いつかは通る道
ノトールの町から旅立った俺達は、数日後に関所を越えてバーナー伯爵領から隣の男爵領に入った。
そこからの旅路は順調で、ビーストレントのような上位種の魔物と遭遇せず、そういった魔物に襲われた騎士団と遭遇せず、マルスさん達のような厄介事に巻き込まれる事も無かった。
薬草を摘んで、魔物を狩って、たまに解体の練習をして、失敗して泣いたロシェリを慰めて、アリルの作る美味い飯を堪能して、たまに俺が飯を作って、マッスルガゼルとコンゴウカンガルーが筋肉自慢をして、虫系の魔物をアリルが鬼の形相で殲滅して、虫系の魔物を見たロシェリが「虫は食べられない」と孤児院時代の虐めを思い出して泣いたのを慰めて、立ち寄った町や村で魔物の素材と薬草を売って一泊する。そんな感じの日々を送りながら旅を続け、今歩いている山道を下ればベリアス辺境伯領との境という所まで来ている。
勿論、ここに来るまでに実力を磨くことも怠っていない。
いくらスキルを入れ替えて好きに調整できるからといって、スキル頼みになるのはよくない。そのために道中、魔物との戦闘や自主鍛錬でしっかり鍛えている。
全員が共通して持っている「能力成長促進」スキルの助けもあって、能力の数値的にもスキル的にも順調に成長している。
唯一運だけは成長していないけど、こればかりは成長のしようが無いから仕方ない。
ジルグ・グレイズ 男 15歳 人間
職業:冒険者
状態:健康
従魔:コンゴウカンガルー
体力851 魔力702 俊敏726 知力673
器用714 筋力708 耐久710 耐性359
抵抗277 運306
先天的スキル
入れ替えLV5 完全解析LV5 灼熱LV7
能力成長促進LV2 魔力消費軽減LV6 逆境LV3
剛力LV3 活性化LV2 体力消費軽減LV2
後天的スキル
算術LV1 速読LV1 夜目LV2 槍術LV10
水魔法LV9 自己強化魔法LV9 空間魔法LV5
動体視力LV8 暗記LV1 斧術LV8 槌術LV7
土魔法LV8 風魔法LV7 火魔法LV7 咆哮LV5
威圧LV4 強振LV3 料理LV1 解体LV1
刺突LV1
とうとう「槍術」スキルがLV10に達した。だからといって、何か特別な変化がある訳じゃなかったのはちょっと残念だ。
でも新たに「解体」と「刺突」を習得したし、「料理」の再習得にもようやく至った。
スキルの入れ替えで魔物から「威圧」と「咆哮」、それと空間以外の魔法系スキルを入手してレベルを上げられたのも大きい。
それとLV5になった「完全解析」だけど、新しい情報が見えるようになった訳じゃなくて、「隠蔽」や「偽造」といった情報を誤魔化すスキルを無効にするようだ。
新たな情報が見えないから、「完全解析」を「完全解析」したら判明した。
これが分かった時、ちょっと不安になって装備品やロシェリ達の情報をこっそりと見直して、誤魔化されていないかを確認したのは秘密だ。
ロシェリ 女 15歳 人間
職業:冒険者
状態:健康
従魔:マッスルガゼル
体力118 魔力731 俊敏101 知力597
器用113 筋力99 耐久306 耐性347
抵抗548 運238
先天的スキル
魔飢LV5 衝撃緩和LV3 能力成長促進LV1
後天的スキル
光魔法LV5 氷魔法LV4 治癒魔法LV4 雷魔法LV5
整頓LV1 精神的苦痛耐性LV1 回避LV1 騎乗LV1
闇魔法LV3
相変わらずロシェリは体力と俊敏と器用と筋力が低い。どうしてここには、「能力成長促進」スキルが仕事をしないのだろうか。
その代わり、つい先日に「闇魔法」スキルを新たに習得して、夜中に遭遇したアンデッド系の魔物から「闇魔法」スキルをスキルの入れ替えで入手させ、レベルも上がっている。
さらにマッスルガゼルに乗り続けたからか、乗った魔物や動物を操るのが上手くなる「騎乗」スキルまで習得していた。
食欲の方も変わらず旺盛で、「魔飢」のレベルが上がったからか食事量は前より少し増えている。
なのに体は細いままで、縦にも横にも変化が見れない。これはロシェリの体質なのか、それとも「魔飢」の知られざる副作用なのか。ちょっとだけ気になった。
それから俺の「算術」や「速読」や「暗記」や「夜目」のように、スキルの入れ替えに使いやすいスキルが有った方がいいと助言したら、最近俺が持っている本を読み出し、計算の勉強も頑張りだした。ただ、その時に俺へ寄り添ったり勝手に俺の膝を枕にしたりするのは何故だろうか。
夜に寝る時もそうだけど、日に日に密着度が増しているのは気のせいか?
アリル 女 17歳 犬人ハーフのタブーエルフ
職業:冒険者
状態:健康
体力548 魔力697 俊敏636 知力581
器用652 筋力263 耐久351 耐性364
抵抗472 運269
先天的スキル
活性化LV5 色別LV2 魔力消費軽減LV3
能力成長促進LV1
後天的スキル
弓術LV6 解体LV3 料理LV3 氷魔法LV5
採取LV1 風魔法LV6 潜伏LV2 付与魔法LV4
夜目LV1 複射LV1 連射LV1
アリルは新たに「夜目」と、同時に何本もの矢を射ることができる「複射」、矢を続けざまに射れる「連射」といった三つのスキルを習得して、鳥型の魔物から「風魔法」スキルを入れ替えで入手させてレベルも上げておいた。
最近は斥候っぽい役割も率先してやってくれているし、野営の時は襲撃対策にちょっとした罠も設置するようになったから、そういった類のスキルもいずれ習得するだろう。
それとロシェリと同様に、スキルの入れ替えに使いやすいスキルを増やすため、最近は移動中に歌を口ずさんでいる。「歌唱」スキルを狙っているんだろうが、ちょっと音程がズレている。その事をロシェリから指摘されて落ち込んでいたけど、上手くなる意味も込めて続けている一方、こいつも最近読書を始めた。
性格の方は変わらず素直じゃなくて、褒めても尻尾以外は本音を出してくれない。その尻尾をモフりたりロシェリとのやり取りも、変わらず毎日のように行われている。
マッスルガゼル 魔物 雄
状態:健康
主人:ロシェリ
体力796 魔力81 俊敏641 知力428
器用359 筋力982 耐久976 耐性527
抵抗483 運374
スキル
突進LV5 跳躍LV2 蹴術LV4 威嚇LV3 屈強LV3
威圧LV1
コンゴウカンガルー 魔物 雄
状態:健康
主人:ジルグ・グレイズ
体力734 魔力66 俊敏645 知力403
器用428 筋力938 耐久912 耐性487
抵抗479 運386
スキル
拳術LV4 跳躍LV2 屈強LV3 動体視力LV1
そして従魔達は……うん、筋肉だ。この一言に尽きる。
新しく「威圧」と「動体視力」のスキルをそれぞれ習得しただけでなく、草と水と塩が主食なのに筋肉の量が増えていて、前よりも体の厚みが増して逞しくなった。
戦闘スタイルは違えど前衛で活躍してくれているから、後衛のロシェリとアリルは安心して戦えている。
「この山を下りれば、ベリアス辺境伯領ね」
「やっと……着くんだね」
「そうだな。でもまだ、ガルアの町までは旅が続くぞ」
「……そうだった」
もうすぐ旅から旅への日々が終わると思っていたロシェリが俯き、軽く落ち込む。
水を差すようで悪いけど、この旅の終着点はベリアス辺境伯領じゃない。俺達の目的地はベリアス辺境伯領の中心地、ガルアの町なんだから。
「だいぶお金も溜まったし、馬車便があれば馬車便に乗る?」
「それもいいな。こいつらなら、余裕でついて来れるし」
当然とばかりに従魔達は頷く。
そんな中、ウィンドサーチに人間の反応が引っかかった。人数は十五人ぐらいで、その場に留まっているのかと思いきや、急に全員が動き出してこっちへ接近してきた。
「人がいる。数は十五人でこっちへ接近中だ」
「なん……で?」
「向こうにもウィンドサーチの使い手か、探知系のスキルの使い手がいるんでしょうね。問題は、何の用でこっちへ来ているかね」
確かに、どういう理由で近づいて来るかは重要だ。
助けを求めに来るのか、それとも俺達を襲うために来るのか。
事前に調べた情報だと盗賊の類はいないって聞いたけど、だからって油断はできない。
「何にしても警戒だ。盗賊だったら、腹括れ」
そう告げると二人の表情が少し強張った。
これまでに俺達は魔物や動物は殺めていても、人を殺めた経験は一度も無い。
でも相手が盗賊だったら、嫌でもそれをやらなきゃならない。でないと、どんな目に遭うか。特に女であるロシェリとアリルは。
だからこそ、表情を強張らせながらも襲撃に備えて武器を構えている。
実際にやれるかはともかく、立ち向かおうという姿勢を見せているなら大丈夫だろう。
俺もハルバートを手に従魔達と前へ出て、立ち向かうべく心の準備をする。
「もうすぐ来るぞ」
徐々に近づいて来る反応は、俺達が動かないからか速度を緩めている。
散開する様子も奇襲するために潜む様子も無く、揃って正面から姿を現したそいつらは一目で分かるほど盗賊な連中だった。
剣や斧やナイフを持っているそいつらは、俺達を見ても武器を構えず喋り出す。
「ひゅう、マジかよ。まだガキとはいえ、女が二人もいるぜ」
「しかも一人はエルフじゃねぇか。こりゃ楽しみだ」
「どっちも貧相だが、遊べるんなら問題ねぇか」
全員が全員、都合の良い未来を思い浮かべてニヤけている。
前に出ている俺どころか、マッスルガゼルもコンゴウカンガルーも無視かよ。しかも奇襲も強襲もせず正面から堂々と現れて目の前でお喋りとか、完全に俺達を舐めている。なにせ「完全解析」を使って、全員の職業が盗賊って確認する時間があるくらいだ。
だったら遠慮も躊躇もしない。油断している、あいつらが悪い。そもそも盗賊だから悪い。だから魔法で不意打ちの先制攻撃しても、俺は悪くない。
「シャークブラスト!」
発動した水魔法により、水で形成された複数の鮫が一斉に盗賊へ襲い掛かる。
油断していた盗賊達は驚きながら応戦しているけど、不意を突かれたから混乱している。
「いくぞ! クイックアップ!」
俺の掛け声にマッスルガゼルとコンゴウカンガルーが鳴き声で応え、自己強化をして共に混乱している盗賊達の中へ突っ込む。
近くにいた奴を一閃、別の奴を石突きで殴打、シャークブラストに襲われて負傷している奴の胸を槍の部分で貫く。
手に伝わってくる感触や、今までに感じたことの無い訳の分からない感覚を押し殺し、とにかく武器を振るうのに集中するため魔法を使う。
「アイアン、ハート!」
アイアンハートは「魅了」や「恐怖」のような、精神へ影響を与えるスキルに対抗するための自己強化魔法だ。こいつでどうにか平静を保ち、戦い続ける。
時折飛来する矢と魔法はロシェリとアリルの援護だろう。直接そっちへ襲い掛かろうとした奴らは、マッスルガゼルとコンゴウカンガルーによって物理的に沈められていく。
「くそっ、このガキ!」
斧を振り上げて迫って来る奴と、その後ろで矢を受けて転がっていた奴の位置を入れ替え。
離れた場所へ強制移動させられた結果、振り下ろされた斧は空振りして地面に直撃。急な状況の変化に戸惑っているところへロシェリの氷魔法、アイスパイルで腹を貫かれた。そいつと位置を入れ替えて俺の傍へ移動した奴は、槌の部分で頭を強打する。
「強振」スキルもあって嫌な音と感触がして血が飛び散り、返り血を浴びた。
「ぐっ……おぉぉぉおっ!」
目の当たりにした光景に胃が締めつけられて、中身がこみ上げてくる。
それをアイアンハートで強化した精神力で必死に堪えながら、体と心の震えを振り払うように声を上げて盗賊を殺めていく。
やがて盗賊を全滅させ終わると、張りつめていた気持ちとアイアンハートの効果が解けて吐いた。蹲ってとにかく吐いた。相手が盗賊で、こっちは襲われそうで、腹を括っていたつもりだった。それでも人を殺した感触に耐え切れず、吐いた。
「ジルグ、君!」
ロシェリが駆け寄ってきて、大丈夫だよって何度も言いながら背中を擦ってくれる。
胃の中身はもう何も無いのに吐き気は収まらず、もう口からは吐き出す息と垂れる唾液しか出ない。
「大丈夫、大丈夫……だから」
「そうよジルグ。あなたは間違っていない。こうしなきゃ、私達は無事じゃ済まなかったんだから」
アリルも加わって背中を擦ってくれる。
弓矢と魔法で戦っていた二人は耐えられたようだけど、直接手を下すとこんなに負担になるものなのか。
これは能力の数値の上で、耐えられる耐えられないの話じゃない。経験を積まなくちゃ、絶対に耐えられるようにならない。
胃が締めつけられる感覚が治まらなくて、頭の中がぐるぐる回って気持ち悪い。
「水……」
次元収納から水袋を取り出して水を含む。でも飲み込むことができなくて、全て吐き出す。
口の中を洗ったから、気持ち気分が良くなったような気がする。
「これは駄目ね。落ち着くまで休みましょうか」
「うん……。ジルグ、君。ゆっくり、してて……ね」
「分かった……」
お言葉に甘えて、ゆっくり休むとするか。
今回の件は、「完全解析」じゃ見れない強さが必要なのを痛感したな。
****
しばらく休んだお陰で、だいぶ気分が落ち着いた。
返り血を浴びた服を着替えて防具を拭い、地面に転がったままの盗賊の死体を次元収納へ回収していく。
アンデッド系の魔物にならないよう焼却処分してもいいけど、こいつらが賞金首だったら金になるし、死体でも騎士団へ提出すれば盗賊討伐の報酬が出る。だからちょっと気分は悪いけど回収はしておく。
生物が入らない次元収納へ入れる度に死んでいるんだって実感して、殺めた時の感触が蘇る。
頭を振ってそれを振り払って回収を終えた俺達は、最初にこいつらの反応があった場所へ向かうことにした。
もしもそこがアジトなら、これまでに奪った物があるかもしれないからだ。
「それは、どうなる……の?」
「報告をした時点で持ち主が届け出を出していない限り、討伐した冒険者の物よ。大抵の持ち主は、奪われるついでに殺されちゃうから滅多にないけどね」
「ただ、あまり期待はできないと思うぞ」
なにせ、この道中に盗賊はいないって話だったんだ。となると、あいつらは最近になってここへ来た可能性が高い。
盗賊が重い荷物を持って移動しているとは思えないし、「完全解析」を使った時に「空間魔法」スキルを習得している奴はいなかった。
大荷物を次元収納で動かせない以上、あまり物を持っていないと考えるのが自然だろう。
「ここだ」
到着した場所は高さ十メートルくらいの崖がそびえ立ち、そこに洞窟があった。
「いかにも盗賊のアジトって感じね」
「中……誰も、いない?」
「ウィンドサーチ。……うん、大丈夫だ。誰もいない」
無人であることを確認して中へ入ると通路になっていて、途中で左右に分かれている。
俺とコンゴウカンガルーは右へ、ロシェリ達は左へそれぞれ進むことにして、ロシェリの光魔法と俺の火魔法を明かりにして先へ進む。
しばらく進むと広めの空間に出て、そこには焚き火の形跡や食べられた後の兎や野鳥の骨と皮が転がっていた。
ここがアジトなんだと判断して調べていると、三つの空間収納袋を発見。容量はあまり大きくないようだけど、中からは武器、防具、金、魔道具っぽい物、古びた本や高価そうな本が詰まっていた。
「おぉ……。何も無いと思っていたら、思わぬ収穫だ」
しかも金は銅貨や銅板が多いものの、数枚だけど銀貨や銀板、金貨もある。
届け出が無ければ、結構な臨時収入になりそうだ。
普段から次元収納を使っているから、空間収納袋の存在をすっかり忘れていたな。そうだよ、こいつがあれば空間魔法が無くとも持ち運びできるじゃないか。
おそらくは奪ったこれを入れ物として利用しているか、物が入った状態で奪ったんだろう。
これも盗品として騎士団へ見せなきゃならないから次元収納へ入れ、さらに調べてみるけど他には何も無かった。
合流するためにロシェリ達の方へ向かうと、同じように広い空間になっている場所の入り口でロシェリが蹲って泣いている。寄り添って慰めているアリルも憔悴していて、今にも泣きそうな表情だ。
どうすればいいのか分からないマッスルガゼルは、オロオロとその場で右往左往している。
「どうした、何があった」
「あっ、ジルグ……。あれよ……」
顔を逸らしながらアリルが指差した先を見ると、さっきの場所より狭い空間に裸の女性の死体が三つ転がっていた。
「うっ……」
思わず目を背けたくなるほど酷い状態で、死ぬまで体を弄ばれて穢されたのが窺える。
こんなのを見たら、同じ女の二人は耐えられないだろう。さっきの戦いで一歩間違えていたら、二人もこうなっていたんだから。
「ジルグ……君……」
顔を上げたロシェリの顔は真っ青だ。
前髪で隠れている目からも涙が零れていて、頬を伝って地面に落ちている。
これは落ち着く時間が必要だな。
「大丈夫だ。後は俺がやっておくから、外に出てろ」
「で、でも……」
「さっきは俺を気遣ってくれただろう? そのお返しだと思って、今度は二人が休む番だ」
「……分かった。よろしくね。さっ、行きましょう」
足がふらつくロシェリをアリルが支えながら出口へ歩き出す。
二人があんな調子だからマッスルガゼルだけでなく、コンゴウカンガルーも一緒に行かせて俺一人で中を調べよう。
まずは遺品になりそうな物を探すか。あんな死体を持って帰っても親族は見たくないだろうから、せめてそういった物を持ち帰ろう。
奥へ足を踏み入れて探してみると、端の方に彼女達の衣服が放り捨てられていた。その中を探ってみると指輪とイヤリング、それと刃こぼれしているナイフがあった。おそらくはこれが彼女達の持ち物なんだろう。
「完全解析」で彼女達の名前から身元を調べて届けようかとも思ったけど、それはできなかった。面識が無い相手の親族へ届けるのは不自然だろうし、こんな死に方をした人に「完全解析」を使うのは、なんか間違っている気がしたからだ。
遺品はそのまま次元収納へ入れ、彼女達の死体がアンデッド系の魔物にならないよう火魔法で焼却処分する。
煙が洞窟に充満する前に外へ脱出して、立ち上がる煙をロシェリとアリルと一緒に眺める。
誰も一言も発さずそれを眺め、煙が出なくなったら皆で静かに両手を合わせた。
「なんか、今日は色々とあったわね」
「疲れ……た」
「ああ。体じゃなくて、気持ちの方がな」
今日はもう移動は止めだ。ここで野営をして、気持ちの整理をした上で明日以降に備えよう。
盗賊相手とはいえ人殺しと、そいつらによる被害の現実の目撃。
どっちも乗り越えるのに一筋縄じゃいかないけど、こればかりは逃げる訳にはいかない。俺達は冒険者だ、いつかはこんな日が訪れただろう。それが今日だった、というだけだ。
そんな事を三人で話して、今までとは違う面でも成長しようと決意した翌朝。二人はなんだか一皮剥けたような感じで、それを伝えたら俺もそんな感じだと言われた。
「内面的に、ちょっとは成長したってことかな」
「そうかもね。どうせなら、こっちも成長しなさいよね」
「うん……」
二人とも、自分の胸元を見ながら言わないでくれ。俺が気まずいから。




