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62話


「あ、あの……。本日はどういったご用でしょうか?」


 受付嬢のジュリが恐る恐るといった様子で尋ねてくる。

 向かい合うは、仮面をかぶった俺とシャノンだ。

 怪しさメーターが振り切れているのは俺も自覚するところだ。


 だが、ご安心を。

 俺は一発で信頼を勝ち取れる便利アイテムを持っているのだ。

 ということで、冒険者手帳を取り出す。

 そして、表紙をめくり、燦然と輝く銅の一ツ星を見せつけてやった。


『ダンジョンニ潜リタイ。「金黎窟」ヘト通ジル昇降機ヲ動カシテクレ』


「申し上げにくいのですが、ダンジョンは今、冠水期でして。それに、『金黎窟』はDランク冒険者の方には荷が重いかと」


『ダイジョウブ、ダイジョウブ、シュコォォ……』


「いえ。ですが、でも……」


 チッ、と寒気のする音がして、光る爪を生やしたシャノンがジュリを睨んだ。


「手際の悪い受付ですね。猊下、殺す許可をください」


『ヤメロ、ノンノン。シャックスガ悲シムダロ』


「あなた、運がよかったですね。猊下のお慈悲に感謝しなさい。しなければ、殺します」


「あ、ありがとうございま、す……」


 押し問答を経て、結局、昇降機を動かしてもらえることになった。

 俺たちを乗せたカゴはゆっくりと降下していき、そして、水に沈んだ。


『シュコォォ……。斬新ナ処刑法ダナ、コレ』


『執行されても死なないなんて猊下は素敵です、ポコポコ……』


『ダロォ? シュコォォ……』


 50メートルほど降下してからカゴは停まった。

 表層域をすっ飛ばして中層に直通できるのは便利だが、ここからは泳いでいかなくてはならない。


『ココガ始マリノ迷宮カ』


 一見、天然洞窟のようにも見えるが、水底のヘドロの中には巨大な石材が沈んでいる。

 元々は遺跡だったのだろう。

 それが、雨季の浸水で崩れ、今の形になったのだ。

 まあ、成り立ちなんてどうでもいい。


 俺は足ヒレで水を蹴った。

 体が軽快に走り出す。


『思ッタヨリ水流ガ強イナ、カシュゥゥ……』


『流されてはいけません。猊下、抱きつく非礼をお許しくださいニャン! ……あっ、すみません』


 抱きつこうとしていたシャノンが恥じらいを見せて遠ざかっていった。

 猫っぽく頼まれては俺も断りきれない。

 自分から退いてくれてよかった。


 シャノンも俺も魔道具のおかげで明かりがなくとも周囲の状況がわかる。

 すぐに、ヘドロの中に金色に光るものがあることに気がついた。


『ワー、オカネ、オカネェー! シュコ、シュコ、シュコォォォォ!』


 お金というか砂金だ。

 大粒の砂金がゴロゴロ転がっている。

 この水で土が洗われて埋まっていたものが出土したのだろう。

 これが、『金黎窟』の由来と見た。

 水が引いたら冒険者たちが競って拾うのだろうけど、今なら独り占めにできる。

 俺は大きなものだけササッと拾ってポケットにしまった。


『金に目がくらんだ猊下も素敵です。神がかってます。コポポ……』


 シャノンは今日も圧倒的全肯定の姿勢だ。

 きっと俺が逆立ちでウンチしていても褒めてくれるに違いない。





 雨季のダンジョンは魔物も少なくて安全かと思ったが、そうでもなかった。

 ワニ、水蛇、タコ、巨大魚、サメ、人食いアワビなどなど。

 水棲魔物のパラダイスになっていて、旺盛な食欲で我先にと襲いかかってくる。

 彼らにとっては行動範囲が広がった今こそが書き入れ時、ならぬ掻き入れ時なのだ。

 まあ、索敵サーチ殲滅デストロイモードの『連なる四凶星(カドラプル・スター)』が瞬殺してくれるので俺たちは泳いでいるだけでいいのだが。


『猊下、また分かれ道です。ポコポコ……』


『本当ダ。ナンデ、ドノ分カレ道モ、道ガ分カレテイルンダロウ?』


『分かれ道だからでは?』


『ソノ可能性モアルナ』


 問題はどちらに進むかだ。

 俺はパチンと指を鳴らした。

 四凶星が飼い慣らされた犬のように寄ってくる。

 なでなでしてから、超音波探査モードを起動。

すると、『幽明洞察キュクロープ・ヘルム』の内側に立体映像が映し出された。


 一方の道は50メートルほど進んだところで塞がっている。

 もう一方はぐるっと回ってここに戻って来るみたいだ。


『正解ハコッチダナ。シュコォォ……』


 少し泳ぐと行き止まりにぶつかった。

 シャノンは困惑の表情を示すが、何も言わないことに決めたらしい。

 いや、別に間違えたわけではないよ?

 おそらく、遠征隊が通った後で崩れたのだろう。


 俺は右腕で土砂に触れた。


掌中焼灼ハンド・ソリス「波動粉砕モード」……』


 どごん、と水が震えた。

 道を塞いでいた土砂がバラバラに弾けて流れ出す。


『何をされたのですか、猊下?』


『手ノ中デ小規模ノ水蒸気爆発ヲ起コシタンダ。シュコォォ……。衝撃デ土砂ヲ崩シタッテワケ』


 本当は敵を体内から爆発させる機能だが、道を拓けるならなんでもいい。


 水流に乗って道なりに進むと、劇場のような場所に出た。

 舞台の上でとぐろを巻いていた巨大な蛇がゆっくりと鎌首をもたげる。


『あの、猊下。ポココ……。本当にこちらであっているのでしょうか?』


『タブンナー。コシュゥゥ……』


『でも、何か大きなものがいますけど』


『イルナー。シュコポポ……』


 地図通り来たはずだが、遠征隊が地図通りに進んだとは限らない。

 ここまで、通れない道は無理やり爆破して進んできたから、シャックスたちと違うルートに入っていてもおかしくはない。

 まあ、最終的には『牛鬼陵』とやらで合流できるだろう。

 もうテキトーに進むか。


『ノンノン、下ガッテテクレ。チョット、アノ蛇ニ「退イテ」ッテ言ッテクル。シュコォォ……』


『あのような害獣とも対話を試みられるなんて猊下は慈愛の神です。素敵です。ポコポコ……』


『ウン。――掌中焼灼ハンド・ソリス


 とりあえず、挨拶がわりに1発ぶち込んでおいた。

 これでゆっくり話ができるゾ!


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