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入れ替えスキルでスキルカスタム  作者: 斗樹 稼多利
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交流


 装備を一新し、メガトンアルマジロがアリルの従魔として加わってから数日が経った。

 今日は素材採取の依頼を受け、山中へ出向いている。

 ここに生息している魔物は主にゴブリン、オーク、レッドウルフ、ホーンディアス。どれも強さは大したことないとはいえ、群れを作るから数次第では侮れない。

 早速ホーンディアスの群れを見つけ、肉の確保と連携の訓練のため戦闘に入った。


「メガトンアルマジロ、前に出すぎだ。もう少し下がれ」


 指示を聞いたメガトンアルマジロは一鳴きして、目の前にいたホーンディアスを前足で蹴飛ばして数歩下がる。

 次いでマッスルガゼルが鳴き声を上げ、それに反応したホーンディアス数体がマッスルガゼルへ突進していく。そこへディメンジョンウォールを張って激突させ、怯ませたら後衛の二人が放つ魔法と矢が降り注ぐ。

 生き残ったのは俺達前衛がトドメを刺し、戦闘は終了。回収を終えたら依頼の素材を探して歩く。


「あんたもだいぶ連携に慣れてきたわね」


 主のアリルに褒められ、メガトンアルマジロは嬉しそうに鳴き声を漏らす。

 新しく加わったメガトンアルマジロは機動力に少し欠けるけど、攻撃は強くて防御はもっと強い。

 この数日で試行錯誤した結果、マッスルガゼルと同じく主にタンクとして味方を守りつつ戦う役割になった。

 さらにマッスルガゼルが後輩へ良い所を見せようと張りきったからか、新たに「挑発」スキルを習得。このスキルのお陰で後衛の二人がより安全になり、援護に集中できるようになったから褒めてやった。調子に乗って筋肉を隆起させなければ、もっと褒めてやったのに。


「あっ、あれ……かな? 蔦が、木に、巻きついて……る」


 マッスルガゼルの背に乗るロシェリが指差した先には、六角形をした葉のある蔦が巻きついている木がある。蔦は地中から伸びていて、その地中に埋まっている部分が今回採取する素材だ。

 一応「完全解析」で確認したら、確かに探していたノビイモって素材だった。


「よし、アリルとメガトンアルマジロは採取作業を頼む。俺達は周囲の警戒をするぞ」


 「穴掘り」スキルを持つメガトンアルマジロと「採取」スキルのあるアリルに採取を任せ、俺達は周囲を警戒する。

 現状ウィンドサーチには何も引っかからないとはいえ、油断は禁物だ。

 採取作業の方はまずメガトンアルマジロがゆっくり穴を掘り、採取部分が見えたらアリルに交代。傷つけないよう、手袋をつけた手で慎重に掘っていく。

 今回採取する素材は芋だけど、食用には向いていない。その代わり摩り下ろすと強い粘りが出る上に薬効成分があるから、軟膏の材料として使えるらしい。特に血止めには最適で、治癒魔法を使うほどでもない切り傷や擦り傷用に需要があるとのことだ。


「採れたわよ。聞いてはいたけど、長いわねこれ」


 見た目は食用の山芋みたいだ。素人が葉の部分以外で見分けるのは難しいって、受付嬢から言われたのも頷ける。専門家なら見れば分かるそうだけど、俺には「完全解析」を使わないとさっぱり分からない。

 見分けやすいように葉が繋がったままの状態で持ち帰るよう言われたから、葉が蔦と繋がっている箇所より上で切り取って次元収納へ入れておく。


「じゃあ、次を探そう。後四本採取しないといけないからな」

「りょーかい」

「行、こう」


 群生地が無くあっちこっちに点在してるノビイモを探すため、再び山中を歩きだす。ようやく五本揃えた頃には日が落ちかけていて、町へ戻った頃にはすっかり日が落ちていた。

 ギルドで素材と道中で倒した魔物を提出。いつも通り魔物の買取金と肉は明日受け取ることにして、依頼の達成料と魔物の討伐報酬、それと昨日預けた魔物の素材買取金と肉を受け取る。それとメガトンアルマジロの食事用に、解体所で虫系の魔物の残骸を受け取って宿へ戻った。


「お疲れさま」

「お疲れ」

「お疲……れ」


 一仕事が終われば宿で飯だ。俺達はそんなに酒を飲みたがる方じゃないから、酒じゃなくて果実水や蜂蜜水で乾杯する。

 大将に渡した魔物の肉による追加料理もあってテーブルはいっぱいだけど、これが今から全部消える。主にロシェリの胃の中へ。


「おい……ふぃ」


 早速料理が一皿消えた。まるで本当に皿の上から消えたかのように。

 負けじと俺とアリルも飲み食いしていると、通りかかった看板娘さんが話しかけてきた。


「お客様。例の背の高いお姉さんが夕方に来て、用事があるので明日こちらへ伺うとのことです」


 背の高いお姉さん? ああ、リアン従姉さんか。なんだろう。

 それだけ伝えると看板娘さんは仕事へ戻り、忙しそうに料理を運ぶ。


「なん……だろ」

「例の件じゃない? 身内との顔合わせか、紋章官の確認の手配」


 あっ、あれか。ということは伯父さん達の都合がついたか、ダイノレックスの被害に遭った村と集落への対応が一段落ついたか、はたまたその両方か。

 まあ別に、その辺は明日になれば分かるか。


「じゃあ、明日は動けるように予定を空けておこう」

「そうね。最近は新しい連携の練習で働いてばっかだったから、ちょうどいい休息ね」

「賛……成」


 あっ、今日預けた魔物の素材買い取り金と肉……。まあ、帰りにでも取りに行けばいいか。



 ****



 翌朝。宿で待っていると約束通りリアン従姉さんが訪ねて来た。

 用件は予想通りアトロシアス家での家族との顔合わせと、ベリアス辺境伯家の紋章官による確認の手筈が整った件だった。


「確認は明日の予定になっています。顔合わせは今日、これからでも大丈夫ですか?」

「特に予定は入れてないから大丈夫だ」


 こういう場合に備えて、今日は休みにしたんだからな。


「あっ。あの子達、も……連れてく?」


 あの子達? ああ、従魔達か。前回は二日酔いで寝ていたから、その時にいたマッスルガゼルもコンゴウカンガルーも連れて行かなかったんだっけ。

 新しくメガトンアルマジロも加わったし、ちょうどいいから紹介しておくかな。


「他に新しいパーティーメンバーでも?」

「いや、前は連れて行かなかった従魔だ。一人一体、合計三体いる」

「従魔がいるんですか。別に連れて行っても大丈夫ですよ、妹達は動物好きですから」


 動物じゃなくて魔物なんだけど? しかもペット感覚じゃない、ガッチガチでムッキムキな。

 見れば分かるかと思い、何も言わずに従魔用の厩舎へ行き従魔達を見せた。厩舎前の空いているスペースで朝のトレーニングに励む、拳打を繰り出す練習をするコンゴウカンガルーと、腕立て伏せのような動作をしているマッスルガゼルとメガトンアルマジロの姿を。

 するとリアン従姉さんの表情が強張り、引きつった笑みへ浮かべる。


「あの……従魔というのは、この魔物達ですか?」

「こいつらだ」


 イメージと違ったのか、えーという感じの表情で再度従魔達を見ている。

 気持ちは分からなくもない。でも現実だから受け止めてほしい。


「さすがにこれは、妹達でも……」

「だろうな」

「でしょうね」

「モフモフ……しない。ガッチガチで、ムッキムキ……だから」


 そこは問題なのか? いや、ロシェリみたいなモフモフ好きだったら大問題だな。

 でも旅をしていた頃は、割と子供から受けが良かったんだよな、何故か。

 とはいえ、あまり期待しないようにしよう。俺にとっての従妹達をよく知るリアン従姉さんが、あんな反応なんだから。


「と、とにかく行きましょう。皆が待っていますから」


 おっと、そうだった。あまり待たせちゃ悪いから、従魔達を連れてアトロシアス家へ向けて出発。

 軽く雑談をしているうちに到着すると、従魔達を見た若い門番が驚いて少し腰が引けた。


「従魔達は庭で待たせるといいでしょう。さすがに屋敷へ入れる訳にはいきませんから」

「分かった。お前達はここで待機だ。屋敷の人に迷惑をかけたり、勝手にここの芝を食ったりするなよ」


 離れる前に釘を刺すと揃って鳴き声で応えてくれた。

 あいつらは何かと筋肉だけど、戦闘時の指示や連携もちゃんと理解してくれるから決して頭は悪くない。だからこれで大丈夫だろう。

 ちょうどその場にいた女性使用人へ、庭に俺達の従魔がいることを使用人全体へ伝えるようリアン従姉さんが頼んだ後、先日以来の屋敷へ入った。


「戻りました。ジルグさん達をお連れしたと伝えてください」


 玄関を入ってすぐの所に立っていた初老の男性使用人は頷いてその場を離れ、俺達はこの場で待つようリアン従姉さんに言われてしばし待っていると、さっきの男性使用人が戻ってきた。


「お待たせしました。皆様が広間でお待ちですので、ご案内します。こちらへどうぞ」


 丁寧な口調の男性使用人に促され広間へ向かう。

 到着した扉の前で男性使用人がノックし、俺達を連れて来た事が伝えられノワール伯父さんが入れと促す。

 扉が開けられ中へ通されると、そこにはノワール伯父さんとシュヴァルツ祖父ちゃんの他、前に会えなかった家族が勢揃いしていた。

 大勢の人がいるから、人見知りのロシェリが少し俺の後ろに隠れる。


「やあジルグ君、それにお嬢さん達も。元気だったかい」

「ああ、ノワール伯父さん達は?」

「つい昨日まで、被害に遭った現地への視察の同行や周辺調査、怪我人や遺族への対応で大忙しだったよ」


 少し疲れた表情で苦笑しているけど、それが仕事なんだから仕方ない。


「まあそんな話はおいておこう。先日は紹介できなかった、家族を紹介するよ」


 まず紹介されたのは伯父さんの奥さん二人。つまり俺にとっては伯母さん達だ。

 続いて祖父ちゃんの奥さん三人。その中の一人、第三夫人のユアンリさんが挨拶の直後に涙を零しだした。


「ご、ごめんなさいね。娘に似ているものだから、つい」


 どうやらユアンリさんが母さんの産みの親で、俺にとっては実の祖母に当たる人のようだ。家を出てから再会することなく死んだ娘の忘れ形見の俺と会えるとあって、昨夜はなかなか寝付けなかったと涙を拭いながら語ってくれた。

 それなら俺も気持ちに応えようと思って、俺も会いたかったよユアンリ祖母ちゃんと言ったら、今度は本気の号泣。傍にいる他の夫人達に良かったねと言われたり、崩れ落ちそうなのを支えられたりしている。

 表情は嬉しそうだから嬉し泣きなのは分かる。でもなんでだろう、喜んでもらえたのに泣かせちゃったから変な感じだ。

 結局ユアンリ祖母ちゃんが少し落ち着くまで待ってから、紹介が再開。

 残っているのは三人。服の上からでも分かる逞しい体格をしたゴーグ従兄さん。何故かこっちをジッと見ている、落ち着いた感じのユイーリアと眠そうな感じのルウネーナの従妹コンビ。ユイーリアがリアン従姉さんの実の妹で、ルウネーナがゴーグ従兄さんの実の妹に当たるそうだ。年齢はゴーグ従兄さんがニ十歳、ユイーリアが十一歳でルウネーナが十歳になる。


「前に説明したが改めて紹介しよう。彼がアーシェの息子のジルグ君で、一緒にいるのは冒険者仲間のロシェリさんとアリルさんだ」

「「は、初めまして」」


 大勢に向けて紹介されたから、若干緊張気味にアリルと一緒に挨拶をする。ロシェリは俺の後ろに少し隠れながら、小さく会釈しただけだ。


「ちなみにロシェリさんとアリルさんも、いずれ我々の身内になるだろう」


 余計なこと言わなくていい! ああもう、皆が興味深そうにざわめいてる。特にユアンリ祖母ちゃんなんか、実の曾孫の顔を見るまで死ぬものかと泣きながら張り切ってる。

 そんでアリルは耳まで真っ赤になって態度も尻尾もキョドキョドして、ロシェリは俺の背中に完全に隠れてしまった。


「伯父さん……」

「はっはっはっ。いいじゃないか、別に。家族が増えるのは良い事だ」


 確かに悪い事じゃないけどさあ……。

 軽く呆れていると、こっちをめっちゃ見ているユイーリアとルウネーナが近づいて来た。

 双子じゃないのに何故か動きが揃っていて、全く同じタイミングで俺の下に辿り着き、改めて俺をジッと見上げてくる。


「えっと……どうかした?」

「実はジルグお従兄様に」

「ちょっとお願いがあるんです~」


 雰囲気同様に落ち着いた口調のユイーリアと、間延びして喋るルウネーナ。

 双子じゃないのに双子っぽく喋るのは、本当にどうしてだろうか。それほど仲が良いってことか?


「何かな? できることなら聞くけど」

「「体を、触らせてください」」


 ……なんで!?


「どうしても確かめたい事が」

「あるんです~」

「「という訳で、失礼します」」


 声を揃えてそう言うと、許可していないのに腹だの腕だの脚だのをペタペタ触りだした。


「うおっ!?」

「ちょっ、何してんのよ!」

「むぅ」


 驚く俺は当然としても、ロシェリとアリルは子供相手に敵意を向けるな。

 でも当の従妹達はまるで気にせず、体を触り続けている。表情は段々と輝いていき、やがて触り終えて離れると顔を見合わせた。


「ルウ!」

「ユイ~!」

「「筋肉じゃないお従兄様ができました!」」


 ……そこ!? そこを確かめるため、全身触って体つきを確かめていたのか?

 というか俺も冒険者だから、それなりに鍛えているんだけど。

 愛称で呼び合い、嬉しそうにハイタッチしてから手を取り合って喜んでいる二人に、俺って貧弱なのかと尋ねると声を揃えて違いますと否定された。


「うちはお父様もお爺様もゴーグお義兄様も、揃って筋肉筋肉筋肉と筋肉ばかり」

「暑苦しくてむさ苦しくて~。正直うんざりだったの~」

「ですから、ジルグお従兄様の話を聞いた時は筋肉なお従兄様が増えるんじゃないかと、心配していたんです」

「だから~、鍛えていても引き締まった感じでホッとしたの~」


 ああ……そういうことね……。気持ちはなんとなく分かるな、うちも従魔でそんな気持ちになるから。


「「それとも、これからムッキムキに筋肉をつけていくんですか?」」

「その予定は無い」


 即答したら従妹コンビはまた喜び合った。

 後ろで筋肉のどこが悪いと、上半身タンクトップになってポーズを決めている男三人。この子達の言う通り、むさ苦しくて暑苦しいから今すぐにやめろ。奥さん一同の鋭い視線と娘達の冷めた視線が突き刺さっているぞ。直後に奥さん一同の雷が落ち、男三人は部屋の隅に正座させられて説教される。

 その様子を椅子に座り、お茶をしながら横目に見るけど気の毒だとは思わない。だって自業自得だから。


「ジルグお従兄様、甘い物はお好きですか?」

「酒よりは甘い物の方が好きだな」

「じゃあこのスコーン、どうぞ~。特製のジャムで食べると、美味しいですよ~。どっちもうちの料理人が作りました~」


 両隣に座る従妹コンビから菓子を勧められて食べる。雇っている料理人の腕がいいのか、結構美味い。特にジャムは特製と言うだけあって、これまでに食べた中で一番だ。

 甘いんだけど、そこまでしつこい甘さじゃなくてサラッとしていてスッキリした感じの甘さだ。だからこそ、甘いと同時に美味いとも思える。

 そういえば肉親がこんなに近くにいるのに、緊張らしい緊張はしないな。やっぱりこの二人がまだ子供だからかな。


「さあ、ロシェリさんとアリルさんもどうぞ」

「では遠慮なく」

「ん……。おい、ひぃ……」


 向かいに座っているロシェリとアリル、それにリアン従姉さんもお茶とお菓子に手を伸ばす。

 部屋の隅では説教が続いているけどスルーして、従妹コンビにせがまれて旅の話をすることになった。

 旅路での出来事や立ち寄った町でのちょっとした事、道中で食べた魔物の肉に関する感想。興味津々に話を聞く従妹コンビの目がキラキラしているのを微笑ましく思っていると、ようやく部屋の隅で行われていた説教が終了した。


「「「酷い目に遭った……」」」


 ちゃんと上着を着た男三人が疲れた表情で椅子に座る。


「自業自得よ」

「良い夫で良い父親なのに、これだけがねえ」

「本当ね。ゴーグまで同じ思考に染まっちゃったんだから、これはもう呪いかしら」

「ジルグ君! 君はこうならないでね!」

「冒険者だから体を鍛えるのは良いけど、決して筋肉に染まらないでね」


 どうやら奥さん一同も、男三人の筋肉な思考には思う所があるようだ。

 肯定の返事をしたら従妹コンビに続きをせがまれ、今度は魔物との戦いの事を話す。初戦闘のブラウンゴートに始まり、上位種であるビーストレントとの戦い。ついでにこの前のブラストレックスとの戦いまで。

 危険な戦いだった上位種との戦闘の話ではユアンリ祖母ちゃんからメチャクチャ心配され、従妹達からも大丈夫だったのと心配された。


「大丈夫だよ。でなかったらここにいないって」

「そうなんだけど、大怪我したんだろう?」

「まあ……。結構なのをしたかな」


 ビーストレントの時は最終的に右腕しか動かせなくなり、ブラストレックスの時は身動き一つできなくなった。さすがにそこまで言うことはしなかったけど、再度心配されて無茶はしても無謀な事はしないよう釘を刺された。


「それにしても、一年も経たずにDランクになるだけのことはあるわね。上位種と戦って一体は倒し、もう一体は致命傷を与えたんだから」


 普通はDランクになるまで一年か二年くらい掛かると、元冒険者だというシュヴァルツ祖父ちゃんの第二夫人が教えてくれた。

 さらに、DランクからCランクへ上がるには魔物を討伐するだけでは駄目で、護衛や素材採取といった民間からの依頼を達成し、町や村や人へ直接的な貢献をすることも大事だと教えてもらった。


「実はね、Dランクまでは割とすんなり上がれるのよ」

「そうなの?」

「一人前とされるのはCランクからでしょう? そこへ上がるための基準の違いが、一人前になれるか半人前止まりなのかを分けるのよ」


 なるほどな。要は一人前になりたければ個人やパーティーの功績だけでなく、町や村やそこの住人達への直接的な貢献にも気を使えってことか。

 確かに魔物を倒した方が派手で強さも誇示しやすいけど、それなら冒険者でなくともできるもんな。

 俺達はたまに昨日のような採取依頼は受けているけど、基本は討伐依頼を中心に受けているから気をつけよう。


「中にはそれに気づくことも理解することも無く、Dランクで終わる間抜けもいるのよね。Cランクへ上がれない不平不満を、自分を評価しないギルドのせいだとかなんとか叫びながらね」


 うわあ、いそうだなそういう奴って。


「魔物を倒すだけなら冒険者でなくても、騎士団や傭兵や狩人にだってできるわ。Cランクを目指すのなら、冒険者という職業に求められる物を今一度しっかり見直しておきなさいね」

「「はい」」

「ふぁ……い」


 ロシェリ、返事は食べてからでいいから。食べながらの方が失礼だから。

 良い人達だから笑って済ませてくれるけど、一応俺から注意を促しておく。謝罪の言葉は、ちゃんと飲み込んでからしてくれた。


「ジルグお従兄様」

「もっと何かお話ありませんか~?」

「そうだな……。ああ、従魔の話でもしようか?」

「ほう。ジルグは従魔を連れているのか?」


 そういえば、まだリアン従姉さんにしか紹介していなかったな。


「俺だけじゃなくて、ロシェリとアリルにも一体ずついる。庭にいるから、窓から見えるんじゃないかな」


 そう伝えたら、どんな魔物なのかと全員が窓から庭を覗く。

 俺達も一緒に庭を眺め、ちょうどそこにいた従魔達の様子を見て固まった。

 従魔達は使用人どころか控えの門番にも囲まれ、筋肉を見せつけて男性陣から歓声を浴びたり、筋肉自慢と比べあったりしている。その様子に女性陣は若干引いて、そそくさと仕事へ戻っていく。


「ジルグお従兄様……」

「従魔って、あれですか~?」

「うん、ごめん。あれなんだ」

「「筋肉……」」


 なんかごめんな、従妹コンビよ。でも狙って従魔にしたんじゃないのは、分かってくれ。


「……ノワール、ゴーグ」

「分かってるよ親父」

「ああ、俺達も負けてられないぜ!」


 駆け出して行く三人を見送って少しすると、やっぱりというかなんというか集まりに加わって従魔達と筋肉自慢合戦を始めた。

 それを見た奥さん一同の殺気がこっちにまで伝わり、ロシェリが怯えて俺に引っ付く。さっきの今でこれじゃあ、怒るのも当然だな。


「あの人達には後でもう一度、厳しく言っておかなくちゃね」

「そうね。さっ、あれは放置してお茶を続けましょう」


 どうやらアトロシアス家では奥さん一同に逆らわない方が良さそうだ。

 肉体的には強い男三人も、逃れられない縄で縛られて奥さん一同に手綱を握られている。

 伯父さん、祖父ちゃん、従兄さん。どうか無事であってくれ。


「ジルグお従兄様~」

「なんで従魔が筋肉なんですか?」

「「やっぱり筋肉がいいの?」」

「断じて違う!」


 きっぱり否定して、従魔達との出会いを契約に至った経緯も含めて話す。

 向こうが勝手に契約を結んだり強請られて契約したりと、決して自主的に契約を持ち掛けて結んだ訳じゃないことを説明し、どうにか納得してもらえた。


「良かったです。やっぱり筋肉主義なのかと心配しました」

「でも従魔にするのなら~、やっぱりモフモフするが良いです~」

「そう。モフモフは、絶対正義……。この世の何よりも、尊く、気高く、素晴らしい……」


 同志よと言わんばかりに手を握り合う三人。というか、気高いモフモフってなんだ。


「なのに、ガチでムキが……増えていく……」

「「それは苦痛ですね、ロシェリお従姉様」」


 俺もアリルもちょっとだけ苦痛だよ。戦闘や野営ではとても頼りになるけど、普段は暑苦しくてむさ苦しくて筋肉だから。

 それと、もうロシェリを従姉呼びしているのか。アリルも呼ばれたくてうずうずして、尻尾がパタパタと忙しない。


「まあまあ、一旦筋肉から離れましょう。それよりも私は、あなた達の馴れ初めとか聞きたいわ」


 ユアンリ祖母ちゃんから突っ込んだ話の提案が出た!?

 奥さん一同も従妹コンビもそれがいいって同意して、恰好の獲物を見つけたような笑みを浮かべる。

 こうなってはもう、俺達に逃げ道は無い。話し上手の奥さん一同に上手く言いくるめられ、恥ずかしがったり照れたり素直になれず誤魔化そうとしても誤魔化せなかったりして、結局出会いから今日までのことを全て話していた。

 話し終わったら、俺の元実家を潰そうとかロシェリのいた孤児院を潰そうとかアリルのいた集落を潰そうとか、やけに物騒な話が出たけど冗談だよな?


「酷い親ね。娘が生きて帰ったのに、禁忌を犯したからってそんな風に追い出すなんて」

「ロシェリちゃんがいた孤児院も問題ね。子供を正しく育てるべき施設でそんな事が起きているのに、職員が無視するどころか加担までしていたなんて」

「ジルグ君、この子達を大事にしてあげるのよ!」


 なんか奥さん一同からの圧が凄い。

 圧を掛けなくても頷いて肯定する以外の選択肢は無いから、勿論と返してお茶を飲んで気圧された気持ちを整える。

 決して圧に屈した訳じゃないぞ? 本当に圧が無くても頷いて肯定していたぞ!

 この後はさらに根掘り葉掘り聞かれ、俺がかなり直接的でないと手を出さないヘタレだとか、不器用で根暗で大食漢でも怒らず慰めてくれる優しい人だとか、禁忌を犯して行き場を失った自分に手を差し伸べてくれたとか、全体的に俺が晒し者になるような話題で盛り上がっていく。

 やめてくれ、話に参加し辛い上に恥ずかしい。おまけに手を出すの意味が分かっていない従妹コンビに意味を尋ねられたから、どうにか誤魔化すのに苦労した。

 他の女性陣? 手助けせず、説明に四苦八苦する俺を見てニヤニヤ笑っていたよ!


「助けろよ」

「尋ねられたのはジルグなんだから、ジルグが答えるのが筋でしょ」


 アリルの返答に女性陣は揃って頷いた。その通りなんだけどさ、なんか少し悲しい。

 この後は戻って来た伯父さん達が奥さん一同に別室へ連れて行かれて改めて説教を受けたり、その間に従妹コンビから愛称のユイとルウで呼んでほしいと言われたり、説教が終わって戻って来たところで昼食時になったから御馳走になったり、ロシェリの食欲に周囲が目を見開いて驚いたり、急遽次元収納から魔物肉を取り出して追加の料理を作ってもらったりした。


「あなた、よく食べるのね」

「それでその細い体……。羨ましいわ」


 まあそれが普通の反応だよな。本人は食べても食べても育たないって、ちょっと気にしてるんだけど。


「ところでジルグ君。明日の事なんだが、今日と同じぐらいの時間に隣の辺境伯様の屋敷に来てもらいたい。構わないかな?」

「大丈夫。予定は無いから」


 冒険者の予定はその日に立てても大丈夫だから。


「それは良かった。向こうには話を通しておくし、当日はお館様の警護で私も傍にいるから安心したまえ」


 それはこっちとしても助かる。

 さすがに辺境伯との対面は緊張するだろうから、ノワール伯父さんがいてくれるのは心強い。


「礼儀はあまり気にしなくてもいいぞ。先代もそうだったがお館様は気さくな方だし、公の場でない限りは少々の不作法や無礼は許してくださるからな」


 だとしても、緊張するなというのは無理だってシュヴァルツ祖父ちゃん。


「ああそれと、アーシェの貴族証は絶対に忘れずにね」

「次元収納に入れているから大丈夫」


 ここに入れておけば、絶対に失くさない。そしてアレは絶対に失くせない。

 もしも失くしたら、あの世から母さんが鉄拳制裁に来かねない。ありえないかもしれないけど、母さんの武勇伝を思い出すとそんなことをしかねないと思ってしまう。

 それを言うと、ノワール伯父さんとシュヴァルツ祖父ちゃんとユアンリ祖母ちゃんが、声を揃えて確かにと言いながら頷いた。肉親承認だなんて、本当に母さんって何者だったんだろうか。

 苦笑いをしている最中にふと思い出し、内面の鍛え方について相談。いくつかアドバイスを貰ったのと、事前に連絡を入れれば従士隊の訓練に参加したり、個人的な指導をしたりすると約束してもらえた。

 肉親慣れも兼ねての相談だったけど、肉親への壁を作っている俺が歩み寄るため頼ったのが嬉しいのか、ノワール伯父さんもシュヴァルツ祖父ちゃんも満面の笑みだ。他の人達も同様で、特にユアンリ祖母ちゃんは自分にも頼るよう両手を握られて言われた。どうやら俺の肉親への恐怖心の件を聞き、知っていたようだ。

 ただ従妹コンビは聞かされていなかったようで、今度一緒に町へ遊びに行こう、次はいつ会えるのかと無邪気な笑みで接してくる。

 ……なんとなくだけど、この人達となら少しずつ距離を縮められそうだと実感しながら、夕方には屋敷を後にした。

 泊まっていってと強請る従妹コンビを宥め、従魔達との間に妙な友情が芽生えているノワール伯父さん達に呆れながら。

 宿に着く直前で冒険者ギルドへ寄るのを忘れていたのを思い出し、昨日の買い取り金と肉を受け取るために慌てて来た道を戻ったのは余談だ。


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