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入れ替えスキルでスキルカスタム  作者: 斗樹 稼多利
12/116

傷だらけの勝利


 フレアエンチャントの炎を纏い、「灼熱」スキルで高熱を宿らせたハルバートを構えてビーストレントと睨み合う。

 炎を嫌うビーストレントは真っ先に俺を倒すべきと判断したのか、他には目もくれず俺へ襲い掛かってきた。


「はぁっ!」


 駆け出しながら声を上げ、「威圧」スキル付きの「咆哮」スキルで一瞬だけ怯ませる。

 その隙に駆け出した勢いそのまま、クイックアップで強化した速さで接近。振り抜いた一閃で怯んで止まっていた爪を二本切り落とした。ビーストレントは苦痛の声を漏らしながら跳躍して後退し、こっちを睨んでくる。

 それを見ていた騎士団員達から歓声が上がるけど、生憎と喜んでいられるほど余裕は無い。

 「逆境」スキルで身体能力が向上したのはともかく、パワーライズやウィンドサーチのように一度使ったらしばらく効果が続く魔法と違って、フレアエンチャントと「灼熱」スキルは常に魔力を消費してしまう。いくら「魔力消費軽減」スキルがLV4あるとはいえ、ここまでの戦闘で魔力を消耗しているから長くは保てない。

 それにさっきの一撃で体中に痛みもある。回復したら「逆境」スキルの効果が弱まるから、痛みを我慢できる今のうちにビーストレントを倒すか、せめて致命傷を与えておきたい。


「ふうっ!」


 思いっきり息を吐き、恐怖心を振り払って突っ込む。

 できればこの場から逃げたいけど、家族やロシェリを虐めていた奴らから逃げるのと違ってそれはできない。逃げたところで後を追われ、追いつかれて殺されるのが目に見えている。だから怖くとも、立ち向かうしかない。

 「動体視力」スキルで回り込もうとする動作を見切り、角を向けての突進を回避する。その擦れ違いざまに右前足の足首辺りを狙い、斧部分を全力で叩きつける。

 「剛力」と「逆境」とパワーライズで強化された力、「灼熱」スキルで宿った高温とフレアエンチャントで纏った炎。それと向こうの突進の勢いも利用したことにより、叩っ切るというより焼き切った感じで切断に成功した。

 それでも、接触時の衝撃がビリビリと両腕に伝わってくる。


『おぉっ!?』


 今度はどよめきが聞こえ、片足を失ったビーストレントは崩れ落ちそうになる。できれば一度離脱したいけど、上手くビーストレントの背後を取れているのと、体勢が崩れている今を逃す訳にはいかない。


「はぁっ!」


 背後にいるとはいえ、「咆哮」での声は聞かせられたからビーストレントが僅かに怯む。その無防備な背後に接近して、今度は右後足の足首を焼き切って切断。

 片側の両足を失ったビーストレントが悲鳴を上げて倒れる。今度こそ一旦離脱しようしたら、左側から尻尾が目前に迫っていた。「動体視力」スキルで動きは見えていても体が反応できず、回避をするにしても防御をするにしても間に合わない。


「ハードボディ――」


 体の強度を上げる自己強化魔法を使おうとしても間に合わず、直撃を受けてしまった。

 尻尾とはいえ体格差があるし力も強いから衝撃は強烈な上、跳ねるように何度も地面を転がって余計に体を痛めつけてくる。転がっている間にハルバートも手放してしまい、ようやく止まった頃には全身に痛みがあって上半身を少し起こすのが精一杯だった。


「いっ……でぇ……」


 尻尾でこの威力なのかよ。もしもさっきの前足での一撃だったら、どうなっていたんだ。


「ぐっ……いっ……」


 せめて立とうとしても、体中に走る痛みを我慢できなくて立てない。しかもこれ、左腕と左脚は折れてるっぽい。

 体が傷ついたことで「逆境」スキルが働いたんだろう、力がさらに湧いてくるのを感じる。でも肝心の体の方が動かせなくちゃ意味が無い。遠くに転がっているハルバートは魔力の供給が無くなったことで徐々に高熱が失われて色が元に戻り、炎も弱まってやがて消えた。


「ジルグ君!」


 ロシェリの声に顔を上げると、覚束ない足取りのビーストレントが荒い呼吸をしながら立ち上がろうとしていた。切り落としたのは足首から先だから、無理をすればまだ立てるのか。

 どうする。魔力はまだ少し残っているけど、体が動かないから逃げることも難しい。


「アイスブラスト!」


 どうすることもできない中、誰かの声と共に大きな氷の塊がビーストレントの側頭部へ直撃した。

 その衝撃でバランスを崩したビーストレントは再度倒れる。


「今だ、総員突撃! 彼が作ってくれたこのチャンス、決して逃すな!」


 剣を掲げて号令をするレイアさんを先頭に、剣や槍や盾を構えた騎士団員達が叫びながらビーストレントへ突っ込んで行く。その中にはマッスルガゼルも混ざっていて、物凄い勢いで突進していく。

 そうだった。頼りになる人達がこんなにいたのに、つい一人でどうにかしようと思っていた。

 立ち向かっていくレイアさん達の姿を頼もしく感じつつ、駆け付けてくれたロシェリと数人の騎士団員の手を借りて後退しようとした時だった。雄叫びと悲鳴が同時に響き渡り、次々に人が飛んできた。

 飛んできて地面に叩きつけられるのは、ビーストレントへ向かっていった騎士団員達とマッスルガゼル。彼女達が立ち向かったビーストレントは角や前足や尻尾を振るい、近づいて来る相手を全て薙ぎ払っていく。


「そんな、まだあんなに動けるの……?」


 既にビーストレントの体は多くの魔法を受けて損傷が目立ち、何本もの矢が体に刺さって、右側の脚は前後両方とも足首から先を失っている。それなのにまだ抵抗するだけの力が残っていて、衰えぬ闘志をこっちへ向けながらゆっくりと立ち上がって吠えた。


「あの、魔法か……矢は?」


 援護をしないのかとロシェリが訴えるが、助けに来てくれた騎士団員達は一様に表情を暗くした。


「矢は尽きた。魔法も、さっきのでもう魔力が……」


 そうだ。彼女達の魔力は、俺達が渡したポーションで回復した分しか残っていなかったんだ。

 むしろ怪我人を治療した上、あれだけ魔法で攻撃していたんだから保った方だ。


「もう駄目だ……」


 誰かの呟きで絶望感に覆われ、誰もが俯いて諦めた表情をしていた。

 後ろにいるロシェリも諦めたのか、俺の体をしっかりと抱きながら嗚咽を鳴らしている。

 確かにこりゃもう駄目かもしれない。でも、最後の足掻きくらいはしてもいいだろう? 幸いにも手放したハルバートは視界の中にある。後はタイミングと、残った魔力と俺の意地次第だ。

 その場に落ちていた適当な石を動かせる右手で拾い、視界に入るように持ち上げる。

 ビーストレントは最大の脅威と判断した俺がまだ生きているのを見て、体勢を低くする突進前の構えを取り、口を大きく開いて雄叫びと共に突っ込んできた。

 耳元にロシェリの叫びが聞こえて、俺の体を抱く力が強まる。


(今だ)


 やることは難しくない。既に対象にしておいたハルバートと手にしている石に「入れ替え」を使い、手元にハルバートを戻して。


「フレアエンチャント」


 残った魔力を絞り出してハルバートに炎を纏わせ、「灼熱」で高温にする。

 後は「逆境」で強化された身体能力を利用して、動かせる上半身と右腕の力だけで……投げる!

 目前に迫っていたビーストレントの口の中へ炎を纏った高温のハルバートが飛び込み、口内へ深く刺さった。

 直後にビーストレントが両方の前足を上げて仰け反り、悲鳴のような鳴き声を辺り一帯へ響かせた。

 そのままバランスを崩して横へ倒れて悶絶し、必死にハルバートを吐き出そうとするけど深く刺さったハルバートは抜けない。


「今のうちに、避難を」


 ポカンとしているロシェリと騎士団員達へ避難を告げるとハッして、慌てて俺を支えながら後退してくれた。

 そうしている間にビーストレントは口の中が燃え出し、消そうと前足を突っ込むが消せない。


(賭けは俺の勝ちだ)


 そっちが向かって来る力とこっちが向かう力、それと高温と炎で足首を焼き切れたんだ。同じ要領でハルバートを投げれば、口の中でだいふ深く刺さっただろう。おまけにフレアエンチャントも「灼熱」スキルも手放した直後に熱と炎が消えた訳じゃなく、少しの間だけそれが残っていた。

 つまり、刺さったハルバートに纏っている炎が体を内側から焼いていくんだ。

 口の中の火を消しても、体内にはもう火が燃え移って首辺りから火が出ている。消そうとしても体表の火が消えるだけで、体内の炎は消えていない。内側から徐々に燃え広がっていく炎でビーストレントの動きと鳴き声は段々と弱まっていく。


「おぉ……」


 誰かが感嘆の声を漏らしたのも分かる。

 あれだけの魔物が炎に飲まれて息絶えようとしている光景は、もうすぐそこに勝利が近づいている証だから。

 やがて燃え広がった炎で首の辺りが焼き断たれ、頭部が地面に落ちて転がり、胴体は倒れて地鳴りのような音と微かな振動が伝わってきた。


「勝った……の?」

「勝ったのよ……ね?」


 確認するかのような声は徐々に広がっていき、やがてそれは歓声となって爆発する。

 誰もがビーストレントに勝ったことを喜び、仲間と抱き合いながらそれを分かち合う。マッスルガゼルもやり返してやったぞとばかりに鳴き声を上げ、全身の筋肉を隆起させている。


「ジルグ君……凄い、ね」

「……運が良かったんだよ。あれで駄目なら死んでたさ」


 辛うじて魔力が足りて、「逆境」スキルで身体能力が上がっていたお陰で上半身だけでもハルバートを投げられて、早すぎて避けられることも遅すぎて食われることもないタイミングで投げられた。だからこそ、勝つことができた。

 ホッとして力が抜けると魔力の限界が近いのか、少し気分が悪くなってきた。

 嬉しいのに体は痛むし気分は悪い、最悪で最高の気分だ。


「浮かれるのはそこまでだ!」


 怪我をしたのか、右腕を押さえて左足を引きずりながらレイアさんが声を張り上げると、歓喜の渦が一転して静寂に包まれた。


「既にビーストレントは息絶えた。だが警戒は怠る訳にはいかん。動ける者は挙手しろ。警戒、負傷者への対応、ビーストレントの消火の三班に分ける」


 これを聞いた何人かが次々に手を挙げていく。俺はちょっと無理だけどロシェリは手を挙げ、まだ魔力が残っているということで治療への協力を頼まれていた。

 警戒にはライラさんを中心とした数人が割り振られ、消火に当たった人達は土をかけたり叩いたりしてビーストレントの体の火を消していく。

 俺もなけなしの魔力で次元収納から治癒用のポーションを取り出し、それを提供した。うち一本が俺に使われたのは、体がこんな状態だから仕方ない。お陰で骨折は治って痛みの方も幾分かマシになったけど、魔力が完全に限界を迎えてとても気分が悪い。


「大丈夫?」

「駄目です。肉体的には大丈夫ですが、気分的に駄目です」

「分かるわ。私も同じようなものだから」


 隣で横になっている魔法使いの人とそんな事を喋っていると、治療を終えたロシェリがフラフラしながら戻って来た。


「とりあえず……重傷者は、どうにかした」


 疲れ切った口調でそう言うと、魔法使いの人とは逆隣へ横になった。傷だらけのマッスルガゼルはその頭上に伏せ、お礼を言うように小さく鳴く。


「お疲れさん。大丈夫か?」

「……気分悪い」


 ああ、ロシェリも魔力が限界なのか。


「それ以上に……お腹が、空いた……」


 こんな時でもブレない奴だ。


「……水は出せないし、食べ物も取り出せないぞ」


 こっちも魔力が限界で、水を出すことも次元収納を開くこともできない。悪いがどうにか我慢してくれ。


「せめて……水……」

「無理だって」

「良ければどうぞ」


 左脚を引きずりながら歩み寄って来たレイアさんが、水袋を差し出してくれた。それを受け取ったロシェリは蓋を開けるやいなや、勢いよく飲んでいく。

 あのさ、一応人様の物なんだから少しは遠慮しろよ。


「申し訳ありません、大事な飲み水を」

「気にしないでください。彼女には重傷の部下を治してもらいましたから」


 そう言ってもらえるのはなによりです。


「ビーストレントを倒してくれたジルグさんにも深く感謝しています。この場にいる一同を代表し、お礼を言わせてもらいます。ありがとうございます」


 深々と頭を下げられると恐縮してしまう。

 確かにトドメを刺したのは俺だけど、レイアさん達と協力して弱らせたからこそ勝てたんだから。その事を伝えるとレイアさんは。


「だとしても、あなた方と出会えていなければ私達は全員死亡していました。町へ戻った暁には、相応の謝礼をさせてください。あの無能共が拒否しても、力ずくで穏便に説得して謝礼させます」


 おおう、バイオレンス。というか力ずくで穏便って、矛盾している気がする。

 どうか本当の意味で穏便に済むことを祈ります。


「そういえば、救援はまだでしょうか」


 隣で横になっている魔法使いの人の問いかけに、レイアさんは溜め息を吐く。


「この様子だと来ない可能性もありますね。大方あの無能共が、我が身可愛さに町の防衛という名目での保身を優先して、ここへ来るのを拒否しているんでしょう」


 もしもしレイアさん? また目から光が失われかけますよ。


「討伐ランクCのビーストレントを放置することは無いと思っていましたが、まさかここまで性根の腐っていた無能だったとは」


 表情も無くなっていって、水を飲み終えたロシェリが怯えて俺にくっ付いて震えている。

 というか討伐ランクCということは、冒険者的にはCランクが数人は必要な魔物だったってことか。どうりで強いわけだ。

 そんな事を考えながらレイアさんを宥めようとしていると、駆け足でライラさんがやって来た。


「報告します! 周囲の警戒中に接近する明かりを確認。騎士団の装備をしているので、救援かと思われます!」


 敬礼しながらの報告に、今頃来たのかとうんざりするような、助かったと安堵するような妙な空気になった。


「……率いているのは?」

「中隊長の姿は無し。ですが小隊長数名の姿を確認しました」

「すぐに接触して、ここへ誘導してください」

「了解!」


 敬礼をしたライラさんが走って行くのを見送り、レイアさんは声を張り上げる。


「皆、聞いての通りです。間もなく救援隊が到着するので、もう少し辛抱してください」


 もっと早く来いよと思いはするけど、救援隊が到着すると分かると気持ち気分が楽になる。

 少しすると近づいて来る明かりが複数見えて、やがて迎えに行ったライラさんが大人数を連れて戻ってくると歓声や安堵の溜め息が漏れた。なんだかんだいっても、やっぱり味方が来ると安心の方が勝つんだな。

 到着した救援の人達は指揮官らしき人から指示を受けて散って行き、警戒中の人と交代したり無事なことを喜び合ったりしている。

 その様子を見ていると、指揮官らしき人がこっちへ歩いて来る。


「レイア小隊長、無事か!」

「ダグラス小隊長、こちらです!」


 一応怪我人ということで俺達の傍に腰を下ろしていたレイアさんが呼ぶと、声を上げたダグラスって人が駆けて来た。

 厳つい顔つきのダグラスって小隊長には、犬系の耳と尻尾があるから獣人なんだろう。


「おお、無事だったか」

「はっ。怪我人は多くいますが、全員無事であります!」

「それはなによりだ。治癒用のポーションは可能な限り持って来て、治癒魔法の使い手も何人か連れて来た。もう大丈夫だぞ」


 やっぱり気を張っていたんだろう。ずっと引き締まっていたレイアさんの表情がやっと和らいだ。

 肩と脚から力が抜けて体が少しふらつき、ダグラスさんに支えられた。


「おいおい、本当に大丈夫か」

「申し訳ありません。つい気が抜けて」

「謝る必要は無い。むしろ謝るのはこっちだ、遅れてすまなかった」


 ダグラスさんが深々と頭を下げ、遅れた理由を説明しだした。


「言い訳になるだろうが聞いてくれ。私達は急ぎ救援隊を組んで助けに行くべきだと進言したのだが、あの馬鹿な中隊長達がまずは会議をして方針を決めるだの、我々の役目はこの町を守る事だのと言い出して許可を出さなくて」


 なるほど。さっきレイアさんが言っていた通り、上の人が怖気づいて保身優先の判断をしていたのか。


「挙句の果てには、これ以上余計な被害を出さないように救援は送らないだの、総出で防衛準備だの、ここの戦力では心もとないから近隣の町の騎士団へ救援要請を出すだの言いだす始末だ。自分達にとって安全な場所を確保し、助かることを最優先に考えてな」


 説明しているダグラスさんの言葉と表情に、段々と怒気が込められていく。

 それに比例してレイアさんの目からは光が失われ、表情も無になっていく。だからその顔は怖いからやめてください。ロシェリが怯えて、俺に密着して震えているから。


「いい加減我慢できず、こうして他の小隊長や部下を率いて駆け付けたんだ。勿論、彼らも同意の上でだ。強制はしていない」

「そうでしたか。大変でしたね」

「お前達に比べればどうってことはない。それで、ライラから聞いたのだがビーストレントを倒したというのは本当か?」

「はい。あちらにその死体が」


 ダグラスさんの問いかけに答えたレイアさんが指差した先には、胴体と頭部が分かれているビーストレントの死体が転がっている。

 消火は終わっているその体には、所々に焦げ跡や矢が刺さった痕があり、特に切断した右側前後の足首の辺りと焼き断たれた首の辺りは炭のようになっていた。あっ、そういえばハルバート回収してない。


「おぉ……。報告を聞いた時は耳を疑ったが、本当に倒したんだな」

「私達の力だけではありません。彼らがいなければ、おそらく全滅していました」


 そう言って俺達を紹介して簡単な戦闘の説明が始まり、それが終わるとダグラスさんが歩み寄ってきて両膝を地面に着け、俺の右手を両手で握って頭を下げた。


「ありがとう! 本当にありがとう! お陰で仲間の命が救われた。おまけにポーションを譲ってくれた上に、そっちのお嬢さんは治癒魔法で重傷者を治してくれたそうじゃないか。君達がいなければ、未来ある若者達が大勢死んでいたんだ。感謝してもしきれないよ!」


 まくしたてるように早口でお礼を言われ、なんだか照れるとか嬉しいとか以前に呆然としてしまう。

 人見知りのロシェリはダグラスさんの厳つい顔が怖いのか、震えてはいないけど余計に密着して不安そうに「うぅ……」とか漏らしている。

 おっと、とりあえず返事はしないと。


「いえ、当たり前の事をしただけですから」

「確かに君の言う通りかもしれない。だがビーストレントという強力な魔物がいると知って、逃げ出さずにその当たり前を実行するのは難しいものだ。おまけに倒してしまったのだから、見事としか言いようがない!」


 よく喋るな、この人は。


「このお礼は必ずしよう。あの馬鹿達は反対したりいちゃもんをつけたりするだろうが、ぶん殴って力ずくで言う事を聞かせてでもお礼をする」


 レイアさんといい、なんでそう上司に対してバイオレンスなんだろうか。

 そんだけ酷い上司なのかな? 俺の家族やロシェリを虐めていた奴らみたいに、スキルの入れ替えをして役立たずにするのを躊躇しないくらいに。


「とにかく今は休んでくれ。レイア小隊長、指揮は私に任せて早く治療を受けるといい。帰還は夜が明けてからにするから、それまではゆっくり休め」

「分かりました。では、よろしくお願いします」


 敬礼をしたレイアさんは足を引きずりながら治療へ向かい、ダグラスさんも指揮を取るためにこの場を離れようとする。

 じゃあ俺達は休んで……っと、先にやることがあった。


「あっ、すみません。ビーストレントの体内に俺の武器が刺さっているので、回収したいんですが」


 さっきレイアさんが説明していたとはいえ、自分の武器だからしっかり回収しないと。


「ああ、トドメに投げたという槍のような斧のような武器だね。それは我々が回収しておくから、君は休んでいたまえ」


 そう言ってダグラスさんは離れて行き、ビーストレントの検分をするからと何人かを集め出した。

 まあ、悪い人じゃないから任せちゃうか。あの人なら、そんな物は無かったとか言って横領することは無いだろう。


「そんじゃ、お言葉に甘えて休ませてもらうか」

「……うん」


 早くもウトウトしだしたロシェリは、俺にしっかりと引っ付いたまま静かに寝息を立て始める。

 ロシェリさんや? そんなに密着されると周りの生暖かい視線が少し痛いんですが?

 そう思いつつも、寝息に促されるように俺も眠気に襲われ、欠伸を一つ吐くとゆっくり目を閉じた。隣で不安そうにくっ付くロシェリを安心させるため、背中に手を当ててやりながら。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 人と薪を交換できるのチートすぎるな。 石ころを思いっきり上に投げて敵と交換すれば大概勝てそう。 敵にせまられても石適当に投げて入れ替えれば距離取れるし。 万能過ぎて「なんでこうしないん…
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