入れ替えてどうにかできない
至って普通の農村って感じのカルス村に着いた俺達は、冒険者ギルドで旧道に出る魔物の情報を集めることにした。
ベテラン風の中年冒険者によると、厄介なのはデスサイズマンティスっていう巨大な鎌を持つカマキリの魔物だそうだ。
虫系の魔物だから、話を聞いた途端にアリルが凄い表情をして、ロシェリは震えながら俺の外套を握る。
「こいつは上位種な上に好戦的だから、遭遇しないように気をつけな」
となるとウィンドサーチでの探知が必須だな。
昼間は俺とアリルが交代で探知すればいいけど、夜にロシェリが見張りの間はどうしよう。夜行性だったら少し考えないと。
「そいつ、夜行性ってことは?」
「いや、夜行性じゃない。さすがに寝ている最中に手を出せば、起きて襲われるがな」
夜行性じゃないのなら、夜の見張りはこれまで通りでいいか。
「あの山中に出るので厄介なのは、そいつぐらいだ。それ以外に大した魔物はいねぇよ。しいて挙げるのなら、ビルドコアラっていう小型のゴリラみたいなコアラの魔物だな」
どんなコアラだ。もうそれ、ゴリラでよくないか?
とにかく、注意すべきはデスサイズマンティスっていう上位種か。
ビーストレントは騎士団と共闘したからこそなんとかなったんであって、今回はたった三人と二体だ。あの頃よりも強くなっているとはいえ、まともにやっても小細工をしても勝てるとは思えない。上位種と戦える実力が有るか無いか以前に、戦えるっていう自信が無いんだ。
この自信がいつになったらつくかは分からないけど、絶対に今すぐじゃない。そんなに簡単につくならそれは自信じゃなくて、自惚れだろう。
「分かりました。ありがとうございます」
「なぁに。同業者なんだ、気にすんな」
気のいい中年冒険者にお礼を言い、ギルドを出て今日の宿を確保。
この村までの移動は馬車便だったから食料はまだまだあるし、戦闘もしていないから武器も防具も万全。ポーション類も消耗していないから、今日は買い出しにも行かず宿でゆっくりすることにした。
当たり前のように三人で一部屋を借り、適当に寛ぎながら過ごして夕食を摂って、ロシェリとの計算の勉強をしたら後は寝るまでのんびるするだけ。
「明日から、また野宿なのね……」
「速読」と「暗記」のレベルを上げるために寝転がって本を読んでいたら、ポツリとアリルが呟いた。
「聞いた話だと、順調にいっても三日は掛かるらしいな」
平坦で整備された道を馬車で行くんじゃなくて、使われなくなってだいぶ経つ山中の旧道だ。しかも魔物が出るんだから、それぐらい掛かってしまうのは仕方ない。
「うぅ……ベッド……」
昨日今日とベッドで寝れたからか、二人は枕に顔を埋めてグリグリと感触を堪能している。
しかし、同じ部屋で過ごすのにも慣れてきたな。
最初の頃にロシェリと同室で過ごす時の緊張感は、一体どこへ忘れてきたんだろうか。
まあ、同じベッドに潜り込まれて密着されるなんていう、別の緊張感は生じているけど……。
「我慢しろって。ラーキの町まで行って馬車でガルアまで行けば、宿暮らしできるから」
「そうよね。遠出して野営する必要が無ければ、毎日宿のベッドで寝れるのよね」
「だったら……我慢、する」
やっぱり野営よりベッドで寝たいもんな。俺だって口に出していないだけで、気持ちは同じだ。
でもそうなると、毎日のようにロシェリが潜り込んでくることになるのか?
嫌って訳じゃないけど、そろそろなんとかしないといけないかな……。けれど、そうやって過ごす時間が悪くないって思っている自分がいるのも確かだから、複雑な気分だ。
もういい、こういう気分の時は寝るに限る。本は次元収納へ入れて、毛布をかぶる。
「そんじゃ、俺はそろそろ寝るから」
「じゃあ、私も寝ようっと」
「おや、すみ……」
この直後、いつも通りロシェリが潜り込んできて背中から柔らかい感触が伝わってきた。
今夜も寝るまでに時間が掛かりそうだ。煩悩……退散!
****
朝を迎え、窓の外では小雨が降っていた。
どうやら昨夜遅くから降っていたようで、当初は雨の中で山中を行くのは危ないから出発を一日遅らせようかと思った。でも朝食中に宿の女将さんが、この辺りは夜に降り出して朝に小雨か霧雨なら昼前には晴れると、別のお客に言っているのを聞いた。
さすがは地元の人だけに、そういう情報に詳しくて助かる。
だったら問題無いだろうと判断して、雨具を纏って出発。ややぬかるんだ道を進んでいく。
「足下に気をつけろよ」
「そう言った人が大抵最初に転ぶ――ひゃっ!」
とか言っているアリルが滑って転びそうになった。
辛うじて俺が支えたから泥塗れは避けられたし、こういう時に胸に手が触れるアクシデントも起きていない。
普通に腕を掴んで転ぶのを防いでやったよ。
「自分で言ってこれか」
思わず口にしてしまったこの発言に、アリルは真っ赤になって俺の腕を払うと腕組みをしてそっぽを向く。
「ふっ、ふん! 転んでないわよ! 支えてもらったから、まだ転んでないわよ。セーフよ、セーフ!」
はいはい、いつも通りに素直じゃないな。
だけど気づいているぞ。俺の思い込みかもしれないけど、支えてもらったからって、さりげなく感謝しているのに。
「ちょっ、何よその温かい眼差しは!」
えっ? そんな目してたか?
こっちを見たアリルからそんな指摘をされ、首を傾げている間にアリルはそっぽを向いて歩き出した。
でも照れを隠すために強い足取りで歩くもんだから、今度は本当に滑って転んだ。
「きゃっ!?」
思いっきりしりもちをついたものの、雨具のお陰で服と防具が泥だらけになるのは避けられた。
いや、雨具からはみ出ていた尻尾が泥だらけだ。
「あぁ、もう。ジルグ、水魔法で洗い流して」
「はいはい」
後回しにすると固まって取れにくいから、すぐに洗っておかないとな。
水魔法でアリルの尻尾の泥を落としたら改めて歩き出す。
慎重に歩を進め、目的の山中の旧道へ入る頃には霧雨ぐらいにまで雨は弱まった。それでも道はぬかるんでいるから、気をつけながら坂を上っていく。
やがて昼前ぐらいになると、女将さんが言っていた通りに雨は上がった。
「やっと雨具が脱げるわね。これ、地味に中が蒸れるわ」
「じめじめ……する」
確かに。雨は防げていたけど、内側に湿気が籠って不快感が強い。
あまり良くない品だったなと思っている最中、アリルが鋭い目つきになって坂の上の方を指差した。
「あっちの方から魔物の反応よ、数は二十。ちょっと調べてくるわね」
最近率先してやってくれている斥候の役目を果たすため、アリルが飛び出していく。
素早い足取りで偵察へ向かう姿は、頼もしささえ感じさせた。直後にぬかるみで滑って、前のめりに転びさえしなければ。
「きゃん!」
「「「「……」」」」
俺とロシェリどころか、従魔二匹も鳴き声一つ、反応一つ見せずに転んだアリルを見ている。
雨具を脱いだから見事に泥だらけで、口に泥が入ったのかペッペッと唾を吐く。
いくらぬかるんでいるとはいえ、今日だけで三回目だぞ。さすがにからかう気も起きない。
そんな俺達の様子に気づいたのか、こっちを見たアリルは咳払いをする。
「こほん。ちょっと、気合いが空回りしたみたいね。あんた達も気をつけなさいね」
どんな言い訳だ。
「て、やばっ!」
「どうし……たの?」
「今の転倒で気づかれたっぽい、こっち来る」
「アホかぁっ!」
偵察が一転、戦闘になっちまったよ。
急いで武器を抜いて構える俺達の前に姿を現したのは、両腕の鎌を掲げてこっちを威嚇する二メートルくらいのカマキリの集団。
えっ、まさかあれがデスサイズマンティスじゃないよな? 先頭にいる奴へ「完全解析」発動!
カットマンティス 魔物 雄
状態:健康
体力386 魔力48 俊敏317 知力118
器用295 筋力259 耐久311 耐性109
抵抗104 運97
スキル
強振LV1 斬撃LV1
あっ、良かった。上位種のデスサイズマンティスじゃないし、数値からして大した魔物じゃない。他のカマキリ達も全部カットマンティスだ。
入れ替えて入手したいスキルも無いから、全部倒しちゃっていいな。
でもあいつらって虫だから……。
「即時! 殲滅! ウィンドカッター!」
空間収納袋から大量の矢を取り出したアリルが、「複射」と「連射」を利用して複数の矢を次々に放ちながら風魔法で攻撃している。
そしてマッスルガゼルから降りていたロシェリは……。
「やだぁ……虫は、やだぁ……。食べられ、ないよぅ……」
過去のトラウマで蹲って震えている。
「……マッスルガゼル、ロシェリの護衛を頼んだ。いくぞ、コンゴウカンガルー」
そう言い残し、アリルの攻撃で出鼻を挫かれ混乱しているカットマンティスの群れへ突っ込む。
こいつらくらいなら自己強化も必要無いと思い、そのまま坂道を駆け昇って間近にいる個体の首に槍部分を刺す。
すぐに抜いて別個体の脇腹に槌部分を振り抜いたら、迫っている個体からの攻撃を回避。そいつには頭にアリルの矢が刺さり、後ろにいた個体には風魔法のウィンドアローが頭を貫く。
なんかアリルの弓矢と魔法は、虫系の魔物に対してやけに命中率がいいなあ。特に頭への。
「害虫、駆除!」
わっ、スゲッ。同時に放った矢で二体同時に頭を射抜いた。
こりゃこっちも、前衛として負けてられないな。
ロシェリの精神衛生上の問題もあるから残りもさっさと片付けようとしたら、目の前にいた個体が氷魔法のアイススパイクに貫かれた。さらに他の個体には光魔法のシャインレインが降り注ぐ。
これはおそらく蹲っていたはずのロシェリの魔法か?
しかも混宿の杖のお陰か、シャインレインの威力が格段に上がっている。
「虫は……嫌なのぉ……。だから、殲滅! ダークランス!」
なんか吹っ切ったっていうよりも、嫌な気持ちが限界突破してブチ切れた感じで魔法を放っている。
闇魔法による黒い槍でカットマンティスが倒されるのを見ながら、俺も負けじとハルバートを振るってコンゴウカンガルーは拳を振り抜く。さらにロシェリが大丈夫そうだからかマッスルガゼルも前衛に参戦したことで、二十体のカットマンティスはさほど時間が掛からずに討伐できた。
「しゃらぁっ! 殲滅完了!」
「ふーっ! ふーっ!」
ガッツポーズをするアリルと、荒く息を吐いて興奮が収まっていないロシェリ。二十体もいたとはいえカットマンティスでこれなら、もしもデスサイズマンティスと遭遇したらどうなるのやら。
戦いたくない意味も含めて遭遇しないことを改めて願いながら、素材として使える部位が分からないカットマンティスを次元収納へ入れていく。町に着いたらギルドで解体してもらって、売れる部位を買い取ってもらおう。
回収が終わる頃には二人も落ち着いていて、アリルはどこ吹く風と気にしていないけど、ロシェリは自分の変貌が恥ずかしくなったのかフードを引っ張って顔を隠そうとしている。
「あっ……あの、さっきの、私は……その……」
「大丈夫よ。虫を毛嫌いする気持ちは分かるから、私は気にしないわ!」
親指を立てて笑みを見せるアリルを見た後、今度は俺の反応が気になるのかこっちを向いた。
「俺も気にしてない。この前は震えて何もできなかったんだし、それに比べれば進歩してるだろ。頑張ったな」
前に虫系の魔物と遭遇した時、ロシェリは震えて蹲って虫は食べられないって言いながら泣いて何もできなかった。
魔物自体は二体しかいなかったからアリルが殲滅と叫びながら討伐して、出番の無かった俺はロシェリを慰めていた。
それに比べれば、どんな理由であれ立ち上がって攻撃できるようになったのは進歩だろう。
「……本当?」
「嘘言ってどうする」
するとロシェリの口元が緩み、さらに顔を隠そうとフードを引っ張っている。
嫌われなくて嬉しいのと、恥ずかしいのが入り混じっているってところか。
「それよりも! ジルグ、あんたちょっと体と防具洗って、服も変えてきなさいよ」
アリルからの指摘に自分の姿を見ると、思いのほか泥だらけになっていた。
転んではいないけど、戦闘中に跳ねた泥とかで服や防具だけでなく、顔や髪にまで泥が飛んで汚れている。
同じように従魔二匹も泥まみれだ。でもアリルだってそうだ。
「アリルも人のこと言えないだろ」
「へっ? あぁ……」
偵察に行こうとして転んだ事を思い出し、泥だらけになった服と防具と露出している腹部や脚を見ている。
「虫があんなにいたから、すっかり忘れてたわ。ジルグ、水魔法で洗い流してくれない?」
「直接水を掛けていいのか?」
「どうせ着替えるし、構わないわよ」
だからお願いと、泥を落とすために防具を外したアリルへ望み通り水を掛ける。
それを浴びながらアリルは外した防具の泥を手で洗い落とし、次いで体に付着した泥を落としていく。特に髪は念入りに洗っている。
「ん、ありがと。もういいわ」
「はいよ。って!?」
水を止めた直後、俺は咄嗟に背中を向けた。
「ちょっと、どうしたの? ひょっとして、水も滴る良い女に見惚れちゃった?」
見惚れてはいない。ただこのままアリルを見ていたら、ある部分から目を離せなくなる。だから後ろを向いたんだ。
「……アリル、さん」
「なによ」
「む、胸。胸も、と……が」
「胸元がどうし――」
気づいたか。代わりの指摘ありがとう、ロシェリ。
羽織っている袖無しの上着と、ショートパンツはいいんだ。問題は胸元を隠している太い帯みたいなのだ。
それはどうやら思っていたよりも薄手の生地で、加えて色は白。しかも胸が真っ平だからだろう、付けていないんだ。その……上の下着を。
これらから導き出される結論は言うまでもない。アリルの胸が透けて見えているんだ。
胸当てを付けていれば見えなかったろうけど、泥を手で洗い流すために外していたのが仇になった。
「なっ……なっ……ぎにゃあぁぁぁぁぁっ!」
とても十七歳の少女が出していい声とは思えない叫びが聞こえた。
たぶん、アリルの顔は真っ赤になっているんだろうな。
「な、何考えてんの、あんた! 乙女の胸を見るだなんて!」
「いや、そっちが水掛けろって言うから、その通りにやっただけだろ!」
言われた通りにやったんだから、胸が見えたのは不可抗力だ!
第一、こうして背中を向けているから見ていない。いや、見たことは見たけど僅かな間だ、凝視はしていない。
「問答無用よ! 責任取りなさい、責任!」
「どう取れっていうんだよ!」
「決まってるじゃない! わわわ、私のこと、嫌でも貰ってもらうんだからね! ジルグが嫌でも、押しかけ女房やって既成事実作って、よよ、嫁に、貰ってもらうんだからぁ!」
「はいっ⁉」
責任ってそういう意味かよ。
見た以上はそう言われるのも仕方ないとはいえ、急にそんなことを言われても。
「だ、駄目!」
「へっ?」
何故かここでロシェリが拒絶の声を上げた。しかも珍しく口調が強い。
思わずロシェリの方を向いた時にアリルが視界に入ったけど、上着の前を閉めて胸元を隠しているから、また見てしまわずに済んだ。
「ジルグ、君には、私の、夢……。叶えて、もらうんだ、から!」
何それ。叶えてもらう対象の俺が初耳なんだけど。
呆気に取られていると、
「ジルグ君! 私、おか、お母さん、に……なりたい、の! だから、お父、さんに……なって!」
……なんだ今日という日は。
胸を見た責任取って嫁にしろと言われ、母親になりたいから父親になってくれと言われ、俺はどうすればいいんだろうか。
「ちょっと落ち着きなさい、ロシェリ。要するにあんたは、ジルグとの間に子供が欲しい訳?」
ロシェリの発言で逆に冷静になったアリルの質問に、ロシェリは恥ずかしそうに頷く。
「なんでジルグなの?」
「私……みたいなの、でも……受け入れて、くれた……から。もう、こんな人……出会えない、かも、しれない……から」
なるほど。ずっと虐められ、嫌われ、蔑まれて生きてきたロシェリにとって、俺との出会いは運命の出会いみたいに感じたんだろう。
密着する理由を距離感とかなんとか言ってた気がするけど、根本にそれがあるからこそ、密着という手段を取っていたんだな。
「お母さんに、なって……。私が、受けられなかった分、愛情注いで……育てたい」
「そ、そうなの……」
「そして、子供を猫可愛がり……するの。ジルグ君、叱る役、よろしく……」
いやいやいや、何その俺が子供から嫌われそうな役割分担。普通逆じゃないかと思う。
ていうか、なんかもうそうなるのが決定的みたいな流れになってるし。
こうなったらアリル、お前が頼りだ。なんとかしてくれ。
「でも私も、胸見られた以上は責任取ってもらいたいのよね。という訳でジルグ、すぐにとは言わないわ。私への責任とロシェリの夢のために、いずれは私達を嫁に貰いなさいよね」
「名、案!」
「どうしてそうなる! そしてロシェリも乗るのか!?」
「お母さん、に、なれるなら……気にしない。それに、アリルさんなら……一緒にいても、いい」
えぇぇぇぇぇぇ。なんだこの状況。
どうして俺、さっきまで責任取って嫁にしろとか言ってたアリルに期待してたんだろう。色々ありすぎて、頭の中が混乱していたのか?
この国の法律的には重婚は問題無いけど、いざ直面するとなんか重い。
「というか、そもそも俺でいいのか?」
「さっきも……言った。ジルグ君以外、私みたいなの……受け入れてくれる人、いないかも、しれない……から」
受け入れるの意味合いが何か違う気がする。
「別に気にしないわよ。何かと助けてもらったし、私を背負ったりロシェリに密着されたりして欲情はしても、襲うような悪い奴じゃないって分かってるしね」
ああ、そうですか……。うん?
「ちょっと待て。欲情しても襲わないって、なんで知ってるんだ」
「ジルグさ、スキルの入れ替えで私に何のスキルを与えたか忘れたの?」
えぇっとアリルに与えたスキルは……あっ、「色別」。
ということは、それで見られていたのか! アリルを背負っていた時とか、ロシェリに密着されていた時とかに柔らかさで煩悩と戦っていた時の俺の感情を!
「ジルグ君。私で、欲情……してくれてたんだ……嬉しい」
どうして嬉しいのか、俺にはイマイチ分かりませんロシェリさん。
「そうなのよ。こいつってば私達みたいな貧相なのでも欲情してたんだから、責任取って嫁に貰ってもらわなきゃね」
アリルはアリルでどうしてそう、責任責任言うんだ。
嫌々っぽく聞こえるのに顔は赤いし表情は嫌がっているようには見えないし、もう訳が分からない。
こればっかりはスキルの入れ替えで解決できず、二人に押されて頷くしかなかった。
右肩に手を置いたコンゴウカンガルーと、左肩を鼻先で突くマッスルガゼル。お前達の同情が少しだけ嬉しいよ。
とりあえず返事は保留させてもらい、俺と従魔達は泥を落とすためにその場を少し離れる。
茂みの中でウィンドサーチを使って警戒しつつ、水魔法で防具と体の泥を洗い流して汚れた服を着替えたら、どうしてこうなったんだろうと、大きく溜め息を吐きながら従魔達へ水を浴びせていく。
しかし、あの二人を嫁にねぇ……。うん、今夜三人で真剣に話してみるか。




