表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
入れ替えスキルでスキルカスタム  作者: 斗樹 稼多利
39/116

戦い終わって


 空間魔法のホークアイを利用した自分の位置の入れ替え、それと周りにいる人達からこっそり借りたスキルの力でブラストレックスを追い詰めていく。

 ただちょっと無理に動きすぎたか、「逆境」の力を引き出すために治療していない体の痛みが徐々に激しくなってきた。おまけに借りたばかりのスキルなんて付け焼刃が、どこまで通用するか。

 これまで戦闘中にスキルを入れ替えて、そのまま戦闘を継続するなんて何度も経験してきた。

 だけど今回の相手は格が違う。普段のように入手したスキルを使いこなせるよう、鍛錬して調整する時間も無しの状態で倒しきれるか分からない。

 でも、やらなきゃならないんだ。


「つあらぁぁっ!」


 自分の位置を入れ替えて肩の上へ移して、ウィンドカッターを浴びているうちに人間で言えば頸動脈の辺りを槍部分で突き刺す。

 刺すと同時に「飛槍術」と「震撃」も発動。借りている「底力」と「覚醒」の効果もあって深く刺さって、痛がる鳴き声が今まで以上だ。これで相当なダメージが――。


「ぶあっ!?」


 やばっ! 頸動脈切ったから、血が噴き出して目と口に入った。

 拭っても……取れない。

 拙い、何も見えない。おまけに血を飲んだから、咽ているし気持ちが悪――。


「げっほっ、おぉぉぉっ!?」


 見えなくて咽て動けないでいたら、とんでもない衝撃が襲って吹っ飛ばされた。

 何かで叩かれたのは違いないけど何か分からない。分かるのは、まだ意識を保てていることくらいか。


「だっ、がっ!」


 今、地面に落ちて転がっている。ハルバートも手放して、何度も転がってようやく止まった。

 やばい、防具のお陰かなんとか生きてるけど、ハードボディを使っていなかったから体中が痛い。

 目が見えなくとも明らかに大怪我をしているのが分かるし、さっき飲んだブラストレックスの血と関係無く喉の奥から血の味を感じる。

 内臓をやったのか? 肺をやったのか? 体中が痛くて分からない。


「ポー、ション……づぅ……」


 治癒用のポーションを出そうとしても、両手が痛くて取り出せない。

 そうだ「活性化」で体の治癒力を高めれば……。

 ん? なんか遠くで声が聞こえるような……って、なんかデカい足音が近づいて来る。

 目は見えないけど、確実にブラストレックスだろう。早く「活性化」で治癒を……あっ、魔力が足りない。

 そうか、攻撃も兼ねて強めの魔法を使って自分の位置を入れ替えていたから、魔力を使いすぎたのか。不慣れなスキルの使用で、上手く魔力を調整できなかったのもあるかもな。

 って、そんなことを考えている場合じゃない。動けよ、動いてくれ体。このままじゃ踏みつぶされるか、食われるんだぞ。


「い……でぇ……」


 駄目だ、体中が痛すぎて動けない。

 「逆境」で力はとんでもなく湧き出ているのに、指先を動かすだけでも痛みが走る。これじゃあビーストレントの時のような、最後の一撃もできない。腕や脚を動かそうとしたら激痛が全身を駆け巡るから、這って逃げることもできない。

 返り血で目が見えなくとも、あの巨体が近づいて来る足音で逃げるべき方向は分かる。けれど腕も脚も動かせないから、逃げることが出来ない。


「ここまでか……」


 ……無理だ。俺にはもう何もできない。

 動かせない手足から力を抜いて地面に身を預ける。どうせ見えないから目も閉じたまま、耳から聞こえる音だけに集中する。

 徐々に近づいてくる足音と、徐々に大きくなってくる地面から伝わる振動。

 だけど俺は何もできないから、何もしない。

 後は……皆に任せよう。


「いっけぇっ!」


 誰かの掛け声と爆音らしき音が聞こえて、直後にブラストレックスの鳴き声が、次いで冒険者と騎士団員の声、そして戦闘音が聞こえてきた。

 戦闘をしていること以外、どうなっているかは分からない。

 でも皆が戦ってくれて、正直ホッとした。信じていたとしても、足音が近づいてくる度に不安になっていたから。


「ジルグ、君!」

「ジルグ!」


 この声はロシェリとアリルだな。

 ああ、怒られるか泣かれるか、それとも両方か。

 足音からして従魔達も一緒に来ると、頬を叩かれた。


「ちょっと、生きてる! 死んでないでしょうね!」


 叩いているのはアリルか? やめて、こっち怪我人。地味に痛い。


「生きてるよ……。体動かないけど……」


 返事をしたら頬を叩く手が止まった。

 と思ったら、今度は胸元が叩かれだした。


「バカ……バカァ……」


 今度はロシェリか。声からして、やっぱり泣かせちゃったか。


「痛えよ……」

「心配させた罰よ! ちょっとは反省しなさい!」


 まあ確かに、対抗方法を思いついたからって一人で飛び出したのは早計だった。

 こうしてやられて冷静になって、ようやくそれが分かるほど切羽詰まっていたんだな、あの時の俺は。

 ビーストレントの時も同じようなことしたし、悪い癖だな。大人しく反省しよう。


「ブラストレックスは……どうなってる?」

「もうすぐ……倒せ、そう」

「誰かさんが無茶して片目を潰して、しかも多量に出血させたんだもの。触発されて士気も上がっているから、大丈夫でしょ」


 なら良かった。

 あれだけやって最後を他人任せにするのは、少し心苦しいしカッコ悪いけど、これも無茶をした罰だと思って任せておくか。


「そろそろ、治して……あげる?」


 治してください。本当に痛いんです。


「ちょっと待って。ジルグ、反省した?」

「反省、してます……」

「じゃあ罰として、後で私達のお願いを一つだけ聞いてくれる?」

「俺にできることならするから、早く治してくれ……」

「よし、言質は取ったわよ。ロシェリ、治してあげなさい」

「うん……。グレイスヒーリング」


 暖かい感覚に包まれて、体の痛みが和らいでいく。

 ただのヒールじゃないから、そこそこ強力な治癒魔法を使ってくれたみたいだ。

 その感覚の中でまどろみを覚えていると、大きな地響きと震動が響いた。直後に大勢の歓声が上がって、何が起きたのか察しがついた。


「勝ったわよ。今、皆で喜び合ってる」

「そうか。それはなによりだ」


 痛みがだいぶ和らいで手足が動かせるようになった。

 右手を目に当てて水魔法を使い、返り血の入った目を洗う。

 おっ、やっぱり洗うと違うな。もう見えるようになった。

 体の痛みも消えたから上半身を起こして歓声のする方を向くと、倒れているブラストレックスの周囲で冒険者や騎士団員が抱き合ったり、武器を掲げたりしながら歓喜に包まれている。


「本当に勝ったんだな」

「そうよ。無茶したとはいえ、ジルグがあれだけやってくれたお陰ね」

「お疲れ、様……」


 ようやく勝った実感が湧いてきて、なんだか力が抜ける。

 見守っていた従魔達も、頬ずりしてきて心配していたアピールをしてくる。

 分かったから、ほどほどにしてくれ。ロシェリじゃないけどモフモフじゃなくて、ガッチガチだから全然嬉しくない。

 今ならロシェリがモフモフを求めていた理由が分かると思っていたら、冒険者と騎士団員が一斉に近づいてきた。


「おうっ、坊主。無事だったか! ったく、無茶しやがって!」


 先頭にいたAランク冒険者が声を掛けてきて背中をバンバン叩かれた。

 ちょっ、痛い。傷は治ったけど痛いものは痛い。

 さらに次から次へとやって来る冒険者や騎士団員からも背中を叩かれたり、髪をぐしゃぐしゃにされたりしていたら、テンダーさんに立ち上がらされた。


「おっ? わっ!」

「おおしっ! 皆で今回の討伐成功の立役者を胴上げだ!」

『おぉぉぉっ!』


 えっ、胴上げって、ちょっと待って、心の準備があぁぁぁっ!

 こっちの気持ちなんてお構いなしに胴上げが始まり、十回くらい宙を舞った。

 終わった後はハイタッチをしたり肩を組んだりして喜び合っている周囲に対して、こっちは急な胴上げで心臓バクバクだ。


「いやあ、やるじゃねえかお前。正直ヤバいと思ったけど、お前のお陰でなんとかなったぜ!」

「どうだ坊主、うちのパーティーに入らないか? 仲間の子も一緒でいいからさ」

「ちょっとちょっと、仲間は女の子二人なのよ。男ばかりの所に入ったら危ないから、うちにこない? 女の子ばっかりだから、君も嬉しいでしょ?」

「どうだろうか。今からでも騎士団へ転職しないか?」


 今度は勧誘の嵐かよ。しかも騎士団からまで。

 正直、女性冒険者からの勧誘はちょっと心が動きかけたけど、背後から二人の冷たくて鋭い視線を感じたから丁重に断った。


「そこまでにしておけ。これより負傷者の手当てと魔物の回収をして町へ戻るぞ。それとそこのお前、すぐに町へ伝えに行け。討伐完了、危機は去ったとな」

「了解!」


 敬礼をした騎士団員が走って行くのを見送り、俺達は魔物の回収作業へ移る。

 休んでいろと言われたけど、もう大丈夫だからと手放したハルバートを拾ってから作業を手伝う。

 といっても、俺も含めて何人かいる空間魔法の使い手が次元収納へ収めていくだけなんだけど。


「いやぁ、助かる。空間収納袋に入るような量と大きさじゃないし、解体して運ぶのも面倒だからな」


 と言う大隊長だけど、ちゃんと報酬とは別に運搬料をくれるよう話を付けると約束してくれた。ありがとうございます。

 そうだ、今のうちに借りていた先天的スキルを返しておこう。先天的スキルしか借りていないから、誰から借りたのかはすぐに分かる。

 「加重」、「炎上」、「覚醒」、「底力」、「震撃」、「疾風」。よし、全部返却完了。向こうに渡していたスキルもこっちへ戻すことができた。


「回収が終わったら凱旋だ。全員、誇らしく胸を張って帰るぞ!」

『おうっ!』


 凱旋か。なんかカッコイイな。

 やっぱり男としては、そういうのに憧れるもんだからな。


「栄えある先頭はブラストレックスへ勇敢に立ち向かい、致命傷を負わせたあの少年だ。異論は無いな!」


 ……うん? 今なんて言った、あの大隊長。


「あるわけないだろ!」

「我々も賛成です、大隊長!」

「文句がある奴は出て来い、俺がぶっ飛ばしてやる!」

「「「賛成賛成、大賛成!」」」


 なんだこれ、本人の承諾無しに俺が凱旋の先頭に立つことが決まっている。

 ひょっとして皆、討伐に成功した勢いで変なテンションになっているんじゃないのか?

 こういうのは普通、高名なAランク冒険者の誰かか、指揮を執っていた大隊長が先頭に立つんじゃないのか?

 俺は致命傷を与えはしたけど、倒しきった訳じゃないんだから。


「あの――」

「まあまあまあ。いいじゃないの、別に」

「ジルグ君、頑張った、から。その、ご褒美……だよ」


 止めようと大隊長へ声を掛けようとしたら、両側からロシェリとアリルに止められた。

 おまけに先頭に立つ栄誉を受けるよう促してくる。しかも従魔達も、うんうんと頷いている始末。

 もう、諦めるしかなかった。だってここに俺の意見を聞き、受け入れてくれそうな人は一人もいないから。

 この後、俺は半ば自棄気味で凱旋の先頭を歩いた。

 出迎えてくれた人達は、どうして俺が先頭を行くのか分からない様子だったけど、そこは大隊長が声を張り上げて俺の功績を口にすると大きな歓声が上がった。

 やめてくれ、ただでさえ恥ずかしいのに、もう頭がどうにかなりそうだから。

 だけど周囲はそんなの知ったこっちゃないから、冒険者ギルドへ着くまで歓声と喝采を浴び続けることになった。


「報告は聞いたぞ。よくやってくれた!」


 ギルドの前でギルドマスターが満面の笑みで出迎えてくれた。その周りにいるFランクとGランクの冒険者達と騎士団員も、帰って来た仲間達に声を掛けたり健闘を称え合ったりしている。


「迎撃に参加した冒険者には、報酬として一人金貨十枚を支払う! さらに素材を買い取った金を均等に分け、別途支払おう!」


 おおう、大盤振る舞いだな。

 迎撃に出た冒険者達が全員喜んでいる。


「勿論、迎撃に参加した騎士団の者にも特別手当を支給し、素材に関する買い取り金を別途支給することを約束しよう。ギルドマスターとは、魔物の取り分は折半すると決めていたからな」


 羨ましそうに冒険者を見ていた騎士団員も歓喜した。

 さらに町の防衛に残った人達にも金貨二枚を支払うと伝えられ、臨時収入が無いと思っていた彼らは小躍りするくらい喜んだ。


「ようし、お前達! 今夜は祝勝会だ! 好きに飲んで食え、費用はギルドが持つ!」

「我々も基地に戻って事後処理を済ませた後、食堂で宴を開く。ただし酒は我慢しろ、何かあった時に酔っていたら困るからな。その分、肉はたっぷり振る舞おう!」


 職務上、基地で酒を飲めない騎士団員は少し残念そうにしてるけど、こればっかりは仕方ない。彼らは冒険者とは違って、治安維持や非常時の対応が求められる仕事をしているんだから。


「では準備をしている間に、討伐した魔物を処理しよう」

「そうですな。ところで、運んできた空間魔法の使い手には」

「分かっている。運搬に協力した冒険者には、銀板一枚を支払うつもりだ」


 ギルドマスターと大隊長の会話に、さらなる臨時収入が入る事になった数人が小さくガッツポーズをした。

 勿論、俺も嬉しい。

 この後は大量の魔物をギルド裏の広場に出した後、解体職人総出で処理が始まった。

 百体を超えるダイノレックスと四体のストロングレックス、そして素材のことなんて考えず倒す事だけに集中したからボロボロになってしまったブラストレックス。

 それらを前にしたギルドマスターは、がっくりと膝を着いて落ち込む。


「ブラストレックス……こいつの皮があれば、高い耐久性のある革鎧やマントの素材になったのに……」


 ごめんなさい。そいつの傷の大半は、俺がつけました。


「ああ、おまけにこんなに血が抜けて……。こいつの血は精力剤の材料になるから、高値で売れるのに……」


 ごめんなさい。たぶん俺が頸動脈辺りを攻撃して、大量出血させたからです。


「うおぉぉっ! 角、角が一本折れてる!? 角は武器の良い素材になるのにいぃぃっ!」


 ごめんなさい。それも俺が折りました。だけど持ち帰っては来ています。

 提出するとギルドマスターは大喜びして、角に頬ずりしだした。

 なんか……素材を前にすると人格変わってないか? ギルドマスター。

 そうこうしている間に冒険者や騎士団員の手を借りての解体は進み、ギルド側が受け取る分は保存庫やギルド所有の空間収納袋へ入れられ、騎士団が受け取る分は荷車を借りて傷みやすい肉類から順に運んでいく。

 それが終わると、騎士団は全員引き揚げていき、冒険者ギルドではお待ちかねの祝勝会が開かれた。 


「乾杯!」

『乾杯!』


 ギルドマスターの音頭で始まった宴会は、飲めや食えや歌えやの大盛り上がりだった。

 周りに勧められてガンガン酒を飲み、振る舞われた料理、特にダイノレックスの肉に舌鼓を打つ。


「おい、ひぃ!」

「嬢ちゃん食うなぁ! こっちもどうだ」

「これも美味しいわよ」

「ひあ、わせぇ……」


 隣で次々と肉を頬張って皿を積み重ねていくロシェリの食欲に、周囲は盛り上がって次々と肉料理を勧めてくる。

 目は見えないけど恍惚の笑みっぽい表情をする様子は、本当に幸せそうだ。

 でも食べながら喋るのはやめろ、行儀悪いぞ。


「もう駄目だわ。こんなに美味しい肉の味を知ったら、集落でしていたような食生活は送れないわ」


 反対隣で食事をしているアリルは半泣きだ。

 タブーエルフになるまで肉の味を知らずに過ごして来たアリルは、すっかり肉の虜になっている。ロシェリほどじゃないけどよく食べて、これまで肉を食べずに損してきた分を取り戻すと豪語したこともある。

 そんなアリルが泣いて、ロシェリの食欲が止まらないのが分かるほど、ダイノレックスの肉は美味い。決して硬くなく、適度な食感のある柔らかさではあるものの、染み出す肉汁と脂がいかにも肉って感じで最高だ。

 さらに活躍の褒美としてストロングレックスの肉と、少しだけどブラストレックスの肉も食べさせてもらえた。ストロングレックスはダイノレックスよりも旨味が濃くて震えるほどで、ブラストレックスに至っては言葉にできないほど美味い。


「俺……生きてて良かった」


 俺の貧弱な言葉の引き出しじゃ、こんな感想しか浮かばない。

 でも、それぐらい美味いってことは分かってもらいたい。


「だろう! 俺も昔一度食ったっきりで、なかなか食えないんだよ!」

「おいギルマス! もっとブラストレックスの肉を配りやがれ!」

「煩い! これ以上は無理だ。残りは貴族に高く売りつけて、ギルドの運用資金にすんだからな!」


 ぶっちゃけた発言に周囲は笑っている。

 この場では大丈夫っぽいけど、今みたいな発言は時と場合を考えて言ってもらいたいもんだ。

 そういえば従魔達も、勢いで参加させられていたような……。いた、あいつらも楽しそうに酒を飲んで……って、飲めるのかお前達!? 飲んでいいのか、飲んで大丈夫なのか、誰だ飲ませたのは、そんでなんで平気そうに何杯も飲んでるんだ!?


「おら坊主、もっと飲め。まだまだ行けるだろ!」

「この程度で酔ってちゃ、冒険者なんてやってられないぞ!」


 酒を飲む量と冒険者をやれるかは関係無くないか!?

 尤も、酔っ払いにそんな理論が通じるはずがなく、終わるまでに結構な量を飲まされてしまった。

 それでも酔いつぶれずに済んだから、結構強い方だったんだろう。だけど酔ったことは酔ったみたいで、足取りが少し覚束ない。

 飲むより食べる中心だったロシェリとアリルは少し酔っているくらいで、俺以上に飲んでいたはずの従魔達は平気そうな顔でしっかりとした足取りをしている。

 そのまま宿へ戻ったら防具を外してベッドへうつ伏せでダイブ。顔が枕に埋まって地味に気持ちいい。


「ああ、思ったより飲まされたな」


 酒は何度か飲んだけど、こんなに飲んだのは初めてだ。


「ねえジルグ。さっきの約束覚えてる?」

「約束……ああ、お願いを聞くってあれか」


 心配させたから、多少の無茶なお願いは聞くつもりだ。

 俺の奢りで買い物か、美味い物巡りか、それともスキルの要求か。なんでもいいけど、できる範囲のことであってほしい。


「分かってる。何すればいいんだ」


 行儀悪いけど酔いで頭が回らなくなってきたから、うつ伏せのままで返事をする。

 そしたら少しの間と、聞き取れないぐらい小声での二人の会話が聞こえて、何故か布の擦れる音がした。

 動きが鈍くなった頭で何をしているのかと思っていたら、二人が同じベッドに寝転んできた。

 ああ、一緒に寝るとかそういう……。


「なんで?」


 枕に埋めていた顔を右へ向けると、真っ赤になった顔を両手で隠す下着姿のロシェリ。

 左を向く。真っ赤になって目だけを天井に向けている、下着姿のアリル。


「……なんで?」


 思わず二度聞きした。


「私達のお願い。家族にしてくれるって、証が欲しいの」

「証?」

「これ以上、言わせないでよ。察しなさいよね、鈍感」


 ああ、そういうことね。反対側のロシェリもなんだかいつも以上に密着してきたし、そういうことで間違いないな。


「いいのか、こんな形で」

「できることならする、って言ったわよね。そもそも、あんたがいつまでも手を出さないヘタレなのが悪いのよ」


 えっ、俺が悪いの?

 ロシェリの密着とかに必死で堪えてきた、俺が悪いのか?


「あんたにとってはむしろ役得なんだし、黙って私達のお願い聞きなさいよ」


 そう言ってアリルまで密着してきた。

 ヤバい。酔いで気分もフワついてるから、いつも通りに理性が働かない。

 おまけになんかよく分からないけど滾って漲ってるから、我慢が効かない。


「据え膳食わぬは男の恥、よ」

「ジルグ君……私じゃ、駄目……?」


 無理だ……。今日こそは、我慢は無理。

 この後でどうしたかは、言うのも野暮ってもんだ。

 一つ言えるのは、ぐったりと眠る二人の間で朝チュンっていうのを体験したってことくらいか。

 あっ、もう一つあった。この宿はあまり防音が良くないことを忘れていて、朝食の席で同じ宿の冒険者達から昨夜のことを弄られた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ