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入れ替えスキルでスキルカスタム  作者: 斗樹 稼多利
36/116

不思議な縁


 ガルアへ来てから半月が経過した。

 出だしこそ虫嫌いの二人が暴走したけど、それ以降は特に問題は無く過ごしている。

 色んな依頼を受けたり、依頼と関係無く魔物を狩って薬草を採取したり、腕を上げるために鍛錬に励んだりして日々を送りつつ、スキルの入れ替えに備えてレベルアップと新たなスキルの習得にも勤しんでいる。

 ただ、この半月は冒険者として動いてばかりだったから、今日は休息も兼ねて町を見て回ろうと思う。


「いいわね。賛成よ」

「楽し……み」


 宿の食堂で二人からも承諾して貰えた。

 ちなみに二人とは相変わらず同じ部屋での生活だけど、二人との関係に特にこれといった進展も変化も無い。

 だけどそのせいでムキになったのか、ここ最近二人からのアピールが凄いから俺の我慢もそろそろキツくなっていて、関係を進展させられそうな状態になっている。

 どんなアピールかは、聞かないでくれると嬉しいです……はい……。


「おう、坊主達じゃねぇか。今日はどうするんだ」


 俺達に声を掛けながら隣の席に座ったのは、この宿に住む冒険者達のまとめ役とも言えるベテラン冒険者のテンダーさん。ずんぐりした体格に髭を生やした、ちょっと怖そうな顔をしているけど良い人だ。

 しかもBランクだから経験だけでなく実力もあって、人望もあるからとても頼りがいがある。

 尤も、初対面時にロシェリはメッチャ怖がってフードで顔を隠しつつ、俺の背中に隠れっぱなしだったけど。

 後ろに仲間達も連れていて、挨拶してくれながら席に着いていく。


「おはようございます。今日は休みにして、町中を回ろうかと思ってます」

「そうか。しっかり休息を取るのも大事なことだからな、休む時はちゃんと休めよ」

「そうそう。女の子二人と同室なんて、色々と休めなさそ――ごほぁっ!?」


 デンターさんの仲間の一人。軽い性格の剣士の発言に、彼の両隣に座る虎人族の男が脇腹へ肘打ちして、鬼族の女性が顔面へ裏拳を叩き込んだ。

 どっちも前衛を務めているから、かなり痛そうに床を転がっている。


「悪いな、うちの馬鹿が」

「だからアンタは振られ続けているのよ」


 顔は結構いいのに、あの性格じゃ振られ続けても仕方ないか。


「気にしてませんからいいですよ」


 その人の発言よりも、変な妄想して悦に浸っているロシェリと、真っ赤になって違うんだからと小声で繰り返しているアリルの方が気になるから。

 断わっておくが、本当に手は出していないぞ。向こうからのアピールは前より激しくなったけど、どうにか粘って踏ん張って堪えているぞ。今はな……。


「詫びと言ってはなんだが、町の西側にあるバロンっていう鍛冶師の工房に行ってみな。俺の紹介だって言えば、無下にはしないはずだ」

「鍛冶師……ですか?」

「おう。客は選ぶが作った物は全て一級品のドワーフの名工で、客に選ばれようと多くの冒険者や貴族が尋ねてるんだぜ」


 なんかハルバートの修理と強化をしてくれた、あの女性ドワーフを思い出す。

 あの人の場合は先天的スキルの「直感」で選んでいたけど、そのバロンって人も同じような選び方をするのかな?


「無下には扱われないってことは、テンダーさんはお客に選ばれてるの?」

「いや……。点検と修理くらいはしてくれるが、武器は作ってもらえてねぇ」


 体の大きいテンダーさんが小さく見えるくらい、落ち込んで俯いている。

 Bランクで人となりも良いテンダーさんが武器を作ってもらえないなら、俺達も武器を作ってもらえないだろう。

 でもまあ、行ってみるだけならいいか。無下に扱われないなら、気に入らないからって蹴り出されるようなことは無いだろうし。

 それに自分達で武器と防具の手入れをしているとはいえ、そろそろ本職の人に見てもらいたい。断られたら断られたで、別の鍛冶師を探すことにしよう。


「分かりました。行ってみます」

「おう。それとその敬語、舐められないように冒険者の間で使うのはやめろって言ってるだろ。そういうのは貴族とか大商人とか、相手を選んで使えばいいんだよ」


 そう言われても、年上相手にはつい使っちゃうんだよな。


「はい、気をつけま――ああ、気をつける」

「早く慣れろよ」

「努力する」


 まさか敬語を覚えるんじゃなくて、タメ口で喋るのを覚えなくちゃならないとは思わなかった。

 でも必要だってんなら、覚えるしかないか。


「あいよぉっ! 嬢ちゃん用の今日の追加品! フォレストリザードの足の塩揚げと、胴体のグリルだ!」


 ガタイのいい牛人族の宿の大将が持って来たのは、ロシェリ用に追加で頼んだ料理だ。

 材料は俺達が狩った魔物で、手間賃と一緒に渡して調理だけお願いしている。

 テーブルの上に並べられた二品の肉料理。使っているのは森の中に生息するデカいトカゲの魔物で、片方は皮を剥いだ脚の部分に塩で味付けして丸ごと素揚げにしたもの。もう一方は香辛料で味付けしたグリル。

 三体渡したからグリルは三つ、足の塩揚げは十二本もある。前に食べさせてもらったら、肉質がしっかりしていて足一本でも結構な食べ応えがあった。


「おぉ……。どう、も……」


 お礼を言って食べだすロシェリの口の中へ、肉が次から次へと消えていく。

 そういえば、宿泊当初は大将も他の客達もあの食欲に驚いていた。あのテンダーさんも口を開けたまま驚いて、あれは本当に食べているのかと確認するように尋ねられたのを覚えている。思えば、あれがテンダーさんとの初接触だったっけ。


「相変わらず食うな、そっちの目を隠した嬢ちゃんは」

「それでいてあんなに細いんだから、女としては羨ましいわ」


 聖職者の装いをしたテンダーさんの仲間の女性が、いくら食べても細いままのロシェリの体つきを羨ましそうに見つめている。


「だよな。お前って割と足が太――ごふっ!?」


 また軽口を叩いた剣士の顔面へ、女性が短杖を投げつけた。

 モロに入ったな、あれは。でも自業自得だから、誰も気を使わない。

 本当、懲りない人だ。



 ****



 賑わう大通りの中をロシェリとアリルと共に進んでいく。

 今日は休みということで従魔達は宿の厩舎で待機してもらい、俺達だけで町中を巡る。

 冒険者が多いだけあってそれを狙った商店も多く、広い公園内には屋台や露店も数多く出店している。


「おじ、さん……。これ、十本」

「はいよ。全部で銅貨五十枚か銅板一枚ね」


 早速、美味そうな匂いのする屋台でロシェリが串焼き肉を買っている。

 というかロシェリさんや? さっき宿で朝飯食ったばかりだよな?

 やっぱり「魔飢」はレベルが上がると、食欲も増すんだろうか。


「あっ、この髪留め良いわね。ちょうだい」


 アリルもアリルで隣の露店で髪留めを買っている。

 金を支払うとすぐにこれまでの紺色の物から、買ったばかりの灰色の物へ取り替えた。

 どうやら自分でも満足しているようで、髪留めに触れて笑みを零しながら尻尾を振っている。


「ん~!」


 ロシェリの方も串焼き肉に満足しているのか、噛みしめながら喜んでいる。

 そんな様子は可愛らしいけど、十本も食べていると少し台無しだ。

 ああ、ほら。タレが串を伝って手に垂れてるぞ。


「あり……がふぉ……」


 タレを拭ったらお礼を言われたけど、食べながら喋るのはやめろ。飲み込んでからでいいから。

 この後は公園で露店と屋台をいくつか見て回ってから、テンダーさんに教わったバロンさんの工房へ行ってみることにした。

 ガルアの町の西側は職人が集まっている区域になっていて、鍛冶師以外にも木工職人や大工や細工職人と多くの種類の職人がいて店や工房を構えている。

 さらにそうした職人向けに鉱石や木材を取り扱っている店もあって、さっきまでいた通りとは違った賑やかさに包まれている。


「あっ……食堂も、ある……」


 本当だ。しかもよく見れば、飲食店が割とある。

 普通の食堂もあれば、飲み屋みたいな雰囲気の店まで。


「この辺りで働いている人を狙った店ね。こういう所の店は、肉体労働者向けに量を多くしているみたいよ」


 あっ、そんなことを言ったらうちの食欲の権化が。


「お昼! この辺りに、しよ!」


 言うと思ったよ。前髪で隠れている目は、たぶんキラキラと輝いてこの辺りで食べたいって訴えているんだろうな。

 分かったと返したらロシェリは上機嫌になって、鼻歌を歌いだした。しかも地味に上手いから、どうしても音程がズレてしまうアリルが悔しそうにしている。

 まあそれは置いておいて……あった、バロン工房だ。

 客を選ぶっていうからてっきり小さい工房かと思っていたら、そうでもなかった。決して大きいとは言えないけど、周囲の他の店や工房と同じぐらいの大きさだ。

 早速中へ入ってみると受付には男の子がいて、奥にある作業場で何人かの職人が作業をしていた。


「あっ、いらっしゃい」


 俺達に気づいた男の子が笑みを向けてくれる。

 子供にしてはずんぐりした見た目だから、ドワーフなのか?


「にーちゃんとねーちゃん達、何の用? うちはじーちゃんに気に入られなきゃ、武器のしゅーぜんもできないぞ」


 ということは、この子はバロンって人の孫か。


「テンダーさんの紹介で来たんだけど」

「ああ、あの顔の怖い髭のおっちゃんね。ちょっと待ってね、じーちゃん!」


 男の子はバタバタと奥へ走って行き、やがて一人の老ドワーフを連れて来た。


「じーちゃん、このにーちゃんとねーちゃん達だよ」


 連れて来たバロンさんらしき老ドワーフは、テンダーさんに負けず劣らずの厳つい髭面をしている。

 ノッシノッシと歩いてくると、腕を組んでこっちを睨むように見てくるからロシェリが怯えて俺の後ろに隠れた。


「お前らか、テンダーの紹介で来たってのは」


 やっぱりこの老ドワーフがバロンさんか。


「はい」

「……おい小娘共、お前らも返事ぐらいしろ」

「ひゃ、ひゃい」

「……ええ、そうよ」


 怯えながらロシェリが返事をして、言い方にちょっとムッとしたアリルも返事をする。


「ふむ……。ペック、お前はちょっと奥へ行ってろ」

「はーい」


 ペックと呼ばれた男の子が引っ込むと、顎髭を触りながら俺達をマジマジと眺める。


「テンダーが紹介するだけあって、悪くはないか。お前ら、武器と防具を持っていたら見せろ」


 どうやら叩き出されるのは回避したようだ。

 素直に武器と防具を出すため、空間収納袋と次元収納を開くとバロンさんの目が鋭くなる。


「待て。次元収納はともかく、お前らのような若造が空間収納袋? お前ら貴族かなにかの遣いか?」


 おっ? まさか貴族お断り?


「違うわよ。これは倒した盗賊からの戦利品よ」


 ちょっと怒りながらアリルが言うと、少し間を置いて目つきが戻った。


「そうか。疑って悪かった。前に追い出した貴族が、人を使って間接的に接触してきたことがあるんでな」


 なるほど、貴族嫌いなんじゃなくて警戒していただけか。

 気にしていない旨を伝え、改めて武器と防具を取り出して受付へ並べていく。

 すると混宿の杖を見たバロンさんの目が大きく開いた。


「こ、こいつは混宿の杖! 小娘、お前これをどこで手に入れた!」

「ひ、ひうっ!?」


 置かれた混宿の杖を見て、唾を飛ばすような勢いで迫るからロシェリが余計に怯える。


「落ち着いてください。彼女は人見知りするので、あまり強く迫らないでください」

「いいから答えろ!」

「……空間収納袋と同じ、盗賊からの戦利品です」

「盗賊の戦利品? じゃあ、あいつは……」


 入手方法をしったバロンさんは、がっくりと俯く。

 ひょっとして、これの持ち主を知っているのか?


「あの……これ、誰のか……知ってる、の?」

「……あぁ。そいつはまだ若いが、見込みのある冒険者の娘だった。俺に杖を作ってほしいと熱心に頼みこんでくるし、手入れの腕もいい。なにより、そいつの目が気に入って作ってやったのがこいつだ」


 知っているどころか、混宿の杖はバロンさんが製作したのか。

 腕がいいとは聞いていたけど、これだけの杖を作れる腕があるなんて。


「それがあなたの作った物だって分かるの?」

「ドワーフの目を舐めるなよ、エルフの小娘。自分で作った物ぐらい見抜けなきゃ、ドワーフの恥だ」


 似たようなことを、シェインの町にいた女性ドワーフから聞いた覚えがある。


「あいつには分不相応だったかもしれないが、あいつの将来への期待も込めて作ってやったんだ。こいつが盗賊の手元にあったってことは、あいつは死んだんだろう」

「その人の外見は?」


 できれば思い出したくないけど、盗賊の住処にあった死体のどれかがバロンさんの言う、冒険者かもしれない。

 もしもそうでなければ、武器を失っただけでまだ生きている可能性もある。


「色白で細身、茶髪の娘だ。鼻のところにソバカスがあったな」


 ……いた。あの時の酷い姿が浮かんで気分が悪くなるのを堪え、その人が死んでいたことを伝えた。


「やっぱりか、惜しい奴を亡くしたな。今夜は良いのを開けるか」


 良いのっていうのは、たぶんドワーフの大好物だっていう酒のことだろう。

 冥福を祈って一杯、というところか。


「おっと、話が逸れたな。小娘はこれを使っているのか?」

「は、はい……」

「こいつは特殊な杖で、闇魔法と光魔法が使えないと意味がないぞ」


 うん、そこは「完全解析」で確認済みだから問題無い。


「どっちも……あり、ます……」

「そうか。なら存分に使え。使えない奴が持つよりも、使える奴が使ってこそ意味がある」


 そう言って混宿の杖を置いたバロンさんは、次にアリルの弓と防具を見る。

 すぐに小さく頷くと弓を手に取り、しなり具合を確認する。


「作った奴の腕はそこそこってところか。だが手入れがしっかりしているから、弦の張りも弓のしなりも問題無い。やるな、エルフの小娘」

「当然よ。自分の命を預ける道具なんだから、しっかり手入れするのは当たり前じゃない」


 無い胸を張って自慢するアリルだけど、バロンさんは表情を曇らせる。


「その当たり前をできない冒険者が増えてるんだ。そんな奴に武器や防具は作らねえし、飾り物のように扱うつもりの貴族にも作らねえ。武器も防具も使ってこそ意味があるし、自分の物なら手入れぐらいやって当然だ」


 どうやらバロンさんが客を選ぶのは、そこにあるみたいだ。

 でも気持ちが分からなくもない。せっかく作ったのに、手入れが下手だったり手入れをしないで錆びさせたり、使う気がこれっぽっちも無くて自慢するための装飾品にされたりしたら、作り手として不満に思うのも当然だろう。


「こっちは使うことを大前提に作ってる。なのに使う側が手入れもできず錆びさせるのは話にならねえし、使うつもりなんか無いのは論外だ。鍛冶師の作った物はな、使ってナンボなんだよ」


 腕を組んで主張する姿は、なんか職人気質みたいなものが溢れていてカッコイイ。

 俺にはこういう一本芯が通ったような生き方が、できるんだろうか。


「んで、小僧とそっちの小娘の手入れは……うん?」


 あれ? 何か拙かった?

 元冒険者の護衛から教わった通りにやっていたんだけど、何か間違ってたか?

 不安になっているのはロシェリも同じで、まだ何も言われていないのに震えていて俺にも伝わっている。


「お前ら、このメタルアリゲーターの防具とネイビースネークのローブ、それとこの妙な武器はどこの誰から買った」


 えっ、そっち? さっきまで熱弁していた手入れのことじゃなくて、製作者のこと?


「えっと……。こっちの防具はどれもシェインの町にいる女性ドワーフから買って、武器は王都にいる女性ドワーフの兄弟子っていうドワーフから買いました」


 説明をするとバロンさんは防具とハルバートを手に取り、軽く叩いたりじっくり眺めたりする。

 混宿の杖ほどの物を作れる人が注目するなんて、これって思っていた以上に凄い物なのか?


「うむ、あいつら腕は落としていないようだな」

「えっ? 知り合いですか?」

「どっちも俺の下で修行していたバカ弟子だ」


 この人があの二人の師匠?

 女性ドワーフを紹介してもらった時に、ドワーフの間では有名な鍛冶師の下で修業したって言っていたっけ。

 なるほど、混宿の杖を作れるほどの鍛冶師なら有名なのも頷ける。


「バカ弟子は無いんじゃない? どっちも独立してるんでしょ」

「妙な武器を作ったり直感で物事を判断したりするようなのは、バカ弟子で十分だ。仮令たとえ独立してもな」


 アリルの文句にそう返すと、会った時の二人を思い出す。

 変わった武器を作るのが好きだと言ってハルバートを披露する様子と、先天的スキルの「直感」で気に入らないと判断した客をぶっ飛ばす様子。

 どっちもそれほど昔のことでもないのに、妙に懐かしく思える。


「腕を落としていたら怒鳴りに行ってやろうかと思ったが、これなら文句は無いな」


 小さく二回頷きつつ、弟子の作った物を見る目は厳しさと共に優しさも感じる。

 口ではああ言っている厳しい師匠でも、やっぱり弟子が心配だったんだな。


「断っておくが、心配はしてねえぞ。あいつらが腕を落として粗悪品を売ったら、師匠の俺のせいになるのが嫌なだけだ」


 果たしてこれは本音なのか、照れているだけなのか。

 どうやら照れているだけのようだ。「色別」を使ったアリルから、照れてるだけよという小声での報告が入った。素直じゃない人だ。


「手入れの方はまあ、及第点か。まだまだ甘いが、丁寧にやっているのが分かる」


 良かった。まだ改善の余地は有りだけど、悪くはなかったようだ。


「これなら点検と修理くらいはしてやるよ」


 おお、マジか。点検と修理だけとはいえ、腕の良い鍛冶師がやってくれるならとても助かる。


「作ってはくれないの?」

「それは今後のお前達次第だ。テンダーのように、腕と人格は有っても不器用な手入れしかできないようなヒョッコなら、武器も防具も作ってやらん」


 テンダーさんほどのベテランが武器を作ってもらえない理由はそれか。

 だとすると、混宿の杖を作ってもらえた人はよっぽど武器や防具を大事に扱っていて、将来に期待されていたんだな。俺達も頑張らないと。


「ところで小僧。お前、どこかで見たような気がするんだが、どこかで会ったか?」

「初対面のはずです。バロンさんが王都に来ていない限りは」


 なんかガルアへ来てから、同じようなことを何度も尋ねられている。

 逆ナンパみたいに声を掛けてきた人だけじゃなく、宿の大将や立ち寄った食堂の女将さん、冒険者ギルドの職員やテンダーさんを始めとした冒険者からも尋ねられた。そういった人達に共通しているのは、ほぼ全員が中年や年配者だってことだ。

 そんなに俺の顔、どこにでもいるような顔なのか? いや、だとしたらあの逆ナンパの人以外の若い人からも尋ねられているはず。


「王都にゃ何十年も足を運んでねぇよ。でも、どっかで見た気がするんだがな……」

「気のせいじゃないですか? 俺がガルアへ来たのは半月前で、この工房に来るのも初めてですから」

「そうか、気のせいか。悪かったな」


 本当、最近はこんなやり取りが多くなったな。どうしてだろ?

 少し疑問を覚えつつも、武器と防具、それと解体用のナイフを改めて見てもらって特に問題が無いと言われた。


「どうも、お世話になりました」

「これも仕事だ、気にすんな。それはそうと、敬語を使うのはこれっきりにしろ。お前らは客だが冒険者だ、横柄な言い方じゃなきゃ俺達は気にしないから舐められないようにしとけ」

「……はい」


 この注意も最近よく聞くな。本当、気をつけないと。

 その後、この辺りの安くでボリュームのある飯屋でロシェリが嬉しそうに爆食いして野次馬の職人達が大いに盛り上がったり、服屋での長い買い物に付き合わされたり、明日以降の活動のために薬屋でポーションを買っておいたり、評判の喫茶店でゆっくり過ごしたりして休日を過ごした。

 翌日。十分な休息を取って今日からまた頑張ろうとギルドで依頼を探し、知り合いになった冒険者と情報交換をしていると勢いよく扉が開き、騎士団員が駆けこんで来て叫んだ。


「ダイノレックスの大量発生だ! 至急ギルドマスターへ繋いでくれ!」


 叫んだ内容にギルド内がざわめき立つ。

 どうやら、大事が起きたようだ。


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