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入れ替えスキルでスキルカスタム  作者: 斗樹 稼多利
27/116

一時の滞在と真相


 場所をギルドマスター室から解体所へ移し、五十二体のレッドウルフを次元収納から取り出していく。

 全部を床に並べたら足の踏み場がなくなるということで、小山を作るように積み重ねていったら、興味本位で付いて来た秘書らしき女性が少し驚いた表情を見せてくれた。


「おいおい、マジか。いくらレッドウルフが集団行動をするとはいえ、こんなたくさんの数は見たことがねぇぞ」


 解体職人のおっさんが、呆れながらレッドウルフの山を見上げている。他の職人達も同様だ。

 俺も見たことがありません。だってこいつら、魔物寄せの薬に誘われて襲ってきたいくつかの集団だから。

 あの時はなんか変なテンションのまま戦ったけど、我ながらよくこれだけの数を討伐できたもんだ。


「こんなに多いんじゃ一度に解体できねぇな。坊主、悪いが十体残して空間魔法で保管していてくれ。そんで残りは何日かに分けて提出してくれないか? でないと、他の解体作業に支障が出そうだ」


 別に、それくらいならお安い御用だ。こっちはそっちの仕事へ支障をきたすつもりは無いんだから。


「いいですよ。ただ、他にもありまして」


 続けて取り出したのはビッグフロッグと、マルスさん達を襲っていたブラッドフォックス九体だ。

 おっさんと職人達が、まだあるのかよって顔してる。


「坊主。お前、俺達を過労死させる気か?」

「そんなつもりは一切無いです」

「だったら、これはレッドウルフとは別の日に出せ。ブラッドフォックスは纏めて出していいが、ビッグフロッグはデカいからこいつだけで頼む」

「分かりました」


 そうなると、しばらくはこの町に滞在することになるか。

 これまでの旅は着いた翌日にはもう旅立ってたから、数日とはいえ滞在し続けるのは初めてだな。


「素材は全部、ギルドが買い取っていいのか?」

「食べられる部分は、全部こっちで引き取ります」


 でないと、馬車で酔っているのに食欲全開のロシェリが絶望しかねない。


「あいよ。そんじゃ、明日の朝にまた来い。今日の十体分の買い取り金と肉を渡すから、その時に次の解体する分を置いていってくれ」

「分かりました」


 とりあえずこれで話は終了。

 レッドウルフを十体残して他は次元収納へ戻し、女性を伴って一旦ロビーへ出た。

 そこにはアリルとロシェリだけでなく、ギルドマスターとマルスさんとシアもいて、件の三人を引き取りに来ていた騎士団へ対応していた。


「あっ、おか……えり。何か、食べ物……。お腹……空いた」


 顔色は優れないのに食べ物をねだるロシェリの安定っぷりに、少し尊敬の念を抱きそうになりながら干し肉を渡す。

 モソモソと食べだすと若干調子を取り戻したように見えるのは、気のせいだろうか?


「あんた、よく食べれるわね」

「だって……お腹、空いたんだ……もん」


 だからって酔った状態でも食欲旺盛なのは、たぶんロシェリだけだと思う。


「これで引き渡し手続きは完了です。ではマルスさん、シアさん、詳しくお話を聞きたいのでご同行を」

「うむ。よろしく頼む」

「はい……」


 どうやら俺達が一緒に行く必要は無いようだ。関わって報告書が王都に渡って、騎士団所属のあの家族が絡むと厄介だから正直助かった。

 連行される三人と一緒にマルスさん達がギルドを出るのを見送ると、野次馬達は解散して、ギルドマスターは肩を回しながら奥へ引っ込んだ。


「では、私もこれで失礼します」


 女性も一礼をすると仕事へ戻っていき、残された俺達は討伐報酬と依頼の報酬を貰うために受付へ向かう。

 そこで職員の女性から、依頼の報酬である金貨三枚、それと討伐報酬として金貨四枚と銀板一枚、銀貨が三十二枚と銅貨十六枚を受け取った。

 やっぱりレッドウルフとはいえ、五十二体も倒すと報酬がたくさん出るんだな。さらに、それだけじゃなかった。


「今回の依頼達成と討伐内容により、アリルさんはDランクになりました」

「本当ですか!?」


 返却されたアリルのギルドカードのランクがDになっていて、それを受け取ったアリルは気分の悪さも吹き飛んで小躍りしそうなほど嬉しそうだ。

 それを温かい目で見ていたら、ハッとしたアリルは腕組みをしてそっぽを向いた。


「ふ、ふん。これくらい当然よ。言ったでしょ、期待の星だって! Dランクに近い方のEランクだって!」


 なんでそう、素直じゃないかなぁ。でも毎回の如く、尻尾は嬉しそうに揺れてるし耳まで真っ赤だから隠しきれてない。

 この後は受け取った金を分配し、職員から聞いたオススメの宿へ行こうとしたらダンさんが到着。マルスさんに頼まれていた、謝礼の金貨十枚が入った袋をくれた。

 心の中で正直に言います。何気に忘れてました。ダンさんって影が薄めだから。

 顔と口にはそのことを出さずに金貨を受け取って、マルスさんは騎士団の人達と一緒に出て行ったことを伝えたら、自分は別の仕事を頼まれているから大丈夫だと言い残して出て行った。


「忙しい人ね」

「だな」


 でも今回の件は、ひょっとしたら何かしらの裏があるかもしれないんだ。何かとやることがあるのかもしれない。

 そういうことで納得しておいて、受け取った金貨も分配したら改めて宿へ出発。

 到着した宿はなかなかしっかりした造りの大きめの宿で、料金が高いんじゃないかと思ったけど良心的な値段だった。しかも複数人で同じ部屋にすれば、一人部屋を複数取るより値段がお得になると言われた。


「三人部屋は空いているけど、どうする?」

「お願い、します……!」


 ここでもロシェリがいつもの意味不明の積極性を発動させて、あっという間に手続きを済ませてしまう。

 アリル、いいのかって顔をこっちへ向けないでくれ。いずれお前も諦めて、受け入れざるを得ないって分かるから。

 それにな、俺はもう……これに関しては諦めた側の人間なんだ。


「ベッド、ベッド……!」


 部屋に着くやいなやローブを脱いだロシェリは、ベッドに飛びこんで枕を抱えて何度も寝返りを打っている。

 宿に泊まるたびやっている、半ば儀式のようなその動きは、密かに喜びの舞と名付けている。


「それで、しばらくここへ滞在することになりそうだけど、どうするの?」


 上着を脱いだアリルの上半身は胸元を隠す帯みたいなものだけで、如何に真っ平でも少し目のやり場に困る。

 下も下で短パンだから、生足がほとんど全部見えている状態。さっきの背負っていた時の感触と感情を思い出し、つい目を逸らしてしまう。


「用事が終わるまでは、この町で活動しようと思う。解体してもらう物が増えたら長引くから、採取とか町中の用事みたいな依頼を受ければいいだろう」

「いい……と、思う」

「同じく。あっ、でもやっぱり少しは魔物狩りたい。「解体」スキルのレベル上げたいから」


 それもそうか。なにもギルドの職人に解体してもらうことはないんだ、少数を狩ってアリルが解体すればいいんだ。

 食べられる肉が増えると思ったのか、寝返りを打っていたロシェリが抱えていた枕を上へ放り、両手を挙げて賛成と言っている。直後に上へ放られた枕がロシェリの頭上へ落下、ぷへって言った直後に恥ずかしくなったのか、真っ赤になって枕を抱えて毛布の中に潜って丸くなった。

 それを見ていたアリルが呟く。


「ダブルの自滅ね」


 放った枕が頭上に落ちる自滅と、そんな姿を晒してしまった自滅のことを言っているんだろう。


「とりあえず、今日はこのままゆっくりしよう。明日から、今決めた内容で活動な」

「オッケー」

「分かっ……た」


 こうして俺達は、ノトールの町でしばらく活動する事にした。


 ある日は薬草採取の依頼をこなししつつ、解体の練習用に数体だけ魔物や動物を狩ってアリルが解体し、俺達はそれを教わる。

 触れた感触で骨格や関節を把握して刃を入れると言われても、そう簡単にはできず四苦八苦してしまう。

 特にロシェリは肉を見るも無残な姿へ変えてしまったからか、肉だった塊を前にマジ泣きして俺に引っ付いてきたから頭と背中を撫でて慰めてやった。食べられるから大丈夫だと肉を焼きだすアリル、ナイスフォロー。

 ただ、採取した薬草を提出したら品質を調べた女性職員に迫られた。色恋とかじゃなくて、距離的に。


「どうしてこんな! 最高品質の物ばかりなんですか!」


 「完全解析」のレベルを上げるため、「完全解析」を使って高品質の薬草を採取していたからです。

 そんなことが言えるはずも無く。適当にはぐらかしておいた。


 またある日は教会が運営する孤児院のお祭りの手伝いの依頼を受け、アリルは屋台で料理の手伝い、俺とロシェリは子供達が勝手に外へ出たり喧嘩をしたりしないよう見回り。そして従魔達は……。


「いっけー!」

「すっげー! めっちゃ速い!」


 マッスルガゼル、子供達が乗ったリアカーを引いて爆走中。

 急遽作られた空き地を周回する姿はどこか楽しそうで、先日馬車を引いた時に何か目覚めたのかもしれない。


「うおぉぉぉっ! 速えぇぇぇっ!」

「もっと跳ねて、跳ねて!」


 コンゴウカンガルー、子供を両腕に一人ずつ乗せて追いかけっこ中。

 子供を二人も肩車しているのに平然と跳ねて、追いかけてくる男の子達を引き離している。

 こいつもエルフの子供達やヨルドさんの子供達と交流して、何かに目覚めたのかもしれない。

 しかし、あんなに跳ねているのに、どうして子供は落ちないんだろうか。服か何かでも握っているのか?


 そしてまたある日には、人手不足だという公衆浴場で開店前の清掃作業をした。

 お礼に報酬とは別に一番風呂をもらえたのは、ちょっと嬉しかった。

 ただ、風呂上り後にロシェリとアリルの間に妙な友情が芽生えて、しっかりと手を握り合っていたのは何故だろうか。入浴中に何かあったのか?


「お互い、無い同士頑張りましょうね」

「まだ……成長期……」

「そうよ。私達には、まだ成長の余地があるわ」


 なんとなく友情の内容を察した。

 もしも成長したら、当然二人の柔らかさも……煩悩、退散!


 そしてある日は、依頼を受けずにギルド裏の修練場で修業をする。

 ロシェリは新しい魔法の習得に取り組み、アリルは弓矢を的へ放ち、俺はハルバートを振る。三人揃って魔法を的へ放ったりもしている中、一部でちょっとした盛り上がりが発生していた。

 その中心にいるのは、うちの従魔達だ。あいつらが初めて出会った時にやったような勝負を繰り広げ、前衛装備の人達から少し注目されている。


「やるな、あのマッスルガゼルとコンゴウカンガルー」

「誰かの従魔のようだが、よく鍛えられている」

「俺は見たぞ。あそこにいる三人が、あいつらを連れているのを」

「見たところ前衛一人に後衛二人だから、従魔を前衛に置いて補っているね」


 結果的にそうなっているけど、実際はただ勝手に従魔契約を結ばれて付いて来ているだけだ。

 最初はなんでだとか、どうしてだとか思ったけど、前衛として活躍してくれているから今はそうは思っていない。食事もその辺の草で大丈夫だからな。

 そうして今日一日を修業して過ごすと、嬉しそうにロシェリが報告してきた。


「闇魔法、適性があった……みたい!」


 両手の間から闇が漏れる光景は、見ていてなんだか禍々しいというか不気味というか……。

 見たところ、まだ制御が完全じゃないから「闇魔法」スキルの習得には至っていないけど、適性があると分かったのは心強い。

 闇属性は相手の能力を下げたり、麻痺や毒といったものとは一味違う状態異常を誘発させたりと、絡め手向きで有用性が高いということで、「闇魔法」スキルの持ち主は騎士団や冒険者から重宝されている。


「頑張って、闇魔法、習得……する!」


 やる気があるのはなによりだ。「能力成長促進」スキルもあるし、不得手な方だとしても習得は時間の問題だろう。

 しかし「光魔法」スキルの適性があるのに、「闇魔法」スキルの適性もあるのか。この適性って何で決まっているんだろうか。



 ****



 毎朝解体してもらった魔物の買取金と肉を受け取り、代わりにその日に解体してもらう分を提出し、依頼なり修業なりに打ち込む日々を過ごし、明日受け取るビッグフロッグでようやく全ての魔物の解体が終わる事となった。

 それを受け取ったら改めてベリアス辺境伯領を目指す旅に出発するため、この日は旅の準備に当てることにした。


「食料はどうする?」

「お肉は……いくらあっても、構わない」

「明日にあんなバカでかいカエルを受け取るし、これまでの分もあるから肉は買わないぞ」


 ビッグフロッグだけじゃない。今日受け取ったブラッドフォックスもあるし、これまでに保管しているレッドウルフもある。

 しかもレッドウルフの肉はロシェリの魔法で氷漬けにしてある。時間の流れが遅くなる次元収納へ入れてあるとはいえ、生肉を何日も保管しておくとさすがに痛むからだ。

 氷漬けにしてもいずれは痛むだろうけど、何もせず保管するよりは痛むのを遅らせることができる。


「そこを……どうにか……」

「あんたは肉が絡むと、どうしてそうも粘るのよ」

「お肉は、至高にして……究極!」

「……否定しないわ。色んな肉を食べるようになったのが、とても嬉しいくらいに美味しいもの」


 なんか肉の愛好者が増えた?

 まあ、金はあるから追加の肉を買えることは買えるけど、ここで甘やかしていいんだろうか……。

 いっか、最近の俺の不安は大抵杞憂に終わってるし。


「じゃあ買うか」

「……! いい、の!?」

「たまにはな。予算はどうする?」

「有り金……全部!」

「「却下」」


 さすがにそれは許可できない。

 同じことを口にしたアリルも同意見なのは当然として、なんでロシェリはその要求が通ると思ったんだろうか。そして落ち込むくらい、本気で言っていたのか。


「私の……お金、全部で……いいから……」

「駄目に決まってるでしょ!」


 というか、さっきの有り金全部って俺達のも含めて言っていたのかよ……。

 この後でアリルが軽く説教をして、俺がフォローを入れる形でなんとか治めて買い出しへ向かった。

 食料とポーション類の購入、鍛冶屋での武器と防具の点検、さらにアリルはDランクになった自分へのご褒美として新しい弓、それと防具の胸当てと籠手を購入した。


「見てよこれ。弓はトレントの木材とキラースパイダーの糸を使った品で、これまでより飛距離と威力が出るようになってるの。防具はストロングボアの皮を使っているから、伸縮性と丈夫さを併せ持っていて、よほど大きく成長しない限りは装備していられるのよ!」


 自慢気に装備品の説明をしているところを悪いけど、鍛冶屋の大将から同じ話を聞いたし、一応「完全解析」で見たから知ってる。

 それと、よほど大きく成長、ていうのはどこのことを言っているんだろうか。

 うん、なんとなく分かるけど、これは絶対に指摘しないように注意しよう。平手打ちでも貰いかねない。


「アリル、さん。その説明、店のおじさんから……聞いた……よ?」

「えっ、あっ……」


 ロシェリさんや、できればそっちの指摘もしないであげようよ。


「お、覚えているのならいいのよ! 新しい装備の性能を忘れて、余計なフォローをされて連携が乱れたら困るから、解説していたのよ!」


 アリルもアリルでどんな強がりなんだ。

 素直じゃないのは分かったから、もうちょっとマシな強がりを言ってくれ。

 そう思いつつ、今日はもう明日に備えてのんびりしようと思っていたら、宿へ戻ると女将さんから呼び止められた。


「なんか町長さんの使いって人が、お客さん達を尋ねて来てるんだけど?」


 女将さんの視線が向いた方向を見ると、椅子から立ち上がって歩み寄ってくるダンさんがいた。


「やあ、君達」

「どうも。何か用ですか?」

「実は例の件の詳細が分かったから、説明のため明日の朝に役場へ来てほしいんだ。巻き込んだ手前、説明は必要だろうって町長が」


 もう分かったのか? 町長とギルドマスターは心当たりがあったっぽいし、証拠の馬車も押さえてあったとはいえ、素早い解決だな。

 巻き込まれた身としては気になるから了解して、ダンさんが帰った後は予定通り、部屋でゆっくり過ごして英気を養った。



 ****



 翌朝、旅支度を整えて宿を発った俺達は役所へ向かう。

 受付に話は通っているようで、あっさりと町長の執務室へ通された。


「待っていたよ。まあ座ってくれ」


 出迎えてくれたマルスさん達は仕事をしていて、ソファには同じ理由で呼ばれたであろうシアが座っていた。


「よう、何日かぶり」

「そうだね。元気そうで何よりだよ」

「お互いにね」

「ど、どうも……」


 シアと向かい合う形でソファに座ると、仕事の手を止めたマルスさんが説明を始めた。

 今回の件は、来月に行われる町長選挙での敵対勢力によるものらしい。

 町長が選挙で決まることを疑問に思ったロシェリが尋ねると、バーナー伯爵領の町や村では継承ではなく、五年に一回の選挙で長を決めていると教えてくれた。

 なんでも伯爵家は代々平凡な者ばかりで、飛び抜けた逸材が生まれたことが無い。だからこそ、せめて町や村の長にはしっかりとした人物であり、実力者を据えるべきだと考え、国から許可を取った上で選挙という手段を実施している。


「手順としては、出馬表明を提出し、伯爵家主催で行われる筆記試験に合格すれば選挙へ進める」


 選挙の前にわざわざ試験をやるのか。

 バーナー伯爵って平凡の割に、人材探しには熱心なんだな。いや、平凡だからこそ熱心なんだろう。


「私もこの町をもっと良くしたくて、二期目を狙って出馬したのだが……」


 既に行われていた筆記を合格したのは四人。

 そのうちの一人が、前回マルスさんと町長の座を争った相手で今回の敵対勢力。

 頭こそ良いが人望という点はマルスさんに勝てず、既に町長としての経験と実績がある点からしても勝てそうにない。そう思った相手はこのままでは町長の椅子に座れないと判断して、今回の件に至ったようだ。

 役所に勤めている人を買収してマルスさんの予定を調べさせ、次に出張先の馬車の貸し出し業者を買収。わざわざ違法な魔物寄せの薬まで入手し、馬車に仕込ませたとのことだ。

 そうすれば出張から帰る途中、魔物に襲われて死亡したってことにできると思ったらしい。


「どうしてこっちじゃなくて、出張先のを買収したのかしら?」

「私達を油断させるためだとさ。行きが問題無ければ、帰りは行きよりも気が緩むと思ったらしい」


 変な所で知恵を働かせる奴だな。

 マルスさん達はシアの仲間達も買収されていたと睨んだようだけど、そっちは完全に無関係。

 こんな事になるとは知らなかったという、予定を調べてそれを流した役所勤めの人は、情状酌量の余地があるということで一年間の減給と一ヶ月の自宅謹慎で済んだ。

 ただ、馬車の貸し出し業者は言い逃れができず、ほぼ全員が騎士団に逮捕。そこから敵対勢力にも辿り着き、そいつも逮捕された。勿論、この事はバーナー伯爵にも伝えられることになっていて、せっかくの出馬資格が取り消しになった上に出馬は永久に不可能となるらしい。


「でも、どうしてそうまでして町長に?」

「伯爵様に近づけるからだよ。年に一回の視察で同行するし、年末年始に行われる領内の町長や村長の集まりには呼ばれるし、各町村の報告会にも出席するからな」


 意外と接点多いな。


「そこで……取り入る、ため……?」

「そうだ。加えて町長になれば、この町で好き勝手できると思っていたらしい。これが伯爵様に伝われば、選挙前の試験に面接が加わりそうだな」


 実力はあっても人格に問題有りってのが、今回判明したからそうなるだろう。

 というか、よく今までそういう人が町長にならなかったもんだ。


「要するに今回の件は、私を疎ましく思った小者が画策した悪だくみだったということだ。こんな事に巻き込んですまない」


 丁寧に頭を下げるマルスさんに、シアとロシェリが恐縮してオロオロしている。

 しっかし小者ね。確かに、考えている事もやっている事も小者っぽいから間違いじゃないか。

 この後、お詫びにとマルスさんが自費で金貨を二枚ずつくれた。


「いやあ、まさかの臨時収入だよ。これで弟や妹に新しい服でも買ってあげようっと」


 役所から出たシアは、貧乏育ちで大金に縁が無かったと言って金貨を手に喜んでいる。

 さらに仲間三人が捕まったことで護衛の報酬も全部一人で受け取ったことも教えてくれて、そのお金で久々に家族全員で外食したんだと嬉々として語った。


「ところで、あの三人の処分はどうなったの?」

「確か、冒険者ギルドからの除名と永久登録不能、高額の罰金、後は依頼人の町長さんへの違約金と慰謝料の支払いだったかな」


 厳罰って言っていたけど、そこまで行ったか。


「シア、さん……は?」

「僕かい? 一人でできる活動をしながら、仲間探しかな。そうだ、良ければ一緒に組まないかい?」


 実に魅力的な提案だとは思うけど、生憎と今日出発なんだよな。

 その事を伝えると、少し残念そうにされた。


「そっか、なら仕方ないね」

「シアが一緒に来ればいいじゃない」

「それはできないよ。今回は運よく大金が入ったけど、まだまだ家は貧しいからね。もっと頑張って稼がないと」

「貧乏暇無しってことか。大変だな」

「まあね。でも、嫌々やっている訳じゃないから、頑張るよ」


 そう言って見せてくれた笑みは、いつも少年っぽさが溢れるシアから初めて女っぽさを感じた。

 最後に、互いに頑張ろうと言って握手を交わして俺達は別れた。

 シアは引き続きこの町で家族のために冒険者として生きるため、俺達はベリアス辺境伯領を目指す旅を続けるために。


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