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入れ替えスキルでスキルカスタム  作者: 斗樹 稼多利
25/116

魔物が襲う理由


 合流したヨルドさんと町長補佐のダンさんが駆け寄り、がっしりと握手を交わして再会を喜んでいる。

 知り合いなのかとヨルドさんに尋ねると、二人は幼馴染で、子供の頃から家族ぐるみの付き合いをしているらしい。


「私が料理修業に出て以降は、互いの結婚式へ出席した時にしか会っていませんがね」

「お互い仕事があるし、お前は修業先に留まったからな」


 それでいて、まだ仲がいいんだから少し羨ましい。

 俺にはそういう相手なんて、一人もいなかったから。


「ところで、あの馬車はどうするの? まだ走れたとしても馬がいないし、走れなかったとしてもヨルドさんの馬車に四人も追加で乗れないわよ」


 アリルの指摘に全員がハッとして、横転している馬車を見る。まだ走れるかどうかは確認しなくちゃ分からないけど、仮に走れたとしても肝心の引く馬がいない。

 もしも走れなかったらマルスさん達は町まで歩くか、ヨルドさんの馬車に乗せてもらうしかない。ここから町まで歩けない距離じゃないけど、道中でまた魔物が出ないとも限らないから早めに町へ行きたい。だからといってヨルドさんの馬車に乗るにしても、引っ越しの荷物を乗せている状態で四人追加するのには無理がある。


「とにかく、確認してきますね」

「頼む」


 何にしても、まずは確認だとダンさんが走っていく。

 横転して丸見えになっている底面を点検したところ、車輪と車軸は無事なため走行は可能とのことだ。


「でも、肝心の馬がいませんし……」

「まだ……近くに、いない……かな?」

「探してみよう。ウィンドサーチ」


 ロシェリの言う通り、近くにまだいる可能性もあるから探ったけど、どこにも馬の反応は無い。

 既に範囲外へ逃げたが、逃げた先で何かに襲われて死んでしまったか。どっちにしても、見つからないのなら同じだ。


「周辺に馬の反応はありません」

「そうか。そうなると、歩いて町へ向かうしかないか……」

「ちょっと待ってください。仲間が逃げてしまったので、護衛は僕一人です。彼らはあくまで、そちらのご家族に雇われた護衛なので」


 その通りなんだよな。

 お人好しの俺としては手助けしたいけど、ヨルドさんの依頼を受けている最中だから、勝手にパーティーを分けたり依頼をここで打ち切ったりする訳にはいかない。

 一番無難なのは双方が一緒に町を目指すことだ。そうすれば、俺達のパーティーが護衛に加わっても問題無い。

 俺とアリルが馬車から降りてシアも馬車に乗らないのなら、三人ぐらいはどうにか乗れそうだし、マルスさん達が乗っていた馬車は次元収納へ入れて運べばいい。

 でも俺達が歩く分、確実に速度は落ちるだろう。マッスルガゼルには乗れて二人だし、コンゴウカンガルーは力こそ強いけど乗れるような体形じゃない。

 速度が落ちれば、魔物に襲撃される回数が増える可能性がある。本来なら安全のはずの道で何度も魔物から襲撃されているって話だし、できることなら早く町へ到着したい。

 でも他に方法は……。

 ん? いや、待てよ。そうだ、これなら。


「だったら、こういうのはどうでしょうか? あの馬車がまだ走れるのなら、馬の代わりにうちのマッスルガゼルが引くというのは」


 提案しながら指差したマッスルガゼルへ注目が集まる。そしてマッスルガゼルはいつも通り、筋肉を隆起させて逞しさを強調している。


「確かに。あれほど逞しい魔物ならば、馬の代わりになりそうだな」

「そうでしょう? ただ、報酬は求めさせてもらいますし、依頼主のヨルドさんの許可が必要なのと一緒に町へ向かうことになりますが」


 どんな理由であれ、勝手に別行動をする訳にはいかないから、許可を得るのと一緒に行動をしてもらうのは当然だ。報酬に関しても、こっちとしては当然の主張だ。


「なるほど。報酬についてはちゃんと払おう。ヨルド、同行しても構わないか?」

「はい、勿論です」


 双方からの許可も下りたから、早速横転している馬車を起こそう。

 パワーライズを使った俺とマッスルガゼルとコンゴウカンガルーにより、馬車はあっさり起こせた。

 すぐに馬車とマッスルガゼルを繋ぎ、御者台にはヨルドさんから操車を教わった俺とシアが座る。ロシェリとアリルはヨルドさん一家の方に乗り、コンゴウカンガルーはこれまで通り自力で移動する。

 ただなんか、さっきからマッスルガゼルとコンゴウカンガルーが少し興奮気味だ。どうしたんだろうか?


「では、行きましょうか」


 ヨルドさんの馬車が先行して走り出し、続けてマッスルガゼルが引く馬車も走り出し、コンゴウカンガルーが跳ねながら並走する。

 さすがはマッスルガゼル。何の問題も無く馬車を引けている。


「本当に助かりました。町長は言ってませんでしたが、この馬車は業者から借りたので、あのまま放置したら罰金を支払うところだったんです。まあ、馬を失った罰金は支払うのが確定ですけどね」


 後ろのマルスさん達へ聞こえないよう、小声でシアが教えてくれた。

 心配しているところを悪いけど、仮にこの馬車が動かなかったとしても、容量が無制限の次元収納に馬車を入れて運べばいい話なんだよな。


「そういえば、一ヶ月前に冒険者になったってことは、十五歳?」

「はい、そうです」

「だったら敬語でなくていいぞ。同い年だから」

「そうだったのかい? 助かったよ、敬語って苦手だからさ」


 そういう喋り方だと、見た目も相まって分かっていても男に思えるな。


「しっかし、どうなってるんだろう。この辺りは冒険者になってから何度も来ているけど、こんなに魔物に襲われたのは初めてだよ」


 そういえば、さっきもそんな事を言ってたな。


「どれくらい襲撃されたんだ?」

「今日だけでも四回目。それが連日あってさ。行きはこんなこと無かったのに」


 確かに異常だ。俺達は数日でビッグフロッグとの戦闘一回きりなのに、連日何度も魔物から襲撃されるなんて。

 通ってきた道のりを聞くと、出発した町は違えど俺達とほぼ同じだった。

 しかも俺達が通ってきた道でも、数回の襲撃があったらしい。


「何か変わったことはしてないか?」

「いいや。僕も逃げた仲間達も町長達も、特に変わったことはしてないよ」


 心当たりは無しか。でも何か理由がなくちゃ、そんなに襲撃を受けるはずがない。

 ひょっとすると、本人達が気づいていないだけで何かがあったのかも。

 手がかりがないか探るため、ちょっと失礼してシアと装備している物へ「完全解析」を使ってみた。




 シア 女 15歳 人間


 職業:冒険者


 状態:軽傷 軽度疲労


 体力396 魔力113 俊敏407 知力534

 器用442 筋力327 耐久365 耐性359

 抵抗326 運584


 先天的スキル

 反応速度向上LV2


 後天的スキル

 算術LV1 歌唱LV2 料理LV1 剣術LV1




 鉄製の剣 低品質

 素材:鉄

 スキル:なし


 ただの鉄の剣。少々刃こぼれ有り



 革製の胸当て 低品質

 素材:熊の皮

 スキル:なし


 ただの革製の防具



 革製の籠手 低品質

 素材:熊の皮

 スキル:なし


 ただの革製の防具




 特に変わったスキルや妙な状態の異常は無い。装備品も低品質というだけで、至って問題無い革製の胸当てと籠手、それと鉄製の剣だ。

 シアに原因が無いなら、マルスさん達の方か?

 でも、ここからだと馬車の中にいるマルスさん達は見えないし、よそ見して事故を起こす訳にはいかない。他に「完全解析」で見れるとしたら、この馬車くらいか。

 一応やっておくけど、さすがにそれはないかな。




 頑丈な馬車 高品質

 素材:丈夫な木材 鋼鉄 高価な布

    魔物寄せの薬 防腐薬 錆止め

 スキル:なし


 揺れを軽減し、ある程度の衝撃にも耐えられる。

 木材に塗られた防腐薬に、魔物を引き寄せる薬が混入されている。

 鼻が利く魔物ほど、遠くからでも嗅ぎつけて集まってくる。

 鼻が利かない魔物ほど、効果は弱い。




 んんんんっ!? ちょっ、えっ? これ? 原因この馬車!?

 ひょっとして、合流してからマッスルガゼルとコンゴウカンガルーが興奮気味なのも、これが原因なのか?

 こいつらは鼻が利く方じゃないから、近くまで寄らないと効果は出ないし、興奮程度で済んでいるのかもしれない。

 でも、行きはなんともなかったって言っていたよな。これ、どういうことだよ!?


「どうかした?」

「あっ、いや、なんでもない」


 説明したいけど、「完全解析」の事を明かす訳にはいかないから説明できない。

 しかもスキルで魔物を引き寄せている訳じゃないから、スキルの入れ替えで解決することもできない。

 それとなく促しても、証明するのは難しいだろうし……。ううん、困ったぞ。

 こんなことなら次元収納へ入れて運ぶか、あの場に放置しておくんだった。といっても、今となってはもう後の祭りか。

 ていうか、業者から借りた馬車になんでこんな物が。町の外へ出る客へこんな物を貸したら、信用問題になるぞ。一体どうして……。


「ジルグ、ウィンドサーチに魔物の反応があったわ! 結構な数が、向こうの方から来る!」


 あぁもう、考える暇も無いのかよ。前方を走る馬車から顔を出したアリルからの連絡に、頭が痛くなる気がした。


「ま、またなのかい?」


 今日五回目とあって、シアの顔色が真っ青になっている。

 もうすぐ町だってのに、難儀な事だ。


「シアはここで町長を守っていてくれ、ここは俺達がやる」

「えっ、でも」

「いいから、ここは任せておけって」


 ひとまずは馬車を止めてマッスルガゼルを馬車から切り離し、コンゴウカンガルーも加えて前に進み出てハルバートを抜く。

 後ろのロシェリとアリルは……。うん、ちゃんとヨルドさん一家を守れるようにしているな。シアも剣を抜いてマルスさん達の馬車の前に立っている。

 そんじゃま、なんか訳の分からない事になってイラついてたし、ちょっと憂さ晴らしさせてもらおうか。


「来るわよ! 数は不明、とにかく多い!」


 アリルが叫んで数秒すると、迫っていた魔物が姿を現した。

 興奮した様子で迫って来るのは、以前にも狩ったことのあるレッドウルフ。こいつならパワーライズも「活性化」も必要無い。


「クイックアップ! ハードボディ!」


 数が多いから、念のためにこの二つは使っておく。

 目の前に現れたのは二十体くらいだけど、今の俺には関係無い。

 さあて。訳の分からなくてイラついてるから、ちょっとばかり憂さ晴らしに付き合ってもらうぜ。

 殲滅だ!



 ****



 今、僕は何を見ているんだろうか。

 襲って来たレッドウルフは二十体以上。しかも運悪く、かなり大きな群れか複数の群れと遭遇したようで、後続のレッドウルフが続々とやって来ている。

 それが次から次へと倒されていく光景に、僕の口は半開きになっている。

 後衛から弓矢と魔法で援護をしているアリルさんとロシェリさんは、まだ分かる。

 噛みつかれても平然しながら振り払って後足で蹴り飛ばす、噛みつかれたのに傷一つ無いマッスルガゼルと、レッドウルフの隙間を縫うように動き回って、大振りはせずに早く鋭い拳で下顎を正確に叩くコンゴウカンガルー。どっちも聞いた事はあっても見るのは初めての魔物だから、あんな戦い方をするんだなって思うからまだいい。

 でも彼の、ジルグ君の戦いはそれを上回っている。


「なにさ、あれ……」


 槍と斧と槌が一体化しているような、見たことの無い大きな武器を軽々と振り回し、前後左右から跳びかかってくるレッドウルフを次々に倒している。

 レッドウルフは大して強くない魔物とはいえ、僕にはあんな戦いはできない。しかもなんか、時々二体のレッドウルフが瞬間移動したかのように、位置が変わっている。魔法名を口にしていないから、あれは彼のスキルなのかな?

 彼らが護衛していた一家の子供達は、凄いとか強いとかカッコイイとか言っているけど、あれはそんな範疇に収まらないと思う。

 僕の少ない語彙じゃ、上手く表現できる言葉は見つからない。

 でも例えるのなら、今の彼は嵐だ。竜巻とも台風とも暴風とも例えられるけど、個人的には嵐が合うと思う。

 というか、あれで本当に僕と同い年なんだろうか。というか、彼のランクは何なんだろうか。


「あの、彼のランクは……?」


 隣で次々に矢を射っている、髪と肌の色の組み合わせが聞いているのとは少し違う、エルフのアリルさんへ尋ねてみた。


「私達は全員Eランクよ。でも、あれを見ているともう一つくらい、ランクが上でも納得できちゃうわね」


 えぇっ!? 彼、同い年でもう僕より二つもランクが上なの?

 あの戦いを見れば納得できるけど、ちょっと悔しい。

 僕だって冒険者の端くれだ。同い年であの強さに辿り着いていることに、嫉妬を抱かないはずがない。

 あれだけ強ければたくさんお金を稼いで、満足に食べられない弟や妹にたくさん食べさせられるだろう。父さんが死んだ後、僕達のために苦労して働いているお母さんに楽をさせてあげられるだろう。


「どうやったら、あんなに強く……」


 ポツリと呟いた僕の一言は、誰の耳にも届いていないだろう。

 なにせ目の前では、大量のレッドウルフが倒されて、正に死屍累々の光景が作り出されているんだから。


「やっと……終わった……。お腹、空いた……」

「一つの群れにしては多すぎるわね。これ絶対に、複数の群れが同時に襲ってきたのよ」


 疲れて座り込んで空腹を訴えるロシェリさん。僕と同じような推察に至っているアリルさん。

 この二人にとっては、彼の戦う姿は見慣れたものなのかな。

 そして戦い終えたジルグ君は大きく息を吐くと、落ち着いた表情で水魔法で武器を洗い、空間魔法から取り出した布で血を拭っている。戦っている時は少し表情が怖かったから、なんか知らないけどイラついていたのかな?

 だとしても、あの戦いは凄かった。同い年で同じ冒険者として嫉妬し、羨むほどに。



 ****



 妙なテンションになって無双したレッドウルフだけど、その後がちょっと大変だった。

 なにせこいつは食えるし、毛皮や牙は素材として売れる。回収しない手は無いんだから。


「これで回収完了っと」

「全部で五十二体とか、いくつの群れがあったのよ」


 全くだ。おまけにロシェリが空腹で動けないから、俺とアリルだけでレッドウルフを回収するハメになってしまった。

 途中でシアとヨルドさん、マルスさんに促されたダンさんが手伝ってくれて助かった。それと次元収納の容量も無制限で助かった。そしてロシェリは渡しておいた干し肉を食べたのなら、手伝ってほしかった。


「それにしても、どうしてこうも魔物が襲撃してくるんだろう。今回に至っては、こんなにいるし……」


 理由を知らないシアが首を傾げている。

 できれば教えたいけど、「完全解析」のことをみだりに話す訳にはいかない。

 まだ馬車の件はアリルにもロシェリにも伝えていないし、終わったのならすぐに出発しようって空気になっているから相談する暇もない。

 ええい、こうなったら単独で突っ込むしかない。男は度胸!


「あの、マルスさん! ちょっといいですか!」


 回収中、ちょっとした休憩みたいな感じでヨルドさん一家と談笑していたマルスさんへ声を掛ける。


「なんだ?」

「シアから道中の話は聞いていましたが、あれほどの数の魔物が襲って来るのは明らかにおかしいです。何か、行きには無くて帰りに有る物ってありますか?」

「むっ? 何故そのようなことを聞く?」

「ひょっとして、魔物を引き寄せる何かがあるんじゃないかと思って」


 この発言にマルスさんは目を見開き、ダンさんとアンナさんは驚いて顔を見合わせている。


「なるほど。言われてみれば、その可能性はある。だが、特に土産や預かり物も無いぞ」


 よし、ここで核心に触れてみよう。


「なら、馬車はどうですか? 行きと違う装飾だとかは、ありますか?」

「そんな物は……いや待て」


 おっ、何かあったか?


「用事が終わるまでの数日ほど、同じ系列の業者へ預けていたのだが、帰る時に不具合が見つかったと言われて代わりにこの馬車を……」


 はいそれ、絶対にそれ!

 行きになんでもなくて帰りに魔物の襲撃の連続なら、それに違いない!


「馬車を調べてもいいですか?」

「頼む」


 そういう訳で急遽、馬車の点検が始まった。

 小柄なロシェリが下へ潜り込んで確認し、身軽なアリルが屋根に飛び乗って確認し、横転した時に確認した車軸と車輪も含めて点検していく。

 でも、それで見つかる訳がない。なにせ原因は、防腐剤に混入されて馬車に塗られているんだから。さて、ここからどうやって誘導しよう。

 すると、意外な形で援護が入った。


「ねぇ、この馬車から何か変な匂いがするんだけど」


 屋根に密着しそうなほど顔を近づけて調べていたアリルが、訝し気な表情で鼻を押さえている。


「えっ? そんな匂い、しませんけど?」

「うん、しない……」


 首を傾げたシアとロシェリが顔を近づけて嗅ぐ。俺も嗅いでみる。

 変なのが混ざっているのが分かっていても、変な匂いはしない。


「私は犬人族とのハーフだから、犬人族ほどじゃないけど鼻がいいのよ。でもこの匂い、集落にいた頃に嗅いだことがある薬の匂いと似ているような……」


 おっ、なんかチャンスっぽいから突っ込んでみるか。


「それ、何の薬だったんだ?」

「えぇっと確か、禁止薬物に指定されたから処分するところだっていう、魔物寄せの薬……あっ」


 自覚無しとはいえ、ナイス援護だアリル。

 犬人族とのハーフエルフなのが、まさかこんな形で役立つなんて。

 意味を理解した大人達は顔を真っ青にして、意味が分からない子供達は首を傾げたり、早く行こうと訴えたりしている。


「君、今のは本当かね?」

「えっと……私の記憶が正しければ、たぶん」

「すぐに出発だ! 急ぎ町へ向かうぞ!」


 そこからはもう大慌て。

 早く早くとダンさんに促されてマッスルガゼルを馬車へ繋ぎ、大急ぎで町へ向けて走り出す。

 距離を開ければ問題ないのに、何故か一緒になってヨルドさんも馬車を走らせる辺り、だいぶ混乱していそうだ。


「というか、この馬車を置いて行けばいいんじゃ? それか処分するか」


 そうすれば放置した馬車に魔物が集まるから、俺達は安全だ。


「大事な物証だぞ! そんなこと、できるか!」


 呟きが聞こえたのか、馬車の中からマルスさんの声が響いた。

 ごめんなさい、考えが浅かったのをお詫びします。

 物証がなくちゃ、本当に魔物寄せの薬が使われているのかの確認と、どうして馬車にそんな物が使われているかの調査ができないもんな。

 揺れとか安全とかを無視した、とにかく一刻も早くノトール町へ到着する事を考えて爆走する。

 揺らさないでとアリルが叫んでいても、ロシェリが頭を抱えて蹲って震えていても、速すぎると涙目で訴えるシアが腕にしがみついていても、子供達が楽しそうに声を上げていてもお構いなしだ。

 町はもう近いんだし、次元収納へ入れて徒歩で移動すればと思った時には、既に町は目の前だった。

 気づくのに遅れたことにちょっと後悔はしたけど、あれ以降は魔物に襲われること無くノトールの町へ到着したから良しとしよう。


「町長!? 先ほど冒険者から、魔物に襲われて亡くなったと聞いたのですが!?」


 町への出入り口の門に詰めていた騎士団員から、不穏な事を聞いたのは到着直後の事だった。


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