事案報告
順を追って整理しよう。
いきなり二台の馬車が爆走しながら現れたからか、門の前で番をしている騎士団員が驚いて慌てふためく様子が見えた。
叫び声でも聞こえたのか、門の中で通行人の審査をしている騎士団員達が何事かと姿を現す。
迫る馬車を見て武器を構えたり、両手を振って止まれと呼びかけてくる。
徐々に速度を落とした馬車は門の手前で停止。
ホッとする騎士団員達の前に、勢いよく馬車の扉を開いてマルスさんが登場。
そして、驚いた騎士団員の一人からの……。
「町長!? 先ほどやって来た冒険者から、魔物に襲われて亡くなったと聞いたのですが!?」
この発言が飛び出し、マルスさん達の時間が止まったかのように硬直。
今ここ。
「今のは、どういう意味ですか」
マルスさんに続いて馬車から降りたダンさんが、発言をした騎士団員へ問いかけた。
「先ほどやってきた冒険者から、町長の護衛をしていたら数多くの魔物から襲撃を受け、町長とその一行が仲間の一人と共に亡くなったと……」
言い辛そうに告げた騎士団員の説明に、あっという間にマルスさんの顔が真っ赤になって表情が憤怒に包まれる。一緒に死んだことにされたシアは、ショックからか表情を失っている。
今は部下を上司の下へ報告しに行かせていて、指示が届くのを待っているところだと騎士団員が説明を続けているけど、それどころじゃなくて耳に入ってないだろうな。
「そいつらは誰で、その後はどうした」
「はい?」
「その冒険者は誰で、お前達に伝えた後はどうしたと聞いている!」
迫力のある声で怒鳴るマルスさん、怖っ。
「ヒイッ! 彼らなら、冒険者ギルドへ報告に向かったであります! 名前の方は、上司への報告のために記録を取ってあります! おい、記録簿を持って来い!」
怒鳴られた騎士団員はちょっと怯えた後、敬礼しながら質問に答えて、部下の一人に記録簿とやらを持って来るよう指示を出した。
しかし、スゲー声と迫力だ。ロシェリがガタガタ震えながら俺の背中に密着して、小声で「ヒイィィッ」とか言って怯えてるよ。
「持ってきました。こちらです!」
騎士団員が持って来た記録簿を受け取ったマルスさんは、内容を見て眉間に皺が寄っていく。
「シアよ。逃げた連中の名前は、こいつらで間違いないな」
差し出された記録簿にある名前を見たのか、落ち込んだ表情になったシアは小さく頷く。
「そうか。お前達、この報告は誤りだ。見ての通り、私は生きている」
「そのようですね。ですが、念のために身分証を」
騎士団員に促されたマルスさんは身分証を見せ、その流れで俺達全員の身分証の確認と、「罪人の調」での審査が行われ全員が問題無しとされた。
ただ、問題はその後だった。なにせ魔物寄せの薬付きの馬車に、誤った死亡報告だ。マルスさんから話を聞いている騎士団員のまとめ役が、とても困った顔をしている。
「こ、これはとても私の判断では対応できません。すぐに上司へ報告させてもらいます」
「頼む。私はすぐに冒険者ギルドへ赴いて、報告をした冒険者へ対応してもらう」
「承知しました。では、後ほどギルドで合流ということで」
話し合いを終えて戻って来たマルスさんは、俺達にも後でギルドで合流しようと言いだした。理由はマッスルガゼルに馬車を引いてもらった報酬を渡すのと、アリルが嗅ぎ取った魔物寄せの薬の件を説明してもらいたいからだそうだ。
できれば同行して欲しいようだけど、ヨルドさん一家を送り届けてからでいいと気を使ってくれた。
どうせ俺達もヨルドさん一家を送り届けたら一度ギルドへ行く予定だから、この頼みを了承して一旦マルスさん達と分かれる。
例の魔物寄せの薬が仕込まれた馬車は騎士団が預かるようで、マッスルガゼルの手助けはもう必要無いと言われた。その時のマッスルガゼルは、なんか寂しそうだった。
「いやぁ、魔物寄せの薬と聞いた時はどうなるかと思いましたが、無事に到着できてホッとしました」
「同感です。俺も冷や汗が流れましたから」
ごめんなさい、嘘です。「完全解析」で知ってました。
でも魔物寄せの薬を知った時、冷や汗が流れたのは本当だから勘弁してください。
「で、アリルは大丈夫か?」
「……駄目。揺れ過ぎ……気持ち悪い」
魔物寄せの薬が仕込まれていると分かった途端、猛スピードで移動したからな。
馬車が凄く揺れたから、酔ったアリルは完全にダウンしている。吐かなかったのは、彼女なりの意地なんだろうと心の中で褒めておこう。
「ロシェリは? 大丈夫か?」
「なん、とか……」
ちょっと落ち込み気味のマッスルガゼルの背中でそうは言うけど、ぐったりしていて顔色も悪い。
けれど、今にも吐きそうなのを必死に耐えている。女の意地、侮りがたし。
「あっ、あそこです。あれが実家です」
指差した先にあるのは、本日定休日の札が掛かった年季の入った店。
店の前へ馬車を止めるとヨルドさんは中へ呼びかけ、しばらくすると老夫婦と中年の女性と三人の子供達が顔を出した。
どうやら老夫婦がヨルドさんの両親で、中年の女性がお兄さんの奥さんらしい。無事に到着したことを喜び合い、孫達を老夫婦がデレデレ顔で歓迎して、ヨルドさんの甥っ子と姪っ子はマッスルガゼルとコンゴウカンガルーに大興奮。
和やかな雰囲気につい笑みを浮かべつつ荷運びに取り掛かろうとしたら、ここで充分だと言われた。
「いいんですか?」
「両親や義姉もいますから、後は私達だけで大丈夫ですよ。それに、そちらのお二人が手伝える状態じゃないでしょ?」
指摘されたのは、気分が悪くて未だぐったり状態のロシェリとアリル。確かに手伝える状態じゃない。むしろ邪魔になりかねない。
「確かにそうですね。申し訳ありません」
「気にしないでください。護衛の仕事はちゃんとこなしてくれたんですから。はいこれ、サインを書いておいたので」
護衛したことへのお礼を述べながら、依頼完了の証のサインをした依頼書をくれた。これを冒険者ギルドへ提出すれば、依頼達成となって報酬が手に入る。
「では、これで失礼しますね」
依頼書を次元収納へ入れ、マッスルガゼルに乗っているロシェリはそのまま乗っていてもらい、馬車から降りたアリルは俺が背負ってヨルドさん一家と別れた。
見えなくなるまで手を振ってくれた子供達が微笑ましいけど、気分が悪い二人はそれどころじゃなさそうだ。
「ジルグ。ゆっくり、ゆっくり歩いてね」
「分かってる。俺も背負った状態で吐かれたくない」
頭から嘔吐されてたまるかっての。
「あぁぁ……。気分悪くて、今夜は何も食べれないかも」
「私は……食べれる」
「ロシェリ。あんた、何気に逞しいわね。胃袋が」
全くもって同感だ。でも、それはそれとしてアリルよ、身体を預けられるとちょっと困る。
どうしてロシェリといい、アリルといい、ほぼ真っ平なのにこんなに柔らかいんだよ!
前になんか胸がどうとか言っていた気がするけど、そんなの関係無いって! そこでしか女を判断するつもりは無いし、見た目が良くても性格が悪いのなんていくらでもいる。
第一ロシェリもアリルも体型が発育不足ってだけで、顔そのものは良い方だと思う。いや、ロシェリは前髪で目元が見えないけど、多分そんな気がする。
ああくそ、静まれ俺の心臓。確かにこちとら恋愛未経験で、同年代の異性との交流がほとんど無くて、男女の交わりも未経験だ。だからって天下の往来で変なことを考えるな。
とかなんとか考えていたらロシェリの柔らかさも思い出してきたよ、ちくしょう!
落ち着け、落ち着け。煩悩退散、煩悩退散……。駄目だ、アリルを背負っているせいで退散してくれない。
「……どうかしたの?」
「いや。早く用事を済ませて、宿を取らなきゃなって思ってた」
「……」
「?」
なんだ、この間は。
「……それもそうね。早く横になりたいわ……」
「……だな」
ふう。どうやら気取られなかったか。
って、余計に寄りかかってくるなぁっ!
こんなことがあって気持ちを落ち着けるのに集中していたせいか、一つ失念していた。
俺がそれを知るのは、まだずっと先の話だ。
****
私は今、ジルグに背負われている。
馬車に揺られ、気分が悪い私を気づかってくれた彼の優しさに感謝しつつ、お言葉に甘えさせてもらったわ。
(思ったより硬いし、ガッシリしてるのね)
あんだけ大量のスキルを持っているにも拘らず、しっかり鍛錬をしているだけあってジルグの背中からは逞しさを感じる。
でも今は、それどころじゃない。こんな状況で吐いたりなんかしたら、きっと嫌われてしまう。
故郷からも家族からも捨てられて、行き場も拠り所も見失っていた私には、仮令同情心からでも手を差し伸べてくれた二人の下にしか居場所はない。
そんな恩人の一人に背負われているのに、間違っても吐くもんですか。意地でも耐えてやるわ。
でも不安だから一言。
「ジルグ。ゆっくり、ゆっくり歩いてね」
「分かってる。俺も背負った状態で吐かれたくない」
でしょうね。背負った相手に頭から吐かれたい奴なんて、この世のどこを探してもいないでしょうね。
「あぁぁ……。気分悪くて、今夜は何も食べれないかも」
「私は……食べれる」
「ロシェリ。あんた、何気に逞しいわね。胃袋が」
体はぐったりして今にも吐きそうなほど青いのに、食欲だけは失わないんだから大したもんだわ。
そう思っていたら、今度はジルグが妙にソワソワしているような?
「……どうかしたの?」
「いや。早く用事を済ませて、宿を取らなきゃなって思ってた」
なんか、あからさまに誤魔化された気がする。
よし、最近になって使いこなせるようになってきた「色別」で、何を考えているのか見てやろうっと。
どれどれ……って、えぇぇぇぇぇっ!? なんで桃色の発光なのよ。これって欲情状態じゃない!
黒混じりじゃないから、悪い意味での下心がある訳じゃないんだろうけど、どうして急にこんな……私を背負っているから?
改めて自分の状態を確認しましょう。場所、ジルグの背中。状態、落ちないようしっかり密着中。
やっぱりジルグってば、私に女を感じてるの!? こんなペッタンコで女らしい凹凸の欠片も無い、集落でもあいつは貧相だから無いわとか言われていた私に、女を感じてるのっ!?
「?」
あっ、やばいっ。なんか返事しなきゃ。
「……それもそうね。早く横になりたいわ……」
誤魔化せた? これで誤魔化せたかしら?
「……だな」
いよっし。上手く誤魔化せたわ。
それにしても、私みたいな貧相なのにも反応してくれるなんて、なんかちょっと嬉しいわね。
ひょっとして本人が自覚していないだけで、こういう体型の子が好みなのかしら。ロシェリも私と似たようなものだし。
で、でも、だからって、簡単にジルグのこと好きになるほど、チョロくないんだからね!
嬉しいことは嬉しいけど。
****
冒険者ギルド前へ到着すると、なんか中から騒がしい声が聞こえる。
外にマッスルガゼルとコンゴウカンガルーを待たせ、もう大丈夫だとアリルは背中から降り、代わって足取りがフラフラで危なっかしいロシェリを背負って中へ入った。
「大人しくしろ!」
「抵抗するな!」
「放せ、放せよ! 俺達は何もやってねぇよ!」
野次馬で集まっている冒険者達の向こうから、荒々しい声とそれに抵抗する声が聞こえる。
なんとなく察しはつくけど、近くにいた女性冒険者に何事かと尋ねてみた。
「なんか誤った報告した奴らが、ギルドの職員に捕まっているのよ。しかも町長の生死絡みだって話よ」
やっぱりか。関係者だからと人ごみを搔き分けて前へ出ると、職員というよりも用心棒という風貌の男達に抑え込まれた三人の青年。それを鋭い眼差しで見つめるマルスさんとモノクロ眼鏡の初老の男。そして冷めた目をしているシアがいた。
「おぉっ、君達も来たか。ギルドマスター、彼らが先ほど説明した冒険者達です」
あのモノクロ眼鏡の人はギルドマスターだったのか。
呼ばれた俺達は前に進み出て、ギルドマスターへ一礼した。
「話は聞いている。魔物寄せの薬を嗅ぎ取ったハーフエルフとは、君かね?」
「……はい」
まだ気分がイマイチはアリルは、尻尾をダランと垂らしながら力の無い返事をする。
「大丈夫かね? 顔色が悪そうだが」
「ちょっと馬車の揺れで、酔っただけです」
「なるほど。そっちの背負われている子もかい?」
「そんなところです」
本人が答えられそうにないから、代わりに答えてやった。
「そうかね。調子の良くないところを悪いが、少し話を聞きたいからギルドマスター室まで来てくれたまえ」
「はい」
ギルドマスターに促されて移動する最中、後ろから捕まった三人の罵声が聞こえた。
余計なことをしやがって、お前のせいだと、責任転嫁をするような発言を繰り返している。
「僕もね、さっき似たような事を言われたよ……」
ついて来ていたシアが冷めた表情をしている辺り、仲間だった相手へ掛けるとは思えない言葉を浴びせられたんだろう。
ここはそっとしておいて……いいのか?
アリルの時にそっとしておこうとしたら、悉く構ったロシェリが正解だったし……。
いやでも、今回も同じになるとは限らないし、あの場だってそっとしておくのは間違いじゃなかったはず。それにあの時と同じ展開が、ここでも正解とは限らない訳で……。
駄目だ。なんか頭痛くなってきた。ここは軽く声だけ掛けておこう。
「あまり気にするなよ。悪いのは向こうだ」
「……うん」
悪い反応じゃない……よな?
うん、これ以上は何も言わずにおこう。
人知れずそう決めた頃に、俺達はギルドマスター室へ到着した。室内にはギルドマスターの秘書なのか補佐なのか、見た感じは有能そうな女性がいてこっちへ一礼する。
「まあ座りたまえ」
座るよう促されたソファにロシェリを下ろし、俺はその隣に腰掛け、アリルはその隣に座った。
マルスさんとシアは向かいのソファに座り、ギルドマスターは仕事用の席に座る。
「では、そちらのハーフエルフの子に聞こう。魔物寄せの薬が馬車に使われていたのは、本当なのかね?」
「私の嗅いだ匂いと、記憶が間違いでなければ」
アリルがそう答えるとギルドマスターは女性へ目を向け、直後に女性は小さく頷いた。
なんだ? 今のやり取りは。
「確証は無いと?」
「はい。私は「鑑定」スキルを持っていないので、匂いで判断しただけですから」
またギルドマスターが女性の方を向いて、女性が小さく頷いた。
なんなんだ、そのやり取りは。
「分かった。騎士団の方で「鑑定」スキルの所持者を手配して調べるようだから、この件はその報告が届いてから精査しよう」
そういえばアリルが薬に気づいた時、禁止薬物に指定されたって言ってたっけ。
もしも本当なら法に触れるから、騎士団もそこまで調査するんだろうな。
「次にシア君だったか。今回捕まえた三人は、以前から依頼を放棄したり魔物から逃げたりするような、素行の悪さはあったかね?」
いくらギルドマスターとはいえ、一人一人の素行や性格まで把握できるはずがないからな。確認するのは当然だ。
「いいえ。彼らは面倒くさがるところはありましたが、素行はそこまで悪くありませんでした。精々、僕をちょっとやらしい目で見てくるぐらいで……」
見た目と言葉遣いは少年でも、実際は女だからな。
ん、またギルドマスターが女性と目を合わせて、女性が頷いている。
ひょっとしてあの女性、嘘かどうかを見抜けるスキルを持っていて、それで偽証かどうか確認しているのか?
「今回の依頼中は、何か不審な点は?」
「いいえ。アンナさんを見てニヤついてたり、彼女でやらしい会話をしていたりはしていましたが、特に何も」
あっ、マルスさんの目元がピクリと反応した。
秘書であり、息子の嫁に色目を使っていたからかな。
「君は四六時中、彼らと一緒にいたのかね?」
「いいえ。宿は別室でしたし、町長が出かける時以外は自由にさせてもらっていたので、一緒にいない時間はありました」
「見知らぬ人物から、何かを頼まれたかね?」
「いいえ、何も」
返答を聞いて女性の頷きを確認したギルドマスターは、腕組みをして考え込む。
聞いている内容からして、第三者の手引きを疑っているのか?
でも魔物寄せの薬を仕込むなんて真似、誰かが意図的にやらないと起きるはずがない。少なくとも馬車を貸した業者は関わっているんだろうけど、あの三人も関わっていると思っているのか?
「マルス、これはひょっとすると……」
「可能性はある。この後で騎士団が来る手はずになっているから、それに同行して大隊長へ調査を依頼するつもりだ」
どうやらギルドマスターとマルスさんは、何か思い当たる節があるようだ。
でも他所から来た俺達は関係無いから、ここは黙っておこう。無関係の事へ下手に首を突っ込むのは、野暮というものだ。
「分かった。それとあの三人は、あの件に無関係だったとしても厳罰するのを約束する」
依頼人と仲間を見捨てて逃げた上、死んだと思い込んで不確定の誤報告をしたんだから当然だな。
「処分内容について私は口を挟めないから、そちらに任せる。だが、彼女だけは許してほしい。彼女は一人になっても逃げ出さず、私達を守ろうとしてくれていた」
頼むと頭を下げるマルスさんに、そこまでされたシアは驚いてオロオロしている。
どうすればいいって、こっちへ困った顔を向けられても困るんだけど……。
「頭を上げろ。そこまでしなくとも、彼女に非が無いのは明らかだ。パーティーだからと言って、全てを連帯責任にする訳ではない。今回はあの三人だけを罰し、彼女は無罪放免とする」
「本当、ですか?」
「君は冒険者としての仕事を全うしただけで、どこに罰する要素がある。むしろ今回の件で君のパーティーの悪い話が広まるだろうから、それが君に影響しないように対処しようじゃないか」
無罪は当然としても、その後のアフターケアまでしてくれるのか。
嬉しくて感極まったのか、シアは両手で顔を覆って泣き出した。
ギルドが後ろ盾になって対応くれれば、今後の活動には影響しないだろうし、いずれは新しい仲間もできるだろう。
いやあ、良かった良かった。
「では彼女の依頼の処理をしよう。おい」
「はい。シアさん、ギルドカードと依頼書をお預かりします」
後ろに控えていた女性に促されたシアは、涙を拭いながらギルドカードとマルスさんのサイン入りの依頼書を取り出している。
どうやらなんかあるっぽい話は、いつの間にか終わったことになっているようだ。自然な流れで話題を切り変える辺り、さすがは町長とギルドマスターってことか。
そんな感じで一人で納得していたら、シアからギルドカードと依頼書を受け取った女性はこっちを見ると、ギルドマスターへ尋ねた。
「ギルドマスター、彼らの分も処理しておきますか?」
「そうだな。君達も、ギルドカードと依頼書を彼女へ」
「はい」
ついでみたいな形だけど、この後で受付の列に並ばずに済むのならいいか。
次元収納からギルドカードと依頼書を取り出して女性へ渡し、ロシェリとアリルも上着のポケットやロープの内側からギルドカードを取り出し渡した。
お預かりしますと言い残して部屋を出た女性を見送った後、マルスさんが思い出したように俺達へのお礼のことを喋り出した。
守ってくれたことと馬車を引いてくれたお礼として、公費と私財から合わせて金貨十枚くれるそうだ。
「そんなに!? というか、公費使っていいんですか!?」
「町長としての公務で出張中の出来事だったのだから、問題は無い。ちゃんと護衛への必要経費として計上しておけば、法にも触れないから安心しろ」
そういうもんなのか? まあいいや。本人が問題無いって言ってるんだし、気にしないで貰っておこう。
金はダンさんが手配してこっちへ届ける手はずになっていて、もうすぐ着くだろうとのことだ。
急いで準備しなくてもいいのにと思っていると、さっき出て行った女性が駆け込んできた。
「あ、あの、ジルグさん!? レッドウルフ五十二体って、本当ですか!?」
焦った様子の女性の発言に、ギルドマスターも目を見開いた。
はい、本当です。




