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入れ替えスキルでスキルカスタム  作者: 斗樹 稼多利
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増えるガチでムキ


 シェインの町を旅立って数日。道中で魔物との戦闘をして肉と収入源を確保しつつ、新しい装備の性能を確認した。

 特に大きな問題が発生するどころか、以前よりも扱いやすくなって性能も向上したハルバードのお陰で攻撃は問題無し。防御の方も以前より格段に向上した防具のお陰で問題無しだったが、性能を確認するためにわざと攻撃を受けるのはやっぱりちょっと怖かったし、雷魔法を使うボルトカピパラって魔物と遭遇した時はちょっと焦った。

 そんな日々を送りつつ、俺達は無事にバーナー伯爵領との境へ到着。そこに建つ関所では村や町の出入り同様に身分証と「罪人の調」の確認が行われていて、俺達の年齢でもうEランク冒険者であることにちょっと感心された後、この辺りに関する注意を促された。


「気をつけろよ。この辺りは見晴らしがいいが、魔物はいるからな」

「たまにいるんだよ。見晴らしがいいからって気を抜いて、魔物に襲撃されて大怪我する奴が」


 それは気を抜く方が悪いと思う。いくら見晴らしがいいからって、それが絶対的な安全って訳じゃないんだから警戒を怠るのは間違いだ。

 俺達はそうならないよう、警戒は怠らずに行こう。


「分かりました、気をつけます」


 ギルドカードを返してもらって関所を通過。バーナー伯爵領へ足を踏み入れた。


「……特に、変わらないね」


 どこまでも続いていそうな広々とした草原を見ながら、マッスルガゼルの背中の上でロシェリが呟く。

 そりゃそうだ。境目に関所があるってだけで、土地そのものは地続きなんだから。そもそも関所一つ越えた先がいきなり違う環境とか怖いわ。

 

「とにかく警戒はしておこう。ウィンドサーチ」


 今のところ索敵に引っかかるのは道行く旅人や馬車ばかりで、魔物の反応は索敵範囲内には無い。


「ここから……どれぐらいで、町か村があるの?」

「えっと……」


 地図を取り出して確認すると、この先にある小さな田舎町にはまだ五日はかかる。

 だけどその道中。ここから徒歩で二日くらい行った山の麓にエルフの集落があるみたいだ。

 エルフは先端の尖った長い耳が特徴の種族で、見た目が整っていて魔力の扱いがどの種族よりも優れている。ただ、種族的な理由があるとかで人間社会で生活しているエルフはあまりおらず、基本的にエルフ同士で集まって集落や村を築いて生活している。この国の中心の王都であっても、エルフは冒険者風のを二、三人見かけただけだ。

 だからといって人間や他の種族と険悪という訳ではなく、むしろ友好的で村や集落には各種ギルドを誘致して商人と取引をしたり、冒険者を招いたりもしている。


「という訳で、この集落に寄って冒険者ギルドへ行こう。でないとそろそろ肉がピンチだ」

「絶対に、行こう!」


 張り切るのはいいんだけど、肉がピンチの最大の理由は君だからねロシェリさんや。

 しかしあれだけ食べて、移動もマッスルガゼルに乗って自分で歩いているわけじゃないのに、どうしてあんなに細いままなんだろうか。その割にはくっ付いてきた時の感触は柔らか――。

 煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散、煩悩退散! よし、落ち着いた。

 ここまでの旅路でもやたらくっ付かれて寝ていたから、なんかちょっとずつ毒されている気がする。


「今度のお肉も……美味しいと、いいね」

「そうだな」


 シェインの町を出てからここまで、フォレストシープ、ボルトカピパラ、アングリーベア、鱗狸、ポイズンリザードといった魔物を倒してきた。一応全部次元収納で保管しているけど、そもそもこいつらは食えるんだろうか。特に名前からして不安なポイズンリザードは。ギルドからもらった冊子には書いてなくて分からないから、とりあえず入れておいたけど一抹の不安がある。

 ちなみに、ウィンドサーチで見つけた魔物全部と戦った訳じゃない。疲れていて戦闘を避けたい時は遭遇しないように移動したし、気づかれないように身を隠しながら「完全解析」を使った結果、とても敵わなさそうな相手の時は気づかれないうちに逃げている。ビーストレントに匹敵する能力だったガイアゴリラとか、やたら数が多い上に硬そうで俺達だけじゃどうにもならなさそうなアイアンアントの集団とか。これらはどれも、ウィンドサーチで探知していたからできた対応だな。

 おっ、とか言っているうちに魔物の反応発見っと。しかもこっちに気づいたのか、向こうから接近してくる。


「右前方から魔物が接近してくる。数は一体」


 接近を教えるとロシェリはマッスルガゼルから降り、マッスルガゼルは前へ進み出て足下を均す。

 やがて見えてきたのは全長一メートルちょっとの狐っぽい魔物。「完全解析」を使ってみるとクローフォックスっていう魔物で、「気配探知」LV6のスキルを持っていた。そりゃ気づくのも当然か。ただ、能力はそこまで高くないし疲れもさほじゃないから戦闘は可能だ。

 そのクローフォックスは勢いよく接近してくると跳躍し、鋭い爪で襲いかかって来た。


「頼む!」


 掛け声と共に爪を受け止めたのはマッスルガゼル。

 いかに鋭い爪でもマッスルガゼルの筋肉を切り裂けず、表皮に少し爪が食い込んだだけ。それにクローフォックスが驚いている隙に俺が側面へ回り込み、ハルバートを振るう。

 「気配探知」スキルを持っているから寸でのところで避けられたものの、後足の付け根辺りに深めの傷を負わせられた。

 手傷を負ったクローフォックスは不利を悟って逃げようとするけど、そこへロシェリが魔法を放つ。


「ショック……ランス!」


 槍状の雷魔法が直撃したクローフォックスは地面にひれ伏し、トドメとばかりにマッスルガゼルが踏みつけ俺が槍部分で首を刺す。

 一回大きく痙攣した後、死亡を確認したら次元収納へ入れておいた。


「本当……。どうして、こんな傷で済むの?」


 鋭い爪の直撃を受けたのに、当のマッスルガゼルは皮膚が切れるどころか爪痕が薄っすら赤くなっているだけ。

 主人ながら不思議に思うロシェリは納得しきれない様子で首を傾げつつ、マッスルガゼルの背中へ乗った。ごめんなさい、実は前よりも頑丈になっています。その理由は俺にあったりする。

 道中で遭遇した鱗狸って魔物と戦った時、鱗自体が硬い上に「屈強」っていう体が頑丈になるスキルを持っていてなかなか物理攻撃が通らないから、ついマッスルガゼルの強化を兼ねて「跳躍」スキルと入れ替えたんだ。「屈強」スキルはLV1だから「跳躍」スキル自体は失われていないし、マッスルガゼルの物理的防御力の強化ができたから許してください。

 ついでに言うと、ロシェリの「整頓」スキルのLV1分とボルトカピパラの「雷魔法」スキルLV1も入れ替えて「雷魔法」のレベルを上げておいたし、俺自身もアングリーベアが持っていた「咆哮」スキルLV1を夜の見張りでLV2になった「夜目」スキルのLV1分と入れ替え、「咆哮」スキルをLV2に上げておいた。

 ボルトカピパラについては、俺の防具が雷魔法に弱いからその対策として入れ替えたってのもある。


(バレてはいないから大丈夫だろうけど)


 だとしても少し心苦しい。折を見てロシェリにこの事を話そうとは思っているものの、受け入れてくれるか不安だ。

 もしも受け入れてもらえたら、どんなスキルが欲しいか聞いてみよう。

 魔物とか盗賊とか人格的に駄目な奴とか、スキルを入れ替えても構わなさそうな相手がそのスキルを持っていたら、入れ替えてやろうと思う。勿論、ロシェリがそうやってスキルを手に入れても構わないのならな。

 うん? だとするとスキルの入れ替えって、単なる強化っていうよりも思い通りの人材を作る事に繋がらないか? 考えてみればエルク村でロシェリと虐めていた三人のスキルを入れ替えたのも、完璧とは言えないもののロシェリを俺が求める人材に作り上げたようなものだし。

 ……この使い方は話す相手には気をつけて、相手には強く口留めをお願いしよう。スキルを入れ替えて思い通りの人材を作れるなんて知られたら、明らかに厄介な事になりそうだから。うわ、なんかますますロシェリに話し辛くなった気がする。


「本当……不思議……」


 おっと、とりあえず今はこの場を誤魔化さないと。


「元からそんな感じだったろ、そいつの頑丈さは」

「そう……だけどさ」

「まあ、いいじゃないか。いい感じにタンク役になってくれているんだし」


 ここまでの旅路で俺達の戦闘での担当もだいぶ整ってきた。

 体が頑丈なマッスルガゼルは前衛の相手の攻撃を受け止めるタンクで、俺は同じ前衛でも攻撃重視のアタッカー、そしてロシェリは後衛での魔法攻撃と治癒を担当。

 実戦の中でそれを整えてきて、今ではこのスタイルが確立していると言ってもいい。


「そう、だね。お陰で……戦いやすい」


 褒められたのが分かったのか、マッスルガゼルは鼻息を一度大きく吐いて筋肉を隆起させた。

 だから、それをやるのならロシェリが乗っていない時にしろって。ほら、今もバランスを崩して落ちそうだからさ。

 どうにかロシェリが落ちるのを防ぎ、改めてエルフの集落を目指して出発。 

 その後も魔物の反応は引っかかるけど、ここは移動を優先してスルーしていく。特にこっちに気づいて襲ってくる様子も無いから、やっぱりさっきクローフォックスが俺達に気づいて襲って来たのは、高レベルの「気配探知」スキルを持っていたからなんだな。

 やがて日が落ちて暗くなる少し前に野営を開始。食事を済ませた俺達は少し休憩を挟んだ後、ロシェリは「魔法習得速度上昇」スキルがある杖を入手したからと、シェインの町を出てから続けている新しい魔法の習得に励み、俺はハルバートを振っての鍛錬をする。


「ふぬぅ……。もう、ちょっと。もう、ちょっとで……風が、出る気が、する……」


 掌に魔力を集めたロシェリは魔力を風に変換しようと集中している。

 魔法スキルを習得するための訓練方法はさほど複雑ではなく、魔力を習得したい魔法の力に変換して制御できればいい。例えば「火魔法」スキルを習得したければ掌に集めた魔力を火に変換して、その火を自在に制御できるようになれば、いずれは「火魔法」スキルを習得できる。

 だけど魔法は素質や適性なんかが絡んでいて、どんなに膨大な魔力を持っていても魔法の素質が無ければ魔法は使えない。さらに素質があっても、今度は習得したい魔法スキルへの適性が立ちはだかる。魔法に素質があって「火魔法」スキルを習得したくとも、「火魔法」スキルへの適性が無ければ習得はできない。

 つまりは魔法の素質と適性の有る種類へ辿り着けるか。この二つが魔法系スキル習得の前に立ち塞がっているんだ。おまけに自分なりのコツを掴まないと変換も制御もうまくできないとくるから、魔法ってのは難儀なものだ。

 そこからさらに魔法の種類による得手不得手も絡んでくるのだが、適性があれば不得手な魔法でもある程度はなんとかなるから、これはさほど深刻な問題ではない。


(その点、俺は適性の判別に関しては楽だったな)


 理由は勿論、「完全解析」からの「入れ替え」だ。

 これを使えるようになる前に「水魔法」スキルと「自己強化魔法」スキルを習得していたから、魔法に素質があるのは分かっていた。

 そこで俺は魔法を使える異母達が習得している魔法スキルを入手して、スキルがある状態で変換と制御をやるとどうなるのか試してみた。すると既にスキルを習得している状態だからか、適性のある魔法の力への変換とその制御はある程度できて、スキルがあっても適性が無い魔法は通常通り変換すらできなかった。

 俺にしかできないであろうこのやり方で調べた結果、異母の持っていた魔法の中で火と風と土に適性が有り、光と氷と治癒には適性が無いことが判明。さらにポンコツ女神から貰った空間魔法も適性有りで、せっかく貰ったのに適性が無かったらどうしようかと後になってヒヤヒヤしていたから、少しホッとした。

 ちゃんと確認しなかった俺も悪いけど、せめて授ける時に適性の有無ぐらい教えてもらいたかった。他の魔法スキルについては、確認していないから今のところ不明だな。


「うぅ……風にならない……」

「そう落ち込むなって。適性の無い魔法があっても不思議じゃないんだから」

「本当に……適性が分からないのって、不便……」


 激しく同意する。魔法の素質の有無も、どの魔法に適性が有るのかも調べる方法は存在しない。「完全解析」のレベルが上がれば見えるようになるかもしれないけど、あくまで可能性の話だから不確定だ。


「ちなみにロシェリは適性の無い魔法を、どれぐらい把握しているんだ?」

「えっと……ね。多分だけど、火魔法と土魔法は無いと思う。ジルグ君、は?」

「光と氷と治癒の適性は無いと判断した」


 この三つはどれも適性が無いと分かったから、泣く泣く入手先の異母達へ返却した。異母兄弟へ押し付けて別のスキルを貰おうかとも考えたけど、何かの拍子にスキルを調べられたら厄介だからやめておいた。

 心配しすぎ? 下手を打てば今みたいな自由は得られなかったかもしれないんだ、それくらいがちょうどいい。


「それで、どうするんだ風魔法の習得は」

「もうちょっと……頑張ってみる」


 うん、頑張れ。集中するロシェリへ心の中でエールを送りつつ、俺も素振りへ戻ることにした。

 ちなみにこのやり取りの間、マッスルガゼルは後足を伸ばして前足を曲げる腕立てっぽい動作を繰り返していた。ひょっとしてあれ、あいつなりの筋トレか?



 ****



 野営の後片付けを済ませ、今日も草原の中の一本道を行く。

 ウィンドサーチに引っかかるのは擦れ違った馬車と、空を飛んでいる鳥だけで魔物はいない。

 天候は良好で気分も良好。ペースも順調だし言うこと無しかと思っていたら、接近してくる魔物の反応が一つあった。

 正確には俺達を狙っているというよりも、進行方向へ飛び出して来るって感じかな。できれば身を隠してやり過ごしたいところだけど、生憎とここは遮蔽物が一切無い草原の街道。生えている草も伏せれば見えなくなるほど深くなく、どう考えても身を隠すことはできない。


「止まれ。魔物がこの近くを通る。戦闘になるかもしれないから、気をつけろ」


 警戒を促すとマッスルガゼルは立ち止まり、ロシェリはちょっと危なっかしくマッスルガゼルから降りて杖を構える。

 目視できないから大型の魔物じゃないのは確かだ。でも一応、警戒はしておくか。


「下がって距離を取ろう。戦わずに済むのなら、それに越したことはない」

「えっ……。お肉、増やさないの?」


 ナチュラルで魔物を食肉扱いしているよ、この子。

 いや、魔物の大多数は食えるから間違いではないんだけど、ロシェリの中で魔物との戦闘は食肉の補充って認識になりつつあるのか?

 それでやる気を出してくれるのは構わないけど、食えない魔物だったらどうするんだ。虫系とかゴブリンとかだったら食えないぞ。

 あっ、でも虫系の魔物の一部は食えるって聞いた事があるようなないような……。


「それで、魔物どこ?」

「っと、そうだった……って!」


 余計な事を考えているうちに魔物は近くまで来ていた。咄嗟にそっちを向くと、草原の中で佇む一体のカンガルーがこっちをじっと見ている。

 というかゴツッ! カンガルーの体ゴツッ! 体長は俺より頭一つ小さいくらいなのに、体はマッスルガゼルに負けずとも劣らない筋肉に覆われている。なんというか、体の成長が背丈じゃなくて体の分厚さに注ぎ込まれている感じだ。

 そんな外見をしているからか、鼻息を荒くしているマッスルガゼルが筋肉を隆起させて足下を均している。筋肉か? あいつの筋肉に対抗心を燃やしているのか?

 すると向こうもマッスルガゼルに応えるように、大きく鼻息を吹きながら筋肉を隆起させてポーズを取った。なにこの筋肉的なやり取り。


「……煮ても焼いても、硬そう……」


 いやいや、問題はそこじゃないだろう。

 ともかくあのカンガルーに「完全解析」っと。




 コンゴウカンガルー 魔物 雄


 状態:健康


 体力692 魔力53  俊敏587 知力382

 器用381 筋力891 耐久877 耐性459

 抵抗448 運386


 スキル

 拳術LV3 跳躍LV1 屈強LV1




 能力の数値だけを見ると、俊敏と器用と運以外はマッスルガゼルの方が勝っているのか。

 とはいえ、あれだけの筋肉と拳術スキルを持っているんだ。戦う事になったら、懐に潜り込まれての近接戦には気をつけた方が良い。

 分析しつつ警戒をしながらハルバートを構えていると、コンゴウカンガルーが右拳を突き出して鳴き声を上げた。やる気かと思って応戦しようとしたら、同じく鳴き声を上げたマッスルガゼルが前で進み出た。そのまま顔だけこっちへ向けると、話しかけてくるように再度鳴き声を上げる。


「えっ、何?」

「さ、さあ……」


 俺もロシェリも、マッスルガゼルが何を訴えているのか分からず首を傾げる。

 すると右前足でコンゴウカンガルーを指し、続いて何度も鳴きながら頭を突き出す動作を繰り返す。あっ、これってひょっとして。


「まさか……あいつが拳を突き出しているのは、お前に勝負を持ち掛けているのか? そんで、お前はそれに応えたいっていうのか?」


 予想を口にすると満足そうに鳴きながら何度も頷いた。正解らしい。


「えぇ……。どうして、そうなるの?」

「知るかよそんなの」


 なんか頭痛くなってきた。そんでやる気も失せた。


「どうするんだ、ロシェリ」

「なんで……私に聞く、の?」

「お前の従魔だから」

「……もう、好きにして」


 投げやり気味な言葉からして、どうやらロシェリもやる気が失せたようだ。

 一方のマッスルガゼルは主人からの許しをもらい、俺達とは対照的にやる気満々でコンゴウカンガルーと向き合って鳴き声を掛け合い、やがて二体の戦いは始まった。

 しばし睨み合った後、互いに駆け出して接近。コンゴウカンガルーは軽いステップで接近して左の連打を繰り出すが、マッスルガゼルは「屈強」スキルでさらに頑丈になった体でそれを受けつつ突進。

 咄嗟に右腕で防御したコンゴウカンガルーは、激突のタイミングを合わせて後方へ跳躍して威力を殺して着地するとすかさず接近して右の突きを繰り出す。

 一撃を喰らったマッスルガゼルだけど、負けじと頭突きで反撃。


「うわ、痛そ……」


 確かに痛そうだけどコンゴウカンガルーは踏ん張って耐え、お返しとばかりに左右の拳を一撃ずつ顔に浴びせた。

 これに対してマッスルガゼルは右前足を上げ、膝蹴りのような攻撃を叩き込んだ。モロに膝が入ったからコンゴウカンガルーの体が前のめりになる。

 そこから始まる肉弾戦の応酬。マッスルガゼルは突進と頭突きと後ろ足での蹴りと前足での蹴りや踏みつけといった様々な攻撃を繰り出すのに対し、コンゴウカンガルーは両の拳だけで多彩な技を繰り出す。突き出したコンゴウカンガルーの拳とマッスルガゼルの後ろ足での蹴りがぶつかった瞬間は、なんかゴツンッっていう生身の肉体同士がぶつかったとは思えない音が聞こえた。

 さらにどちらも「跳躍」スキルがあるもんだから、跳び上がって空中で前足での蹴りと拳がぶつかり合う光景も見られた。


「ジルグ君、どうする?」

「……とりあえず、放っておいて休もう」


 なんかもう考えるのも嫌になった俺は思考を放棄し、その場に座って休憩することにした。

 同じくロシェリも座って休憩するのはいいとして、なんで寄り添って腕を絡めるんでしょうかロシェリさん。……いいや、それについて考えるのもやめておこう。

 それからしばらくは筋肉派の魔物二体の激突を見物しながら、妙にロシェリにくっ付かれながら休憩時間を過ごす。

 そんな中、徐々に冷静になりながら二体の激しいぶつかり合いを見ていると、双方の特徴が分かってなかなかに見ごたえがあるように思えた。頑丈な体で攻撃を受け止めて力で押し返す剛のマッスルガゼルに対して、回避してからの連打や技で仕掛ける柔のコンゴウカンガルー。

 どちらも自分の特性を活かした戦いをしているけど、遂に雌雄は決した。息を切らしながら立っているマッスルガゼルの足下では、より激しく息を切らしているコンゴウカンガルーが片膝を地面に着けている。


「勝ったみたいだな」

「うん、そうだね」


 途中から俺の膝を勝手に膝枕にしていたロシェリが体を起こす。


「ところで……あのカンガルー、どうするの?」

「いまさら倒すのもなんだし、このまま逃がしても……」


 いいんじゃないかと言おうとして二体を見ていたら、右前足を差し出したマッスルガゼルの足首辺りを掴んだコンゴウカンガルーが立ち上がり、しばしそのまま見つめ合っている。

 何アレ。なんか握手っぽいことしながら、友情っぽいのに目覚めてるんですけど。


「……あれ、どうなってるの?」

「俺が聞きたい」

「……だよね」


 違う種族の魔物同士でも、ああいうのってあるんだな。というより、魔物同士でもあんなことするのか。

 若干呆れ混じりに様子を眺めていると、握手を解いて会話をしているっぽく鳴きだした。その最中にこっちへ視線を向け、さらに会話を続けた後にコンゴウカンガルーが跳ねながらこっちへ近づいて来る。

 一応警戒していると、少し手前で立ち止まって俺とロシェリを見比べるように何度も顔を振る。やがて俺の方だけをじっと見た後、握手を求めるように右手を出してきた。


「えっと……」

「握手……したいの、かな?」

「なんでだ?」

「さぁ……」


 もう訳が分からない俺は、半ば流されるまま握手に応える。

 ところが次の瞬間、コンゴウカンガルーの額に見覚えのある模様が浮かぶのが見えた。


「……うん!?」


 思わず目を見開いてしまった。だってこいつの額に浮かんだの、明らかに従魔の刻印だから!

 えっ? てことはまさか、おい!




 コンゴウカンガルー 魔物 雄


 状態:軽傷 疲労


 主人:ジルグ・グレイズ


 体力692 魔力53  俊敏587 知力382

 器用381 筋力891 耐久877 耐性459

 抵抗448 運386


 スキル

 拳術LV3 跳躍LV1 屈強LV1




 ちょっと待てえぇぇぇぇぇっ!

 思わず「完全解析」使っちゃったけど、なんか最初に見た時には無かった項目が一つ増えてるから!

 ギルドカードには……記録されてるしい! 従魔としてコンゴウカンガルーが記録されてるしい!


「……ジルグ君。この額の、模様って……」

「……従魔の、刻印だ」

「やっぱり……」


 なにがどうなってこうなったんだ。さっぱり理解ができない。

 戦い合ったマッスルガゼルとコンゴウカンガルーの間に友情が芽生えた挙句、意気投合して一緒に行きたくて従魔の契約を結んだのか? さっき俺とロシェリを見比べていたのは、どっちと契約するかを決めていたのか?


「なんかこいつ、俺の従魔になってる……」


 どっと疲れが出た気分になりながらギルドカードをロシェリにも見せ、コンゴウカンガルーが従魔として記録されているのを確認させる。


「本当だ……」


 前髪越しにカードを見たロシェリは、恐る恐るコンゴウカンガルーに近づいて触れた。

 そして、とても残念そうに呟く。


「……この子も、モフモフしない。ムッキムキで、ガッチガチ……」


 そりゃまあ。コンゴウカンガルーなんて名前だし、この体つきだもんな。

 体毛もマッスルガゼルと同じで短いから、こいつも寒さを豊富な筋肉の熱で乗り越えそうだ。

 おいコンゴウカンガルー、別に今のやり取りは褒めた訳じゃないぞ。だからそんな筋肉を強調させるポーズを取るな。そんでマッスルガゼルは対抗して筋肉を隆起させるな。


「なんか、また頭痛くなってきた……」

「モフモフか、プニプニが……欲しい……」


 モフモフだろうがプニプニだろうが、この際どうでもいい。とりあえずマッスルガゼルとコンゴウカンガルーは筋肉のアピール合戦を止めろ。見ていて暑苦しい。

 なんかまた変わった奴が仲間に入ったけど、自分が最終的には「まあいっか」で許すお人好しなんだと改めて実感した。


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