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入れ替えスキルでスキルカスタム  作者: 斗樹 稼多利
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越えるということ


 二日の休息を挟んで冒険者活動を再開させた俺達は、従魔達を伴って冒険者ギルドへ顔を出した。

 知り合いと挨拶を交わしながら掲示板へ向かい、魔物討伐の依頼を選んで受付へ。

 それを処理してもらう前に、まずは先日の件はどうなっているかを確認する。

 対応してくれた受付の男性職員曰く、調査隊が現地へ向かったのは今朝のことらしい。


「調査隊の編成と調査計画の立案、必要な物資の調達はともかく予算の捻出に苦労してね。この時期はギルドも収入が少ないし、下手に使いすぎると運営に支障が出るから」


 組織の運営って本当に大変なんだな。

 苦笑いを浮かべる男性職員にお疲れ様ですと伝え、持って来た依頼を処理してもらう。

 今回受けるのは雪のように真っ白な体と角を持つ兎、スノーラビットの討伐依頼だ。


「では、お気をつけて」


 男性職員に見送られ、外で待っている間に近所の子供達と遊んでいた従魔達と合流して町を出た。

 スノーラビットは行動範囲が広くて見つけにくいのに加え、気配に敏感で臆病だから接近を察知したらすぐに逃げだす。おまけに動きが素早くて持久力もある。

 だけどそこはそれ、狩りの経験豊富なリズと、そのリズから知識と技術を学んでいるアリルが見つけてくれている。


「この距離なら僕達には気づいていないよ。アリルさん、お願い」

「任せて」


 スノーラビットが気配を察知する範囲をリズが見切り、範囲外からアリルが弓矢で射抜く。

 急所に当たらず逃げ出しても、すぐに従魔の誰かが追跡して、しばらくすると拾って戻ってくる。


「あっ、あそこにもいるね」

「じゃあ次は俺が」


 同じく察知される範囲外からスノーラビットを視界に捉え、拾った石を軽く上へ放りながら「入れ替え」を使用。

 一瞬で俺達の傍に現れたスノーラビットは驚き、バタバタと暴れるけど空中だから逃げられない。

 着地する前に耳を掴み、解体用のナイフで首元を切る。

 こうした方法で次々にスノーラビットを倒していき、ロシェリと従魔達は周囲の警戒と、偶に遭遇する別の魔物に対応する。

 合計で二十体ほど倒したところで、川幅が広くて流れの穏やかな川に出た。

 ここで一息入れつつ、協力してスノーラビットを解体していく。


「ごめんね、不器用……で」

「向き不向きがあるんだから、気にするなって」


 解体に参加したら皮と肉じゃなくて、肉塊のような物を生み出してしまうロシェリは、引き続き従魔達と警戒に当たってもらっている。

 幸いにも解体中に襲われること無く作業は終わり、ガルアへ戻ろうと思った直前で立ち止まる。


「どうか……した?」

「いや、ちょっとここで魔法の練習をしようかなって」


 これだけ広い川に向かって放てば被害は出ないし、危ないと思えば空に放てるだけ開けているし、周囲に人気は無い。「火魔法」スキルが進化した、「業火魔法」スキルを試すにはちょうどいい場所だ。

 どれだけの威力が出る魔法なのか分からないのに、人気のある場所で使うのは危険だからな。

 特に今回は進化したスキルだ、注意しておいて損は無い。


「いいんじゃない? ここなら好きに魔法使えそうだし」

「そうだね。僕もちょっと練習しようかな」

「私……も」


 皆も賛同してくれたし、早速やってみるか。

 確か「業火魔法」LV1で使えるようになった魔法は、ガトリングエクスプロージョンだったっけ。

 名前からはどんな魔法なのか想像できないけど、使ってみれば分かるか。

 そんな軽い気持ちで手を川の方へ向け、魔法を発動させる。


「ガトリングエクスプロージョン!」


 発動すると同時に親指ぐらいの大きさをした炎が僅かな時間差で次々に放たれ、川へ着弾すると同時にマッスルガゼルが飲み込まれるくらいの爆発を起こした。

 しかも一発一発がそんな威力だから、連続で爆発が起きて水柱と火柱と轟音が連鎖する。


「ととと、止まれ止まれ止まれ!」


 発動し続ければいつまでも放ち続けるから、慌てて魔法を止める。

 どうにか止めた後には、ポカンとするロシェリ達と従魔達、爆発の火力と川の水によって上がった水蒸気、水柱として上がった水が雨のように川へ降り注ぐ光景だけが残った。

 正直俺もびっくりだよ。なんだこの威力は。


「ハッハッハッハッハッ! ガトリングエクスプロージョンだと? 「飛槍術」と「自己強越化魔法」、それに「業火魔法」まで使えるのかよ。ガキのくせに三つも越えてるなんて、やっぱ面白れえ奴だな!」


 愉悦して笑うレギアにイラッとする。

 しかしこいつ、進化したスキルの名称に魔法名まで知っているのか。よし、ちょっと探りを入れてみよう。

 防具の内側から氷石のタグを取り出し、それに憑依しているレギアへ話しかける。


「なあ、エフェクトエクステンドと槍部分で突きを飛ばした時にも同じことを言っていたけど、越えているって何のことだ」


 さあ、どう出るかな。


「なんだよ、知らずに使ってたのかよ。ったく、今の時代じゃそんなことも知らないのか」


 溜め息を吐いてヤレヤレって感じの態度が、ちょっとムカつく。

 でも落ち着け、熱くなるな。こいつは常日頃からこんな態度だろ。


「じゃあ、その無知な俺達に越えているって何のことか教えてくれ」

「なんで俺様がそんなことしなきゃならねえんだ。むしろお前のようなガキが越えている理由を、俺様が聞きたいくらいだ」


 やぱり教えてくれないか。

 けれど、教えてくれるかもしれない切っ掛けは見つけた。


「……俺がお前の言う越えられた理由を教えたら、お前も越えているってことについて教えてくれるか?」

「ちょっ」


 口を挟もうとしたアリルを手で制する。

 出会って間もない上に、こんな性格の奴に秘密を喋るのが不安なのは分かる。

 でもレギアだって喋ることと喋らないことの区別はつけているし、喋らない事は徹底して喋らないから大丈夫だと思う。

 越えていることについても、俺達がそれを知っていると思っていたからこそ喋っていたんだろう。でないと、知らずに使っていたなんて言わないはず。

 なにより、色々と知っていそうなこいつ相手に、いつまでも隠し通すのは難しいと思うしな。


「俺様に取り引きとはいい根性だな。いいぜ、乗ってやろう」


 よし、食いついてきた。


「ただし、今から言うことは秘密にしてくれ。その分、そっちの情報は減らしてもいい」


 こうしておいた方が、こいつも喋りやすいだろう。情報が減るのは痛いけど、秘密を守らせるための取り引きを成立させるためには致し方ない。

 するとレギアはニヤリと笑った。


「分かってるじゃねえか。いいだろう、秘密にしておいてやる。俺様は口が堅いから安心しな」


 信じがたいのか、ロシェリ達は疑わしい表情を浮かべている。

 でも俺は信じている。封印から解放した時だって、そのまま逃げることもできたのに約束を守って協力してくれた。

 レギアなりに勝てる自信があったからかもしれないけど、約束を守ったことに違いはない。

 だからこそ、信じてスキルの入れ替えについて説明した。


「スキルを入れ替えて他人からスキルを得て、レベルを上昇させてスキルを進化させるか。ハッ、ハハハハハハハッ! 面白れえ! 本当に面白いぜジルグ、お前はよう!」


 話を聞いている間は笑みを浮かべながら黙っていて、説明が終わったら氷石のタグから飛び出そうな勢いで笑い出した。


「気に入らねぇ相手からスキルを奪ったり、スキルを滅茶苦茶にしてやるところもいいじゃねえか。良い子ちゃんなだけじゃ、やっていけないからな」


 その通りなんだろうけど、なんかレギアに言われると同類にされているような気がしてくる。

 まあ他人のスキルを貰ったり、ごちゃ混ぜにして人生を乱してるのは事実だから良い子ちゃんじゃないのは確かだな。


「だからお前みたいなガキが三つも越えていたのか。確かにこりゃあ、秘密にするのも当然だな」


 分かってくれてなによりだ。


「いいだろう、秘密にしておいてやる。代わりにお前が言った通り、俺様からの情報は減らすからな」


 ちっ、忘れてなかったか。

 まあいい。仮令たとえ少なくとも情報が手に入るんだからな。


「まず越えているっていうのは、お前が言っていたスキルの進化って認識で間違いない。壁を越えたって意味だ」

「壁?」

「何事にも突き詰めようとすれば、壁にぶつかるって言うだろう? 要はスキルの成長が伸び悩むって思っておけ。だがそれを越えた時、そのスキルが持つ力を越えた力が手に入る」


 スキルが伸び悩む……か。

 確かにスキルがLV7になってから伸びが悪くなって、今のところLV10からは自力で成長できていない。

 なるほど、壁にぶつかるとか伸び悩むって表現は合っているな。


「だが壁を越えたところにまで至るには、膨大な時間が必要だ。習得直後のスキルが進化へ至るまで、最低でも八十年は掛かる」


 本来はそんなに時間が掛かるのか。

 だったらLV10からの成長が止まっているのも頷ける。

 習得してから進化に至るまで、つまりLV1からLV11まで最低でも八十年。ほとんど人生の全てが必要ということだ。仮令たとえ「能力成長促進」スキルがあったとしても、どれだけ縮められるだろう。


「ちょっと待ちなさいよ。だったら長命のエルフなら、誰でもそこに至れるじゃない。だけどそんなのを使うところは見たことが無いし、話も聞いたことが無いわよ」


 アリルの指摘は尤もだ。

 特別な条件を満たす必要があるならともかく、必要なのが膨大な時間だけならエルフは誰でもスキルを進化させられるはず。

 長命だから多少の時間や日にちの遅れも気にしない、少しルーズな所がある種族とはいえ、スキルの進化に必要なのは年月だけだから到達していても不思議じゃない。

 なのにアリルが知らない理由が分からないな。


「ハッ! テメェらエルフ族はそんな権利なんか、とうの昔に神が取り上げちまったんだよ」


 神に権利を取り上げられた? どういうことだ。


「大昔のエルフ達は高望みし過ぎた。容姿に魔力の扱いに寿命と、無いものを求めすぎた。だから禁忌を定められたただけじゃなく、壁を越える権利を永久に剥奪されたんだよ。だからどれだけスキルを磨いても、エルフ族だけは壁を越えることはできない」


 楽し気にレギアは言っているけどアリルは目を見開いて驚いている。

 俺だって驚きだ。スキルを進化させるには長い年月が必要だから、エルフはそれを成し遂げる点で有利だと思っていた。それなのに進化のために越えるべき壁を、越えられなくされているなんて。


「そ、そんなの聞いたことないわよ! 言い伝えだと、神様から教わったのは禁忌に関することだけ……」

「神だからって、なんでもかんでも教えると思ったのか? 持って生まれた姿や能力を嘆くだけで逆境に立ち向かいもせず、無い物を望んで求めて強請って神頼みばかりするような強欲で怠惰な種族には、ちょうどいい罰だぜ」


 エルフ側からすれば死活問題でも、視点が変わればそんなもんなのか。

 しかしこいつ、なんでそんなことまで知っているんだ。

 ひょっとして精霊ってのは、少なからず神との繋がりがある種族なのか?

 あっ、アリルの尻尾が力無く下を向いている。

 こんな話を聞かされちゃ、少なからずショックを受けるよな。


「自分は何もしていないのに、ってツラだな。恨むなら先祖を恨みな。神なりに与えたエルフ族への試練を乗り越えるどころか、立ち向かうこともせずに絶望ばかりして神頼みし続けた先祖をな!」


 なんというか、エルフ族は知らない一面を思い知らされたな。

 まさかスキルの進化について聞いていて、こんな話を聞くことになるなんて。

 神の恩恵を授かったとか言っていたアリルがいた集落……。いや、全てのエルフがこのことを知ったらどうなるだろう。

 少なくともアリル自身は泣きそうになっているから、歩み寄って肩を抱いてやった。

 ロシェリとリズも心配そうに寄って来て、慰めの言葉を掛けている。あと、メガトンアルマジロも鼻先を擦りつけて何か鳴いている。


「レギア、俺がスキルの入れ替えをしてレベルを上げても、アリルのスキルは進化しないのか?」

「いや、進化すると思うぜ」


 進化しないのなら、今後のスキルの入れ替えについて考える必要があると思って尋ねたら、できると返された。

 俯ていたアリルも顔を上げ、尻尾がピンと立った。


「神が取り上げたのは、自力で壁を越える権利だ。お前がスキルの入れ替えでスキルのレベルとやらを上げてやれば、エルフのスキルも進化できる可能性はあるだろうよ」


 要するに自力でスキルを進化させられないけど、第三者の手でレベルを上げられればスキルの進化は可能という訳か。

 うん? なんかアリルがしがみついてきた。


「私、ジルグと会えて良かった」

「ああ、うん。そうか、良かったな」


 やばい、ちょっと可愛い。

 普段は素直じゃないのに、時折見せるこういうところがアリルの魅力の一つだ。

 そこ、惚気とか言うな。


「ところでレギア、お前はなんでそんな事を知っているんだ?」

「おっと、それは越えていることに無関係だから喋らないぜ」


 そうだった。そういう約束だったな。


「というより、これ以上は何も教えてやらねえよ。秘密にする分は情報を減らす、そういう約束だからな」


 くそっ、もう喋らないのかよ。

 とはいえ、どれぐらい減らすかはレギアの匙加減次第だから仕方ないか。


「分かった。後は寝てるなり見物してるなり好きにしてろ」

「言われなくとも、そうさせてもらうぜ。だが、その前に一つ答えろ」

「なんだ」

「お前の本当の先天的スキル、「完全解析」だったか。それで俺が精霊だって分かったんだろう? それについては聞かないのか」


 なんだ、そんなことか。


「どうせ聞いても、答えないだろう?」

「はっ、当然だ。分かってんならいいんだよ。じゃあ、俺は寝させてもらうぜ」


 そう告げると欠伸を一つして目を閉じ、眠りだした。

 とりあえず聞きたいことは少し聞き出せたから、それで良しということにして魔法の練習に励む。

 川や空へ向けて魔法を放ち、レベルが上昇した魔法のスキルを使いこなせるよう、魔力と時間が許す限り練習を続ける。

 途中で休憩や昼飯を挟みながら練習を続け、「能力成長促進」スキルの助けである程度安定してきたところで切り上げ、町への帰路へ着いた。


「はい、スノーラビット二十体の討伐。確認しました」


 ギルドカードの記録と現物で確認をした男性職員からギルドカードを返却してもらい、いつも通り皮は売却して肉は引き取る。

 でないと、背後に控えている肉の権化が泣きかねない。

 討伐報酬と皮の売却金を受け取り、ロビーの方でパーティー資金とそれぞれの取り分に分けたら帰るために出入り口へ向かう。


「明日はどうする?」

「伯父さんに頼んで修業つけてもらうつもりだけど、それでいいか?」

「別にいいわよ」

「構わないよ」

「賛……成」


 あっさりと明日の予定が決まってギルドを出ると、通りかかった人物がこっちを向いて俺と目が合って互いに驚いた。

 なにせそいつは会いたくなかった奴の一人。


「なっ、お前は出来損ない!?」

(なんでこんな所にいるんだよ)


 腹違いの兄で元実家の次期当主予定のバレル・グレイズ。

 そいつが俺の目の前にいた。


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