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23話


「なあ、サグマ、サグマぁ~。もちろん盛ってくれたよな?」


 シャックスが俺の肩に腕を回して小声でそんなことを訊いてくる。


「ああ、2センチな」


 と、俺はジト目気味に答える。

 フィオは露骨に不審がっていた。


「なんの話よ?」


「なんでもねえって。オレたちだけの秘密だ」


「なによ、ヤらしいわね」


「別にヤらしくはないが、秘密だ。シャックスの義足を前より長めに作って身長を盛ったことは俺たちだけの秘密なんだ。フィオには絶対教えてやらないぞ。なっ、シャックス」


「なっ、じゃねえよ。全部しゃべっちまいやがって」


 お約束というヤツだ。

 さて。


「次はフィオの試射会といきますか」


「待ってました! くぅぅ! ウズウズするわね!」


 フィオは木箱から弓を取り出した。

 メインマテリアルとして使ったのは牛男の角だ。

 獣臭香る角素材とメタリックな駆動部分。

 対照的な2つの素材がワイルドかつ繊細な弓を形作っている。


「カッチョいいじゃない! 気に入ったわ!」


 フィオは小躍りしながら頬ずりしている。


「その弓は『天星穿つ雷角(アド・アストラ=ピエ)』。きっと覚えられないだろうから、握りのところに銘を刻んである。さすがにフィオでも字は読めるよな?」


「すごい馬鹿にしてくるわね、なんなのよ……。まあ、今は今年一番機嫌がいいから勘弁してあげるわ。さっそくぶっぱなすわよ! 矢をよこしなさいよ!」


「矢はない」


「……ない? あんた、まだボケる気なの? 矢がないなら試射会なんてできないじゃないの」


「ところがどっこい、できちゃうんだな」


 俺は寄り目で鼻の穴を広げた。

 ガニ股でピースしながら言う。


「それは魔力の矢を飛ばす弓なんだ」


「どうして、それを頭のおかしいカニ人間みたいな格好で言う必要があるのよ……」


「握りの部分から魔力を込めれば矢が現れる。試してみてくれ。でも、的は動くから当てるのは至難の技だぞ」


 俺はシャックスの背を叩いた。

 誰が的だ、と肘鉄が返ってくる。


「こうかしら?」


 フィオが弓を構えると半透明の矢が番えられた。

 隣の丘に狙いを定め、ギリギリの弓を引き絞る。


「おッ、りゃああああ――ッ!!」


 シャックスの義足と違って叫ぶ必要はないのだが、フィオは気合の一矢をぶっぱなした。

 矢は速すぎて見えなかったが、隣の丘の中腹にクレーターができたので命中したのはわかった。


「ひょおーッ! 最ッ高だわ! なによこれ!? もはや大砲よ、大砲!」


 ご満足いただけたようでなによりだ。


「フィオが今飛ばしたのは純粋な魔力の塊だ。無属性の魔力と言ったほうがわかりやすいかな。その弓には属性矢を放つ機能も備わっているんだ」


「ええ!? 火とか雷の矢も撃てるってこと!?」


 俺はこくりと頷いた。


「扱うことができるのは、火、水、氷、土、風、雷、光、タコの7属性だ」


「8個目に軟体生物がまざってたわよ……」


「後で海に帰しておこう。属性矢を番えるには音声認証がいる。『火』とか『ウォーター』とか『ビリビリ』とかそれとわかる言葉ならなんでもいい」


「びちゃびちゃファイアッ!!」


 さっそく赤と青の矢が放たれた。

 2本の矢は重なり合うようにして飛び、ブシュウウウと音を立てて白い煙に変わった。


「さすが、フィオ。ぶっ飛んでるな。いきなり2属性矢を撃つとは思わなかった」


「あたしも撃てると思わなかったわ。さすが、サグの弓ね。なんでもアリだわ。すぐ消えちゃったけど」


「火と水なら蒸発して水蒸気だな。そのへんは組み合わせの妙だ」


「組み合わせ次第で可能性は無限大ってわけね! 面白そうじゃないの! でも、あんたのことだもの。この弓、まだまだこんなもんじゃないんでしょ?」


 フィオはわかってるわよ、って顔をしている。

 俺は白目でニッと笑い返した。

 そんでもって、銀色の矢を取り出して、しゃくれ顔で言う。


「この特製の矢を射てみてくれ。反動には気をつけるんだぞ」


「あんまり矢って感じじゃないわね。先っちょも丸いし」


 たしかに、矢というより細く伸ばした水滴みたいな形をしている。

 これが最も空気抵抗を受けにくい理想的なフォルムなのだが、まあ、撃ってみればわかる。


 フィオが矢を番えると、レールの間に電撃が走り、キィィンンと甲高い音が鳴り響いた。


「いっくわよ! ――りゃあッ!」


 パガァァァァンンッ、と空気が震えた。

 フィオの体が後ろに吹っ飛ぶと同時に、隣の丘のいただきが爆発した。

 まるで噴火でも起こしたみたいに土が噴き上がり、土砂の雨で丘は緑から茶色に変わる。

 無属性矢の10倍ほどのクレーターができていた。


「なかなかの威力だろう? 弾体初速:推定3000メートル毎秒。町の向こうに見える山まで1秒とかからずに到達する速度だ。厚さ4メートルの岩を貫徹する威力がある。その弓の前では遮蔽物なんて意味を成さない」


「いや、馬鹿なの、あんた!? 誰が兵器を作ってくれってお願いしたのよ……」


 お尻を上にしたマヌケな格好でフィオがキャンキャン言っている。


「ただ、これには短所もある。レールの冷却に時間がかかるから、毎分2発しか撃てないんだ」


「そんなの短所じゃないわよ。1日1発でもお腹いっぱいよ」


「ちなみに、氷の属性矢を撃てばレールを冷却できるっフィオ」


「そこらへんも使い手であるあたし次第なのね。つか、語尾をあたしの名前にしてんじゃないわよ、こらっ!」


「怒らないでほしいっフィ!」


 シャックスの義足にしてもフィオの弓にしても、たしかにオーバースペック感がある。

 でも、大は小を兼ねるという。

 足りなくて困るよりはいいだろう。


「こんな馬鹿威力のくせして小枝みたいに軽いわね」


「質量の大半を重力から切り離してあるからな。狭いダンジョンでの取り回しを考慮して全体的にコンパクトにまとめてある。矢筒を持ち運ばなくていいから移動がずっと楽になるはずだ」


「重力から切り離す!? さらっと信じられないこと言うのね……」


 フィオは赤みのある頬をポリポリした。


「でも、サグがあたしのこと考えて作ってくれたんだと思うとすっごく嬉しいわ。あたし、この弓を一生大切にするから」


「エルフの一生か。さすがに耐用年数が追いつかないと思うぞ。まあ、いつでもメンテしてやるから酷使してくれていい」


「おい、フィオ。サグマがお前の弓を一生いつでもメンテしてくれるってよ。ぐふふ、もろプロポーズじゃねえか」


「な、何言ってんのよ! 背伸び馬鹿!」


 ニヤつくシャックスの尻をフィオが蹴飛ばしたところで試射会にも一段落がついた。

 帰るか。

 俺はダラダラしなければいけないから、ピクニックなんてしている暇はないのだ。


「この義足ともお別れか。なんだか寂しいな」


シャックスはボロボロになった『難関走破メロスレッグ』を木箱に仕舞いながら憂い顔をしている。


「捨てるなんてできないが、持っていてもほこりをかぶるだけだ。売っちまうかな」


「なんてことを言うんだ」


 俺は珍しく怒った。

 シャックスも面食らったようだった。


「い、いや、すまねえ。お前が苦労して作ってくれたものなのに。売ろうだなんて最低だったな」


「そうじゃないだろ!」


「え、じゃあ、なんなんだよ……」


「もちろん、使うんだよ」


 俺は遠くに見える馬を指さした。


「シャックス四本足計画、始動だ。シャックスを改造して半人半馬ケンタウロスっぽくしよう」


「それ、すっごく面白そうだわ! 乗ったわ、あたしも!」


 フィオが協賛を申し出た。


「やるぞ、フィオ!」


「おおーっ!」


「おお、じゃあるかボケども! ……まあでも、さらに速く走れるならアリかもな。『神速のシャックス』なんてのも悪かねえな」


 ヌフフギュフフと笑う身長盛り盛り男を俺とフィオは冷めた目で見守るのだった。


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