その後にそれを体験してみようって流れじゃないのか? なんで有無を言わさず、実戦での体験なんだ。

 知識に関することなのに、体へ覚えさせる方向としか思えないぞ。

 そんな感じの視線を向けても、当のノワール伯父さんとシュヴァルツ祖父ちゃんは分かっていなくてニコニコ笑い、後ろの隊員達は諦めろと言いたげな目と表情で首を横に振った。

 これはあれか、解説とかを頼んでも聞き入れてくれないやつか。そして隊員達はそれを試みて、失敗した経験者なんだな。

 だったら俺も言うだけ無駄か。腹括ってやりますか。


「分かった。お願いします!」


 立ち上がってハルバートを構えて告げると、隊員達との連続手合わせが始まった。


「ちょっ、少し休憩を……」


 途中でそう訴えても聞き入れてもらえず、最終的には意地と気合いと根性で連続手合わせをやりきり、勝ち越すことができた。


「あの二人にはもう少し、加減を分かってもらいたい」

「前に私が訴えたら、筋肉があれば乗り越えられると言われました」


 ようやくの休憩。

 地面に座って水を飲んでいると、隣に座って休憩していたリアン従姉さんが遠い目をしてそう言った。

 修行の内容はしっかりしているし、欠点への指摘もしっかりしている。

 なのにどうして、筋肉での解決を計ろうとするのか。


「おいおい。あのオヤジとジジイ、なかなかやるじゃねえか。敵だったら斬ってみたい奴らだぜ」

「残念だったな、あの二人が敵に回ることは無い」


 ノワール伯父さんとシュヴァルツ祖父ちゃんに対し、物騒な事を言うレギアを諫めて大きく息を吐く。


「そういえばロシェリ達は……あっちか」


 魔法や弓矢で戦うロシェリ達は、同じく魔法や弓矢を使う部隊の訓練に参加している。

 今は動きながら、動いている敵を攻撃するって訓練をしていて、アリルとリズは息を切らしながらもこなしていて、体力が尽きたロシェリは隅っこの方で転がっていた。

 女性隊員が付き添って面倒を見ているから、大丈夫だろう。


「で、従魔達は……あそこか」


 従魔達も従魔達で修業に励んでいる。

 大柄なメガトンアルマジロの突進を複数人で受け止め、踏ん張って止めようとしているのもいれば、マッスルガゼルの突進を一人で止めようとしているのもいる。

 コンゴウカンガルーとビルドコアラは格闘技で戦う人達と手合わせをしていて、相手の攻撃を回避しながら反撃を繰り出している。


「ジルグさん、休憩が済んだら私と手合わせしませんか?」

「いいぜ。受けて立つ」

「私が勝ったら、今後はお姉ちゃんと呼んでもらいます。私が負けたら、今後はお姉ちゃんと呼んで構いませんよ」

「やっぱ断る!」


 どっちも変わらないっていうか、どっちに転んでもリアン従姉さんにしか得がない。

 いや、俺だけ損するって訳じゃないけど、言えるか恥ずかしい!


「むう……。強情な従弟ですね。お姉ちゃんは悲しいです」

「ハッハッハッ」


 言ってろ! レギアも笑うな!

 まったく、せっかくの休憩時間なんだから精神的にも休ませろよ。ただでさえ連続で手合せして、精神的にも疲れたってのに。

 そう思いつつ水をもう少し飲みながら、「完全解析」で自分の能力を表示させる。

 体力が微増している以外、特に変化は無いのを確認していると「飛槍術」のレベルが目に入った。


(そういえば、昨日はこれの件もあったんだった)


 少し前までは「槍術」LV11であり、「飛槍術」LV1だった。

 ここに昨日バレルから迷惑料として「槍術」LV2を貰ったから、どっちもレベルが2上がったと思っていた。

 ところが、実際はこうなっている。


 飛槍術LV2【槍術LV13】


 「槍術」の方はちゃんとLV13になっているのに、「飛槍術」はLV2にしかなっていない。

 気になったから昨夜にロシェリ達を交えて部屋で話し合い、「風魔法」LV8を持つアリルに協力してもらって検証した結果、進化したスキルのレベルを上げるには進化前のスキルがLV2分必要なんだと判明。

 同じ進化したスキルなら、これまで通りLV1分で済むんだろうけど、進化のスキルだからLV2分が必要なんだろう。

 そうした情報をロシェリ達と共有して検証を終え、借りていたアリルの「風魔法」はしっかり返しておいた。

 一応付け加えておくと、「風魔法」が進化すると「暴風魔法」になるってことも分かった。


「どうかしましたか?」

「ん? いや、別に」


 声を掛けてきたリアン従姉さんにそう返し、「完全解析」を解除。

 いい感じに回復したから、約束通りにリアン従姉さんと手合わせして勝った。

 だから、お姉ちゃん呼びはしないっての!


「次は私達と手合わせしましょう!」

「やろ~」

「おっ、いいぞ」


 今度は従妹コンビが手合わせを申し込んできた。

 速さと手数で攻めるのを得意としている短剣使いのユイと、魔法を放つ後衛だけど接近された時に自衛できるよう、フレイルを扱うことができるルウ。

 普段の言動と同じく、一歳違いで腹違いの姉妹なのに本物の双子の如く見事な連携を取るから、下手な一対多の訓練より修行になる。


「勝ったら、何か要求してもいいですか!」


 君達もそうきたか。

 でも可愛い従妹達のお願いなら、よほど無茶なことでない限りは応えるつもりだ。


「内容による」

「は~い。だったら今度の休みに~、ジルグお従兄様の奢りで甘味巡りしたい~」

「それです、ルウ!」


 甘味巡りか。甘党の俺としても興味あるし、奢れるくらいの金はある。


「いいぞ」

「「やったー!」」


 笑顔でハイタッチする従妹コンビが可愛い。

 ほっこりする空気に当てられて、周りもなんだか頬が緩んでいる。


「ちなみに俺が勝ったら?」

「「保管しているとっておきの甘味を、涙を呑んで差し上げます」」


 貰い辛いわ!

 悔しそうな表情でそんな物を提示されても、精神的に食べ難いし貰い辛い。

 なんとか二人を宥めて交渉して、分け合って食べることで合意した。

 手合わせ? 勿論勝ったよ。手を抜いたら修行にならないから。

 従妹コンビのために空気読めとか思っている人には悪いけど、手を抜く方が失礼だし、真面目に修行している相手への侮辱になるからな。

 ということで、代わりにこういう対応を取らせてもらう。


「今回は俺の勝ちだけど、二人ともちゃんと強くなってるな。ご褒美にこの前の依頼の追加報酬が入ったら、どこか甘味の美味い店に連れて行ってくれ。店を教えてくれたお礼に奢るから」

「「本当ですか!」」


 満面の笑みで手を取り合う、喜び合う従妹コンビに再び空気がほっこりする。

 わざと負けて奢るより、こうした方がお互いのためだろう。


「よし、喜ぶのはそこまでだ。もう一戦やるか?」

「「お願いします!」」


 いい返事だ。さあ、やろうか!




 ****




 結果から言えば、従妹コンビとの二戦目も勝った。

 その後にリアン従姉さんとの再戦にも勝利した。

 だけどそこで、ノワール伯父さんとシュヴァルツ祖父ちゃん、さらにまた例の様々な武器を持った隊員達との連続手合わせが再び実行された。

 ノワール伯父さんとシュヴァルツ祖父ちゃんに負け、隊員達とは辛うじて勝ち越して、今日の修行は終わった。


「まだまだ修行が足りないな」

「もっと筋肉をつけるんだぞ、筋肉を」


 だから、筋肉で片付けようとするな!

 まあ、同類のゴーグ従兄さんがゼインさんの護衛でいないだけ、まだマシだったと思っておこう。


「筋肉はいらないの~」

「どうかジルグお従兄様は、筋肉に染まらないでくださいね!」


 切実な従妹コンビにお願いされなくとも、染まる気は無い。


「筋肉は……従魔、だけで、いい」

「もう増えなくていいわ、筋肉は」

「ジルグ君には、今のままでいてほしいんだ」


 だよなあ。冬場なのに暑苦しくてむさ苦しいもんな、俺達の従魔は。

 今も、筋肉のどこが悪いんだと言わんばかりに、筋肉を隆起させてポーズを決めてるし。

 ノワール伯父さんとシュヴァルツ祖父ちゃんと一部の隊員さん、上着を脱ぎ捨てて混ざるな。


「おい、あのオヤジとジジイを斬ってもいいか聞いてきやがれ」

「だから、斬るなって!」


 こいつはこいつで物騒だから、別の意味で厄介だ。

 一連のやり取りに溜め息を吐きながら屋敷へ戻り、汗を流して服も着替える。

 あとは夕食までのんびりしようと、部屋で寛いでいたら扉がノックされた。


「ジルグ様、いらっしゃいますか?」


 扉の向こうから聞こえたのは、少し慌てた口調の女性使用人の声。

 何かあったのかと思いつつ、いると返事をする。


「騎士団の方が、話を聞きたいとお見えになっています。至急、応接室へ」


 なんで騎士団が来てんだよ。

 昨日のバレルとの件か?

 なんにしても、対応しないわけにはいかないな。


「すぐに行きます」


 疲れてベッドに寝転がっているロシェリ達に一言入れ、部屋を出て女性使用人の案内で応接室へ向かう。

 移動しながら話を聞いてみると、今はノワール伯父さんが対応していて、どうやら元実家での俺について聞きたいらしい。

 どうしてそんな事を聞きたいんだろう。

 ひょっとして、あいつが何か余計な事を喋ったのか?

 女性使用人は詳細を聞いていないようだから、直接聞くしかない。

 やがて応接室の前へ着くと、女性使用人がノックをして呼びかける。


「旦那様。ジルグ様をお連れしました」

「入ってくれ」


 中にいるノワール伯父さんの許可を得て入室すると、座っていた二人の男性騎士団員が起立して敬礼してきた。

 一人は鎧を装備しているけど、もう一人は装備していない内勤者風だ。


「ジルグ殿ですね。本日はお時間を頂き、ありがとうございます」

「少々お尋ねしたい事がありまして、急ではありますが訪問させていただきました」


 こうも丁寧な対応をされるなんて、なんか変な気分だな。

 少し戸惑っていたらノワール伯父さんに促され、向き合う形で着席すると、内勤者風の団員が俺へ尋ねたいことについて説明を始めた。

 どうやら昨日の件でバレルを取り調べした際、口を滑らせて俺へ暴行をしていた事を喋ってしまったようだ。

 もしもこれが事実なら、子供への虐待行為に該当するから、本部へ報告をして然るべき対応をする必要があるそうだ。


「嫌な記憶を思い出すだろうから、喋り辛いとは思うが、どうか協力してくれないか?」


 確かに嫌な記憶だ。できることなら思い出したくない。

 これのせいでノワール伯父さん達にいらぬ嫌悪感や、疑心暗鬼を抱いていたんだから。

 でも、だからこそ喋ってやる。

 あいつらから恨まれようが、憎まれようが、構うものか。

 俺だって、恐れていたのと同じぐらいあいつらを憎んで恨んでいたんだ。切り捨てるのに躊躇しない。

 それに、今の俺にはロシェリ達だってアトロシアス家の皆だっている。

 恐れる必要は無い。


「分かりました。お話します」

「……ありがとうございます」


 頭を下げた内勤者風の団員は、足下の鞄から紙と筆、さらに真偽を確認する為に真実のベルを取り出して俺の喋る内容を記録していく。

 さすがにもう暴行の痕は俺の体に残っていないけど、証人は俺一人じゃない。

 向こうの家の使用人や護衛も同じ目に遭っていたことを説明し、彼らからも証言を得られることを説明した。


「やはり使用人に対しても、暴行を行っていましたか。少々の体罰ならともかく、ジルグ殿の証言通りなら体罰の範疇を越えていますね」

「これはもう、立派な暴行であり子供に対する虐待と認識できます」


 おまけに理由が理不尽なんだよ。

 その辺も含めて説明して話を終えると、使用人達からも証言を取って証拠を固める必要はあるものの、ほぼ間違いなく有罪だろうと言われた。真実のベルが鳴らなかったことから、俺の証言が本物だと認識されたようだ。

 なんか少し、気持ちが晴れたような気分になれた。


「では、後はお任せください」

「お願いします」

「ああ、そうそう。それとは別に、先日うちの隊員と言い争った件について一つ言わせて頂きます」


 何かと思えば、先日のバレルとの件で挑発的な言い方をしたから、注意喚起を受けることになった。

 長々として注意を受けるかと思いきや、強めの口調でさほど長引くこともなく注意喚起は終わる。


「今後は気をつけるよう、お願いします」

「はい」


 最後に隊員達はノワール伯父さんとちょっとだけ言葉を交わし、女性使用人の案内で退室した。

 俺もノワール伯父さんからお疲れさまと一言貰い、部屋へ戻る。


「あっ、おかえり。何の用事だったの?」

「実はな……」


 椅子に座って事のあらましを話すと、お粗末とか自滅の連鎖とか崩壊の序章といった反応が返ってきた。

 でも、間違っていないと思う。

 元実家は貴族社会と騎士団内である程度の地位があるから、どちらにも敵対している貴族家とか派閥がある。 

 俺や使用人達へやってきたことへの罰とは別に、元実家への風当たりを強めるため、そういった敵対勢力がこの件につけ込んでくるだろう。

 まあ、それで元実家がどうなろうと、俺には無関係だけどな。

 とはいえ、使用人や護衛の人達の今後は心配だから、この前届いた手紙の返事の中で注意を促しておこう。


「ついでだから、ロシェリのいた孤児院も訴えとくか?」


 さりげなく隣に座っていたロシェリへ話を振ると、ちょっと驚いた後に俯いてしまった。


「うぅ……。ちょっと、考え、させて」


 反応は芳しくない。

 さっき体験した分かったけど、自分が受けていた暴行とかを話すのって勇気がいるから、躊躇するのも仕方ないか。


「無理ならいいさ。強制するつもりは無いから」

「うん……」

「だけど安心しろ。仮令たとえ孤児院の連中が何をしようと、何か言おうと、俺がついてるからな」


 俯いたままの頭に手を乗せながら、自分の時に思ったことを伝えた。

 そしたら、なんか真っ赤になってあわあわしだして、目がグルグルになったストラさんみたいにフラフラになっている。

 ふとアリルとリズへ視線を向ければ、アリルからはジト目が向けられ、リズは頬を膨らませている。


「へえ~。俺達が、じゃなくて俺が、なのね」

「ズルイよ、僕もそういう風に言われたい!」


 あっ、しまった。言い方がちょっと拙かった。

 勝手に加えるのは悪いと思って、俺個人にしたのが裏目に出たか。

 この後、説明と三人を宥めるのに苦労して、その様子をレギアが笑いながら傍観していた。

 なお、翌日に四人で騎士団の基地を訪ね、ロシェリのいた孤児院の件を相談。職員を精神的虐待で訴えたことを、付け加えておく。


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