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入れ替えスキルでスキルカスタム  作者: 斗樹 稼多利
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閑話 その後の少女


 ノトールの町にある、小さな酒場。

 夜は飲みに来るお客で賑わうそこに、僕はいる。


「では、新しくメンバーに加入したシアを歓迎して、乾杯!」

『乾杯!』

「あ、ありがとうございます」


 大柄で目つきが鋭い女性を中心に、僕を含めて女性ばかり六人で乾杯をする。

 彼女達はジルグ君達が旅立って三日後、冒険者ギルドに顔を出した時に声を掛けてくれたパーティーです。

 今回僕が巻き込まれた事件についても知っていて、新しいパーティーが決まっていないならどうかって誘ってくれました。

 僕は快く承諾して、その日のうちにこうして歓迎会を開いてくれた。


「いやぁ、大変な目に遭ったもんだねぇ」

「でも、あのやらしい目つきの連中と縁が切れたし、生きて帰ってこれたんだから良かったじゃない」

「前々から心配してたのよ? 変な事されないかなって」

「ホントホント。あぁいうバカな男達の事は、忘れるのが一番さ」

「でもって、忘れるのに一番いいのは、お酒をたくさん飲むことね」

『異議無し!』


 なかなかに豪快で威勢のいい人達だな。

 でも、僕のことを心配してくれているんだから、良い人達なんだろう。

 ギルドの職員さんも、この人達は信用のおける人達だって太鼓判を押してくれたしね。


「そういや、一緒に巻き込まれたっていう三人組はどうしたんだ?」

「彼らは三日前、この町を発ちました。なんでも、ベリアス辺境伯領を目指している最中だったようで」

「あぁ、あそこね。冒険者なら、一度は行ってみたいわね」


 実は僕もちょっと憧れてるんだよね。

 けど家族の生活が安定するまでは、まだまだこの町で頑張らないと。


「魔物寄せの薬が仕込まれてたんだって? 魔物、どんだけ寄って来たのさ」

「……何度も、たくさん……」


 あの日々は、ちょっとしたトラウマものだよ。

 今思い出しても、なんか泣きそうだし。


「ちょっ、泣くほど怖かったのかい!?」

「よしよし、もう大丈夫ですよ。お姉さん達がついてますからね」

「……はい。でもレッドウルフが五十二体も押し寄せてきた時は、さすがに死ぬかと思いました」

「五十二体!? レッドウルフとはいえ、五十二体に襲われたのかい!?」


 まあ、驚くよね。当事者としては驚くどころか、震えて死を覚悟することしかできなかったし。

 けれど、そんな絶望を彼らが払ってくれた。


「よく切り抜けられたね」

「さっき話に出た三人が、全部倒しちゃったんです」

「一緒に巻き込まれた三人組が? 凄いわねぇ。聞いた話だと、シアと変わらない年頃の子らしいじゃないの」


 正確には従魔二体もいたけどね。けれど、本当にあれは凄かった。

 特にジルグ君が武器を振り回して無双してる光景は、今でもはっきり思い出せる。

 ロシェリさんもアリルさんも従魔二体も凄かったけど、ジルグ君は別格という感じだった。

 そういえば、レッドウルフの位置が入れ替わっていたことについて、彼らに聞くのを忘れてたな。誰かのスキルか魔法なんだろうけど、一体なんだったのかな。


「そうですね。特にジルグ君って人は、嫉妬するぐらい強かったです」

「へぇ。それは残念だ。町に残っていたら、手合わせをしてみたかったな」


 乾杯の音頭を取っていた女性が獰猛な笑みを浮かべた。

 彼女がこのパーティーのリーダーで、ランクはCランク。まだGランクの僕からすれば、高嶺の花と言っても過言じゃない。

 まあ尤も、花というよりは獣って感じだけど。


「リーダー、そんなんだから婚期を逃すんですよ」

「君付けするってことは男の子なんだから、別の意味で興味を示さないと」

「うっせ、うっせ! いいだろ別に! ていうか、まだ逃してねぇよ!」


 一応結婚願望はあるんだ。

 女性冒険者って実績が積み上げられるのに比例して、婚期が遠のいていくって話を聞くからね。

 理由は様々だけど、高ランクになるか経験が長いほどその傾向が強くて、諦めて一生お一人様宣言をするって人もいるらしい。

 ……他人事にならないよう、僕も気を付けよう。


「ふんだ。いいんだよ、私はアーシェ様みたいになるのが夢なんだ、そうすりゃ男なんて向こうから寄ってくるさ」

「とか言い続けて、もう何年経つか」

「そろそろ年齢と真剣に向き合わないとね」

「うっせ! うっせ!」


 大変みたいだな、この人達も。

 というか、アーシェって誰だろう。


「あの、そのアーシェ様ってどなたですか?」


 できるだけにこやかな表情で尋ねると、リーダーは驚愕の表情に包まれた。


「はあぁぁぁぁっ!? お前、知らないのかアーシェ様を!」


 近い近い近い。リーダー、顔近いです。僕にその気はありません。


「落ち着いてよリーダー、今はその名前を知らない人がいてもおかしくないですよ」

「どっかの貴族の側室に入ったのを機に引退して数年、お亡くなりになってからは十五年も経ったんですから」

「分かってるよ。よし、じゃあシアに教えてやるよ。アーシェ様の武勇伝をよ」


 リーダーが喜々として語りだした、アーシェって人の武勇伝。

 当時の女性冒険者や冒険者を目指す少女は誰もが憧れたというその人は、二十年くらい前に活躍していた平民出の女性冒険者。

 普段は戦いとは無縁そうな心優しい人物でありながら、いざ戦いになるとガントレットを装備した拳や蹴りで敵を殲滅する。

 滞在していた町へオークキング率いるオークの軍勢が迫った時は迎撃戦に参加し、オークキングを一対一で倒してそのまま一人で巣まで乗り込み、残っていたオーク達を殲滅して囚われていた女性達を解放したとか。

 商人の護衛中に現れた盗賊数十人を一人で全滅させ、トドメは共通して股間の蹴り上げで男として再起不能にしたとか。

 オーガに襲われていた貴族の助っ人に入り拳同士をぶつけてオーガの拳だけを砕き、さらには角をへし折って延髄蹴りで倒したとか。

 とある町の騎士団を壊滅寸前にまで追い込んだサイクロプスに単独で挑み、攻撃を掻い潜って腕を足場に駆け上り、巨大な目に叩き込んだ拳の一撃で倒したとか。

 本当なのかと思うような内容ばかりだけど、冒険者ギルドに記録が残っているって話だから本当なんだろう。


「他にもヒュドラやワイバーンや飛行能力の無いランドドラゴンを倒したとか、百体以上のトロールの群れの半数以上を一人で倒したとか、色々あるんだ。そうした功績から、名誉士爵の位を貰ったんだ」


 それは純粋に凄いと思う。

 平民出の、しかも女性が名誉とはいえ貴族になるのは相当大変なはずだ。

 もしも僕がその頃に生まれていたら、確実にその人に憧れていただろうな。


「でも、もうお亡くなりになったんですよね?」

「そうなんだよ。十五年ぐらい前にそれを知った時は、憧れてた連中と一緒に弔いの飲み会を開いたぜ」


 弔いの飲み会って、どうなんだろう。まあ、弔う気持ちがあればいいのかな?


「リーダーってば、今でもアーシェ様の姿絵を持っているくらい憧れてたもんね」

「バカ、今でもあの人は私の憧れだ! ほら見ろ、シア。これがそのアーシェ様だ」


 懐から取り出した二枚の古びた紙を開いて、アーシェって人の姿絵を見せてくれた。

 どっちもだいぶくたびれていて、一方には長い髪を束ねて獰猛な笑みを浮かべ、握りしめた右拳を左手に叩きつける姿が。もう一方には、同じ女性が優しそうに微笑んでいる姿が描かれている。


「どうだ? 武勇伝だけじゃなくて、外見もいい感じだろ!」


 確かに。凄く整っている訳じゃないけれど、美人かと言われれば美人に違いない。

 でも……うん? なんかこの人、ジルグ君の面影があるっていうか……。

 この場合、ジルグ君にアーシェって人の面影があるって言う方が正しいのかな?

 そういえば、この人が亡くなったのは十五年ぐらい前。ジルグ君は僕と同じ十五歳。

 ……ひょっとして。


「あの、このアーシェって人に子供はいるんですか?」

「ん? あ~、いたようないなかったような……。うん、分からん!」


 胸を張って言うようなことじゃないと思います。あと、その揺れた胸が羨ましいです。


「引退してからは表舞台からも姿を消して、亡くなるまでは何も聞かなかったものね」


 あちゃあ。これじゃあ僕の推測も、推測の域を出ないままだ。

 本人に聞こうにも、もう町を出ちゃったし。だからって、わざわざ追ってまで追及するようなことでもないし……。

 まあいいか、これは僕の胸の中にしまっておこう。また会えた時に聞けばいいや。


「よし! いずれは私もアーシェ様のようになれるよう、もう一回乾杯だ!」

「えぇぇぇぇっ。そろそろ真面目に考えないと、余計に婚期遅れるわよ」

「私達もそろそろ、ねぇ?」

「考えたいお年頃」

「せめて彼氏くらいは欲しいなあ、なんて」

「お・ま・え・らー!」


 僕も女だから、リーダー以外の皆さんの気持ちは分かります。

 だけどジルグ君の強さに嫉妬している今、僕はどっちかというとリーダー寄りかな。

 でも結婚願望は捨てられないから、そっちもできるだけ頑張ろう。


「ふん。勝手に言ってろ。とにかく乾杯だ、乾杯」

「はいはい。乾杯」

『乾杯!』


 なんか訳の分からないうちに二回目の乾杯。

 あんまりお酒は強くないから、ほどほどに楽しんで途中から果実水に切り替えよう。


「そういえばシアちゃん知ってる? 私達この前、手紙を届ける依頼で近くにあるエルフの集落に行ったんだけどね」

「そこのエルフ達が、なんか騒いでいたのよ。タブーエルフの呪いだって」


 タブーエルフ? 聞いた事が無いエルフの名称だなぁ。

 エルフはハーフエルフのアリルさんしか見たことがないけど、ライトエルフとダークエルフ、他種族と混じったハーフエルフの三種類があるのは知っている。でもタブーエルフなんて、今までに聞いた事が無い。


「タブーエルフってなんですか?」

「私達も初めて聞いたんだけどね、なんでも禁忌を犯したエルフが変化するエルフなんだって」


 へえ、エルフに禁忌なんてあるんだ。


「その禁忌を犯すと、本来の肌の色が逆になるんですって」

「肌の色が逆に?」

「そうなのよ。金髪に白い肌のライトエルフは黒い肌に、銀髪に黒い肌のダークエルフは白い肌になるみたいなの。ハーフエルフも同様ですって」

「へぇ、初めて聞きました」


 つまりタブーエルフになるとダークエルフは銀髪に白い肌、ライトエルフは金髪に黒い肌……に……。

 ……アリルさん!? あなた、ただのハーフエルフじゃなくて、タブーエルフだったんですか? 禁忌って、いったい何をやらかしたんですか!?

 ひょっとして、今の話に出てきたタブーエルフって、あなたじゃないでしょうね!


「で、その呪いって言ってたのはなんだっけ?」

「今まで普通にできていたことが急にできなくなった、でしょ。忘れないでよ」


 できていたことが急にできなくなった? 何それ。


「ごめんごめん。で、そうなったのは追い出したタブーエルフの呪いだって、エルフ達が言っていたのよ」

「でも、全員がそうなった訳じゃなくて、追い出した場にいたエルフばかりそうなったのよ」

「そうそう。だから余計に呪いだって騒いでいたんだったな」

「へ、へぇ……」


 もしも、その呪いとやらが本当にアリルさんのせいだったら、僕はどう反応すればいいんだろうか?


「そのタブーエルフっていうのになったエルフ、なんていう名前なんですか?」

「……なんだっけ?」

「確かアリルだったね。犬人族とのハーフエルフの」


 アリルさあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!

 本当にアリルさんだったのはともかく、呪いとかまでは君のせいじゃないよね? 他の何かが原因だよね?


「まあ、そもそもあのエルフ達、呪いになんて掛かってなかったけどね」


 えっ? そうなの?


「そんなのに掛かっていたら、体から呪詛っていうなんか黒いもやが出るものね」

「私の先天的スキル「状態感知」でも、普通に健康体だったし」

「勝手な言いがかりだったんだろね」


 あっ、良かった。アリルさん、呪いを掛けた訳じゃないんだね。

 いやいや、そもそも呪いができるかどうかも分からないじゃないか。単に向こうが、勝手な言いがかりをつけているだけということもある。

 というか、呪いとかアリルさんがタブーエルフだってことに気が向いていたけど、追い出したって何? 誰を?

 話の流れからしてアリルさんなんだろうけど、どうして? 禁忌を犯したから?

 ……駄目だ。なんか色々新しい情報が多すぎて、頭が痛くなってきた。


「あら、どうしたの? 酔っちゃった? お姉さんとベッドで寝る?」

「おいおい、新入りを食うのはやめとけよ」


 えっ、こっちのお姉さんはその気のある人なの?


「やめてよリーダー。私は可愛い女の子を愛でるのが好きなだけで、性的興奮はしないのよ」


 それもそれで反応に困ります。第一、僕は家に帰って弟や妹と寝るのであなたとは寝ません。

 しかし、伝説的な女性冒険者の子供かもしれないジルグ君に、禁忌を犯してタブーエルフになって集落を追い出されたアリルさんか……。

 ひょっとすると僕、色々な意味で凄い人達と知り会っちゃったのかな?

 まあいいや。そんな疑問を解決するよりも、明日からこの人達と一緒に頑張ってお金を稼ごうっと。


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