入れ替えられないスキル
ダイノレックスの大量発生。
その一報が届くとギルド職員が慌てた様子で二階へ走って行き、少しすると駆け込んできた騎士団員が二階にあるギルドマスターの部屋へ通された。
ギルド内にいた冒険者達は困惑した様子でざわめき、後から来た冒険者達も話を聞いて驚き、この場にいない知り合いの冒険者や同じ宿の冒険者を呼びに数人が飛び出して行く。
ちょうどテンダーさん達を見つけたから、声を掛けてみよう。おっと、敬語は不要、敬語は不要っと。
「テンダーさん」
「おう、坊主達もいたのか。厄介なことになったな」
「それは分かるけど、俺達はダイノレックスを知らないからこの状況がどれだけ厄介なのか、よく分からないんだ」
ダイノレックスなんて聞いたことがないから、それが大量発生する事がどれだけ大事なのか分からない。
それを知らずに大事に巻き込まれる前に、少しでも情報を集めないと。
「ダイノレックスは凶暴な肉食の魔物だ。大量発生すると集団になって村や集落や町を襲い、壊滅的被害を出したこともある」
マジかそれ。
テンダーさんの説明によると、ダイノレックスは大昔から存在していると言われていて、二メートルくらいの前傾姿勢をした体で二足歩行をするトカゲみたいな魔物らしい。
鋭い爪と牙はまるで竜みたいだから、竜の亜種かトカゲ系の魔物の先祖じゃないかとも言われている。
大食いで凶暴な上に肉食とあって、大量発生したら生態系を大きく狂わせてしまう。おまけに食べる生き物がいなくなると、近隣の村や町を襲って人間を食うそうだ。
「なによそれ。周りがざわつくのも当然ね」
「それで、どうなる……の?」
「おそらく、騎士団と合同での緊急の討伐隊が組まれるだろう。ガルアへ押し掛けられる前に討伐する必要があるからな」
町を守る騎士団だけじゃ手が足りないってことか。
だからって冒険者だけでも対処が難しいから、合同で事に当たるってわけか。
「しかし大量発生か……上位種が率いていなければいいんだが……」
えっ? 上位種がいるかもしれないのか?
「どういうことだ?」
「大量発生から集団になったら、当然それを率いる個体がいる。そういった率いる立場の個体は、他よりも強いってのが相場だろう?」
確かにそうだ。騎士団とか冒険者パーティーのような集団なら、力で劣っていても指揮能力が秀でていれば集団を率いることができる。
でも野生で生きている魔物は弱肉強食、力が全てだ。そうなれば集団を率いるために必要なのは、何よりも戦う力。
つまりは集団で最も強い存在だから、それが上位種であっても不思議じゃない。
「最悪なのは複数の上位種がいて、その中で最も進化した個体が率いている場合だ。ゴブリンやオークで同じ事があっても厄介なのに、ダイノレックスでそんな事になっていたらどうなるか……」
Bランクのベテラン冒険者のテンダーさんでさえ、厳しい表情をしている。
もしも本当にそうなったら、どれだけの脅威なんだろうか。
不安を覚えつつ待っていると、さっき駆け込んで来た騎士団員と白髪頭ながらしっかりした体格の男が二階から降りて来た。
「全員聞け! これより事態の説明をする!」
白髪頭の男が大声で冒険者達へ呼びかける。
あの人がギルドマスターのゴルザさん。冒険者を引退後に職員を経てギルドマスターになったから、冒険者への配慮がしっかりしているって、前にテンダーさんから教わったことがある。
「既に知っていると思うが、北の森にダイノレックスが大量発生している。詳細な数は不明だが推定される数はおよそ六十、加えて上位種が複数体確認されていて、近隣の村と集落が壊滅して多くの住人達が被害に遭ったという報告も届いた」
上位種が複数と聞いて何人かが天を仰いだり、顔を真っ青にしている。
おまけに村と集落が壊滅して人的被害も出ているとあって、テンダーさんも苦虫を噛み潰したような表情になった。
「即急に対処すべく、冒険者と騎士団で緊急の合同討伐隊を組む! それに伴いギルドより、全冒険者へ緊急クエストを発注する!」
緊急クエスト。これがギルドから発注されると、普段は自由な冒険者でも強制的に参加させられる。
しかもランク縛りじゃなくて全冒険者だから、ギルド内にどよめきが上がっている。
「逃げたく思うだろう、怖いとも思うだろう。それは私も騎士団も同じだ。しかし我々がここで怖気づき、逃げ出したら誰がこの町を守る! 誰がここに住む人々を守る! 今こそ奮い立て! 町を、住民を、守り抜いた戦士として名を刻め!」
ゴルザさんの掛け声にギルド内が雄叫びに包まれた。
さっきまで戸惑っていた人達も腹を括ったのか、やる気を出して全体の士気も上がっていき、これならいけると思ったゴルザさんと騎士団員が頷く。
「全員、急ぎ北門前へ集合だ。ポーション類はギルドからも用意するが、自分達でも可能な限り準備しろ。では、一時解散!」
解散の声と共に一斉に駆け出す冒険者達に続き、俺達もギルドの外へ出る。
武器の状態は万全だし、今日に備えてポーションも準備してあるからこのまま北門へ行こう。
二人へそのことを説明して、外で待たせていた従魔達と共に北門へ向けて駆け出した。
****
北門前には冒険者と騎士団が集まり、ギルドマスターと騎士団ガルア基地の大隊長という男が台の上に立ち、状況の説明を始めた。
偵察に向かわせた冒険者からの報告によると、ダイノレックスの集団は北の森を魔物や動物を喰らいながらガルアへ移動中とのこと。
まだ距離はあるものの、森を出てガルアから目視できるようになるのも時間の問題らしい。
「町への接近を防ぐため、我々はこれより町の外へ迎撃に出る」
「時間が無い上に普段は連携を取り合っていない組織が合同で対処する以上、あまり細かい作戦は立てられず立てている時間も無い。だが、やる事はどちらの組織も一緒だ。協力してこの危機を乗り越えるぞ」
要するに、それだけの緊急事態ってことか。
どっちか一方だけの組織じゃ対応困難だから、手を組んで事態を納めようって訳だ。
「迎撃に出る冒険者はEランク以上。FランクとGランクは、町に残って騎士団の防衛補佐と住民の避難誘導と護衛をしてもらう」
ギルドマスターの指示に、周りの何人かが安心した表情を浮かべた。
装備と見た目の年齢からして、彼らはまだFランクかGランクの冒険者なんだろう。危険な迎撃に同行しなくてホッとするのは分かるけど、その反応はちょっと拙い気がする。ほら、周りにいる何人かが少し睨んでるぞ。
そっちを気にしている間に騎士団の割り振りも伝えられ、防衛のため町に残ることになった若い騎士団員が同じように安心した表情を浮かべて、これも同じく上司や先輩っぽい騎士団員から睨まれている。組織は違えど、こればかりはどこも同じか。
「迎撃の指揮は私が、防衛の指揮は冒険者ギルドのギルドマスター、ゴルザ殿が執る。さらに領主より、従士隊の一部を防衛の助力に派遣するという連絡も届いた」
「従士……隊、って……何?」
隣に立つロシェリが首を傾げ、疑問を口にした。
「貴族家に仕えている、戦闘に秀でた家臣達のことだ」
一応は貴族の出だから、こんな知識もいつの間にか覚えていた。
従士隊は冒険者とも騎士団とも違う、貴族家の従士って役職の人達による集団だ。その家の当主と家族を護衛するのが主な仕事で、領主同士による紛争の際にはその家の軍隊として従軍して戦うこともある。
裕福な領地では腕の立つ人を雇っているらしいけど、貧しい領地の場合は領民が従士代わりになるよう、普段の仕事の合間に訓練をさせているって聞いたことがある。そういう領地にいるのが嫌で、王都へ出て実家に勤めていた使用人の兄ちゃんから。
「領主は戦事には素人だからと、我々に防衛と迎撃の采配を任せてくれた。従士隊を率いる従士長も、この状況で余計な混乱を招かないようにするため余計な口は挟まない、こちらの指示に従うと言っている」
領主と従士長がそこまで譲歩してくれたのなら、動きやすいな。
こういう時に領主だからと素人から口出しされたり、命令系統が複数あったりすると現場が混乱する。それを避けたのなら、ここの領主はボンクラって訳じゃなさそうだ。
「つまり! 我々を邪魔する者はおらず、ダイノレックス討伐に専念できる! だからこそ、負けるわけにはいかん! 臆せず戦い、なんとしてもガルアを守り抜いてみせるぞ!」
『おぉぉぉぉぉっ!』
剣を掲げた大隊長に続いて、全ての冒険者と騎士団員が雄叫びを上げた。
俺達も同じように雄叫びを上げ、それが治まると迎撃のために北の森へ出発する。
決してガルアから遠いとは言い難い北の森近くの平原に到着すると、偵察のために数人が森の中へ入って行った。
「我々はこの平原でダイノレックス、及びその上位種を迎え撃つ。騎士団は普段の小隊を組んでいる者同士で、冒険者も普段のパーティーで組んで当たってもらう」
下手な混成状態を作るより、その方が戦いやすいってことか。
この時、平地よりも森の中の方が大柄なダイノレックスは動きにくいんじゃないかという意見も出たけど、森の木なんてダイノレックスの力の前では邪魔にならないらしい。
逆に倒木でこっちの身の方が危ないそうだから、平地で戦う方がマシとのことだ。
「ソロで活動している冒険者と、パーティーからFランク又はGランクの仲間が抜けて連携に不安があるパーティーは、顔見知りで何度か共に行動しているパーティーがいたら、そこへ入れてもらうように」
確かにそうした方が安全か。特にソロで活動している冒険者は。
他にもいくつか指示を受けながら待っていると、偵察に行っていた全員が慌てながら帰って来た。
「やばい、想定より数が多いぞ! 少なくとも百五十を軽く超えている!」
意気込んでいた所へ想定以上の数が迫っていると知らされ、一気に動揺が広がっていく。
俺も落ち着かなくなってソワソワして、ロシェリとアリルは表情が強張っている。
やる気を保っているのは、筋肉を隆起させているマッスルガゼルとコンゴウカンガルーだけだ。
これで本当に大丈夫なんだろうか……。
「落ち着け!」
動揺しているところへ大隊長の声が響いた。
「最初に述べた数など、所詮は推測に過ぎない。諸君も冒険者や騎士団員ならば、想定外の事態は経験してきただろう。だからこそ冷静になれ、一度深呼吸をして気を静めろ。我々がやることは変わらない。目の前の敵を倒し、撃退するだけだ!」
……その通りだな。想定外の事態なんて、何度も経験してきた。
それなのに今回に限ってビビるとか、まだまだ俺も弱いな。たくさんのスキルを得てそのレベルを上げて、扱えるように身体面ばかり鍛えたからかな。今後は精神面も鍛えないと。
勿論、この戦いに勝った後でな。
「さすが。大隊長の地位は伊達じゃないってことね」
「頼りに……なる」
ロシェリとアリルの表情から強張りが取れて、周囲の動揺も落ち着いていい感じの緊張感を保っている。
確かにあの人は頼りになる。潜ってきた修羅場の数が、俺達とは大違いなんだな。こうしている間にも探知系の魔法で調べるよう、騎士団員に指示を出している。
俺も今のうちに自己強化魔法で強化をして、仲間達はアリルの付与魔法で強化してもらった。
「ダイノレックス、間もなく来ます!」
魔法で探知をしていた騎士団員からの報告だ。
ハルバートを構えてもう一度大きく深呼吸をして、気持ちを落ち着けたところで地響きのような足音と共に木々が倒され、森の中からダイノレックスが一斉に飛び出してきた。
テンダーさんに教わった通りの見た目で、鳴き声を上げながら俺達の方へ突進してくる。
「動くなよ! まずは予定通り、充分に引き付けた後に魔法攻撃で出鼻を挫く!」
さっきの打ち合わせで言っていた通りの策だな。
続々と現れてこっちへ迫るダイノレックスの集団を引きつけたところで、大隊長が号令を飛ばした。
「今だ! 魔法を放て!」
大隊長の号令で一斉に魔法が放たれる。
俺達も一緒に放った魔法がダイノレックス達へ降り注ぐ。
この一斉魔法攻撃で倒せたのもいるけど、見る限り十体いるかいないかってところだ。
一体に「完全解析」を使ってみたら、魔力と知力と器用が五十未満なのに対し、この三つを除く運以外の数値が軒並み高くて八百を越えている。それなりの数がいれば、上位種でさえも倒してしまいそうだ。
「突撃、開始!」
『おぉぉぉぉっ!』
大勢の冒険者と騎士団員が雄叫びを上げながら一斉にダイノレックスへ突っ込む。俺達も近くにいる一体へ向かうと、右側から同じダイノレックスを狙う別パーティーが現れて目が合った。
「任せる!」
こうした場合を想定していた大隊長からの指示で、標的が被ったら互いに声を掛けるよう強く言われていた。
違う判断で混乱しないよう、譲るか譲らないか協力するかは、最初に声を出した方の判断を優先するようにとも。
「分かった!」
俺達に標的を任せたパーティーは別の個体へ向かい、俺達は標的の個体と相対する。
二メートルとは聞いていたけど、いざ相対するとそれよりも大きく見える。
鋭い爪を避け、鳴き声を上げながら直接食おうと迫る鋭い牙に噛まれないよう、タイミングを合わせて槌部分で下顎を叩いて口を閉じさせる。それに続くように隣のコンゴウカンガルーがアッパーを浴びせ、顔が完全に上を向いて隙だらけになった喉元を斧部分で一閃。さらにマッスルガゼルが頭突きで転倒させたら、ロシェリとアリルが光魔法のシャインレインと風魔法のウィンドカッターを喉元の傷へ放って倒す。
「次いくぞ!」
とにかく数が多いから、当たり前だけど回収は後回しだ。
倒したら別のを、また倒したら別のをと続けていると誰かの大声が聞こえた。
「出たぞ、上位種だ!」
森の中から姿を現したのは、ダイノレックスより一回り大きくて硬そうな背びれが生えた魔物だった。
三メートルくらいありそうな体を支える太い足で大地を踏みしめ、同じく太い尻尾を地面に叩きつけて、鳴き声を上げながら俺達を威嚇してくる。さらに後から同じ魔物が四体姿を現す。
「完全解析」で見たところ、あれはストロングレックスって魔物だ。魔力と知力と器用は五十未満のままだけど、運以外の他の数値が全て千五百を超えていて、あのビーストレントよりも強い。
「怯むな! AランクとBランクの冒険者、それと騎士団の精鋭はストロングレックスへ当たれ! 近くの者はダイノレックスに邪魔されないよう、フォローを頼む!」
剣を振るってダイノレックスを倒した大隊長も、自ら部下を率いてストロングレックスへ向かっていく。
これはこっちも負けてられない。一体でも多くダイノレックスを倒そう。
「おらっ!」
迫っていたダイノレックスの爪を槌部分で弾き、一歩踏み込みながら強引に軌道を戻して槍部分で袈裟切りにする。
「せい!」
さらに一歩踏み込みながら槍部分を傷口に突き刺して、その勢いで「飛槍術」を発動。体内でさらに突きが放たれて、ダイノレックスの体を内部から貫通する。傍目にはハルバートが貫いたように見えるから、「飛槍術」を使ったのには気づかれないだろう。
人前でこんなスキルを使ったら、後で追及されるのが目に見えている。
喋れないことはないけど、そこに至った経緯や修業方法を聞かれると困る。だってある意味、インチキで辿り着いて得たスキルだから。
「ジルグ、次はこっち!」
「分かった!」
ハルバートを引き抜き、マッスルガゼルの蹴りで体勢を崩しているダイノレックスの膝辺りを斧部分で切り、転倒したところへコンゴウカンガルーが顔面を連打し、アリルが目を射抜き、ロシェリがサンダースピアを打ち込んで倒す。
「数……多すぎ。ダーク……アロー」
「百五十以上はいるんだから、当然でしょ!」
魔法を放ちながら泣き言を口にするロシェリにアリルが怒るけど、気持ちは分からなくもない。
さすがにこうも多いとキリがない。こうなったら。
「エアロエンチャント!」
フレアエンチャントの風魔法版を使って自分と武器を強化。
尻尾での薙ぎ払いを跳躍で回避して、別個体が噛みつこうと迫ってくるのを空中を蹴ってさらに上昇して回避。驚いている隙に噛みついて来た方の眉間を槌部分で強打。悶絶している間に尻尾での薙ぎ払いをしてきた個体の目を槍部分で貫き、体内で「飛槍術」を使って頭部を貫く。
そして再度空中を蹴って空中にいる状態を維持して、眉間を強打して悶絶させた個体の首を斧部分で一閃して着地。
でもまだだ。首に大きな傷はつけたけど、こいつはまだ死んでいない。
「ロシェリ、アリル!」
名前を呼んだだけで、分かっているとばかりに二人は魔法を放った。
「ライト……アロー!」
「アイスショット!」
二人の魔法が首の傷に命中してダイノレックスは絶命した。
エアロエンチャントで自身を強化すれば跳躍力が強化され、飛行こそできないけど空中を蹴って移動できるようになる。武器に使えば風が血を吹き飛ばすから返り血で切れ味が落ちないし、逆に切れ味自体が増す。
ダイノレックスの表皮が固めだから使ってみたけど、思った以上に切り易くなった。
「さあ、次はどいつだ!」
ハルバートを構えて俺達に向かってくる別のダイノレックスを、この半月でさらに磨いた連携で次々に倒していく。
そうしたら周りの声が聞こえてきた。
「やるじゃねえか、あの新顔達!」
「EランクとDランクって聞いてたが、大したもんだ!」
「つか、エアロエンチャントってマジか!」
「俺らも負けてられねえぞ。気張れや、お前ら!」
「我ら騎士団も負けるな! そこ、盾持ちならしっかり押さえろ!」
なんか俺達で士気が上がってる。
まあいい、士気が高いのは悪い事じゃない。気にせずダイノレックスを倒そう。
その後も続々と森から出てくるダイノレックスを、仲間達や周囲と協力して倒していく。
やられそうな別パーティーをフォローし、死角から迫られていたのを騎士団にフォローされ、いつ終わるのか分からない中で戦いが進む。
だけど、ようやく終わりが見えてきた。
森からダイノレックスが出てこなくなり、残っているのは僅かに七体。上位種のストロングレックスも上位ランクの冒険者と騎士団の精鋭の活躍で残り一体、しかもだいぶ傷ついている。
こっちの陣営も傷ついて疲弊しているものの、終わりが見えてきたから士気は落ちていない。
「もう少しだ、最後の気合いを入れろ!」
『おうっ!』
自らストロングレックス討伐に加わっていた大隊長の掛け声に気合いの声が上がり、これで最後とばかりに詰め寄って攻撃を加えていく。
ところが、ダイノレックスを全て倒し終え、残るはストロングレックスだけというところで異変が起きた。
もうすぐ息絶えそうだったのに突然上を向いて咆哮を上げ、ストロングレックスを中心に周囲へ突風が吹き荒れる。
「な、なんだ!?」
あまりの突風の強さに誰もが動きを止め、吹き飛ばされないようにその場で踏ん張る。飛ばされそうになったロシェリはマッスルガゼルが体で受け止めて踏ん張り、アリルとコンゴウカンガルーは身を低くして凌いでいる。
俺もディメンジョンウォールを使って耐えながら、何が起きているのかとストロングレックスへ目を向けた。
すると、突風の中心にいるストロングレックスの体が急激に変化しだした。体がさらに大きくなって肌が緑色になって、後方へ伸びる二本の角が後頭部から生えてくる。
しかもそれに伴って傷が癒えていき、死にかけだった目にも生気が満ちてきている。
やがて突風が治まると、変化した上に完全回復した姿で一際大きな咆哮を上げた。
「バカなっ! ブラストレックスに進化しただと!?」
マジかよ、このタイミングで進化するなんて無しだろ。しかも、どうして傷が癒えているんだ。
魔物の進化は一回きりじゃないから二回目、三回目の進化をしても不思議じゃない。でも、どうして今ここで進化するんだよ。「完全解析」を使わなくとも圧倒的な存在だって肌で感じるし、ハルバートを握る手と膝が震えて全く収まらない。
俺達へ向けた咆哮の迫力に、主力部隊でさえ二の足を踏んでいて、後衛からの援護も行われず誰もが動けない中、俺は自然と「完全解析」を使っていた。そして圧倒的な存在なのを、改めて思い知らされる。
ブラストレックス 魔物 雄
状態:健康
体力2801 魔力42 俊敏2775 知力48
器用39 筋力2953 耐久2847 耐性2647
抵抗2598 運208
スキル
爪術LV7 強振LV7 屈強LV6 威嚇LV5
威圧LV5 咆哮LV4 統率LV3 硬化LV1
種族固有スキル
ブラストショット
ほとんどが二千五百超え?
どうして、あのブラストショットっていう種族固有スキルのレベルは見えないんだ?
絶望感と疑問で頭が働かないでいると、ブラストレックスが息を吸いながら顔を上げた。
「拙い、総員回避!」
大隊長が叫んだ直後、吐き出された息が暴風のように襲ってきて、それを浴びた誰もが空中に吹っ飛んだ。
俺もロシェリもアリルも従魔達も、一緒に戦っていた人達も全員だ。
「こん……のっ!」
エアロエンチャントの効果で空中を蹴り、無理矢理体勢を整えてどうにか着地したけどエアロエンチャントは解けてしまった。
同じように着地できたのはおよそ半数。残りは地面に叩きつけられ、勢いそのままに転がった後に悶えている。マッスルガゼルとコンゴウカンガルーは転がった後で起き上がったけど、相当なダメージを受けているみたいで足下が覚束ない。
「ロシェリ、アリル!」
「平気……よ。なん……とか」
「うぅ……」
アリルは上半身こそ起こしているけど立ち上がれずにいて、ロシェリは意識はあるけど蹲ったまま動かない。
「くそっ……。坊主、大丈夫か」
「なんとか」
近くに着地していたテンダーさんに返事をして、頬の傷から流れる血を拭う。
もう勝った気でいるブラストレックスは、勝利の雄叫びのような咆哮を空へ向けて上げていた。
今のが種族固有スキルのブラストショットなのか? ただ息を吐いただけのように見えるのに、こんなに凄い威力だなんて。
早く、今のうちにスキルの入れ替えでブラストショットを……えっ、入れ替えられない?




