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40話


 風になびく銀の髪。

 高潔さを感じさせる白銀の鎧。

 実直な性格がにじみ出た強い瞳。

 まるで、一本の剣のような雰囲気を持つ女騎士が俺の肩をガッツリとホールドしている。


 はて、誰だったか。

 名前はとんと思い出せないが、見覚えはある気がする。

 頭を斜めに傾けてみると、記憶の壺から心当たりが転がり出てきた。


「あっ、あのとき助けたツルの……」


「いや、それはどう考えても私ではないな。そもそも、ツルの時点で誰でもあるまい」


「あの吹雪の夜以来だな。そりゃ勝手に部屋を覗いた俺も悪かった。でも、お前、急に飛び立っちゃうんだもんな。翼の怪我はもう治ったのか? 群れのみんなとは合流できたんだな。俺、嬉しいよ」


 俺は後ろに控えた騎士たちを見て、うんうんと頷いた。

 女騎士はひどく困惑した顔をしているが、構わずボケで畳み掛ける。

 魔道具を作ってくれとか言われると面倒なのでね。


「でも、どうして人の姿なんだ? もしかして、人間の社会に潜入して何か探っているのか?」


「……ッ!」


 冗談のつもりで言ったのだが、女騎士はカッと目を見開いた。

 なんというか、正体を見破られたって顔をしている。

 まさか、本当にツルなのか?

 なわけないか。


「な、なな、何を言う? 潜入などと馬鹿な。私はただの……アレだ。そういうアレでな」


 誤魔化すのがあまりにも下手すぎやしないだろうか。

 もはや白状しているようなものだ。

 後ろの騎士たちも心なしかそわそわしているように見える。


 なんだか知らないが、藪をつついて蛇を出すのは御免だ。

 深掘りはするまい。

 ところであなたはどちら様?


「失礼。名乗るのが遅れてしまったようだ。私はシュビリエ・クー・ニグンハート。ギルド『王国の護盾(レグナ・ガーダ)』に所属し、筆頭分隊で分隊長を仰せつかっている者だ」


「ああ、あの」


王国の護盾(レグナ・ガーダ)』といえば、王都に拠点を構えるSランク冒険者ギルドだ。

 メンバー全員が騎士階級という異色の一団で、冒険者というより騎士団と呼んだほうが近い。


 王国軍の威光を示し、志願兵の獲得に繋げる――。


 たしか、そんな活動目的を掲げていたはずだ。

 要するに、新兵募集の広告塔。

 王国軍の広報部隊である。


 腕利き揃いと聞いているが、中でもシュビリエといえば、剣の名手として有名だ。

 俺は三拝九拝して揉み手で擦り寄った。


「へぇへぇ、あの『血染めの惨殺騎士』と名高いシュビリエ様がいってぇアッシなんかになんのご用でごぜぇやしょう?」


「おい、私にそんな悪名はないはずだぞ。それに、様など不要だ。私は貴族の出だが、今は一介の冒険者にすぎん。貴殿もSランクギルドの中核を担う人物であろう。どうか親しみをもって接してほしい」


「わかったよ、シュビー」


「シュビー!?」


 俺は馴れ馴れしく肩を組んで頬をツンツンする。


「しかし、悪いな。今日は俺、ノルマ分ボケたから、これ以上ボケるわけにはいかないんだ。ボケすぎは周りの人を胸焼けにしてしまうからな」


「いや、そもそも、なぜボケる必要がある? 個性的なんだな、貴殿は」


 さりげなく距離を取ってからシュビーは社交的に微笑んだ。


「そういえば、リッチベルク家のエルド殿はご健勝か? ギルドが崩壊したという話を伝え聞いているが」


 どこか探りを入れるような目を感じたので、俺は平静を装った。


「ウン。エルドなら元気だったヨ!」


 嘘は言っていない。

 今も元気かは知らないがな。


「そうか。それはなによりだな」


 シュビーにせよ、後ろの部下たちにせよ、どこか表情が硬い。

 腹にイチモツ抱えているような雰囲気を感じる。

 俺は急いでいる感をにじませて辞去することにした。

 でも、その前に……。


「ひとつだけ忠告しておこう」


 俺が鋭い目で睨むと、シュビーはごくりと喉を鳴らした。


「王都のSランクはこの町じゃBランクだ。俺ら本場の冒険者を舐めるのはやめたほうがいい」


「いや、君はついこの間まで王都民だったろう?」


「まあ、それはそうだな。ついでに言えば、さっき冒険者登録をすませたばかりの新米Dランカーだ。舐めるな」


「ああ、わかった……」


 角をひとつ曲がったところで、俺は足を止めた。

 ポケットから作りかけの聴覚支援デバイスを取り出して耳に押し当てる。

 シュビーたちの声が目の前にいるかのように聞こえてきた。


「分隊長、後をつけますか?」


「いや、あの者、ボケたふりをして探りを入れてきた。こちらの意図をおおかた察しているのやもしれん。舐めるなと釘まで刺された形だ」


「はあ、私にはただの腐れボケ野郎にしか見えませんでしたが」


「そう見せているだけだろう。我々騎士団と無用な波風を立てぬようにな。彼を殴った男がどうなったか、貴様も見ただろう。あれは、相当なやり手だ。知恵も回る。侮っていい相手ではない。一度、本部に戻り、対応を協議せねば。敵に回すことだけは避けねばならん。陛下と王国の未来のためにも、な」


「はッ!」


 なにやら難しい話をしている。

 こちらの意図?

 なんのことだ?

 俺に関係があることみたいだが。


「『王国の護盾(レグナ・ガーダ)』か……」


 同じ王都を本拠とするSランクギルド同士ということもあり、『時は金なり(ダラープラント)』とはライバル関係にあった。

 しかし、向こうは畏れ多くも国王陛下の騎士様だ。

 いさかいなどは無かったと記憶している。

 敵に回すことだけは避けねば、などと言っていたが、ギルド抗争を危惧しているのだろうか。

 まったくの杞憂な気がする。


「聞かなかったことにするか」


 面倒事には近づかないことだ。

 俺はスローライフさえ守られるなら、あとのことはどうでもいい。


 でも、もし俺の安寧をぶち壊すというのなら……。

 そのときは、魔道具フル武装で歓迎してやるだけだ。


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