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入れ替えスキルでスキルカスタム  作者: 斗樹 稼多利
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白馬の力


 避難所の部屋に閉じこもっていたリズメルさんを連れて帰ると、想像以上に早く解決したことに驚かれながらも、ノワール伯父さんとちょうど訪ねて来ていたゼインさんから感謝された。

 当のリズメルさんはアトロシアス家の屋敷に着くや否や、使用人から丁寧な対応をされたり奥さん一同に優しくされたりして戸惑っている。


「だって、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんからしか、優しくされたことがなくて……」


 そういえば初めて会った時のロシェリも、優しくされるのに慣れていない感じがあったっけ。

 こればかりは徐々に慣れてもらうしかないなと思っていると、リズメルさんの身だしなみの悪さに奥さん一同が気づいた。女の子がそれじゃ駄目だと強制的に風呂へ連行され、ついでとばかりにロシェリとアリルとリアン従姉さんも連れて行かれた。

 ゼインさんとノワール伯父さんも仕事へ戻り、一人残された俺は部屋に戻る途中で勉強が終わったと疲れた様子で現れた従妹コンビに捕まって、一緒にお茶と菓子を食べようと食堂へ連れて行かれた。

 ちなみにビーちゃんことビルドコアラは、庭で俺達の従魔と合流させている。今頃はあいつらと筋肉の比べ合いをしていることだろう。

 お茶を飲み菓子を食べながら勉強と教師に対する従妹コンビの愚痴を聞きつつ、避難所でスキルを入れ替え、「自己強化魔法」が進化した「自己強越化魔法じこきょうえつかまほう」を「完全解析」で調べてみた。




 自己強越化魔法:身体能力とは別の要素を強化する魔法


 使用可能魔法

 エフェクトエクステンド:自己強化魔法の継続時間を伸ばす




 おっ、今の「完全解析」のレベルだと使える魔法とその効果が見えるのか。どんな魔法を覚えたかはスキルのレベルが上がった時になんとなく分かるんだけど、効果までは分からないから助かるな。

 で、肝心の「自己強越化魔法」は進化した時の感覚的な理解の通り、こういう魔法だったか。

 身体能力とは別の要素。エフェクトエクステンドの場合は自己強化魔法の効果継続時間、つまりは自己強化魔法を強化する魔法って訳か。

 まだ一つしか覚えていないから詳しい傾向は掴めないものの、どんな強化ができるようになるのか楽しみだ。


「お従兄様?」

「話、聞いてますか~?」

「ん? 聞いてるぞ。教師のオバサンが厳しい上に、休憩時間が短くて辛いんだよな」

「「そうなんです」」


 ぐでーという擬音が聞こえそうなほど、両腕を伸ばしてテーブルに身を預ける姿を注意するようなことはせず、元気出せと伝えて菓子を差し出す。

 何故か食べさせてと言われて口を開ける様子に、雛鳥へ餌をやる親鳥のような気分になりつつ菓子を食べさせる。

 控えている女性使用人さん、笑いを堪えないでください。一応これは従妹とのコミュニケーションなんです。

 そんな事をして過ごしているうちに、奥さん一同が風呂から上がってやって来た。


「あらジルグ、ここにいたのね。ほら見て、どうかしら」


 そう言ってユアンリ祖母ちゃんが引っ張ってきたのは、ボサボサだった髪が真っ直ぐになり、誰の物なのか分からないけど可愛らしい服を着てスカートを穿いたリズメルだった。

 正直、白い髪の毛でなければ誰だか分からなかったかもしれない。


「「お姉ちゃん、可愛いです」」

「あう、あうう……」


 従妹コンビから褒められたのに、当の本人はソワソワと落ち着きが無い。


「あ、あの……」

「なんで私達まで」


 続いて伯母さん達に引っ張られ、普段と違う服装にスカート姿のロシェリとアリルもやってきた。

 ほとんど脚を隠していないような短パンを穿いているくせに、膝まであるスカートを恥ずかしがっているアリル。フリフリだらけの服を着せられて、顔を隠すフードが無いから両手で真っ赤な顔を隠しているロシェリ。どっちも反応が新鮮で見ていて楽しい。

 あんな服をいつの間に用意していたのかと思っていたら、何年か前に奥さん一同がリアン従姉さんに着せるため買ってきたものだと従妹コンビが教えてくれた。

 ところが本人は自分のような背の高い大女には似合わないと主張し、ほとんど着ないうちに背が伸びてサイズが合わなくなってしまった。そこでいずれ従妹コンビが成長したら着せようと考えて取っておいた物を、ここぞとばかりに放出して三人へ着せたようだ。

 正直、かなり似合っている。奥さん一同、よくやってくれました。


「どう? 似合うでしょ? 娘ができたらこうして着飾らせるのを楽しみにしていたのに、リアンったら着てくれないんだもの」

「だから、私のような大女には似合いませんって!」


 リアン従姉さんは普段通りの格好なんだな。背丈に合う着せたい服が無いのか、それともこれを予想したリアン従姉さんが頑張って抵抗したのか。まあどっちでもいいか。


「そうかしら? ジルグ君はどう思う?」


 三人が来ている服をリアン従姉さんへ着せる……。頭の中で一着ずつ重ね、身長的な点は補正して想像する。


「似合うと思う。ロシェリ達だけでなく、リアン従姉さんにも」

「「「「「でしょう!」」」」」


 今となっては背丈的な問題でサイズが合わないけど、似合うと思うのは本当だ。

 やっぱりねと意気投合している奥さん一同の一方、ロシェリとリズメルさんは恥ずかしがって俯き、素直じゃないアリルは真っ赤な顔で当然でしょと胸を張って、リアン従姉さんはお世辞はいりませんと目を逸らす。お世辞じゃないのに。

 でもこれ、本当は成長した従妹コンビに着せるために残しておいたんだよな。頭の中で成長した二人の姿を想像して、三人が着ている服を重ねる。

 悪くないな。凄く似合っているとは言い難い。でも悪くない程度には似合っている。


「うん? なんでしょう?」

「なんだか~、ちょっと悔しい気分がします~」


 これが女の勘って奴か? なかなか鋭い。

 そうこうしている間に皆が適当な席に座り、家族でのお茶会みたいな感じになった。


「ところでリズメルさん、本当に冒険者になるのか?」

「うん。お金を稼がないと暮らしていけないし、できるのはお祖母ちゃんとやっていた農作業か、お祖父ちゃんとやっていた狩りと採取ぐらいだからね」


 常にどっちかと一緒にいることで、周りの悪意から守ってもらっていたのかな。

 そうでないと外に出れなかったんだとしたら、避難所で部屋から出られなかったのも当然か。味方だった祖父母が亡くなったから、というだけじゃなかったのかも。


「で、僕をあそこから逃がしてくれたジルグ君達の恩に報いるためにも、冒険者になって協力しようと思うんだ」

「別にそれは構わないけど、狩人ギルドには登録してるんじゃないのか?」


 商業ギルドや生産関連のギルドならともかく、狩人ギルドと冒険者ギルドの両方に登録している場合、どちらに倒した獲物を卸すかで揉めることがある。

 それを避けるため、狩人と冒険者は兼業できない事になっている。転向するのなら、一度登録を抹消しなくちゃならない。


「そこは安心して。あくまでお祖父ちゃんの手伝いだったから、登録はしていないんだ。主にやっていたのはお祖母ちゃんの手伝いで、農業だったから」


 だったら問題は無いか。

 一応他のギルドには登録しているか聞いてみると、集落には冒険者ギルドと狩人ギルドしかなかったからどこにも登録していないとのこと。

 おまけに自分達で野菜を育て肉を得ていた自給自足生活だったため、わざわざ町や村に出向いて登録する気も無かったそうだ。

 自給自足や物々交換で生活している僻地や辺境、小さな集落では同様の理由でどこのギルドにも登録していない人は珍しくないらしい。


「要するに、金が無くとも生活が成り立っているからギルドに登録する必要が無いってことか」

「そういうこと」


 まだまだ世の中には知らない事があると実感しつつ、冒険者活動に関する話へ話題を戻す。

 登録時に貰った冊子を取り出して読んでもらい、冒険者としての注意点を説明していく。

 真剣な表情で頷きながら話を聞く様子は、本気で冒険者になろうとしているのが窺える。


「ちなみに戦闘経験は?」

「狩りをしていた時に何度かあるよ。お祖父ちゃんとビーちゃんが前衛で、僕が後衛って形でね」


 狩りそのものは罠を仕掛け、そこへ獲物を誘導して罠に掛けたり、通り道を探してそこに待ち構えて狩るというのが主なやり方だったそうだ。

 だけど、毎回思い通りにいく訳じゃない。特に魔物と遭遇した時は戦闘になりやすく、そうなった場合はお祖父さんとビルドコアラと一緒に戦ったそうだ。

 ということは、ある程度連携を取って戦った経験があるってことだ。ひょっとするとリズメルさんって、結構な拾い物かもしれない。何にしても、明日は登録したら近場で腕を見せてもらおう。

 その事を伝えて承諾を得たら、話はリズメルさん自身の話へ移る。

 適性の有った土と水と植物の魔法はお祖母さんのやっていた畑を手伝うために習得したが、他の魔法は試したことが無いとか。農作業や狩りの時に動きにくいからスカートを穿いたことが無いとか。お祖母さんから料理を教わり、お祖父さんから解体を教わったとか。狩りのために弓矢を覚えようとしたものの、上手く弓を引けなくて諦めたとか。

 そうした他愛のない話の中でリズメルさんの装備の話になり、武器が無いことが判明した。


「家がダイノレックスに襲撃されて、壊れちゃってたよ……」


 以前は集落へ立ち寄った旅の冒険者から古い杖を譲って貰って、それを使っていた。

 ところが件の襲撃事件で杖を家に置いたまま逃げ出し、直後にダイノレックスが家を破壊しながら通過。後で崩壊した家の中から壊れた状態で見つかったそうだ。

 武器が無いのならバロンさんの所へ相談しに行こうかと思っていたら、ロシェリが予備に取っておいた樹獣の杖を譲ると言い出した。


「いいのかい?」

「あれ……獣人の方が、役立つ……から……」


 そういえばあの杖、持ち主が獣人族か樹人族だったら魔法の威力と効果が上がるんだったな。馬人族も獣人族に含まれるから、恩恵に与れるって訳か。

 ただでは貰えないと遠慮するリズメルさんと話し合った結果、杖の代金分を払い終えるまで分け前の一部をロシェリへ渡す事で落ち着いた。

 こうなると防具も無いかと思いきや、狩りで使っていた防具は幸いにも無事だったようだ。

 数少ない荷物の中にあると言い、頼んでもいないのに見せてあげると言って飛び出して行く。しばらくして戻って来ると、手にしていた革製のフード付きマントを広げて見せてくれた。

 お祖父さんが若い頃に使っていた物で、それをお下がりとして貰ったとのことだ。どれどれ、どんな物なんだ?




 アサシンカメレオンの革マント 中品質

 製作者:ドルトン

 素材:アサシンカメレオンの皮

 スキル:潜伏LV2【固定】

     気配遮断LV1【固定】


 軽くて丈夫な革製のフード付きマント

 ある程度の物理攻撃にも魔法にも耐えられる

 魔力を流している間、表面が周囲の景色と同化する



 気配遮断:気配を探知する魔法やスキルに掛かり難くなる




 これは防御用というよりも、逃げ隠れ用って感じの防具だな。

 気配を遮断して周囲の景色と同化すれば偵察や奇襲に役立つだけでなく、厄介な相手から逃げるのにも役立つ。

 防御力的には少し心もとないけど、後衛に立つなら問題無いだろう。


「ちょっと年季が入っているのが気になるわね」

「そうね。それに若い女の子向けの色合いでもないし」

「冒険者になるのなら、実用性重視でいいんじゃない?」

「確かにその通りね。見た目を気にして実用性を欠いたら、命取りになりかねないもの」

「でもやっぱり、見た目も少しは拘りたいと思うのよね」


 リズメルさんが広げてたマントを見た奥さん一同が、口々に感想を言い意見交換をしている。

 確かに見た目は地味だけど、実用性はあるから良いんじゃないかと俺は思う。

 見た目を考えた装いをするのは、仕事とは無関係の時だけでいい。少なくとも俺はそう思っている。


「というわけで、明日はこれで僕の腕を見せてあげるよ」


 マントを纏ったリズメルさんが笑みを見せるが、どうして俺へ向けるように見せるんだ?

 おまけにロシェリとアリルはジト目を向けてくるし、奥さん一同とリアン従姉さんはニヤニヤしているし、従妹コンビはヒソヒソと小声で喋っている。新しいお従姉様がとかなんとか聞こえるけど、何のことだ。

 目が隠れているロシェリがジト目なのか、分かるのかって? 前髪越しでも雰囲気で分かるさ。

 ただ、この日の夜は不機嫌な二人に強く密着されながら抱き枕にされた上、自分も同じ部屋で寝ると乗り込んできたリズメルさんと、一緒に寝ようという従妹コンビの襲撃で穏やかなはずの睡眠時間は混沌と化した。

 どうしてこうなった……。




 ****




 翌日、ロシェリから樹獣の杖を譲り受けたリズメルさんの冒険者登録とビルドコアラの従魔登録をした後、近場の森へリズメルさんの腕前を確かめに向かう。

 そして判明したのは、戦闘よりも斥候としての腕の良さだった。


「ここの地面と木に、猪か猪系の魔物が縄張りを主張するための痕跡があるね。この痕跡と落ちていた体毛の色合いと太さからすると、魔物のワイルドボアかな。足跡からして番や子供はいないから単体だろうけど、深さがあるからそれなりに大物かも」


 狩りの時に使っていたという地味な色合いの上着とズボンに昨日のマントを羽織り、地面や植物に残った痕跡から何がいるのか、どれくらいの大きさなのか、どれぐらいの数なのかを推測し、行動範囲と通り道を見抜いて攻撃しやすい場所を的確に見抜いて潜み、獲物が通りがかったところを魔法で攻撃して仕留める。仕留めきれず襲われても、ビルドコアラが前衛に出て押さえている間に魔法を繰り出して倒す。

 基本的なやり方はまさに狩りだ。俺達冒険者がやっているような討伐じゃなくて、獲物を狩るためのやり方だ。でも、それで駄目だった場合の戦闘もちゃんとできている。

 戦闘の腕前もなかなかだけど、斥候としての腕前が凄いと思う。

 狩人って皆こんなことができるのか? ちょっと狩人舐めてたや、ごめんなさい。


「こんな感じなんだけど、どうかな?」


 たった今、魔法で仕留めたワイルドボアを始め、数体の動物と魔物を見せながらリズメルさんが尋ねる。

 答えは迷うまでもない。


「是非、仲間になってくれ。こっちからお願いしたい!」


 戦闘での実力もそうだけど、魔物や動物の痕跡を見抜く観察力と知識は俺達には無いものだ。絶対に仲間に入れておきたい。


「ちょっと、さっきの痕跡の見つけ方や見分け方教えてくれない? 私今、斥候としての勉強中なの!」


 早速アリルが斥候として成長するため、教えを乞うている。

 ロシェリもリズメルさんの手際に感心した様子で拍手を送り、従魔達はビルドコアラを囲んで褒めているように鳴く。

 改めてパーティーへの加入を求めると、よろしくお願いしますと快諾の言葉を貰い、俺達に新しい仲間が加わった。


「じゃあ今日はもう引き上げだ。帰って休もう」

「えっ、もう?」


 まだ物足りない感のあるリズメルさんだけど、昨日の状態が軽度衰弱だったから無理はさせられない。

 昨日はしっかり食べて寝て、悪意に晒されない安心感から状態は昨日より幾分かマシだ。顔色も良くなったし、ロシェリよりも体力はある。でも、今はここらが引き時だろう。


「昨日があの状態だったから、無理はしない方がいい」

「だけど……」

「引き際を見誤ったら死ぬぞ。それは冒険者も狩人も同じだろう」

「……分かった。お祖父ちゃんにも同じことを言われたよ」


 そう呟いたリズメルさんが一つ息を吐くと、力が抜けたように座り込んだ。


「あ、あれ?」


 立とうとしているけど立てない。張り切っていた気持ちが切れて、一気に疲れが出たのかな。

 狩った獲物は次元収納へ入れ、リズメルさんはロシェリとマッスルガゼルへ同乗してもらって町へ戻る。

 道中で仲間になった証とかで祖父母から呼ばれていたという、愛称のリズと呼んでほしいと言われて拒否する理由は無かったから承諾したら、なんかやけに喜ばれてロシェリとアリルからの視線が突き刺さった。なんでだ。

 そんな最中でふと思い出した。白毛の馬人族は魔法の素質を必ず持っていて、適性のある魔法の種類も多いということを。

 昨日「完全解析」で見た時は、土と水と植物の三種類を習得していた。他にも適性があるんだろうけど、どんな魔法に適性があるんだろうか。昨日のお茶会的な時に聞いた話では、他は試したことが無いから分からないって言ってたっけ。

 ちょっと確認してみよう。そんな軽い気持ちで改めて「完全解析」を使い、職業が冒険者になっているなと思いながら適性魔法を調べてみた。




 適性魔法:土 火 雷 氷 水 治癒 植物 空間 重力

      影 風 闇 付与 光

 *適性の高い順




 多い多い多い多い。ちょっと待て、十四種類って何だそれ。

 俺達の中で一番多い俺でも六種類なのに、その倍以上の種類の魔法に適性が有るってどうなんだ。白毛の馬人族って全員そうなのか? スゲェ、スゲェよ、白毛の馬人族。

 ただ、まだ仲間になったばかりのリズに「完全解析」のことも、スキルの入れ替えのことも言えない。

 俺達へ好意的な様子こそ見せていても、この大きな秘密を喋れるほどの信用はまだできない。ちょっと悪いとは思うものの、簡単に話せる秘密じゃないから仕方ない。

 取れる手段としては、こういう魔法を覚えてみたらどうかと、それとなく促してみるくらいかな。なにせ十四種類もあるんだ、適当な感じで言っても違和感は無い……と思う。

 しかし重力に影? あまり聞かない珍しい魔法にまで適性があるなんて、少し羨ましいな。


「ねえ、そういえばもう見たの? あの子のこと」


 肘で軽く突いてきたアリルから小声で尋ねられた。

 これはつまり、「完全解析」を使ったのかってっことだ。

 念のためリズの方を見て、こっちの様子に気づいていないのを確認してから頷く。


「凄いぞ。魔法は昨日、本人が言っていた通り土と水と植物の三種類だけしか習得していないんだけど、それ以外に十一種類の魔法に適性がある」

「なっ!?」


 驚いて声を上げそうになったアリルが自分の手で口を塞ぐ。

 幸いにもリズはロシェリと喋っていて、というより一方的にロシェリへ話しかけていて気付いていない。


「本当なの?」

「マジだ。しかも重力とか影とか珍しいのもある」

「なにそれ。ちょっと凄いんだけど」


 同感だ。もしもリズが全部の魔法を習得して、ある程度スキルのレベルを上げたらどんなことになるか。

 こっそり「能力成長促進」を渡して成長を促してみようかな。

 その事をアリルに相談したら快諾してくれたから、レベルを下げても気づかれなさそうな「精神的苦痛耐性」とLV1分だけ入れ替えておいた。できればレベルを上げれば進化する「水魔法」が欲しかったけど、レベルの低下で今まで使えていた魔法が使えなくなると変に思われるかもしれない。そう、うっかりアリルへ「色別」を与えてしまい、スキルの入れ替えを説明せざるをえなかった時のように。

 その点、「精神的苦痛耐性」なら気づかれないだろう。これは今後、別のスキルとの入れ替えに使わせてもらうか。


「入れ替えておいた。俺は「精神的苦痛耐性」を貰った」

「ん、了解。で、明日からはどうする?」

「しばらくはリズの完全回復優先。無理せずに軽い狩りで運動させつつ、新しい連携の練習かな」

「それでいいと思うわ。昨日まであんな状態だったんだからね」


 昨日会った時は、今の様子とは比べ物にならないぐらい酷かったもんな。

 単に味方ができて辛い場所から逃げられただけなのに、こうも変わるもんなのか。


「何にしても、心強い仲間が増えたな」

「仲間……で終わればいいけどね」


 どうしてそこで意味深な言葉を発して、ジト目を向けられるんだろうか。分からない。

 ちょっとした疑問を残しつつガルアへ戻った俺達は冒険者ギルドへ向かい、今日の収穫を提出。いつもより戻るのが早くて量が少ない点を指摘されたが、新しい仲間の実力確認と説明していつも通りに報酬を貰い、解体所へ獲物を渡す。また普段より少ないなと言われ、これだったらすぐに終わると言って鮮やかな手つきで解体して肉と素材の買い取り金をくれた。

 その後はよく利用している飯屋へ行き、食事を兼ねてリズの歓迎会を開く。全く飲めないというリズに合わせて酒は無しで、喋りながらとにかく食べる。

 肉体自慢の馬人族はよく肉を食べるそうだが、リズは野菜料理の方が好きなようで山盛りの野菜炒めを美味そうに食べている。


「肉や魚も食べることは食べるけど、野菜の方が好きだね。特に葉物と根菜が好みかな」


 まんま馬っぽいと思ったが、俺も同じことを思った表情のアリルも口には出さなかった。ロシェリ? そんなことを考える素振りすら見せず、肉にかぶりついている。

 ついでにビルドコアラの食べる物を尋ねると、マッスルガゼルとコンゴウカンガルー同様に草食であることが判明。だからなんで肉食じゃないのに、あんなに筋肉なんだよ! どういう体の構造しているんだよ、あいつらは!


「本当に謎だよね、草食なのにあの筋肉って」


 どうやらリズも同じ意見を持っていたようだ。それが分かっただけで、もう仲間意識が強くなった気がする。

 そんな感じで歓迎会も終わり、アトロシアス家へ戻ると門の前に立っていたゴーグ従兄さんが駆けてきた。


「待っていたぞジルグ、一緒にお館様の屋敷へ来てくれ。お前がうちの籍へ入る事を認めた通達が届いたぞ」


 おっ、やっと来たか。何の事かとくっ付きながら尋ねるリズを剥がし、ジト目を向けるロシェリとアリルに説明を任せてゴーグ従兄さんとベリアス辺境伯の屋敷へ向かう。

 ようやく元実家との縁が完全に切れるのかと思いながら。


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