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51話


 その日の夜、俺とシャックスは透明化ローブを羽織って孤児院を出た。

 領主ドンガリーユと再度、話をするためだ。

 真っ暗な町で隠密行動をするのは妙にテンションが上がる。

 領主邸まで悪ふざけしながらこそこそ移動し、裏口の前でまた悪ふざけをしていたら、バトランに見つかってしまった。


「姿を消すことができる魔道具ですか。サグマ様は王都でずいぶんと腕を上げられたようですね」


 社交辞令を交えつつ、上がるように促される。


「旦那様もお三方のお越しを心待ちにしておられました」


「ん、……お三方?」


 振り返ると、そこにはシャノンがいた。

 無をベースにした顔に、最初っからいましたけど、みたいな表情が見て取れる。


「なんでシャノンがここに?」


 俺は面食らいながら訊いた。


「サグマ様の護衛でついてきました」


「なる、ほど……」


 シャノンの目と耳をもってすれば透明化など意味を成さない。

 だがな、せっかく俺たちが姿を消しているのに、お前が堂々と歩いていたら意味ないだろう。


「見られていないだろうな?」


「はい、細心の注意を払いましたので。万が一、誰かに見られていたとしても野良猫としか思わないでしょう」


「それもそうか。よくいるもんな、こういう黒猫」


「いや、いねえよ。見たことねえよ。いるなら今すぐ連れて来いよ」


 そんなやり取りを経て、領主の私室に通される。


「おう、来たか!」


 ドンガリーユはバスローブ姿で巨大なワイングラスを傾けていた。

 夜景を眺めながら優雅なひとときをすごしていたらしい。


「邪魔しましたかね?」


 相変わらずでけえな、とか思いつつ俺はいちおうの気遣いを口にした。


「いや、構わぬ。呼びつけたのはわしだ。こちらこそ、すまんな、サグマよ。おおっぴらにはできぬ話をするゆえ、お前たちに二度手間をかけさせてしまった」


 そんなことを大声で言うので、外まで漏れ聞こえやしないかとヒヤヒヤする

 バトランがカーテンを閉めた。

 俺たちは向かいの席に座る。

 シャノンだけは俺の傍らに立ち、なんか肩を触ってくる。

 手つきが完全にセクハラなのだが、まあいいか。


 俺は後ろ体重で脚を組み、ゾッとするような笑み的なやつを浮かべた。


「ケケッ、それじゃ領主様、おうかがいしましょうかね。アッシらに誰を始末させるおつもりで? ヒャヒャヒャ!」


「サグマ、やめろ。恥ずかしいだろ」


「シャックスこそやめろよ。これから人には聞かせられない話をするんだ。雰囲気は大切にしようぜ?」


「別に誰か殺すわけじゃねえだろ。……で、ですよね、領主様?」


 シャックスが弱い犬みたいに縮こまって訊く。

 ドンガリーユは鷹揚に頷いた。


「無論である。むしろ、殺されるやもしれぬのは、わしのほうだ」


 領主が殺される。

 つまり、暗殺ということか?

 どうして、そんな大それた話になるのだろう。


「諸君らは『北罰』という言葉を知っているかね?」


「たしか、罪を犯した者を北方に追放すること、でしたっけ?」


「その通りだ。北流しとも呼ばれておる。罪を犯した者といっても流されるのは貴族や有力な聖職者、豪商などが大半だな。かつて将軍位を拝命した我がベルトンヒュルト家がこんな田舎くんだりに甘んじているのも北罰をたまわったからである」


 急峻な山々に囲まれた王国北部は農業に適さず、資源にも乏しい。

 おまけに、冬は深雪に閉ざされる三重苦。

 お世辞にも豊かな土地とは言えない。

 このベルトンヒルも昔は貧しかった。

 ダンジョンが見つかるまでは、の話だが。


「サグマよ、わしの言わんとしていることがわかるか?」


 ドンガリーユは値踏みするような目を俺に向けている。

 回答を間違えれば評価が下がるタイプの質問だな。


 俺はシャノンに肩をモミモミされながら、頭をフル回転させた。

 北罰によってこの地に流されたベルトンヒュルト家。

 貧しかった土地がわずか4年で急成長を遂げた事実。

 暗殺を危惧する領主。

 そして、騎士には聞かせられない話。

 それらを勘案すれば、おおよそのストーリーが見えてくる。


「領主様は国王陛下に疑われているんですね? 謀反の恐れアリ、と」


「しかり!」


 ドンガリーユは膝を叩いて満足げに唸った。

 シャックスは馬鹿だから、話を理解できずに首をかしげている。

 説明しよう。


「王国北部には北罰によって追放された人々がベルトンヒュルト家以外にも大勢いるだろ。そういった人々は多かれ少なかれ国王に恨みを抱いているんだ」


 追放された者の中にはドンガリーユのように政争に敗れた者もいるだろう。

 濡れ衣を着せられ、地位も名誉も財産も奪われ、そして、住処を追われる。

 その恨みは真っ黒な炎となっていつまでもくすぶり続けている。

 だが、貧困地域ゆえに蜂起する力などない。

 今を食い繋ぐだけで精一杯。

 どれほど復讐の炎を燃やそうとも、とうの国王からは敵とさえみなされないのだ。


「しかし今、そのパワーバランスは崩れつつある。大規模ダンジョンの発見によって」


 今やベルトンヒルは王国でも有数の都市となっている。

 そして、これからも発展の一途をたどるだろう。

 立ち上がる動機を持つ者が立ち上がる力を手に入れた。


「国王や中央の貴族たちにとって、これがどれほどの脅威かわかるか? わからねえだろうな、この身長を盛ることにしか関心のないバカタレには」


「さすがサグマ様です。シャックスエルク様とは雲泥の差です。月とスッポン、神とゴキブリです。比べることすら恐れ多い」


「二人がかりでオレをこき下ろすんじゃねえ。ちょっと泣きそうになっちまったじゃねえか……」


 俺はバトランが給仕した茶菓子をお詫びのしるしにシャックスの口に突っ込んだ。


「これは、俺たちも無関係ではないはずだ」


「もぐもぐ、……どういうことだ?」


「Sランク冒険者ギルド『時は金なり(ダラープラント)』がベルトンヒルに拠点を移した。言うなれば、これは人材の流出だ。王都の空洞化と言い換えてもいい。商人たちの関心も北に移りつつあるんじゃないか? 貴族はパワーバランスの変化に敏感だ。エルドがそうだっただろ?」


「まあ、それはそうだと思うが……。でも、サグマ、やめてくれよ。いつもボケ散らかしているお前がオレより頭のよさそうなこと言ってんじゃねえよ。なんか辛いぞオレ。自分の頭が悪いと言われている気分になる」


 なんだその言い草は。

 俺はな、地頭はいいんだぞバカヤロー。

 腹が立つのでシャックスの茶菓子を盗み食いしてやった。

 おいしい。


「サグマの理解の早さにはわしも舌を巻くところだ。さすがはカウッド家の忘れ形見といったところか」


 ドンガリーユはそこまで言ってから、しまった、という顔をした。


「フフフ……ハハハハハハハッ!!」


 笑って誤魔化すのお手本みたいな笑い方をしている。

 まあ、話がややこしくなっても困る。

 疑問は次の機会まで取っておいてやろう。


「要するに、だ。疑心暗鬼に駆られた国王が先手を打って刺客を差し向ける、なんてことも考えられる情勢というわけだ」


「実際、わしのところには決起を促す檄文が山ほど届いている。だが、わしは本心、国王陛下に恨みなど抱いておらぬ。しかし、陛下はそうは思っておられぬようだ」


 ドンガリーユは苦々しい面持ちで腕組みした。


「先日、スミッギとかいう男を捕らえた。その男、どうやら国王の息がかかった情報屋のようでな、わしのケツ毛の数まで調べ上げた紙を所持しておったわ」


「それが、暗殺前の下調べだと?」


「断定はできぬ。その男は何も吐かずに死んだのでな。牢に繋いでいたところ、何者かによって殺害されたのだ」


 いかにもヤバげな展開じゃないか。

 ワイン飲んでいる場合か!?


「で、その話がオレらとなんの関係があるんです?」


「あはは、本当にナメクジみたいに馬鹿だな、シャックスは。俺たちポンコツ市民がこんなヤバイ話に関係なんてあるわけないだろ。領主様はな、きっと誰かに話して楽になりたかったんだよ。そうですよね? ね?」


 俺は祈るように問うた。

 無情にも大きな首が横に振られる。


「サグマよ、お前とて他人事ではないぞ。魔道具を作れるというお前の能力には、戦況を左右するほどの力があるのだからな。わしの計算では、魔道具作家が10人いれば、10年以内に大陸の覇権を握ることも可能だ」


 そんなマクロの話をされてもピンとこない。

 だが、将軍の血筋が断言するのなら過大評価だと笑うことはできない。


「オレもそんな気がするな」


 シャックスが義足をさすった。


「天職者ってのは常人離れしているもんだが、サグマはその中でも段違いだ。王都にいた頃からずっと思っていたんだぜ? お前はいちギルドに置いておくにはもったいない人材だってな」


 シャノンもコクコクと頷いている。

 じゃあ、まさか俺も反乱分子の一人とみなされているのか?

 俺も暗殺者に狙われていると?

 そんなバナナ……。


「あっ」


 そういえば、心当たりがある。

 シュビーだ。

 あの女騎士、やたら俺に絡んできた。

 謀反の兆候がないか探っていたのだとしたら得心がいく。


 疑われる忠誠心、か……。


「王都のほうに向かって敬礼しながら国歌でも斉唱します? 俺、歌がうまくなる魔道具作りますけど?」


「忠誠心を示すもっとよい方法があるぞ」


 ドンガリーユは白い歯をこぼした。


「金だ金! 金を積むのであーる!」


 袖の下を渡すのか。

 ヘソ天で服従の姿勢を示すよりはマシなアイデアだ。

 地獄の沙汰も金次第と言うしな。


「で、資金源はどこに?」


 ドンガリーユはダンダンと右足を踏み鳴らした。


「足元にいくらでもあるだろう。ダンジョンという巨大な宝物庫がな」


「水没中ですけど?」


「お前がいるだろう、サグマ」


「ええっと、つまり?」


「作れ。わしのギルド『北傑獅子団』のために、メンバー全員分の水中装備をな」


「は?」


「そして、シャックスエルクよ。お前たちのギルドにも助力を願おう。水中戦の心得があるのはお前たちだけであるからな」


「は、……はい! 光栄であります、領主様!」


 シャックスはなぜか目を輝かせている。

 大口の依頼がそんなに嬉しいか?

 俺は最悪だ。

 忙しくなるじゃないか。

 ……まあでも、暗殺はもっと嫌だな。

 死んだらスローライフできないし。


「報酬はきっちりもらいますよ」


 俺は頬の筋肉をピクピクさせながら請け合った。

 明日から忙しくなりそうだ。

 最悪だ……。


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