表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/76

37話


「はぁ?」


強制停止シャットダウン』を宣告すると、エルドは小馬鹿にするような声を上げた。

 そして、宙吊りにしていたフィオを下ろして首から手を離した。


「……は?」


 今度は戸惑いの声が上がる。

 再びフィオの首に手を伸ばそうとするが、その腕は胸の高さまで上がったところで振り子のように元の位置に戻っていった。


 鎧から黄金の輝きが失われていく。

 黄昏の空が時とともに黒へと変わっていくように、鎧は暗いなまり色へと変化していった。

 そして、エルドは前のめりに倒れた。

 銅像が転倒したような重い音がダンジョンにこだまする。


「な、なんだ……? 体が急に……なんで!?」


「動かなくなったのは体じゃない。鎧のほうだ」


 俺は地べたに這いつくばるエルドを見下ろして言う。


「その鎧の製作者は俺だ。いざというときのために強制停止できるように設計してある。じゃないと、危ないからな」


 物作りにおいて最も重要なのは「安全」だ。

 俺はマッドサイエンティストではないからな。

 自分が生み出した怪物の手綱を手放すほど愚かではない。


「身体能力を増幅する機能もオフになっているから、重くて動けないだろう? その鎧の唯一の難点は重すぎるところだからな」


 全身に金塊を着ているようなものだ。

 エルドもふんふん言いながら頑張ってはいるが、微動だにしていない。


「下民の分際で僕を見下ろすな!」


「まあ、腐ってもお貴族様だしな」


 俺は寝転がって地面に頬杖をついた。

 鼻をツンツンしてやると、エルドはくしゃみをこらえるような変な顔になった。

 あはは。


「俺はもうその鎧を二度と起動する気はない。エルド、お前の冒険はここで終わりだ」


「そんなの嘘だ! 僕は最強の冒険者になって富と名声を掴むんだ!」


「おい、シャックス、フィオ。お前らも横になれよ。エルドの奴、まだ冗談を言っているんだ。面白いから一緒に笑おうぜ」


「あたしたちもそいつには思うところあるけどさ、さすがに面白がるほど性根は腐ってないわよ? ……ってシャックス。なんで寝っ転がってんのよ?」


「い、いや。へへへ……」


 シャックスは誤魔化すように笑ってから、真顔になった。


「エルド、お前は借り物の力でのぼせ上がっていただけだ。本当のお前は最強なんかじゃねえ。一人じゃ立つこともできねえ半端モンだ。ま、オレも人のことは言えねえがよ」


「そうね。こいつを見下ろしているとつくづく感じるわ。あたしたちはサグマのおかげで冒険者ヅラできているのよ。魔道具を取り上げられたら何も残らないわ」


 フィオは自戒するように言った。

 何も残らないというのは自虐がすぎるだろう。

 でも、エルドにフィオの半分でも慎みがあれば、富と名声を得ることもできたかもしれない。

 結局、リーダーに一番大事なのは人柄なのだ。


「うるさい! 僕に説教するな! こんなガラクタがなくとも僕は王都最強の冒険者だ! 君たちをくびり殺すくらいわけないんだぞ!」


 エルドが鎧を解除パージした。

 身をよじって鎧から抜け出すと、なまり色になった剣を引っ掴んだ。

 しかし、剣は地面に張り付いたように動かない。

 俺の体重より重いから当然だ。


「くそおおお!」


 エルドは代わりに尖った石を手に取った。


「死ねえええ! サグマああああ!」


 と、俺のいない方向に走って行き、石を振り回したかと思うと、吐瀉物をぶちまけた。


「典型的な魔力酔いだな。ずっと黄金鎧どうぐに頼りきりだったから耐性がないんだろう」


「おいサグマ、そこじゃねえだろ!」


「なんであいつ全裸なのよ!」


 シャックスとフィオがそんなことを訊いてきた。


「鎧との連動性を上げるために裸で着用する仕組みなんだが……」


 全裸のハゲが嘔吐しながら踊り狂っている様はなかなかに異様だった。

 俺が追放されたときより真に迫っている気がする。

 本物は違うな。


 俺はなまりの剣をインナースーツの力で持ち上げた。


「ひいいい……!」


 エルドは失禁しながら後ずさりする。


「サグマ、どうするよ、こいつ」


「だいぶ惨めな感じだけど、遺恨もあるし殴っとく?」


「フィオ、全裸の男を殴ってみたいのはよくわかる。俺も同じ気持ちだ。でも、ここはグッと我慢してみないか?」


「まずあんたから殴るわよ?」


 俺はうーんと考えた。

 鎧をなくしたエルドは、もはやただの人だ。

 王都から遠く離れたこの地では貴族家の末っ子なんて肩書きにも、なんの意味もない。

 エルドはすべてを失ったのだ。

 脅威は去った。

 なら、殴る理由もない。


「行っていいぞ」


 俺は出口のほうを顎で指した。

 エルドは俺を涙目で睨むと踵を返した。

 自分ではまっすぐ進んでいるつもりなのだろうが、右へ左へよろめきながら出口とは反対の横穴に入っていった。

 あの様子では1000年彷徨ったところで地上には戻れないだろう。

 そして、ダンジョンとは裸で生き残れるほど優しい場所ではない。

 同情はしない。

 自分で選んだ道だ。


「さて、帰るか。みんな待っているだろうしな」


 おっと。

 その前にやるべきことがあった。


「シャックス、ギルド本部の修復に金が必要なんじゃないか?」


「ああ、笑えるくらいの大赤字だぜ」


「じゃあ、エルドの抜け殻を売りに行こう。そのまま売ったほうが高くなりそうだが、危ないからな。溶かして金塊にしてしまおう」


「ちゃっかりしてるわね、あんた」


 俺たちは一路、ギルド本部を目指すのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ