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入れ替えスキルでスキルカスタム  作者: 斗樹 稼多利
19/116

エルフを知る


 新たにコンゴウカンガルーって魔物が俺の従魔に加わった。

 マッスルガゼルに勝るとも劣らぬ筋肉を持っているけど、戦い方はだいぶ違う。

 どっしり構えて相手の攻撃を防いで反撃するマッスルガゼルに対し、コンゴウカンガルーは避けて叩く。

 ホーンディアスの群れと遭遇した時、果敢に突っ込んで行くと軽いフットワークで攻撃を避けて相手に接近して、隙が大きければそのまま強い一撃を打ち込み、隙が小さければ速い連打で怯ませて強い一撃を放つ。

 こいつらが戦った時もそうだったけど、剛のマッスルガゼルが硬くて強靭な筋肉なら、柔のコンゴウカンガルーは柔らかくてしなやかな筋肉って感じだ。


「これで、モフか……プニなら……」


 拘るね、ロシェリも。

 そんな二人と二体になった旅路は順調に進み、立ち寄る事にしていたエルフの集落へ到着した。

 こういった集落になると村や町のような出入り管理はされておらず、集落を守る衛士に身分証を提出して訪れた目的を聞かれるくらいだ。

 俺達は集落の入り口にある木製の小さな門の前でそれを受けていて、腰に剣を差した見た目が整っている黒い肌と銀髪の男性エルフにギルドカードを提出した。


「二人とも冒険者か。何の用で来た?」

「この先の町を目指しているのですが、その道中に立ち寄ることにしただけです」

「それと……魔物を、ギルドへ……提出に……」


 人見知りを発動させたロシェリは俺の後ろに隠れ、ちょっとだけ顔を出してボソボソと説明をする。喋りたくなければ俺が説明するから、無理しなくてもいいぞ?

 一方の説明を聞いた男性エルフと、彼の同僚らしき同じ黒い肌と銀髪の男性エルフは怪訝な表情をした。うん? 何かおかしかったか?


「……その魔物はどこだ? 見たところ、武器以外は何も所持していないようだが」


 ああ、そういうことか。


「空間魔法を使えるので、そちらに入れてあります」

「なんだ、そういうことか。よし、通っていいぞ」


 無事に許可を得てギルドカードを返され、門の扉が開かれた。

 足を踏み入れた集落の様子は特に大きく変わった様子は無く、頑丈そうな見た目の木造建築の住居の傍でエルフ達が農作業や雑談をしている。

 エルフ達はさっきの衛士のような黒い肌に銀髪だけでなく、白い肌に金髪のエルフ、獣っぽい尻尾のあるエルフ、他よりも耳が短いエルフもいた。

 一口にエルフと言ってもいくつか種類があって、おおまかに分けると三種類存在する。銀髪に黒い肌のダークエルフ、金髪に白い肌のライトエルフ、そして他種族と交わった事で生まれるハーフエルフだ。

 特にハーフエルフは他種族の片親によって見た目に違いがあって、例えば犬系の獣人が片親なら犬系の尻尾が生える。鳥系なら背中に翼が生え、魚系なら肌の一部に鱗が浮かんで指の間に小さなヒレのようなものが現れるといった感じだ。ちなみに人間との間に生まれたハーフエルフは、耳が短くなるだけらしい。唯一共通しているのは、エルフよりは短いけど他種族に比べれば長い寿命くらいだそうだ。

 ハーフエルフが住んでいるだけあって、集落内には農作業をしている人間や獣人を数人見かけた。

 これらの知識は全部、実家にいた頃に何かとエルフについて熱く詳しく語る使用人から聞いたものだ。他の使用人曰く、単なるエルフマニアらしい。


「エルフ以外も……いるんだ、ね」

「あくまで人間社会で生活したがらないってだけで、移住者は受け入れるみたいだからな」


 要するに人間社会での生活は合わないから受け入れられない。でもこっちの生活に合わせるのなら、移住は構わないってスタンスなんだろう。

 一体エルフの何が、そこまで人間社会に合わない理由なんだろうか?


「うわっ! 魔物!?」

「スッゲェッ! どっちも筋肉ムキムキだ! ねえねえ、こいつら兄ちゃんと姉ちゃんの?」

「触ってもいいですか?」


 道中、エルフの子供達に遭遇したらマッスルガゼルとコンゴウカンガルーに大興奮。

 普段は魔物は危ないって認識だから、従魔として大人しくしている魔物が珍しいんだろう。ただ子供達と違って大人達の方は少し心配そうにこっちを見ているから、触ってもいいと言って大丈夫ですアピールをしておいた。

 マッスルガゼルとコンゴウカンガルーに触っても何もされない様子を見た親は安堵し、子供達は筋肉が硬いだの強そうだの騒いでいる。

 一方の触られているマッスルガゼル達は、注目されているのが分かっているのか筋肉を隆起させてアピール。すると子供達は再び大興奮し、コンゴウカンガルーの腕にぶら下がったりマッスルガゼルに乗ろうと飛び跳ねたりしだした。子供って怖いもの知らずな時があるから、少し羨ましい。

 子供相手でも人見知りを発揮して俺の背中に隠れて密着しているロシェリへ、その怖いもの知らずなところを少し分けてやってもらいたい。


「お兄ちゃん、あの子に乗せて」

「兄ちゃんと姉ちゃん冒険者だろ? ギルドに案内してやるから、この魔物に乗せてくれよ」


 おっと、今度はそうきたか。

 指差しているのはマッスルガゼルだから、乗る分には問題無いだろう。当のマッスルガゼルも、楽勝だとばかりに鼻息を吹いているし。

 ちなみにロシェリは……俺に向けて無言で何度も頷いていた。頼むから、子供相手にまで人見知りと対人恐怖症を発揮しないでくれ。


「分かった。その代わり、ちゃんと案内しろよ」

「おう、任せとけ!」


 胸を叩いて言い切った少年エルフと、最初に乗せてと言ってきた少女エルフをマッスルガゼルの背に乗せてやる。

 さすがはマッスルガゼル、子供なら二人くらい簡単に乗せられるか。


「うおぉぉっ。こいつ、背中も筋肉でガッチガチだ」


 背中に触れながら少年エルフが興奮している。そんな微笑ましい様子に大人達の警戒も解けたのか、にこやかに子供達の様子を見守っている。

 このまま俺達は少年エルフの案内で冒険者ギルドへ直行。中に入らないマッスルガゼルとコンゴウカンガルーは外で待機してもらい、用が済むまで一緒に遊んでいていいとエルフの子供達に言ったらメッチャ喜ばれた。

 楽しそうな笑い声を背にギルドへ入ると、時間帯の関係か職員以外は冒険者風のエルフが三人しかいなかったから、すんなりと対応してもらえた。

 受付にいたライトエルフの女性へギルドカードを提示して用件を述べ、場所を解体所に移して魔物を全て出した。


「こりゃあまた、随分倒してきたもんだな」


 解体職人のダークエルフが頭を掻きながら、積まれた魔物を見ている。

 その間に受付にいたライトエルフの女性が魔物の記録を取って、俺達のギルドカードの記録と照らし合わせて確認していく。

 やがてそれが終わって確認が取れた後、素材は全てギルドへ売却するのかと聞かれたから、いつも通り食べられる箇所は引き取ると伝えた。すると解体職人のダークエルフが笑みを浮かべ、俺の手を握ってきた。


「本当かい!? 助かるよ!」


 なんでこんなに感謝されるんだろう。保管庫がいっぱいなのか?


「さあてやるか。この量だから早くとも夕方頃になるけど、引き取るのは別に明日でもいいよ」

「いえ、夕方頃に取りに来ます」


 早めに次元収納へ入れておいた方が、長く保存できるからな。

 それに本当に保管庫がいっぱいだったら、少しでも邪魔にならないようにした方がいいだろう。


「分かった。じゃあやっておくよ」

「では報酬はその際、買取金を含めて渡しますね」

「お願いします」


 よし、これで用事は終了……じゃなかった。コンゴウカンガルーを俺の従魔として申請しておかないと。

 ライトエルフの女性にその事を伝え、受付へ戻って手続きをする。手続きそのものは簡単で、ギルドカードで従魔の存在を確認してもらえば、後は職員の人が必要事項を記入するだけだった。

 思ったよりも呆気なく終わったもんだから拍子抜けしながらお礼を告げて外へ出ると、エルフの子供達がまだマッスルガゼルとコンゴウカンガルーと遊んでいた。

 ダークエルフの子供を乗せたマッスルガゼルを数人がかりで押そうとしてもビクともしないことに強いと騒ぎ、両腕に一人ずつぶら下げたコンゴウカンガルーに跳ねてもらって何故か喜んでいる。

 そんな楽しんでいる子供達を見守るように、さっきまではいなかった弓矢を背負ったライトエルフの少女の姿があった。犬系の尻尾が生えているから、獣人とライトエルフとのハーフエルフなんだろう。


「あっ、お兄ちゃんとお姉ちゃん帰って来た」


 子供の一人が俺達に気づくとハーフエルフの少女もこっちを向いた。

 紺色の髪留めで前髪を開けて額を出している、癖毛気味なショートカットのハーフエルフの少女は軽装と言うか動きやすい格好と言うか、ほとんど脚を隠していない短パンに太い帯みたいなので胸元を隠して袖無しの上着を羽織っているから、露出が多くて目のやり場に困る。特に真っ白な肌が丸見えの腹部とか脚とか。

 ただ、言っちゃなんだけどロシェリ同様に真っ平だから助かった。これでスタイルが良かったら、間違いなく顔を逸らしたり視線を泳がせたりして態度に出ていただろう。

 そんな些細な事にホッとしている間にハーフエルフの少女はこっちへ歩み寄り、子供達と遊んでいるマッスルガゼルとコンゴウカンガルーを指差す。


「あれ、あなたの魔物なの?」


 なんか気の強そうな口調だな。


「俺のじゃなくて、俺達のだ。それぞれ一体ずつ従魔の契約を交わしている」

「ふうん」


 返事を聞くと今度は俺達をジロジロ見だした。

 この行動に人見知りを発動したロシェリは俺の背中に隠れ、俯いてフードを引っ張って顔を隠そうとしている。


「他所から来たみたいだから教えてあげるけど、ここじゃあまり張り切って魔物を狩らなくていいわよ。この辺は魔物が少ないし、外から来る商人に売る以外の需要は極僅かなんだからね」


 おっ? 割といい奴っぽい? でも魔物が少ないのはともかく、外から来る商人へ売る以外の需要が極僅かなのはどうしてだろう。

 理由まで説明せずに去っていく少女、子供達に聞いたところアリルという名のハーフエルフの冒険者を見送った後、ロシェリが空腹を訴えたから子供達の案内で食堂兼宿屋へ案内してもらうことにした。その道中で、この集落では魔物を食べないのかをダークエルフの少年に聞いてみた。

 売る以外の需要が極僅かってことは、魔物を食べないってことだから現地人に聞いた方が早い。


「魔物? 俺達は食わねえよ。エルフは魔物を食ったら呪われるって、母ちゃんが言ってたぜ」

「呪われる?」

「そう。えぇっと、エルフにおんけーをくれた神様へのはーしん行為、だったっけ?」


 おんけーは恩恵だとして、はーしん行為? ひょっとして、背信行為のことだろうか?


「どうして魔物を食うのが背信行為なんだ?」

「知らね。母ちゃんが何か言ってた気がするけど、難しくて忘れた」


 おいおい、なんか大事なことっぽいんだからちゃんと覚えとけよ。

 とにかくだ。なんかエルフが恩恵を授かっていて、それを守りたければ魔物を食うなってことかな。そしてその恩恵に当たるのは……なんだろう。

 そこら辺は大人のエルフに聞いた方が良いだろうな。この子達じゃ、上手く説明してくれるか不安だから。

 そう決めた後、案内してもらった宿屋兼食堂で部屋を取った後に食事をしながら、その辺りの事を女将さんに聞いてみた。


「ああ、その事ね。私達エルフ族が容姿に優れて魔力の扱いに長け、他種族よりも長寿なのは神の恩恵で、それを失わない為には神との誓約を守る必要があるのよ」


 遠い昔。当時のエルフ族は醜くて魔法は大して使えず、とても脆弱で短命のため劣等種族と言われていたらしい。

 そこでエルフ達は救いを求めて神に祈りを捧げ続けた結果、願いは届いて優れた容姿と魔力の扱い、それと長寿を手に入れた。

 ただ、これだけの願いを叶えてもらってそこで終わりという訳じゃなく、これはエルフ族と神との間で交わした契約だからと神はエルフ側に守るべき誓約を与えた。



 自分達が最も優れた種族だと驕れば魔法を失う

 神の加護を得た神聖な存在だと驕れば醜い容姿に戻る

 禁じた食物を口にすれば長い寿命を失う



 要するに、自分が与えた救いを失いたくなければ誓約を守れって訳だ。

 でも最後の食物に関しては、第三者的視点からすれば面倒な事をさせやがって、っていう八つ当たりっぽく感じられる。


「なにが、食べられないん……ですか?」


 やっぱり、そこに食いつきますかロシェリさんや。


「肉は鶏と野鳥以外、水中にいるのだと魚以外は全部駄目。煮込んで取った出汁も含めてね。ああでも、卵と乳は大丈夫よ。それと野菜とか穀物とか果物も食べられるわね。魔物なんて、鳥系だとしても駄目よ」

「お肉がほとんど食べられない!?」


 自分がエルフでもないのに、物凄いショックを受けてるし。

 でも言われてみれば、俺達が頼んだ料理もメニューにある料理も野菜や穀物が中心で、それ以外は鶏と川魚しか使っていない。

 これじゃあ人間社会で生活していないのも分かる。二つの驕りに関しては心構えの問題だからともかく、食物に関しては自炊するか、食べられる物を探すかしないといけないんだから。しかも出汁に含まれていても駄目なんて、厳しすぎる条件だ。やっぱりこれ、八つ当たりっぽいのが混ざってないか?


「誓約を破ったら髪の色はそのまま、肌の色だけが変化するのよ。ライトエルフなら黒い肌に、ダークエルフなら白い肌にね。ハーフエルフも同じよ。そうなったエルフはタブーエルフって呼ばれて、エルフ族を救ってくれた神との誓約を破った背信者扱いされて、エルフの集落や村じゃ生きていけないの」


 要するに集落や村から追い出されるってことか。

 以前に王都で見かけたライトエルフとダークエルフはそうした変化が無かったから、自主的に集落なり村なりを出て冒険者をしているか、依頼でたまたま来ていただけなんだろう。


「この集落に住んでいる人間や獣人は、寿命の違いやここでの食生活も受け入れてエルフと一緒になった方々なの。でも集落の長が、たまには食べたいだろうからって月に三回ぐらいの頻度で、人間と獣人が空き家に集まって魔物肉を食べる会を開く許可を出しているのよ」


 なるほど。集落内で全く需要が無い訳じゃないから、極僅かなんだな。

 あっ、だからギルドの解体職人は俺達が肉を引き取るって言ったら、助かるって言ったのか。

 在庫がたくさんあっても消費が追いつかないんじゃ腐らせるだけだし、それじゃあギルド側にとっては損にしかならないからな。


「そんなに、食べられない、お肉があるなんて……。エルフ、じゃなくて……よかった」


 だろうな。これまでの肉への執着具合からして、鶏か野鳥しか食べられないエルフの肉食事情は辛いだろう。


「私も若い頃は、興味本位で食べてみたいって思ったこともあったわね。周りから全力で止められたわ」


 聞けば誰もが一度は通る道で、その度に家族親戚ご近所さんが説得して説教して説法してと全力で阻止するらしい。というかご近所さんまで集まるのか? 説法ってなんだ?

 ちょっとだけ疑問は残ったものの、食事を終えた俺達は夕方まで部屋で一休みすることにした。当然のように同じ部屋、というよりもロシェリに押されて女将さんがその背中を押すように援護して同じ部屋にさせられた。ダブルベッドでないのが救いです、本当に……。

 まあいいさ、とりあえず軽く昼寝でもしよう。



 ****



 軽く昼寝をするから、夕方ぐらいに起こしてって言うとジルグ君は寝ちゃった。

 彼に助けられてから今日まで一緒に旅をしてきて、少しずつジルグ君のことが分かってきた。

 私みたいなのでも受け入れてくれるくらい優しくて、それでいて世話焼きでお人好しで受け入れた人には甘い。

 でも戦っているときは凛々しくて、特にビーストレントの時は必見だった。武器に炎を纏わせて戦う姿は……上手く例えが浮かばないけど、とにかくカッコよかったの!

 ちなみに私の一番のお気に入りは苛めっ子達の誘いを拒否して、私を選んでくれた時かな。王都で同じ状況の時、周りは苛めっ子達のいう事に流されて私を拒絶したけど、ジルグ君は流されずに私の手を取り続けてくれた。

 人付き合いが怖くて暗い上、体は貧相で鈍くさくて不器用で先天的スキルのせいでたくさん食べる私を受け入れてくれる男の人なんて、他にはもういないかもしれない。だからあの時、私はジルグ君から一生離れないって決めた。

 この人なら、私の密かな夢を叶えてくれるかもしれないから。

 どうせバカにされるだろうから孤児院で誰にも言わず、まだジルグ君にも伝えていない私の唯一でささやかな夢。

 ジルグ君、あなたなら私の夢を叶えてくれますか?

 ……叶えてもらえなかったら、どうしよう。


 ……ソンナコト、無イヨネ?

 ジルグ君ナラ、叶エテクレルヨネ?



 ****



「うおっ!?」


 なんだ!? 寝てたら急に寒気がしたぞ!

 別に悪い夢は見ていないし、気温も寒くないし風邪も引いていないのにどうして寒気がするんだ。

 部屋の中を見渡しても特に変化もおかしな様子も無い。精々ロシェリが枕を抱いて、なんか嬉しそうにベッドの上をゴロゴロ転がっているだけだ。

 だけど確実に寒気はした。なんだったんだ、今のは。


「どうか、したの?」

「いや、なんでもない」


 なんでもないよな? なんでもないはずだよな?

 部屋の中と俺自身の体を再確認。さらに念のため「完全解析」で確認……よし、問題無し。やっぱり気のせいか。


「はぁ……もう一眠りするか」

「おやすみ」

「あぁ……」


 さっきの寒気はなんだったんだと思いつつ、再度昼寝をする。

 今度は寒気にも悪夢にも襲われることは無く、夕方にロシェリに起こされるまで眠れた。本当にさっきの寒気はなんだったんだろうか。


(特に病気とかそういうのでもないしな……)


 跳び起きた時に確認したけど、念のためもう一回「完全解析」を使用する。うん、やっぱり状態の所は健康のままだ。問題無し。


(風邪のひき始めか? 今日は早めに寝ておくか)


 やれやれ、なんだかんだで疲れが溜まってるのかな。

 おっと、ともかく冒険者ギルドへ行くか。装備品は次元収納へ入れたまま身に着けず、宿の外へ出るとまだエルフの子供達がマッスルガゼル達と遊んでいた。というか、子供の数が増えてる。


「大人気……だね」

「ああ……」


 なんでこんなに人気なのかよく分からないけど、まあ大丈夫だろう。マッスルガゼルもコンゴウカンガルーも、加減が分かっていて怪我はさせていないみたいだし。

 とりあえずエルフの子供達と遊んでいるマッスルガゼルとコンゴウカンガルーを宿に残し、ロシェリと二人で冒険者ギルドへ向かう。

 夕方とあって依頼から戻って来たらしき冒険者が何人かいて、その全員がエルフだ。

 彼らは俺達を見つけると見慣れない人間がいるからか、少し注目が集まる。そしていつものようにロシェリは人見知りして、俺の背中に隠れている。


「あぁ、君達は昼間の。例の物は解体所の方にあるから、先に引き取ってもらえるかしら?」

「分かりました」


 促されるまま解体所へ向かうと、そこには積み上げられた肉の山があった。

 何度も見ているけど、やっぱり圧巻だな。ロシェリも嬉しそうに釘付けになっているし、やっぱり肉は正義なのかな。

 とりあえず肉は次元収納に放り込んでおいて、その後で受付で素材の買い取り金を受け取って宿へ引き上げた。

 宿へ戻った頃には日も落ちて、さすがに子供達は帰っていた。一方で遊び相手をしていたマッスルガゼルとコンゴウカンガルーは、ぐったりと厩舎の床に伏せていた。子供って割とパワフルだから、こいつらでも疲れたんだろう。明日には移動の予定だし、ゆっくり休めよ。

 ところがそうはいかなかった。

 翌朝に旅支度を整えて出発だという時に、昨日マッスルガゼル達と遊んでいた子供達が宿へ駆け込んできたからだ。

 彼らは俺達を見つけるなり、慌てた様子で駆け寄ってきた。


「にーちゃん、ねーちゃん! 助けてくれよ! アリルねーちゃんが帰って来ないんだよ!」


 うん? それって確か昨日会ったハーフエルフだよな?

 どうやら今日は無事に出発、という訳にはいかなさそうな感じだな。


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