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24話


「新装備もゲットしたことだし、活動再開だ!」


 とある朝のことである。

 ビーフステーキを食べ終えたシャックスがドンとテーブルを叩いて立ち上がった。

 孤児院の子供たちが訳もわからないままなんとなく拍手を贈っている。


「まあ、そろそろ依頼を受けなきゃヤバイわよね。調子乗って大豪邸なんて買っちゃったし」


 フィオも口元を拭きながら席を立った。

 俺は二人に釘を刺すことにした。


「孤児院を支援する件は忘れてくれるなよ? お前たち、今のところ孤児院に食わせてもらってる側だしな。いい歳して恥ずかしい」


「食いきれないほど肉があって困ってるってお前が言うから来てやってんだぞ、オレたちは」


「そもそも、サグ。あんたも孤児院で食わせてもらってる身でしょうが。いい腕してんだから独立しなさいよ」


 釘を刺したら言葉のナイフで刺し返された。

 痛い。


「ダンジョンに行くなら俺もついていくよ」


 俺がそう申し出ると、二人は困ったような顔をした。


「サグマ、ダンジョンはお前なんかが立ち入れる場所じゃないんだ。危険なんだよ」


「暗いところが好きなら自室に閉じこもって下向いてなさいよ。そこが、あんたのダンジョンよ」


 二人がかりでさらに俺をメッタ刺しにする。

 ひでえ奴らだ。


「まあ、そう言うな。俺は使い手に寄り添うって決めたんだ。お前たちの新装備が正常に作動するかどうか見ておきたいんだよ。それには、現場に足を運ぶのが一番だろ?」


「うーん……」


 二人は渋い顔をしていたが、俺が床の上を転げまわってダダをこねるまでもなく首を縦に振ってくれた。


「オレたちも使い込んでない装備じゃ少しばかり不安だ。製作者が一緒なら心強いってもんだ」


「サグ、ダンジョンの中でふらふらしちゃダメよ? ここは王都の比じゃないんだからね」


「邪魔しないように隅っこで息を潜めておこう。おしのび視察だな。視察先に気を遣わせても悪い。先方には歓迎セレモニーはいらないと伝えておいてくれ」


「遠慮しなくても魔物の葬列が歓迎してくれるわよ」


 というわけで、俺のダンジョン行きが決まった。

 荷物をまとめて孤児院を出る。

 何日かぶりの冒険者組合を訪ねると、ロビーに居合わせた冒険者たちが一斉に笑いだした。


「おい、見ろよ! Bランの雑魚に負けたSランカー様がお越しだぜ!」


「よくもまあ日の高いうちに顔が出せたもんだな」


「恥も外聞もありませんってか。プライドが低い奴は生きやすくて羨ましいぜ。ギャハハ!」


「しかも、身長まで盛ってるんだぜ! 笑えるっフィ! フィフィフィ!」


「こらサグ! なに加担してんのよ、あんた!」


 悪ノリしたらフィオにド突かれた。

 当然だ。


「まあ、今はぐっと歯を食い縛るときだ」


 シャックスは努めて平静に受付に向かった。

 例の美人受付嬢が愛想のよい笑顔を浮かべている。


「いい依頼、あるか?」


「どういった依頼をご所望ですか?」


「B難度(ランク)依頼を上限に、報酬がいいものを見繕ってくれ。あまり危険じゃないものがいいな」


「少々お待ちください」


 また最難関ダンジョンがどうのと言い出すんじゃないかと思ったが、どうやらシャックスは背伸びしないことにしたらしい。

 いいことだ。

 受付嬢は依頼書を1枚持って戻ってきた。


「こちらなどいかがでしょう? Aランク冒険者ギルド『四首犬の遠吠え(オール・フォー・ワン)』からの応援依頼です」


「応援依頼ってなんだ?」


 俺はシャックスの脇の下から尋ねた。


「変なとこ潜ってんじゃねえよ。まあ、ヘルプを募集するってことだな。大きな依頼を受けるとき、荷運び要員や魔物つゆ払い要員が必要になるだろ? 頭数を自前で揃えられないギルドなんかが応援を要請するんだよ」


「話を聞く限り、雑用係って感じだな。普通は駆け出しの仕事なんじゃないか?」


「まあな」


「そんなヘボ依頼を兄貴に紹介しやがって、チキショー。兄貴はな、王都じゃ有名な冒険者だったんだぞ。『健脚のシャックス』を知らないのか、この田舎娘。へへ、シャックスの兄貴ィ、本物の拳を見せてやってくださいよぉ」


「おいサグマ、オレを二度も殺さないでくれよ……」


 シャックスは真っ赤になった顔を両手で覆っている。


「急募案件ですので報酬は割高になっていてお得です。詳しくは2階の待合室にいらっしゃる依頼人の方にうかがってください」


 受付嬢に礼を言って待合室とやらに向かう。

 そう広くない室内に6人の冒険者がたむろしていた。


「あんたらが依頼人か? オレら『時はゆっくり(ダラーブラット)』ってギルドの者なんだが。応援依頼を受けさせてもらっていいか?」


 シャックスがそう言うと、途端にドカッと笑いが起きた。


「おい、マジかよこいつ! ギャハハ、依頼を受けさせてくれってよ!」


「天下のSランカー様がオレらAランのパシリをやるってんだぜ? 冗談キツすぎんだろ、ダハハ!」


「しかも、身長盛ってるらしいぜ! マジ狂ってんじゃねえのか、こいつゥ! フィフィフィ!」


「サグ、あんた、いい加減にしないと蹴られるわよ?」


 それは困る。

 俺は衛兵Cみたいな存在感で部屋の隅に直立した。


「どうしても受けてえか? オレらの依頼をよぉ」


「ああ、受けさせてくれ」


「なら、お願いしてみろよ。王都じゃどうやって人にものを頼むんだ?」


 ヘルプ急募という話だ。

 そもそも依頼人のほうが頼む側じゃないのか?

 と思ったが、シャックスはまったく迷う様子もなく頭を下げた。


「よろしく頼む!」


「ちょっと、シャックス! こんな奴らにペコペコしてんじゃないわよ!」


 プライドの高いフィオは当然憤りをあらわにしている。


「まあ、そう言うなって。オレたちにとっては格上冒険者の技術を学べるまたとない機会になる。こっちは勉強させてもらう側だ。頭下げるのが流儀だろ」


 シャックスはちっとも怒った風ではなかった。

 少し前なら、間違いなく胸ぐらを掴んでいただろうに。


「この前のことは本当に申し訳なかったと思っている。自分の力量も知らずにイキり散らかしちまった。今回の依頼、オレはあんたたちの胸を借りるつもりでいる。勉強させてくれ」


「ぇ、あ、……おう」


 冒険者たちは肩透かしでも食らったような顔をしている。


「……いや、なんというかアレだな。からかっちまって悪かった。オレたちも頭数が揃わなくて困ってたんだ。依頼を受けてくれて助かるぜ」


 俺はそう言ってシャックスに握手を求めた。


「なんなんだよ、お前……」


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