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入れ替えスキルでスキルカスタム  作者: 斗樹 稼多利
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逃げるのは悪くない


 若干の頭痛を覚えながら入った部屋は二人部屋にしては少々狭めで、本当に寝泊まりするためだけの部屋って感じだ。

 その割に清掃は行き届いていて、ベッドに使っているシーツ等も古そうだけどしっかり洗濯されている。食事の内容にもよりけりだけど、これで食事付きで銅板一枚ならお得じゃないかな。

 とにかく休むために外套を脱いで次元収納へ入れ、ベッドへ寝転がる。


「たった二日しか野営してないけど、やっぱりベッドはいいな」


 だいぶ堅めだけど、実家の使用人部屋にあったのもこれくらいだったからちょうどいい。そう思っていたら、ベッドの傍らで小さく震えながらロシェリが呟く。


「ベッドなんて……初めて。ずっと、床に敷物で……寝させられてた、から」


 二段ベッドとかどころか床に敷物って……。

 それがロシェリのいた孤児院じゃ当然なのか、職員の嫌がらせ的なものなのか。


「毛布も、初めて」


 それどころか毛布も無しか。うん、しっかり毛布に包まって寝るといいぞ。

 感動しているロシェリがベッドに寝転がるためにローブを脱ぐと、古くて擦り切れそうな箇所が多いシャツとズボン、ローブとフードで見えなかった肩と腰の中間ぐらいまで伸びた後ろ髪、女性特有の膨らみらしい膨らみが無い平坦で細い体が目に入った。行き倒れになった時に抱えたらやたら軽く感じたけど、ちょっと力を込めれば折れそうっていうのはああいうのを言うのか? これも「魔飢」による空腹促進や食欲増強、それと孤児院での食事情が原因なんだろうな。

 よく見ればシャツやズボンに開いた穴を色違いの糸で縫った痕跡もある。穴を塞いだだけの拙い裁縫は、職員が嫌々やったからなのか自分でやらされたからなのか。食事情以外にもこんな所で苦労していたんだな。


「おっ、おぉ……」


 初めてベッドで横になって毛布に包まる様子は子供のようで、嬉しそうに右へ左へと何度も寝返りを打っている。


「どうだ? 初めてのベッドは」

「最、高」


 それは良かった。

 なんとなく微笑ましい雰囲気の中、ロシェリの腹が小さく鳴った。


「あっ……うぅ……」


 腹の音を聞かれて恥ずかしくなったロシェリは真っ赤になり、毛布の中へ隠れてしまう。中で体を丸めているのか、どことなく繭のように見える。俺も冬場は寒いから、よくああやって温まろうとしたっけ。

 さてと、ロシェリが毛布から出てくるまでの間に明日の予定を立てておくか。

 まずはギルドで肉と買い取り金を受け取る。これは他の何よりも優先する、絶対に。

 その後は買い物だな。着替えも含めてロシェリ用の旅の支度を整えて、ポーションをいくつか買っておいて、食料はロシェリの事も考えて多めに買っておくか。そうそう、今度は塩を忘れないように。

 それと余裕があれば、安物でいいから食器とか調理器具も買っておこう。調理方法が拾った木の枝を串代わりにして焼くだけじゃ、どんなに美味くても飽きそうだし。となると油や胡椒も必要になるかな?

 どこまで買い揃えるかは明日受け取る金額次第だけど、荷物が多くなる分には問題無い。なにせ次元収納があるんだから。


「あの……ジルグ君」


 おっ、復活したか?


「どうした?」

「何か、食べ物……残ってる?」


 うん、そう言うだろうと思っていた。

 干し肉を少し残しておいたからそれを差し出すと、毛布からモゾモゾと出てきて干し肉を受け取って食べだした。

 この調子じゃ宿の食事で足りないのは目に見えているし、後で宿の大将に相談して、今日の夕食と明日の朝食に料理を追加するかお代わりを用意してもらおう。

 そうなると、たぶん別料金を支払うことになるだろう。明日の買い物用に残しておくことも考慮すると、捻出できるのは二食合わせて銀貨一枚くらいかな。


「食事も追加できるかどうか、後で大将に聞いてみるから」

「ありがと……」

「気にすんな。明日にはこの村を出るんだし、英気を養っておかないとな」

「? どうして?」


 どうして? ああ、何でもう明日には村を出るのかってことか。


「長居している間にあいつらが帰って来て、また遭遇するのは嫌だろう?」

「っ! ……うん」


 一瞬ビクリとした後に小さく頷いて俯く。

 俺達がキズアリを倒したあの森へ向かったあいつらが戻ってくるまで、少なく見積もっても二、三日はあるはず。その間にこの村を離れないと、また遭遇してしまう。それはロシェリの精神衛生上良くないし、俺だって何度も仲間をバカにされたらムカつく。

 だからさっさとここを離れて、それで終わりにしよう。


「でも、いいの……かな」

「何が?」

「このまま、逃げてばかり……でも」

「いいんじゃないか、逃げても」

「えぇ……」


 あっさりと逃げることを肯定したからか、ロシェリから困惑の声が漏れた。


「本当に、いいの?」

「誰だって嫌な物事から逃げられるのなら、絶対に逃げるだろ? それともロシェリには、あいつらから逃げられない理由でもあるのか?」

「……無い」

「だろう? 実家なり孤児院なりに戻らないと生活できなかった頃とは違うんだからさ、嫌な場所からはさっさと逃げようぜ。別に罪を犯したって訳でもないんだし、堂々とな」


 この村にいなくちゃならない理由が無いのなら尚更だ。他の町や村へ行ったって生活はできるし、冒険者としての活動拠点だってここでなくていい。もっと極端な事を言えば、この国でなくてもいいんだから。


「そもそも、とっくに嫌な思い出ばかりの王都から逃げてるんだし、今さら逃げる理由が増えたって変わらないって」

「……分かった。じゃあ、逃げちゃおっか」

「そんじゃ、明日はギルドで金を受け取ったら買い出しだぞ」

「うん!」


 さっきより元気が出たようで、返事をする姿は幾分か明るく見える。

 良かった。プラス思考があまり得意じゃなさそうだから、上手くその気にさせられなかったらどうしようかと思った。


「ところで、次はどこ……目指すの?」


 次の目的地か……。候補地を選ぶために地図を取り出して広げると、干し肉を食べ終えたロシェリも枕を抱きかかえて身を乗り出して地図を覗き込んできた。見やすいように地図を置き換え、エルク村から先にある町か村を探す。


(ロートの町か……シェインの町。それとノクリス村か)


 エルク村から行ける次の町か村はロートの町、シェインの町、ノクリス村の三つがある。

 地図の上で最も近いのはシェインの町。ただし山越えをする必要があり、実際の距離は最も遠い可能性が高い。地図の上で最も遠いのはノクリス村は道中に草原が広がっている。残ったロートの町は三つの中では遠くも近くもなく、道中に森があって収入に繋がる物を入手できそうだ。


「普通に考えればロートの町がちょうどいいんだろうけど……」

「何か……あるの?」

「何があるか分からないから、迷うんだ」


 この村に来るまでに通った森を含め、王都近郊は騎士団が巡回していたり冒険者が多く活動していたりするから盗賊がおらず、強力な魔物もそうそういない。でも王都から離れれば離れるほど、どこかしらに盗賊や強力な魔物がいる可能性が出てくる。

 特に厄介なのが盗賊との遭遇だ。冒険者になりたての俺達が盗賊なんかと遭遇したら、とてもじゃないけど敵うはずがない。人を殺し慣れていて人数も多い相手をどうにかできるほど、実力も経験も全く足りていないんだから。

 能力の数値とかスキルの数とレベルで上回っていても、数の暴力と人を殺してきた経験の差は埋めようが無い。だからこそ、魔物も含めて慎重に情報を集めないと。

 その事を説明するとロシェリは盗賊に襲われるのを想像したのか、情報を集めることに同意するように何度も頷いた。


「明日、冒険者ギルドで聞いてみるか」

「そうだ、ね」


 はい、難しい話はここで終了! そそくさと地図を片付けて寝転がり、次元収納に入れておいた冊子を取り出して「暗記」スキルと「速読」スキルを鍛えるために読み進めていく。途中でなんとなく隣のベッドのロシェリへ視線を向けると、毛布に包まった状態で嬉しそうにベッドの上を何度も寝返りしている。

 さっきもやってただろ、それ。そんなにベッドで寝れるのが嬉しいのか。

 あっ、そういえば計算教えてやるって約束もしてたっけ。


「ふふ……ふふふ」


 ……晩飯が終わったらでいいか。今はベッドの幸福感に浸らせてやろう。というか、いつまで寝返りをしているつもりだ?

 その後、宿で用意された食事と交渉して追加で頼んだ銅板一枚分の食事を済ませ、部屋で簡単な計算の勉強をした後にロシェリは眠りにいた。また空腹になる前にって言っていたけど、追加で頼んだのも含めてそれなりに量あったよな? 味はそこそこだったけど。


(まあいいか。今は満足しているみたいだし)


 気を取り直してスキルのレベルを上げるため、ギルドから渡された冊子を取り出して読む。

 冒険者はあまり本の類を読まないのか、冊子は薄めですぐに読み終わるけどスキルのレベルを上げるため何度も読み返す。とはいえ、さすがに飽きてはくるわけで。


(何か本の類も、余裕があれば買っておくかな)


 冊子を次元収納へ入れて寝転がり、「完全解析」を使ってスキルのレベルを確認する。

 いくら「能力成長促進」スキルがあるとはいえ、レベルが高いスキルはそう簡単には上がらない。でも家族のスキルとの入れ替えでLV1に下がっていた「暗視」と「速読」はLV2に上がっている。「暗記」は覚える量が少ないからかまだLV1だ。続いて能力の数値が少し上昇しているのを確認していると、ふとある考えが頭を過った。


(これってスキル以外も入れ替えられないか?)


 女神からスキルが入れ替えられる可能性を教わり、実際にできたからスキルの入れ替えだけを使ってきた。

 でも「完全解析」スキルのレベルが上がってスキル以外も見えるようになったんだから、それも「入れ替え」スキルで入れ替えられるんじゃないか?

 そう思うと検証したくなり、物は試しと目の前に表示されている自分の解析結果の中からスキル以外にどれが入れ替えられるのか試してみることにした。「入れ替え」スキルは入れ替えられないものを指定できないから、入れ替えられるかどうかはすぐに分かる。

 まずは名前、まあ当然ながらこれは無理だ。次に年齢、これも無理か。次は人間ってあるから種族か。これは……指定できたよ。じゃあ性別は……これも指定できた。職業も無理で状態も無理。


(つまり、自分の種族と性別は入れ替えられるのか。別の種族になった場合……)


 頭に浮かぶのは種族がエルフになって耳と髪と肌の色がエルフ特有のものへ変化した姿や、獣人となって何かしらの耳や尻尾が生えた姿。俺だけでなくロシェリでも同じような想像をして、面白そうだから機会があればやってみたいと密かに決めた。性転換? 興味無いからパス。


(能力の数値はどうだろう)


 試しに数値だけを指定してみようとしたら失敗。通常の入れ替えも一部だけは駄目で全体を指定する必要があるから、体力や魔力といった文字も含めてみても失敗。能力の数値は入れ替えられないのか。


(表示される情報で「入れ替え」スキルを使えるのは、スキルと種族と性別だけか)


 できれば能力の数値も入れ替えられると良かったが、そこまで都合よくはいかないか。

 ただ、どうして種族と性別は入れ替えが可能なのか分からず、それを考えているうちに睡魔に襲われて眠りに就いた。



 ****



 翌朝。昨夜同様に銅板一枚分の追加をした朝食をほとんどロシェリが平らげた後、宿を後にした俺達は冒険者ギルドへ顔を出した。


「おはようございます」

「おや、アンタ達かい。待ってたよ」


 受付にいた昨日と同じ女性職員へ挨拶をすると、受付の下から袋を二つ取り出した。両方からジャラって音がしたから、一方が昨日の素材の買い取り金で、もう一方は狩人ギルドからのお礼の金なんだろう。


「こっちが昨日売ってくれた薬草と肉以外の魔物の素材の買い取り金。解体の手数料を引いて、銀貨二十一枚と銅貨が三十八枚だね」


 まずは右側の袋を指差してそう言った。

 次に左側の少し小さい袋を指差す。


「こっちは狩人ギルドからの依頼が無効になって、あっちへ返却するお金だね。そのままアンタ達へのお礼にするって言っていたから、うちでそのまま預かっておいたよ。ちなみに金額は銀貨十五枚だ」


 合わせて銀貨三十六枚と銅貨三十八枚かよ。しかも解体の手数料を引いてあって、肉の買取金は含まれていないのに。やっぱり依頼の報酬をそのまま謝礼にもらったのが大きいな。

 想像以上の収入だったのかロシェリは驚いていて、ポカンと口を開けて固まっている。


「あっ、ちなみに肉は?」

「こっちだ、坊主」


 金の入った袋を次元収納へ入れながら尋ねると、解体所の受付にいるおっさんが声を掛けてきた。

 おっさんが手招きをするからそっちへ行くと中へ通され、肉が積まれた作業台の前へ連れて行かれた。


「これが坊主達が昨日持って来た、ホーンディアスとブラウンゴートの肉だ」

「これ……全部!?」

「そうだぞ嬢ちゃん。特にキズアリはデカかったからな、結構な量があるぞ」


 大量に積まれた肉を前に、前髪で見えないけどロシェリは目を輝かせているんだろう。正直言うと、俺も大量の肉を前に少し興奮している。

 そりゃあ俺だって育ちざかりだし、これまでは賄いで肉の切れ端だとか鮮度が落ちた物しか食べていない。捌きたての肉が大量にある状況に、興奮しないはずがない。

 ただ気になるのは、ロシェリはこの量の肉を何日……いや何食で食べきってしまうんだろうか。 


「お肉が……たくさん」


 今にも唾液の堤防が決壊しそうなロシェリにおっさんは笑い、俺は苦笑いを浮かべる。

 とりあえず痛まないうちに次元収納へ肉を入れた後、報酬を分け合うため一度受付前に設置されているテーブルへ移動。しばらくは俺が分け前を多めに貰う約束をしていたとはいえ、割合までは決めていなかったから、まずはその辺りを話し合うことにした。

 俺として六対四ぐらいにするつもりだったからそれを提案すると、ロシェリは餓死しそうだったのを助けられた上に食事や勉強も世話になっているからと七対三を提案。さすがにそれは貰いすぎということで話し合いをした結果、割合は俺の提案した六対四で期間を長めにする事で折り合いがついた。


「じゃあこれ、四割の金な。銀貨十四枚と銅貨五十五枚」

「ありがとう。で、これが……昨日の宿代の半分。銅貨……二十五枚」

「うん、確かに」


 手元に銅貨二十三枚があって良かった。でないと、受付で換金してもらなくちゃならないところだった。

 心の中でそう思いながら自分の取り分を次元収納へ入れ、再度受付の女性職員の下へ顔を出して、この先の道中についての情報を尋ねた。


「もう出発するのかい? だったら山越えにはなるけど、シェインの町へ行くのを勧めるよ」


 なんでまた、一番険しそうな山道を勧めるんだろうか?


「何故ですか?」

「それがね。残る二つの道中は少し危なそうなんだよ」


 女性職員が教えてくれた情報によると、ノクリス村までの草原には数はいるが大した魔物は生息していない。ところが最近、その魔物を狙ってブレイブイーグルという強力な鳥の魔物が群れで出現しているらしい。


「ちなみにその魔物って、どれくらい強いんですか?」

「一体倒すのに最低でもCランク冒険者が三、四人は必要だね」


 あっ、無理。そんなのを相手に戦う気すら起きない。新人のGランク二人じゃ、死にに行くようなものだ。仮令たとえ能力とかスキルで上回っていても、群れ相手に二人で挑むのは無謀でしかない。

 そう思っていたら後ろから外套を引っ張られた。振り向くとロシェリが首を何度も横に振り、無理だって訴えてきている。


「まだ討伐されたとも去ったとも情報が入ってないから、アンタ達が行くのは勧められないね」

「じゃあロートの町への道中はどうなんですか?」

「出てくる魔物は対処できるだろうけど、最近道中の森に盗賊が住み着いたらしくてね。近く討伐隊が組まれるって話だよ」


 なるほど、それで消去法で山越えをするシェインの町を勧めたってことか。


「山中の方が盗賊が出そうですけど?」

「シェインの町に詰めている騎士団がそれを警戒して、山中訓練も兼ねて不定期で巡回しているのさ」

「あっ、そういうことですか」


 危険な場所だから治安維持のために巡回して、盗賊が住み着かないようにしているのか。しかも不定期だから、情報が漏れない限りはいつ騎士団が来るかを知る術が無い。それじゃあ盗賊が住み着く事はそうそう無いだろう。

 馬車便が通っていないから徒歩での移動になるが、生息している魔物はそこまで強くないから俺達でも安全に行けるはずだと女性職員は言う。

 山道っていう三つ選択肢の中で一番キツイかもしれない道のりだけど、安全性を考えればここ一択しかないか。山の中なら次の町で売るための物も食料も集まりそうだし。


「ということらしいけど、ロシェリはそれでいいか?」

「いい……よ。頑張る、から」

「じゃあ決まりだ。次の目的地はシェインの町だ」


 そうと決まれば早速準備だな。女性職員から山中に生息している魔物の情報と商店の場所を教えてもらい、お礼を言って冒険者ギルドから退散。その後は予定通りロシェリの旅支度を整えるために商店へ向かう。

 この村ではいくつかの商店が固まって商売をしているようで、雑貨屋や食料品店や鍛冶屋とかが隣り合ったり向かい合ったりして並んでいた。

 まずは雑貨屋へ入り、俺が毛布と水袋とタオル、それと山越えだから念のため縄の方のロープを選んでいる間にロシェリは着替えを選ぶ。一緒に着替えを選ばないのかって? 着替えの中には下着も含まれているから、一緒に行くのは駄目だろうし気まずい。ちなみにロシェリ用の旅支度だから、購入費用はロシェリ持ちだ。


「次は食料だな」

「たくさん、買おうね!」


 ロシェリさんや、やけに生き生きしていてないかい?


「予算の範囲内でな」


 雑貨屋を後にして向かいの食料品店へ入り、まずは忘れちゃいけない塩を確保。その後は予算と保存の事を考えながら食料を選ぶ。長期用に干し肉と硬く焼いたパン、できるだけ早めに使う事を前提に野菜と果物、そして塩以外の味付け用に胡椒と油を購入することにした。

 二人用の食料だから割り勘で支払い、残金にどれくらい余裕があるかを確認する。ある程度は余裕があるから雑貨屋へ戻って木製の食器を購入して、調理器具は鍛冶屋が直接売っているというのでそっちへ赴いて小さめで安物だけどフライパンと鍋、それとロシェリ用のナイフを購入しておいた。支払いはナイフ以外は割り勘だ。

 最後に薬屋へ向かい、治癒用と体力回復用と魔力回復用の各ポーションを数本ずつ購入した。


「なんとか予算内に収めたな」


 買い出しを終えて昼食がてら食堂で一休みする。

 食事の予算は銀貨二枚って決めておいたけど、そうしておいて良かった。ロシェリがもう何枚も空になった器を重ねているから、無制限にしたらいくらになっていたことか。


「食料……足りるかな?」


 結構な量を買ったんだけど? しかもギルドで受け取った肉もあるのに、どうしてそんな心配をするんだ。それも食事中に。


「山の中だし、いざとなれば食料を探せるだろ」

「……解体できないから、お肉は……追加できないけどね」


 そんなに肉が食いたいか。

 「入れ替え」スキルで「解体」スキルを入手してもいいけど、ついこの前にできないと言ったのにいきなりできたら不自然だ。それに、真面目にやっている人へスキルの入れ替えを使うのも気が引ける。


「なんなら自分達でやれるよう、狩りながら練習するか? 肉がどうなるか目に見えてるけど」


 この提案にどんな惨状を想像したのか、ガックリと肩を落として腰が曲がるほど俯いた。


「……お肉、勿体ないから、やめとく」

「賢明な判断だ」


 どうせならちゃんと処理した肉が食いたい。それに魔物の肉の中には決まった手順で処理したり、特別な処理をしたりしないと有毒化するのもあるって聞くから知識無しでやるのは危険だ。

 いざとなったらまた可食性の木の実を採って、川や湖があったら魚を獲ればいい。山なら食べられそうな物はいくらでもありそうだし。

 そういった事をロシェリとも話して気を取り直してもらい、念のためにもう一度次元収へ入れておいた物を確認しておく。買い忘れた物が無いのを確認し終えたら、シェインの町へ向けて出発だ。


「準備は問題無し。腹ごしらえもした。出発するか、次の目的地のシェインの町へ」

「おー」


 できればもうちょっと大きくて弾んだ声で言ってくれ、地味に気合い入らない。


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