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入れ替えスキルでスキルカスタム  作者: 斗樹 稼多利
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護衛依頼


 エルフの集落を後にして、新たにアリルを仲間に加えての旅が始まった。

 道中では王都からここまでの旅路の話や、レベルの上がる速さに関する話、ビーストレントを倒した時の話、休憩中も筋肉を鍛えようとする従魔達との出会いの話とかを色々と喋ったり、遭遇した魔物と戦闘をしたり自己鍛錬をしたりした。

 でも一番盛り上がったのは、「料理」スキルを持つアリルが食事を作ってくれた時だった。

 肉以外は大した材料も調味料も残っていなかったのに、どうやって作ったんだっていうぐらい美味い飯を作ってくれて、ロシェリなんか夢中で食べて食事中に一言も発さないくらいだ。


「あの女は集落で一番料理が上手かったからね、その直伝よ」


 母親を思い出して憎らしいような、俺達に褒められて嬉しいような、そんな複雑な表情で照れる姿は年上とは思えない。体つきのせいか、どうも年下に見えてしまう。

 そんなアリルは戦闘面でも活躍してくれた。

 生憎と矢が無かったから弓の出番は無かったものの、魔法を巧く操って飛んでいる鳥を撃ち落したり、損傷が少ないように首だけを切り落としたり額だけを撃ち抜いたりと、俺達にはまだ足りない技術を見せてくれた。新たに後衛が加わったことで戦力に厚みが出たし、なにより解体スキルを持っているお陰で道中に肉を補充できるようになったのが大きい。

 これに感動したロシェリがアリルへ抱きつき、さりげなく尻尾のモフモフを堪能するくらいに。


「作業中にやめてよ! 手元が狂うじゃない!」


 本人曰く尻尾を触られると妙な感覚が全身を駆け巡るらしく、急に触らないでほしいとのことだ。

 以来、尻尾に触れる許可を取ろうとするロシェリの姿を日に八回は見るようになった。

 これら以外でアリルに関する事で新たに分かったのは、寿命が他種族と同じくらいになったことか。


 禁じた食物を口にすれば長い寿命を失う


 この禁を破ったアリルの寿命がどれくらいになったのかが気になって尋ねた時、他の種族と同じくらいだと教えてもらえた。

 本来ならエルフは二十歳ぐらいまでは他種族と同じように成長していき、そこから先は見た目が変化しないまま長い月日を過ごす。さすがに数百年もすれば老化が始まるらしいが、基本的に若い姿でいる時間の方が長いとのことだ。

 それが寿命に関するタブーエルフになったことで失われ、他の種族と同じくらいしか生きられなくなったということだ。

 こんな感じの会話を交わし、時折魔物や動物との戦闘を挟みながらの旅路を経て俺達は新たな町へ到着した。


「へぇ、これが人間の町なんだ」


 他所の町や村に行ったことが無いと言うアリルは門での審査を通過して町へ入って以降、ずっと辺りをキョロキョロと見渡している。

 この町は田舎町だからさほど発展している訳じゃないけど、人間の町を見たことが無いアリルにとっては珍しい物だらけなんだろう。ちょっとした露店や商店や屋台にも、あれは何を売っているのかと質問の嵐だ。

 これでもっと発展している町へ行ったらどうなるやら。できるだけのフォローはするけど、変な誘いとかスリには気をつけてもらわないと。

 ともあれ、まずは冒険者ギルドへ向かおう。俺とロシェリはともかく、アリルは無一文だから早急に金が必要だ。でないと色んな物、特に屋台から香る匂いに誘われて金も無いのに買おうとしてしまう。今も焼いている腸詰めを食べたそうにガン見してるし。

 ロシェリもそれに加わる前に襟首を掴み、冒険者ギルドまで引っ張って行く。


「放してよ~。私、これからアレ食べるの~」

「無一文のくせに何言ってんだ! いいからギルド行くぞ!」


 食事に関する枷が外れたせいか、どうにもアリルは食べ物の誘惑に弱いな。

 同じようにマッスルガゼルの背中からじっと屋台を見ているロシェリもいるし、食い物関係でこの二人が暴走しないことを祈る。

 そう思いつつ辿り着いた冒険者ギルドには多くの冒険者がいて、受付の前には列が出来ていた。俺達もそれに並び、これまで通りに受付をしてもらう。ただ、いつもと少し違うのはアリルのお陰で解体してもらう手間が省け、回収した皮や牙といった素材を直接売れるということだ。でも……。


「空間魔法で劣化はさほどしていませんけど、解体の腕はまだまだですね。状態は悪くありませんが、あまり査定結果は期待しないでくださいね」


 キツい目つきで辛辣な言い方をする女性職員の言葉に、もっと解体しなきゃとアリルは悔しがった。

 ごめんなさい。俺が集落でのスキルの入れ替えで、「解体」スキルのレベルを一つ下げたからかもしれない。

 スキルを失うのに比べれば大したことはないものの、多少なりとも違和感を覚えるからその影響を受けたんだろう。

 でないとスキルがあるのに、こういう評価をされるはずがない。


「悪い」

「別にあんたのせいじゃ……ないと言いきれないから複雑」


 査定が終わるまでロビーで待っている間に説明と謝罪をしたら、そんな反応をされた。

 うん、やった俺も複雑だ。良かれと思ってやって受け入れてもらえたのに、こういう事になってしまったんだから。


「しばらくは食べる分以外は、そのまま保管するか?」

「そうね。食べる分だけでも解体していれば、感覚を取り戻してスキルも鍛えられそうだし」

「食べられるのなら……それで、いい」


 ブレないねロシェリさんや。

 とにかく解体に関してはそういう事にして、何を買い揃えるかを相談しているうちに査定が終わって受付から呼び出された。

 さっきと同じ女性職員から今回の討伐報酬と売った素材の買取金を受け取り、それを事前に決めた割合で分割。そのまま引き上げて買い出しと宿の確保へ向かおうとしたら、アリルから依頼を見て行こうと提案された。


「行く先が同じ方向の護衛依頼があれば、魔物を倒す以外にもお金が稼げるし、馬車に乗って移動できるかもしれないわよ」


 言われてみればそれもそうだ。

 これまではさっさと出て行くことばかり考えて、そういうのを考えたことが無かった。

 ひょっとしたらこれまでの道のりも、もっと楽に移動して金も稼げたかもしれない。そんな事をちょっと後悔しつつ、依頼が貼られている掲示板の前へ向かう。


「たくさんあって……分からない」


 困っている様子のロシェリの言う通り、田舎町にもかかわらず依頼が多く貼ってあって全部に目を通すのが大変そうだ。


「何も全部を見る必要はないわ。似たような依頼はある程度固まって貼っているから、なんでもいいから護衛の依頼を見つけてその周辺を探せばいいのよ」


 へぇ、そういうものなのか。

 言われた通りに探していると、ロシェリが商隊の護衛依頼を見つけてくれた。早速その周辺を見ると、確かに護衛関係の依頼が固まって貼ってある。


「おぉ……本当……だ」

「さすがは先輩冒険者。俺達はこういう知識が無いから頼りになるな」

「ふ、ふん! こんなの当たり前よ。褒めても何も出ないからね!」


 とか言いつつ尻尾が嬉しそうに動いている。素直に喜んでくれていいのに。

 まあいいや、とにかく俺達が進む方向への依頼を探そう。


「えっと……あれは、逆方向だね」

「あれは方向は合ってるけど、移動日が来月なのね。あれを受けるなら、しばらくはここに滞在ね」

「うぅん……。おっ、これはどうだ」


 目に止まった依頼書を手に取り、二人にも見せてやる。

 依頼主はこの町に住む一家の主で、バーナー伯爵領と隣の男爵領の境目に近いノトールって町へ引っ越しをするから、その道中の護衛をしてほしいとある。希望する冒険者はEランク以上、引っ越しに使う馬車への同乗が可能で報酬は金貨三枚、しかも移動日はちょうど明日だ。


「へぇ、ちょうどいいじゃない。これにしましょうよ」

「私も、いいよ」


 二人からも良い返事を貰ったから受付で手続きをして、護衛依頼が初めてだと知った女性職員から簡単な説明を受けて依頼主の下へ向かう。

 移動日は明日だけど、こうした依頼の時は依頼主と事前に打ち合わせをしておくものらしい。

 当日に依頼主と顔を合わせるのは移動日当日に依頼を受けた場合か、個人を護衛する時だけ。基本は護衛対象が何人いてどんな荷物を運ぶのか、目的地まではどんなルートを行くのか。そういうのを知っておき、優先的に守るべきものを教わって守り方を俺達の間で決めるため、事前の打ち合わせは必須だそうだ。


「考えてみれば当然よね。当日にいきなりそんな事を打ち合わせして、備えが必要になってバタバタ準備する訳にはいかないもの」

「予め、準備できれば……やりやすい」

「同感だ」


 連れている従魔達へ向けられる好奇の視線をスルーし、ギルドで教えてもらった依頼主の家へ向かう。

 大通りから少し外れた古い家が建ち並ぶ区域に入り、少し奥へ行った所にある木造二階建て。ここが依頼主の家だ。


「ごめんください。冒険者ギルドの依頼で来たんですけど」


 扉をノックしながら声をかけると、なんかバタバタと走る音が複数聞こえて来た。

 そして勢いよく扉が開いて、五人の幼い子供達が顔を出した。男の子三人と女の子二人で、全員が十歳未満くらいだ。


「ぼーけんしゃさん?」

「いらっしゃい!」

「おにーさんとおねーさんがぼーけんしゃさん?」

「きゃっ、魔物」

「すっげぇ。ムキムキで強そう!」


 なんかエルフの村で子供達に囲まれたのを思い出す。

 そしてマッスルガゼルとコンゴウカンガルーは、最後の子供の声に反応して筋肉を強調するポーズをするのをやめろ。乗ったままのロシェリが落ちそうになっているし、男の子達がメッチャ反応して騒いでいる。


「こらあなた達、冒険者さんが困っているからやめなさい」


 おっと、母親らしき人が登場だ。注意された子供達は少し大人しくなった。


「急にお訪ねして申し訳ありません。明日からの依頼についての打ち合わせをしたくて、訪ねさせていただきました」


 にこやかな笑みを浮かべたアリルがそう伝えると、向こうも依頼した時にギルドから伝えられていたようで快く応じてくれた。

 中へ案内してくれた母親は子供達を部屋の片づけに行かせ、夫を呼んでくると言って玄関のすぐ傍にある階段を上っていく。

 それからすぐに階段を降りて来たのは、ちょっと小太りだけど清潔感のある見た目をしている短髪の男性だ。


「お待たせしました。私が依頼主のヨルドです」

「いえいえ、こちらこそ急にお訪ねして申し訳ありません」

「気にしないでください、お互いに必要な事ですから。さっ、奥へどうぞ」


 おおらかな笑みを浮かべているヨルドさんに促されてリビングへ通され、お互いに簡単な自己紹介をして打ち合わせを開始した。

 目的地は依頼にもあったノトールの町で、護衛対象はヨルドさん一家。あっちこっちの町に支店がある貸し出し業者から馬車を借り、それで移動するとの事だ。


「まあ、引っ越しと言っても実家へ戻るだけなので、大体の物は持って行かないんです」

「そうなんですか?」


 なんでもヨルドさんの実家はノトールで代々続く老舗の食堂で、一緒に料理修業していたお兄さんは実家を継ぐためにノトールへ戻り、ヨルドさんは修業先の店があるこっちの町に残って雇われ料理人として働いていた。

 そんなある日に実家から、お兄さんが事故に遭って歩行どころか立つことすら困難になって厨房に立てなくなったから、実家へ戻って来て厨房に入ってほしいという手紙が届く。

 先代の父親はまだ健在で厨房にも立てるものの、年が年なので一人で厨房を切り盛りするのは無理がある。お兄さんに息子はいるものの、最近修行を始めたばかり。こうした現状を知り、実家へ戻ることを決意して家族と話し合い、実家へ帰ることに決めたそうだ。

 家具類は向こうにある物を使うため、大抵の物はこっちで処分するか売却し、持って行く荷物は衣服や使い慣れた包丁や子供関係の物といった感じで絞ったらしい。


「とはいえ、最優先は命です。荷物を多少失ったり馬車を破壊されたりしても問題はありませんので、いざという時は妻や子供の命を守ることを第一にお願いします」


 一家の大黒柱として当然の言葉だな。

 物ならまた買い揃えればいいし、実家に戻るなら少々の物も融通してもらえるだろう。馬車だって業者へ罰金を払えばいい話だ。でも、命はそうはいかないもんな。

 こういう普通の父親が欲しかったよ、俺も……。


「ルートはどのように?」

「二十年くらい前にこっちへ修業に来る時に使った、比較的安全なルートを利用しようと考えています。えっと、地図は……」

「よろしければどうぞ」


 地図を探しだしたから次元収納の中にある俺達の地図を出した。するとヨルドさんは目を点にした。


「空間魔法をお使いで?」

「ええ。幸いにも適性があったので」

「羨ましいですね。それがあれば引っ越しの荷物も、仕入れた食材も運び放題だ」


 確かに食材を仕入れる料理人にとっても、次元収納のような魔法は欲しいだろうな。

 どんな大きさの食材でもどんな量でも運べるし、時間経過が遅くて劣化が遅いから食材の長期保存が可能なのが特に嬉しいだろう。

 おっと、それよりも仕事の話だ。


「ところでノトールまでの道のりは?」

「おおっ、そうでした。脱線して申し訳ありません」


 話を修正して地図でルートを教えてもらいながら、この道のりに関する説明を聞く。

 前に使った時から二十年も経っているから、念のために最近の様子を冒険者ギルドへ依頼した時に職員に確認したそうだ。

 現在も比較的安全で多くの商人や旅人が利用しており、盗賊や上位種の魔物が出現した報告は無く、情報共有をしている町の騎士団からもそういった報告は届いていない。

 存在が確認されている魔物はEランクでも対処可能なものばかりで、今回通るルートなら道を外れなければ遭遇率も低く、それこそ想定外の事が起きない限りは安全ということだ。


「こっちへ来る時は護衛を雇った商人の馬車へ同乗させてもらったのですが、その時は魔物と二、三回戦闘になっただけです」


 移動にかかりそうな期間はおおよそ四日。

 その日数で二、三回の戦闘なら確かに安全だな。

 報酬の金貨三枚も妥当な……ところなのかな? その辺りはよく分からない。


「できれば料理人として移動中の食事も提供したいのですが、費用の関係でそれができないので、そちらの食事はそちらでご用意していただけますか?」

「それぐらいは構いませんよ」


 雇われ料理人の給料じゃ、引っ越しの費用と護衛への報酬を出すので精一杯で俺達の食費は出せないんだろう。五人の子供の養育費もあるだろうし。

 むしろ、よく護衛報酬の金貨三枚を出せるもんだ。


「だったらこっちの食材とか調味料は用意するから、調理だけ頼んでもいいかしら?」

「ああ、そういう手段がありましたね。ではそういうことにしましょう」


 アリル、ナイスアイディア。

 でもロシェリの食欲の事もあるし、完全な人任せにしないで俺達も少しは調理した方がいいだろうな。

 一先ず簡単な説明をしてヨルドさんからは承諾をもらい、ロシェリとアリルからも同意を得られた。

 この後はいくつかの確認をして打ち合わせは終わり、子供達に見送られながらヨルドさん宅を後にして早速商店巡りへ向かった。

 まずはアリルの旅支度を整え、次いで武器屋へ寄って装備類の点検をしてもらうことにした。

 一応自分達でも点検はしているけど、護衛の依頼中に何かあったら困るから念のため専門家に見てもらおうという訳だ。

 職人風のゴツイおっさんは俺達の武器と防具を受け取り、色々な角度からジロジロと見たり軽く叩いたりして点検していく。


「まあ問題は無い。だがこの変わった武器、斧と槍の部分の研ぎが少し甘いな。銀貨一枚で研ぐが、どうする?」

「お願いします」


 やっぱり包丁を研ぐのと同じ感覚じゃ駄目か。今後は金と時間があれば武器屋へ行って、ちゃんと点検をしてもらおう。

 職人のおっさんに手入れをしてもらい、ついでにアリルが使う矢と革製の胸当てと籠手も購入。その後は別の店をいくつか回って消耗品の補充と明日に備えてポーション類と食料を購入し、それを全部次元収納の中へ放り込んでおいた。


「やっぱり空間魔法があると便利ね」

「うん……。長く保存できるし、便利……」


 俺が死んだら取り出せなくなるけどな。

 そう思いつつもその事は言わず、ギルドで教えてもらった従魔も泊まれる宿へ行って部屋を取った。


「なんで三人部屋なのよ!」


 借りた部屋に着いてベッドへ寝転んだ数秒後、アリルが遅れて気づいて叫んだ。

 うっかりしてた。これまで宿の部屋については何かとロシェリに押し切られていたから、つい部屋のことをロシェリに任せてしまった。

 フードで顔を隠しながら部屋を取ってくれたまではいいけど、新しくアリルが加わっていることを考えずに三人部屋を取っていた。本人なりに良かれと思ったんだろう。


「駄目、だった?」

「いやだって、男と同じ部屋って、それは駄目でしょ!」

「……なんで? ジルグ君と一緒に、いちゃ……駄目なの?」


 首を傾げて不思議がる様子に、怪訝な表情を浮かべたアリルがこっちを向く。


「ねえちょっと、この子って危機感無さすぎない?」

「俺も最初はそう思った」


 でも話を聞いていると否定できなくて、そのままズルズルと同じ部屋で二回過ごしたのが現状に繋がっている。

 この後、どうにか危機感を持たせようとアリルは説得を試みたが失敗に終わり、もういいわと呟きベッドへ寝転がった。


「ちょっと、変なことしないでよね」

「誰がするか」


 そういう仲でもないのに手を出すような事は、俺は絶対にしない。


「それは私には手を出す価値が無いってこと!」

「なんでそうなる!?」


 何をどう解釈すれば、そういう結論に至るんだ。


「やっぱり胸なの!? ペッタンコはお呼びじゃないってのっ!?」

「だからそうじゃないって!」

「ジルグ君……大きい方が……いいの?」


 なんか消えそうなくらいか細い声で小刻みに震えながら、胸元に手を当てるロシェリが悲しそうにしてるし。


「そうじゃないって言ってるだろうが!」


 気にしているのは分かるから、俺の性癖を勝手に決めつけないでくれ。

 この後、説得にそこそこの時間を要した。

 疲れたから今日は飯食ったら早々に寝よう。明日からは護衛依頼のためにも。



 ****



 翌朝、ロシェリの食欲に宿の主だけでなく他のお客にも驚かれる朝食を済ませた後、武器と防具を身に着けてヨルドさん宅へ向かう。

 ヨルドさんが手配していた馬と馬車は既に到着していて、家族総出で荷物を運び込んでいる。


「おはようございます」

「ああ、皆さん。おはようござ……そちらはあなた方の従魔ですか?」


 木箱を馬車に運び込んでいるヨルドさんへ挨拶をすると、連れて来た従魔達に目を見開いた。

 そういえば昨日見送ってくれたのは子供達で、出迎えたのも子供達だから従魔を見たのは子供達だけなんだった。


「そうです。こっちが俺の従魔のコンゴウカンガルーで、ロシェリが乗っているのは彼女の従魔のマッスルガゼルです」


 紹介したらお決まりの筋肉強調ポーズ。そしてロシェリが乗ったままだから、落ちそうになるのを支えてやって降ろす。

 あっ、馬が少しビビってる。


「これはまた逞しくて強そうな魔物ですね。道中は頼みますよ」


 ヨルドさんの期待の言葉に応えるように、揃って鼻息を吐いて別の筋肉を強調するポーズを取った。

 お前達はそれをやらないと気が済まないのか?


「それじゃ、荷物を運ぶの手伝いましょう」

「いいんですか?」

「これくらいはサービスしますよ」


 こうした気遣いで依頼主への印象を良くしておいて損は無い。

 「剛力」スキルを発揮して重い荷物を運んでみせると、子供達から強いとか力持ちとか騒がれた。

 対抗しようと持てない荷物を持ち上げようとする男の子達はアリルがフォローを入れて手伝い、体力が低くて重い物は運べないロシェリは奥さんと二人で荷物を積み込んでいく。

 大体の物は持って行かないと言うだけあって、荷物が詰められた運搬用の木箱はさほど多くない。

 場合によっては次元収納で預かることも考えたけど、この量なら大丈夫そうだ。

 やがて全ての荷物を積み終えるとヨルドさんは御者台に座り、その隣には俺が、馬車には子供達と奥さんとアリルが乗って、ロシェリは子供達に絡まれたくないからとマッスルガゼルの背中に乗った。


「操車できるんですか?」

「よく仕入れでやっていたので、スキルが身に着くほど扱っていますから大丈夫ですよ」


 へえ、そうなんだ。「完全解析」で確認してもいいけど、これくらいなら別に調べなくてもいいか。


「では、出発しましょう」


 そう言って手綱を操ると馬が歩きだし馬車も走り出す。

 マッスルガゼルとコンゴウカンガルーはそれに並走して、町中を駆けたり飛び跳ねる。

 さあて、ここからはゆっくりと馬車の旅といこうか。


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