求める強さの使い道
戦闘中に叩き込まれた小部屋。
そこに置かれた水晶の中にいる黒い何かに、力が欲しいかって尋ねられた。
笑みを向けられたのに身震いするほど寒気を感じながらも、弱腰を悟られないように強い口調で返す。
「いきなりなんだ。お前が何か知らないけど、構っている暇は無い」
そう返して瓦礫を崩して外へ出ようとしたら、そいつは再度話しかけてきた。
「まあ聞けよ。俺様をここから出せば、協力してやるぜ」
「……協力?」
「そうだ。向こう側で暴れている、ツマラナイ野郎をぶっ倒すためにな」
ツマラナイ野郎? さっきまでデッドリーメイカーで、今はドルドスになっているあいつのことか?
こいつにあいつを倒すほどの力があるっていうのか? というかそれ以前に……。
「こんな所にいるのに、どうして外の様子を知っているんだ」
俺がここへ突っ込んでくるまでは薄いながらも壁があったし、今は瓦礫で塞がっている。
なのにどうして、向こう側でドルドスが暴れているって分かるんだ。
「この中から外側を見てばかりだったせいか、「透視」スキルを持っていてな。あんな薄い壁を通して外の様子を見るなんざ、朝飯前だ」
「透視」って、使い方次第じゃ覗きとかし放題な準犯罪級のスキルだな。
というか、そんな場所に閉じ込められなきゃ習得できないだろうな、そんなスキル。
おっと、話を元に戻さないと。
「そもそも、お前は何なんだ?」
「俺様か? 暇つぶしにこの巣窟内に入ったら、色々あってあいつに封印された外道のはぐれ者だ」
色々って、途中端折りすぎだろ。それに外道のはぐれ者? どういう意味だ。
訳は分からないが、今は触れなくていいや。
「偉そうな口を利くくせに封印されたのか」
「どうせ暇だったから別に構わないと思ってな。だが、いい加減ここにいるのも飽きたし、久々に暴れたい。だからここから出せ、見返りに協力してやるからよ」
こいつ、封印されているくせにどうして上から目線なんだよ。
「別にお前なんかがいなくても」
「お前に俺様の何が分かるんだ? それに勝てるのか? 俺様には分かるぜ。お前や向こう側にいる連中じゃ、今のあいつには絶対に勝てない」
ぐっ……。悔しいけど、その通りだ。
正直、今のままでもスキルを入れ替えても勝てる自信が無い。
屋外でなら、インテリジェンスマジックデスサイズとのスキルの入れ替えで「火魔法」が進化したスキルを使えるし、ホークアイで自分の位置の入れ替えをする戦い方ができるのに。
いや、それは言い訳か。力があればどんな場所でも、どんな相手にでも勝てるんだから。
「だが俺様の力があれば勝てる。さあ、この水晶を割れ。そうすればこの場は協力してやる」
……本当に、こいつがいれば勝てるのか? 「完全解析」。
封水晶 高品質 無属性
製作者:オズワード
素材:水晶 魔心石
スキル:封印L9【固定】
状態:魂封印
魂の存在しないスケルトンやゴーレム以外を封印できる水晶
封印を解く魔法かスキルで封印対象を解放した場合、再使用可能
外部から物理的に破壊して解放することも可能
違う、そっちじゃない。封印している水晶じゃなくて、封印されている中身の方だ。
もっと集中して「完全解析」。
アームズスピリット 精霊 憑依型 性別無し
状態:封印
体力 ∞ 魔力19287 俊敏379 知力12844
器用 0 筋力 0 耐久 0 耐性18471
抵抗16092 運666
スキル【装備憑依時所持者へ共有可】
闇耐性LV10 光耐性LV10 看破LV5 透視LV2
種族固有スキル
装備憑依 物理無効【装備憑依時無効】
装備憑依時発動スキル
闇属性付与LV10【憑依中のみ成長】
魔法吸収LV9【憑依中のみ成長】
魔法放出LV9【憑依中のみ成長】
憑依装備強度強化LV8【憑依中のみ成長】
憑依装備所持者身体能力強化LV8【憑依中のみ成長】
憑依装備所持者身体機能強化LV8【憑依中のみ成長】
憑依装備所持者全状態異常耐性LV7【憑依中のみ成長】
閲覧可能情報
身体情報 適性魔法 趣味 三大欲求
なんだこりゃ。能力もスキルも桁外れだ。
その割には攻撃に役立ちそうなスキルはないから、こいつ自身に戦う力は無いんだろう。でも憑依時に発動するスキルは、桁外れ以外に言葉が浮かばない。
外へ出せば倒してやる、じゃなくて倒すのに協力する、って言っているのはこういう理由だからか。確かにこいつがハルバートに憑依してくれればドルドスを倒せるかもしれない。
というかこいつ、精霊? 精霊って何だ。
「どうした、さっさと決めろ。あいつらが死ぬぞ」
そうだ、いつまでもこうしちゃいられない。瓦礫の向こうからは戦闘音と誰かの声や悲鳴が聞こえている。
でも、今のままじゃ勝てないのも事実だ……。
やるしかない。
「本当に協力してくれるのか? あいつを倒せるんだな?」
「俺様は嘘は言わん」
「……分かった」
今は力が欲しい。仮令どんな力でも、あいつを倒せるだけの力が欲しい!
意を決してハルバートを振り上げ、水晶へ槌部分を振り下ろす。
さほど硬い手応えも無く水晶は砕け散り、封じられていたアームズスピリットとかいうのが姿を現した。
球体状に纏まった靄みたいなそいつには顔しか浮かんでおらず、自由の身になれたからか口の端を上げる。
「礼を言うぞ、ガキ。約束だ、あいつをぶっ倒すのに協力してやる」
そう呟くと霧状になり、吸い込まれるようにハルバートの中へ入り込んでいく。
するとハルバートはあっという間に黒く染まり、斧部分にアームズスピリットと同じ色と形状をした目と口が浮かぶ。
これで装備憑依時発動スキルが働いたのか、体にとんでもなく力が湧いてきた。
「スゲェ……!」
「これが俺様の力だ。さあ行け、奴をぶっ倒してやろうぜ」
お前、憑依した状態でも喋れるのか。
「あ、ああっ! エフェクトエクステンド、パワーライズ、ハードボディ、アクティブアクション!」
念のために強化魔法を掛け直すと、アームズスピリットが呟く。
「エフェクトエクステンドだと? お前は越えた奴か、こりゃあ面白い奴に出会えたな」
越えた奴? また分からない言葉が出て来たな。
でも今はそれよりも、ドルドスを倒すことの方が先だ!
「はぁっ!」
余りある力でハルバートを振り抜き、目の前を塞いでいた瓦礫の壁を一撃で吹き飛ばす。
その向こう側では、傷だらけになりながらも誰一人欠けることなく戦い続けていて、ドルドスを含めて全員がこっちを振り向いていた。
「ジルグ……君!」
「無事だったか……って、なんだその武器は!?」
まあ、その反応も当然か。
瓦礫の向こう側から現れたら、武器の見た目が変わっているんだからな。
「ははははっ、久しぶりだな」
「その声。貴様はあの時の幽体か!」
「だから俺様は幽体なんかじゃねえって言ってるだろ。分からねえ野郎だな」
どうやら向こうはこいつを幽体だと思っているようだ。
本当は精霊っていう、聞いたことが無い種族なんだけどな。
「まあいい。あそこはもう飽きたから、こいつに出してもらったぜ」
「だからどうした。そもそも、何故そいつの武器に宿っている!」
「あそこから出してもらった礼だ。俺様はお前のような分からず屋でも、恩知らずでもないからな。お前を倒すのに協力してやることにした」
その代わりに上から目線だけどな。
「私を倒すだと? 武器に宿れる程度のお前が協力したからといって、何ができる!」
「俺様の力も見抜けねえお前には、分かるまいよ」
「煩い! これでもくらえ!」
十枚の刃が一斉に襲いかかってきた。
だけど装備に憑依した時に発動するスキルの影響なのか、さっきまでの「動体視力」スキルだけの時より軌道がハッキリ見える。
そしてアクティブアクションだけの時よりも反応が速くなっているし、思考もそれに付いてきている。
だから辛うじて対応していたさっきまでと違い、ちゃんとした対応ができる。
「せいやぁっ!」
タイミングを計っての一閃。それだけで十枚の刃が全て砕け散った。
スゲエ、こいつが加わっただけでこんなに違うのか。こいつ、本当に一体何なんだ。
「なんだと!? くっ、フレアアロー!」
数本の火の矢が迫って来る。でも今の俺なら軽く避けられ――。
「俺様をフレアアローへ向けろ」
「はっ?」
「いいからやれ!」
「お、おうっ!」
声の圧に押されて言われた通り、斧部分をフレアアローへ向ける。
直撃すると思った瞬間、斧部分に浮かんでいたアームズスピリットの口に魔法が全て吸い込まれていく。
「なにっ!?」
「このまま振り抜け!」
魔法を全て吸い込まれて驚いているドルドスへ向け、言われるがままにハルバートを横薙ぎに振り抜く。
すると斧部分から闇を纏った炎の刃が放たれ、ドルドス胸部へ命中して肋骨を数本破壊した。
さらに背骨にも直撃して小さな爆発が起きる。
「なん……だとぉっ!」
驚愕しながらドルドスが数歩後退する。
「どうだ。これが俺様が宿ったことで使える「魔法吸収」と「魔法放出」、そして「闇属性付与」だ」
マジかこれ、想像以上だ。
吸収した魔法の力をそのまま利用して、しかも闇属性を付与した攻撃に変換するなんて。
「さあ、思う存分やれ。あの野郎をぶっ倒すぞ!」
「おう!」
「よし、わしらも全力で援護だ!」
アームズスピリットに促されて駆け出すと、後方で震えているドロンさんを除く前衛陣が後に続いて来る。
ようやく訪れた反撃のチャンスなんだ、逃すはずが無い。
「おっ、のれぇっ!」
残った刃が全て迫って来るけど、何度やっても同じだ。
ハルバートで迫って来る刃を全て破壊しながら突き進み、ドルドスとの距離を詰めていく。
両手の頭部も伸ばそうとしていたけど、後衛陣が援護の魔法を放ってそれを妨害してくれた。
「これで、最後!」
最後の刃も破壊して攻撃手段を一つ潰し、なおも接近していく。
「きっさまぁっ!」
後衛陣からの魔法を左手で防ぎつつ、今度は右手頭部を突き出してきた。さっきの「魔法吸収」と「魔法放出」を警戒してか、魔法は撃ってこない。
それを軽く回避して、擦れ違いざまに右手首の辺りの骨を斧部分で両断。魔力での繋がりを伸ばすところよりも手前を斬ったから、もう伸ばすことも魔法を放つこともできないだろう。
切り落とされた右手頭部は突き出された勢いそのまま、地面を削りながら進んでいく。それに巻き込まれそうになった前衛陣の声や悲鳴が聞こえるけど、多分大丈夫だろう。後ろを振り向いている暇は無い。
そのまま一気に接近して右足首に槍部分を刺し、そのまま闇属性が付与された「飛槍術」を放って関節を破壊。体勢を崩して倒れそうになるドルドスの転倒に巻き込まれないよう、一旦距離を取った。
「ほう、二つも越えているのか。こりゃ面白い奴に出会えたもんだ」
また越えている、か。「自己強越化」と「飛槍術」を使った時に言っているから、スキルが進化している事を言っているのか?
「何故だ、こんなバカなことがあるか。貴様がこれほど強力な力を与えることができるなんて……」
右膝を地面に着け、手首から先を失った右腕で転倒を防いだドルドスがこっちを睨みつけてくる。
「そんなことすら見抜けない程度で、何が知性ある武器を作るだ。やっぱりお前はツマラナイ奴だな、協力する価値も無い」
こいつとあいつが協力してなくて本当に良かった。
こんなのが向こうについていたら、どうしようも無かったぞ。
「ツマラナイ……だと? この私が、ツマラナイだと! ぶあっ!?」
挑発に乗るのは勝手だけど、隙だらけだぞ。
後衛陣の魔法が次々と降り注ぎ、全員無事だった前衛陣も接敵している。
「これまでのお返しだぁっ!」
「好き勝手やってくれたねえ!」
「ぬうん!」
ベイルさんとタバサさんとマウロさんが膝を着いている右脚の膝関節を攻撃して、残りの前衛陣は左足の方へ向かって足首を集中的に攻撃している。
「ああ、そうだ。栄誉しか求めていないお前は、ツマラナイ奴だ」
「栄誉を欲して何が悪い! ダークウェーブ!」
後衛陣からの魔法を防ぐために使っていた左手頭部から、闇属性の波動が放たれる。足下にいるベイルさん達は吹き飛んで後方へ転がっていき、後衛陣も防御に専念して魔法での攻撃が止まる。
でも、俺だけは一歩も引くことなく耐えられている。
「今のお前は武器を通して俺様の持つ「闇耐性」を共有している。この程度の闇魔法なんか、問題ねえだろ?」
「ああ。なんともない」
そういえばこいつ自身のスキルも、憑依時には共有可ってあったな。
得意気に語るアームズスピリットに返事をしてハルバートを構え、「魔法吸収」を使ってダークウェーブを吸わせていく。
「誰もが不可能だと、無理だとバカにした知性を持つ武器を作り出す! そのために生涯を捧げ、アンデッドになってようやくヒントを掴んだ。なんとしても完成させて、不可能を可能にした栄誉を求めて何が悪いんだ!」
叫びに合わせてダークウェーブの威力が上がった。
でも俺は一歩も下がらず、魔法を全て吸収させ続ける。
後方への余波すら発生していないから、皆に被害は出ていないだろう。
「く……おぉ……」
魔法が徐々に治まっていく。
声も苦しそうだし、放ち続けるのもそろそろ限界か。
「俺様は栄誉なんて不確定な未来に、力を使う気も力を貸す気も無い」
魔法が治まった。やるべき事は分かっている。
「闇属性付与」も加わって強力な闇の力が斧部分に集まっているハルバートを振り上げ。
「俺様の力は、俺様が斬りたいものを斬るためにある!」
思いっきり振り下ろしながら「魔法放出」を使って、巨大な漆黒の刃を飛ばす。
放たれた漆黒の刃が直撃したドルドスは、頭蓋骨も背骨も尻尾の骨も全てが縦に真っ二つに斬れた。
その後ろに壁をも深く切り裂いた刃は直後に爆散して、崩落こそ起きなかったものの空間内が揺れる。
左右に分かれて倒れながら、微かに灯っていたドルドスの目の光が消えていく。
「私の……夢が、こんな、ところ……で……」
左右に倒れたドルドスの骨で轟音が響き、土煙が舞う。
動くことは二度と無い。
「終わった……のか?」
「ああ、なんとかなったみたいだ」
達成感よりも疲労感と安堵感がこみ上げてきて、全員がその場に座り込んだり仰向けに倒れたりする。
どうなることか思ったけど、本当になんとかなって良かった。
「あっ、出口が……」
ドロンさんの声に出入り口の方を見ると、出入口を塞いでいた盾が全て地面に落ちていく。
「完全解析」で確認したら、ただの骨製の盾になっていた。
製作者が死んだから、力を失ったのか。
「まったく。とんだ依頼になっちまったな」
「ホントだよ。ギルドには追加報酬を弾んでもらわなきゃ、割に合わないね」
同感だ。元々の報酬だけじゃ、とても納得できない。
「ハッハッハッ! ざまぁみろってんだ、あの野郎!」
ああ、そうだったな。お前はあいつに作られた訳じゃないから、消滅しないんだったな。
高笑いに若干呆れていると、アームズスピリットがハルバートから抜けた。
前触れも無く現れたもんだから、ベイルさん達も従魔達も驚いている。
一見すると魔物っぽいから当然だなと思っていると、急に体中が痛くなってきた。
「痛たたたたたっ!?」
「ちょっ、どうしたのよ!」
「いやなんか、急に体が痛く……」
「大変だ。ロシェリさん、治癒魔法を。早く!」
「う、うん!」
傷だらけのロシェリ達が駆け寄って治療してくれる。
従魔達も傷だらけでフラフラなのに、心配そうに歩み寄って来た。
「はっ、だらしねえな。いくら俺様の強化が強力とはいえ、この程度で痛がるとはな」
この野郎。本当にどれだけ上から目線なんだ。
「なあ、こいつは一体何なんだ?」
「本人曰く、外道のはぐれ者だそうだ」
「外道のはぐれ者って、どういう意味だミャ?」
そこは聞いてないから分からないと返し、アームズスピリットへ視線を向ける。
「教える義理は無い。俺様は俺様だ、それ以外の何物でもねえ」
教える気ゼロかよ、憎らしい奴だな。
とはいえ、こいつのお陰で勝ったから文句は言えないか。
「助かった。礼を言う」
「勘違いするな、俺様はお前らを助けた訳じゃねえ。あいつを斬りたかったから協力しただけだ」
ああ、はいはい。こういう奴なのね。
「で、アンタはこれからどうするんだい。何かあくどい事をやるってんなら……」
「安心しろ。俺様は装備品に憑依すること以外は碌なことができないし、憑依したところで自力じゃ動けない。だから放っておいても安心無害だと保証するぜ」
攻撃に使えそうなスキルが無かったからそうじゃないかと思っていたけど、やっぱり自力じゃ何もできないのか。
それなら安心ではあるけど、無害なのかは疑問だ。何せこの口の利き方だからな。
「で、本当にこれからどうするんだ? またどこかで暇つぶしか?」
「それなんだが……。おいガキ、一つ聞きかせろ」
「なんだ」
「俺様が与える力を今後も使えるとしたら、お前は何に使う」
はっ? あの力をまた使えるのか?
「あれだけの力を振るってみてどうだった。あの力を今後も使えるとしたら、お前を何のために使う。地位が欲しいか、名誉が欲しいか、一生遊んで暮らせるほどの金が欲しいか、ドラゴンや伝説上の神獣でも倒したいか、それともお前の周りにいるメス共や獣共を守りたいか。さあ、聞かせろ」
確かにあれだけの力があれば、地位も名誉も金も得られるだろう。
ドラゴンや伝説上の神獣だって倒せるかもしれない。
そしてロシェリ達を守ることも容易い。
でも……なんか違う気がする。
「お前が力を得て、それを使うのは何故だ。何のために力を使う」
力を得て、それを使う理由は……。
違う、こいつが挙げたどれでもない。
「もう一度聞くぞ。お前は俺様という力を得たら何に使う」
俺がこいつの力を手に入れたら……。
「目の前の敵を倒すために使う」
「ほう?」
「地位や名誉や金のためじゃない。これまで通り、目の前の敵を倒すために使う。それだけだ」
これが俺なりの力を使う理由だ。
特別な力って意味じゃ、スキルの入れ替えで他人や魔物のスキルを手に入れて使っている。
そもそもスキルの入れ替えだって、元家族や仲間達を蔑ろにしていた連中に使ったこと以外は目の前の敵を倒すためにしか使っていない。
結果的に金とかちょっとした名声とかは手に入れたけど、それ目当てでやった訳じゃない。
だからアームズスピリットの力を使えたとしても、今までと変わらず目の前の敵を倒すために使い続けるだろう。
「地位や名誉、一生遊んで暮らせるほどの金はいらないか」
「結果的に得たのなら、受け取る。でも、それが欲しくて強くなりたい訳じゃない」
「ドラゴンや神獣を倒したいとは思わないか」
「そんな生き物、目の前にいなきゃ倒すも何もないだろう」
「そこのメス共や獣共を守りたくないのか」
「俺の女と相棒達を舐めるなよ。こいつらは俺が守ってやらなきゃならないほど、弱くない。それに目の前の敵を倒すのは変わりないだろ」
一緒に過ごしてきたから分かる。
ロシェリもアリルもリズも、そして従魔達も。俺が常に守らなくちゃならないほど弱くない。
うん? 誇らしげに筋肉を強調する暑苦しい従魔達はともかく、なんでロシェリはフードを引っ張って顔を隠すんだ? なんでアリルは尻尾を振りながら、腕を組んでそっぽを向いてブツブツ言っているんだ? どうしてリズはそんな嬉しそうに体をくねらせているんだ?
「本当にそれがお前の求める、力の使い方か?」
「あっ、ああ。一番いたくない場所から逃げて、それでも生きるために力を振るってきたんだ。今後もそれは変わらない。お前の力を得ても俺は、目の前の敵を倒すために力を使って生きていく。ただ、それだけだ」
さっきも言ったように、地位や名誉が欲しくて鍛えたんじゃない。
生きる手段の一つとして元実家の護衛達に鍛えて貰って、その道で食べていくと決めて鍛え続けてきたんだ。
スキルの入れ替えなんてズルをしても、こいつの力を使い続けられるとしても、それは変わらない。
目の前の敵を倒して、生き続けるために力を使う。
「嘘じゃなさそうだな」
そういえばこいつ、「看破」スキルがあったっけ。
「嘘ついてどうするんだよ」
「確かにな。クッ、クククッ、クハハハハハッ!」
なんだ急に笑い出して。
そんな変なこと言ったか?
「そうだ、力を得る理由なんてそれでいい! 地位? 名誉? 金? そんな物、目の前の敵を倒さなきゃ得られないもんなぁ! ドラゴンや神獣? それも目の前にいなきゃ、倒すことなんてできないよなぁ! そこのメス共や獣共を守るにしても、結局は目の前の敵を倒さなきゃならないもんなぁ! いいぞガキ、お前は分かっている! どれだけ強大な力を得ようとも、向けるのは結局目の前にいる敵だけだ! 遭遇するかも分からない相手や、できるかどうか分からない未来のために力は使うんじゃねえ! 目の前にいる敵を倒すため、それだけに力を使え!」
さっき「咆哮」スキルを使った俺が言うのもなんだけど、煩い!
そんな大声でベラベラ喋るんじゃねえよ!
ああもう、またストラさんが耳にガンガンきて目がグルグルになってるし。
「気に入ったぞ、ガキ! 名は何だ?」
「……ジルグ。ジルグ・アトロシアスだ」
「ジルグか。俺のことは……そうだな、レギアとでも呼べ」
うん? こいつの名前はともかくとして、何だよ呼べっていうのは。
さっきの問いかけといい、まるで付いて来るつもりみたいじゃないか。
「決めたぜ、俺様はお前に付いて行く。拒否権は無いぞ」
はい? 何言ってんのこいつ。
「別にお前に従う訳じゃねえ。俺様が勝手に付きまとって、斬りたい敵がお前の目の前に現れたら勝手に協力してやるってだけだ」
本当に勝手だな、おい! というか自分から付きまとうって言ってるし!
こっちの意見なんか聞く気が無い上に、肝心な協力も遭遇した敵次第なのかよ。
「つう訳で。そうだな、そこにでも邪魔するか」
そう呟いたレギアが胸元へ吸い込まれるようにして消えた。
でも防具には何も変化が無い。どこ行った?
あっ、まさか!
ひょっとしてと思って氷石のタグを取り出すと、真っ黒に染まって表面にレギアの目と口が浮かんでいた。
「悪くねえ居心地だ。ああ、安心しろ。憑依したら発動するスキルは切っておくからよ」
あのスキルって、そんなことできるのか。
って、そうじゃなくて!
「それと俺様は常に持ち歩けよ、いつどんな敵が目の前に現れるか分からねえからな。さてと、一暴れしたから俺様は寝させてもらうぞ」
「おい、ちょっと待て!」
反論する暇も無く、レギアは氷石のタグに憑依したまま寝息を立てだした。
戦闘中に感じたあの力は湧いてこないから、本当にスキルは切ってあるんだろう。
にしてもこいつ、本当に勝手な奴だな。
「厄介なのに付きまとわれる事になったな、小僧」
「そう思うならなんとかしてくれ」
「そいつは御免だ。それとな、巣窟内の調査はわしらでやっておくから、お前はあいつらの相手をしておけ」
うん? あいつらって?
ベイルさんが視線を向けた方へ顔を向けると、何故かやたら笑顔なラナさんとストラさんがいた。というか笑顔なのに発する空気が怖い。
「えっと……何か?」
「いえね、大した事じゃないのよ。ちょっとお説教したいだけって言うか」
なんでっ! ていうか笑顔なのに声が笑ってない!
「獣人は人間よりも五感が鋭いミャ。だから耳がいい兎人族のストラほどじゃないけど、さっきの「咆哮」は頭にガンガンに響いたミャ」
あっ……。
「そういえばそうね。私も半分犬人族だから、割と効いたわね」
「僕もそうだね。頭までビリビリきたよ」
アリルとリズ、お前達もそっち側か。ていうかマウロさんまで腕を組んで頷いてるし!?
「という訳で」
「お説教ミャ」
この後、地面に正座させられて五人から順々に説教を受けた。
巣窟内の調査をするベイルさん達からは自業自得だという目を向けられ、ロシェリはオロオロするだけで何もできず、従魔達に至っては自分達も被害を受けたぞと言わんばかりに、説教に混じって鳴き声を上げていた。
はい、反省しています。以後気をつけます。だから地面での正座は勘弁してください。脛当てを外しての正座だから石が食い込んで痛いんです。えっ、それ込みでお仕置き?
結局説教はベイルさん達の調査が終わるまで続き、その頃には足が痺れて動けなかったからロシェリ共々マッスルガゼルの背中に乗せてもらった。
ちなみに巣窟はギルドが調査と確認をするまで魔物が入らないよう、出入口を土魔法で塞いでおいた。




