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74話


「お兄ちゃん! 私もおしゃれしたい!」


「ある朝のことである。俺は妹の金切り声で叩き起され――」


「もう昼だよ、お兄ちゃん!」


 そうなのか!?

 俺は衝撃のあまりもう一度寝ることにした。


「今朝はスローライフし損ねたからな、今日は早く寝て、明日の朝こそスロらないと」


「お兄ちゃんはもう十分スロってるから! 起きてってばー!」


 ベッドに乗り上げてきたマイヌが俺に馬乗りになって胸ぐらを掴んでくる。

 チッ、うるせーな。

 じゃあ、起きまーす。

 俺は不遜な態度で起床した。


 それにしても、――私『も』おしゃれしたい、か。

 おそらく、シュビーのワンピ姿を見て羨ましくなったのだろう。

 お世辞にも似合っているとは言い難かったが、綺麗な格好で出歩きたいと思うのは年頃の女の子なら誰だって同じだ。


 マイヌはメイド服と修道服の中間みたいな服を着ている。

 それ以外の服はパジャマしか持っていない。

 ピノアが手伝うようになったおかげで自由に過ごせる時間もできただろうし、たまには、おしゃれして町を歩きたいよな。


「いいだろう。それじゃあ、お兄ちゃんとペットショップに行こうな。好きなお猿を買ってあげます」


「お猿じゃなくて、おしゃれだから! でも、ありがとう、お兄ちゃん!」


 ということで、町に繰り出す。


「あれれ、お兄ちゃんが手を繋いでくれない!? シュビリエさんの手は握ってたのに!」


「あれは冗談だから」


「私も冗談でいいから手繋ぎデートしたい」


 ツナイデー、ツナイデー、ヤダヤダーとマイヌは地団駄を踏んでいる。

 まるで小さな女の子だ。

 でも、よく考えれば、まだ12歳だ。

 歳相応な気もする。

 普段があまりにもしっかり者だから忘れていた。

 今日くらい好きなだけ甘やかしてやるか。


「よし、人差し指なら貸してやる」


「やったー!」


 目抜き通りで甘いものを食べ、大道芸のキテレツな妙技に拍手を送る。

 指を繋いで川辺を歩き、土手に腰掛け談笑する。


「待て。これじゃデートじゃないか」


「私、楽しいよ? おしゃれするより、お兄ちゃんと一緒にいられるほうが嬉しい」


「ここまで言ってくれる妹におしゃれさせてやれない兄がいるらしい。そいつ、普段からゴロゴロしてばかりで妹を困らせているんだってさ。俺のことだが」


 言葉にしてみると、あらためて最低じゃないか。

 兄の甲斐性を見せねば。

 表通りに舞い戻り、若い子向けのブティックに入る。


「ここ、高いお店だよ?」


「いいんだよ。俺の妹が安いわけないんだから」


「それ、フィオお姉さんやシャノンさんに言ってあげてね。お兄ちゃん、絶対モテるから」


 あんなよくわからん連中にモテてどうする。

 気苦労が増えるだけだ。


 店主に頼んでマイヌに似合う服を見繕ってもらう。

 驚いたことにウチの妹は何を着ても光って見えた。

 ワンピースを着れば髪が光り、ショートパンツを穿けば脚が光り、オフショルなら肩が光る。

 すごい原石を見つけたわ、と店主も興奮したご様子だった。

 俺は勧められるがままに服の上下5セットと靴3足、その他、小物類10数点を買いそうになった。

 しかし、


「もったいないよーっ!」


 と涙目で止められたので断念する。

 着る本人が罪悪感を覚えるような買い物はよくないよな。

 結局、1セットだけ買ってやった。

 しかし、これでは俺の気が収まらない。

 まだ甲斐性を見せてないのだが……。


「わぁーっ!!」


 別の店に移ろうかと思ったところで、そんな声が聞こえてきた。

 マイヌは純白のドレスに目を奪われていた。


「買ってやるカイー」


「かいー?」


「すまん。今のは俺の甲斐性が勝手にしゃべってしまったんだ。でも、買ってやりたいのは本当だ」


「でも、これ、すっごく高いよ? それに、持っていても着ていく場所がないし」


「報酬がたくさん入ったから金のことは心配しなくていい」


 それに、着ていく場所もあるんだよな。


「実はな、明日の晩、領主邸で祝賀会が開かれるんだ」


 貴族たちを集めて遠征成功を祝うのである。

 俺も功労者の一人として招待されている。

 本当は面倒だからサボろうと思っていたのだが、妹のためなら火の中、水の中だ。


「でも……」


 マイヌは乗り気ではないみたいだ。

 自分なんかにはおこがましいと考えているのだろう。

 無論、そんなことはない。


 押してダメなら引いてみろ、だ。

 ドン引きさせてやる。


「お前が嫌だと言っても俺は買うぞ。着ないと言うなら俺が着る。俺がこれ着て孤児院の前を走り回るからな? 俺はやると言ったらやる。絶対に後悔させてやるシャアアア!」


「お、お兄ちゃんが絶対やりそうな顔してる……」


「毎日頑張っているマイヌのために買ってやりたいんだ。俺のためだと思ってワンと言ってくれないか?」


「ウンじゃなくて?」


 マイヌは難しい顔でそわそわしてから上目遣いに俺を見上げた。

 で、意を決したように言う。


「わんっ!」


 はい可愛い。

 おい、店主。

 そのドレスをよこせ。

 髪飾りと靴もだ。

 俺は潮を噴くクジラのようにありったけの金貨をぶちまけた。


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