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入れ替えスキルでスキルカスタム  作者: 斗樹 稼多利
22/116

説明して入れ替える


 ひょんなこと、というよりも俺のしょうもないミスで、存在が分かりやすいスキルをアリルへ与えてしまった。

 それによって後天的に習得するはずがないスキルの存在に気づかれ、とても誤魔化せる気がしなくて真実を明かすことにした。

 仲間になったばかりのアリルだけでなく、秘密を明かさずに今日まで一緒に過ごしてきたロシェリを前に、一つ深呼吸をして語りだす。


「実は五年前、十歳の頃にな」


 何を聞かされるんだろうと、緊張した様子の二人を前に気まずい気持ちで説明していく。

 夢の中にスキルの管理を司っているポンコツ女神が現れ、与えるべき先天的スキルを間違えたと告げられたこと。

 間違って与えられた「入れ替え」はそのまま、本来授かるはずだった「完全解析」というスキルとお詫びのスキルを三つ与えられたこと。

 その「完全解析」の効果で見える項目と、スキルにはレベルというものが存在すること。

 そして「入れ替え」との組み合わせにより、先天的か後天的かを問わずスキルの入れ替えができるということを。


「ス、スキルの入れ替え?」

「そうだ。アリルが「色別」を使えるようになったのは、アリルの「料理」スキルをLV1分、母親の持っていた「色別」のLV1分と入れ替えたからだ」


 エルク村で遭遇したロシェリを虐めていた三人組。ビーストレントを始めとした何体かの魔物。生きて帰ったアリルを追い出した集落の連中。そいつらへスキルの入れ替えを実行して自分達に役立ちそうなスキルを入手し、あいつらにはあまり役立ちそうにないスキルを与えると同時に、仲間内でスキルをごちゃ混ぜにしてやった事も含めて正直に全部説明していく。

 勿論、俺が五年がかりでありったけの戦闘向けスキルを家族から入手した事も含めて。


「これがロシェリにもまだ教えていなかった、俺の秘密だ」

「「……」」


 沈黙、か。当然の反応だな。

 果たしてどう思われてるんだろうか。勝手なことをするなとか、余計なお世話だとか、罵声を浴びせられて冷たい視線を向けられながら、この場でさようならだってあり得る。

 勝手な事をしたって自覚はある。でもロシェリを虐めていた三人組も、生きて帰ったアリルにあんな対応をしたエルフ達も許せなくて、そんな奴らに二人が辛い思いをしていると思うと黙っていられなかった。

 俺だって家族から虐げられた日々を送ってきたから、そういった類の辛さは分かっているつもりだ。だからこそ躊躇無くやったんだ。


「ジルグ君……」

「はい」

「スキルの、入れ替え……。私達のため、やってくれたんだよ……ね?」

「俺はそういうつもりでやった」

「アリル、さん」

「ここまでに見えている感情の色からして、嘘をついてはいないみたいよ」


 どうやら嘘を言っていないか、「色別」で感情を調べていたようだ。

 でも自業自得だから黙って受け入れよう。勝手にやったことなんだから、せめて潔くあろう。


「ねえ、相手に悪いとは思わなかった?」

「全く。あんな奴らなんだから、いい気味だと思った」

「後悔は?」

「していない」

「……嘘じゃないわね」


 はい、嘘はついていません。これっぽっちも。


「正直に言うわね。私は出会ったばかりで、隠されていたって気がしない」

「ああ」

「だからスキルが入れ替えられることも単純に凄いと思うし、私のためにやってくれた事も嬉しく思うわ」


 ……あれ?


「怒って、ないのか?」

「あんな奴らがどうなろうと、知ったこっちゃないわよ。それに私だって、これからは帰る所も無しで生きていかなきゃならないんだから、役立つスキルはあって損じゃないわ。後でどんなスキルをくれたのか教えてよね」


 よかった。アリルはセーフだったか。

 さてと、問題はロシェリの方か。前髪で隠された目が見えないから、反応がイマイチ分かり辛い。雰囲気的には怒っているようには見えないけど……。


「えっと、ロシェリは、その……怒ってるか?」

「なんで、怒らなきゃ、ならないの……?」


 ……あれぇ?


「ジルグ君は、私の為……。スキルを、入れ替えてくれたん……でしょ?」

「ああ、まあな」

「だったら……むしろ、嬉しい。私のため、やってくれたん……だから」


 口元を微笑ませたロシェリは両手を頬に添えて、なんか嬉しそうにしている。

 この子はどういう感性をしているんだろうか。俺が変、という訳じゃないよな? ロシェリの反応の方が変わっているんだよな? 駄目だ、なんかその辺の判断が分からなくなってきた。


「ずっと黙ってたことは」

「簡単に……言えることじゃないから、仕方ないよ」

「そうね。スキルを入れ替えられるなんて、堂々と言いふらして自慢するとしたら余程のアホよ。だから、あんたが黙っていたのは当然のことね」


 想像以上に二人は怒っていないようだ。

 それはそれで安心だけど、さっきまで悪い展開になっても受け止めるつもりだった覚悟と決意を返してくれ。

 こんなのは無駄になった方がいいんだろう。でも結果的に無駄に緊張して心配した俺としては、精神的に凄く疲れた上に力が抜ける。

 まさかこんな、あまりにも拍子抜けする結末になろうとは。


「それにしてもレベルね。スキルの成長っていうのは、そのレベルっていうのが上がったことを指すのかしら」


 口元に手を当てて考え込むアリルの中では、既にスキルの入れ替えや俺の所業についての話は終わったことになっているようだ。

 

「ね、ねえ。ジルグ君。今の、私達のスキル……教えて」

「まあ、いいけど。ついでだからあいつらのスキルも教えとくな」


 あいつらというのは、言うまでもなくマッスルガゼルとコンゴウカンガルーのことだ。あいつらは現在、場の空気を読んで周囲を警戒してくれている。時々意味不明の行動をするくせに、こういう事と戦闘はできる従魔で助かる。


「そんじゃ、まずは俺だけど」


 「完全解析」で見たスキルの内容を、拾った木の枝で地面に書いていく。

 聞かれたのはスキルの事だけだし、能力の数値とかは書かなくていいか。




 ジルグ


 先天的スキル

 入れ替えLV4 完全解析LV4

 灼熱LV6 能力成長促進LV4 魔力消費軽減LV5

 逆境LV2 剛力LV2


 後天的スキル

 算術LV1 速読LV1 夜目LV1 槍術LV9

 水魔法LV7 自己強化魔法LV7 空間魔法LV4

 動体視力LV7 暗記LV1 斧術LV7 槌術LV6

 土魔法LV6 風魔法LV5 火魔法LV5

 咆哮LV2 威圧LV1 強振LV2




「なんか多くない!? レベルも高いし!」

「ふわぁ。スキル……たくさん」

「五年かけて家族からもらいまくったし、「能力成長促進」スキルがあるからな。じゃあ次はロシェリな」




 ロシェリ


 先天的スキル

 魔飢まうLV3 衝撃緩和LV1 体力消費軽減LV1


 後天的スキル

 光魔法LV3 氷魔法LV1 治癒魔法LV3 雷魔法LV3

 整頓LV1 精神的苦痛耐性LV1 回避LV1




 あっ、最後に見た時より「魔飢」のレベルが上がってる。


「精神的苦痛耐性って、あんたどれだけ虐められてたの」

「……思い、出したく……ない」

「あっ、ごめん」

「俺と会った時はLV4もあったぞ」

「……想像以上に大変な人生だったのね、あんた」

「うん……」


 なんか一気に湿っぽい空気になってしまった。


「えっと……じゃあ次はアリル」




 アリル


 先天的スキル

 活性化LV3 色別LV1 魔力消費軽減LV1


 後天的スキル

 弓術LV3 解体LV1 料理LV1 氷魔法LV2

 採取LV1 風魔法LV1 潜伏LV1 付与魔法LV2




「ああ、確かにあの女の「色別」とその旦那の「魔力消費軽減」があるわね」

「ジルグ君も、持ってる……よね。「魔力消費軽減」……って」

「同じ先天的スキルを持っていることは割とあるから、別に珍しいことじゃないだろ。じゃあ最後はマッスルガゼル達な」




 マッスルガゼル


 突進LV4 跳躍LV1 蹴術LV2 威嚇LV2 屈強LV1



 コンゴウカンガルー


 拳術LV3 跳躍LV1 屈強LV1




「まあ、こんなものじゃない?」

「だから、ガッチガチの……ムッキムキ……なんだ」


 それは「屈強」スキルのことを言っているのか?

 マッスルガゼルはそれが無くとも、最初から筋肉でガッチガチのムッキムキだったぞ。


「とまあ、俺達のスキルはこんな感じだ」


 全員のスキルを書き終え、足下へ木の枝を放り捨てる。

 書かれた内容をロシェリはじっと眺め、アリルはブツブツ言いながら何やら考え込んでいる。

 地面に書いたスキルへ指先を向けて動かしているから、何か仲間内でのスキルの入れ替えでも考えているのか?


「ねえ。これって入れ替えれば、そのスキルが使えるのよね」

「一応使えるけど、ポンコツ女神曰く、使いこなせるようにならないとスキルの恩恵に振り回されるんだって。あと、魔法関係は適性の有無もあるから注意だな」


 だから俺も入手したスキルに関する鍛錬は怠らず、魔法や武器の扱いを日々積み重ねてきた。

 そうした鍛錬で越えられない魔法の適性の有無に関しては、無いもの仕方ないと諦めて潔く返却しました。


「実体験から言わせてもらうと、今まで無かったスキルの方がその傾向が強いな」


 単にレベルが上がっただけならちょっと扱いが難しくなる程度なんだけど、新しく入手したスキルを使いこなせるようになるまでは少し苦労した。

 特に魔法系は制御を誤って、思ったより強い火が出て火傷しそうになったり、突風みたいなのを起こして若い女性使用人のスカートを巻き上げて怒られたりしたっけ。ちなみに地味な外見なのに、意外と色っぽい感じの紫の下着でした。


「なるほど。じゃあ私も「色別」を使いこなせるようにならないと、感情の色が見えたままなのね」

「そういうこと」


 つまりは今も見えているのか。まあ入手したばかりだし、頑張って使いこなせるようになってくれ。


「ねえ、良ければ「能力成長促進」スキルをLV1分だけくれない? 代わりに「活性化」をLV1分あげるから」


 おお、なかなか魅力的な提案だ。「活性化」があればちょっとした怪我なら自力で治せるし、「剛力」スキルやパワーライズやクイックアップと組み合わせて身体能力を強化すれば、より戦闘に役立つはず。でも「活性化」でどれくらい強化されるのか分からないから、そこは要確認だな。

 アリルの側からしても、「能力成長促進」スキルがあれば身体能力もスキルのレベルも上がりやすくなるから、お互いにとって悪い入れ替えじゃない。これはやっておくべき入れ替えだろう。


「構わないぞ。レベルが下がった分、効果に変化があるから気をつけてな」

「ん、りょーかい。後でちょっと試してみるわ」


 そんじゃ、「活性化」と「能力成長促進」をLV1分ずつ入れ替えっと。

 ……なんか、本当に俺の不安とか心配はなんだったろうなって改めて思う。こんなことなら、もっと早くロシェリに伝えておくべきだったな。


「あ、あの……私も、欲しい。「能力成長促進」……」


 ロシェリもか。まあ普通は欲しがるよな、こんな便利なスキル。


「いいけど、「魔飢」のレベルが上がりやすくなって、空腹も促進されやすくなるかもしれないぞ」


 前に「能力成長促進」を入れ替えで渡そうと思いつつ、それを躊躇った理由がこれだ。

 いずれはレベルが上がるから逃れられないとはいえ、勝手にスキルを入れ替えてまでやっていいのか判断がつかず、安全策としてやらないことを選択した。

 でも今はもうスキルの入れ替えを明かしたから、本人が望むのならやってやろう。


「大丈夫。今は、孤児院と違って……頑張れば、たくさん食べれる……から」

「分かった。それで、何と入れ替える?」

「えっと……。「魔飢」、いる?」


 微妙だ。魔法に関する能力が強化されるのはともかく、空腹の促進もくっ付いてくるからな。

 一度経験してみたいって好奇心はあるけど、レベルが上がれば食料の問題も浮上しそうだ。体に溜まったエネルギーを消費する「活性化」との相性も、良いんだか悪いんだかよく分からないし……。

 うん、やめておこう。


「別のを頼む」

「じゃあ……魔法系の、スキルは?」

「なら、「雷魔法」スキルと入れ替えてみるか」


 氷と光と治癒は適性が無いって分かってるから。

 これで雷魔法にも適性が無かったらどうしようと思いつつ入れ替えて、早速魔力を雷に変換してみようとした結果……駄目でした。


「適性無いみたいね」


 分かってるって。やった俺が一番実感しているから。


「他には……「体力消費軽減」、とか?」

「それ無くなったら、今より疲れやすくなるぞ」

「いいよ。元々、持ってなかったん……だし」


 それはそうだけどさ。

 でも元々は移動の疲れを軽減できればと思ってのことだし、今はマッスルガゼルの背中に乗っているから移動の疲れはあまり無いだろうし、戦闘も後衛で前衛の俺に比べれば体力の消耗も少ないし……あれ? 失っても割となんとかなりそうじゃないか?


「じゃあ、それもらっとく」

「どうぞ」


 という訳で、「能力成長促進」スキルと「体力消費軽減」スキルを入れ替えっと。

 これで従魔を除く仲間内での入れ替えは完了。入れ替え後のスキル構成はこんな感じだ。




 ジルグ


 先天的スキル

 入れ替えLV4 完全解析LV4 灼熱LV6

 能力成長促進LV2 魔力消費軽減LV5 逆境LV2

 剛力LV2 活性化LV1 体力消費軽減LV1


 後天的スキル

 算術LV1 速読LV1 夜目LV1 槍術LV9

 水魔法LV7 自己強化魔法LV7 空間魔法LV4

 動体視力LV7 暗記LV1 斧術LV7 槌術LV6

 土魔法LV6 風魔法LV5 火魔法LV5

 咆哮LV2 威圧LV1 強振LV2




 ロシェリ


 先天的スキル

 魔飢まうLV3 衝撃緩和LV1 能力成長促進LV1


 後天的スキル

 光魔法LV3 氷魔法LV1 治癒魔法LV3 雷魔法LV3

 整頓LV1 精神的苦痛耐性LV1 回避LV1




 アリル


 先天的スキル

 活性化LV2 色別LV1 魔力消費軽減LV1

 能力成長促進LV1


 後天的スキル

 弓術LV3 解体LV1 料理LV1 氷魔法LV2

 採取LV1 風魔法LV1 潜伏LV1 付与魔法LV2




 レベルと引き換えに数が増やせるから、スキルの数がだいぶ増えたな。

 「能力成長促進」スキルでレベルを上げていけば、どんだけになるんだか。ん? そういえば今になって思ったけど、このレベルって上限あるのかな。


「しっかし、大した組み合わせね。あんたの「完全解析」と「入れ替え」って」

「あのポンコツ女神が教えてくれたんだ」

「さっきから気になってたけど、仮にも女神をポンコツって……」


 与えるべき先天的スキルを間違えた上、十年もそれに気づかず放置していたんだからポンコツだろう。


「他にも、もう一つ教えてくれたことがあるんだけど、そっちはまだ無理だ」

「どう……して?」

「必要な空間魔法をまだ覚えていないから」


 あの時に教わったもう一つの良い事。それがあの時にお詫びで受け取った、とある空間魔法との組み合わせ。これができるようになれば、「入れ替え」だけじゃできなかった事ができる。

 ただ、あのポンコツ女神の言う事だから一抹の不安があるんだよな。だからできるようになってやってみるまで、これをあまり信用しないようにしている。


「ふうん。まあいいわ。ところで一緒に行くって決めたけど、行き先は決めてるの?」

「一応、最終目的地はベリアス辺境伯領の中心地ガルア」

「冒険者の活動が盛んってところね。いいじゃない、私も冒険者だから興味はあったのよ」

「だったら問題は無いな。でもまずは、この先にある町へ行こう」


 そこでアリルの旅支度を整えて、出発前に集落で買い揃えようと思っていた消耗品を購入しないと。

 特に調味料の類は絶対に。でないと道中の食事が、味付け無しの肉と野菜になりそうだ。


「そうね。まっ、私がいれば大丈夫よ。17歳でEランクになった期待の星、このアリルがいればね!」


 真っ平な胸を張って叩きながら自慢気に言うところを悪いと思いつつ、二人でギルドカードを取り出して見せた。


「同じEランク!? えっ、しかも年下!?」


 カードに記載されているランクと年齢を見たアリルは驚き、次に自分の言った事を自覚して恥ずかしくなって真っ赤になっていく。


「お、同じEランクでも経験と格が違うんだからね! 私の方が経験長いし、Dランクに近い方のEランクなんだからね!」


 腕を組んでそっぽを向く姿は、まさしく素直じゃない。

 さっきまではスキルの入れ替えを素直に受け入れて、普通に接してくれていたのに。ただ尻尾は素直に認めているようで、ブンブン振っている。

 その尻尾に触りたいのかロシェリはうずうずしていて、今にも跳びかかりそうだ。そういえばあの尻尾、毛並みが良くてモフモフしていそうだもんな。

 なお、この後にアリルと交渉して尻尾を触らせてもらえたロシェリだったが、触りすぎだと怒られて落ち込んだのを慰めるのに少し時間と肉の消費を要した。


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