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12話


 冒険者の聖地と呼ばれるだけあって冒険者組合の本部は町のド真ん中にたたずんでいた。

 王都なら城がある位置だ。

 外見にはこれといって特別なものはないが、ただ一点、目を引くものがあった。


 塔だ。


 灯台じみた高さの塔が建物の中心から青い空へと伸びていた。

 水車を動力にして大きな鳥かごのようなものを動かしている。


「あれは?」


 隣にいるシャックスの手を握り、俺は尋ねた。


「なんで手を握る必要があるんだよ。指も絡めてくんな。……あれか? あれは、立坑を昇り降りするための昇降機だな」


 炭鉱なんかにあるやつか。

 町の真下にダンジョンがあるから、組合本部からダンジョンの中層域に直行できるようにしているのだろう。

 町のあちこちに似たような塔が建っているのが見える。


「王都にはなかったわよね。昇降機が必要になるほど深いダンジョンはなかったもの」


「フィオ、今なんて言ったんだ? 指を絡めてくれなきゃ聞こえないぞ?」


「どうしてよ? あんた、新種の魔物か何かなの?」


 そんな話をしつつ、入り口に続く階段を上る。

 ふと、中に知り合いの冒険者がいると嫌だなと思い、俺は懐から眼鏡を取り出した。

 パーティーグッズみたいなふざけた眼鏡だ。


「なによ、それ?」


 フィオがスローモーションで話しかけてきた。


「これは、厨房を飛び交うコバエを気持ちよく叩きたいというマイヌの要望に応えて作った眼鏡でな、動体視力を極限まで上げることができるんだ。今、俺の目にはフィオが止まって見える。成長も止まっているから赤ん坊に見えるほどだ」


「とんだ不良品じゃないの……」


 冗談だ


 いざ、組合本部に入る。

 ロビーは孤児院の庭より広々していた。


「頭が悪そうで顔つきもワルな冒険者がいっぱいいるな。もう首から上、いらないんじゃないか?」


「ちょっとサグ。それ、絶対聞こえるように言わないでよね。冒険者はみんな喧嘩っぱやいんだから。あんた、ただでさえ殴りたくなるような格好してんのに」


「あ、赤ん坊がしゃべった……」


「あたしが殴ってやろうかしら」


「よう、一番難度の高い依頼を見繕ってくれよ」


「「……」」


 シャックスが似合わないハスキーボイスを出したので、俺とフィオは顔を見合わせた。

 何を格好つけているんだろうと思ったら、受付嬢はなかなかの美女じゃないか。


「シャックスも年頃なんだな」


「うるへー」


「高難度依頼をご希望ですね。冒険者ランクを確認させていただいてもよろしいですか?」


「ああ、いいぜ」


 シャックスはこれ見よがしに冒険者手帳を開いた。

 表紙の裏側には、金色に輝く五ツ星が並んでいる。

 最高位冒険者(Sランカー)の証だ。


 受付嬢が息を呑むのがわかった。

 シャックスの鼻の穴が膨らむのもスローでよく見える。


 ロビーにいた冒険者たちがざわつく。

 Sランクまで昇ることができるのは1万人に1人という話だから珍しいのだろう。

 実際、『時は金なり(ダラープラント)』にもエルドとシャックスの2人しかSランカーはいなかった。


「お前ら、聞け!」


 気をよくしたのか、シャックスは受付台に駆け上がって冒険者たちを見下ろした。


「オレたちは王都でトップ張ってたんだ。この町でももちろん天下を取るつもりでいるぜ。すぐに結果を出してやっから、今日のところはオレの顔を覚えて帰りな」


「うわぁ……。知ってる顔が気持ちよさげにイキってるとこ、見たくないな」


「そうね。共感性羞恥であたしも顔が熱いわ……」


 俺とフィオはさささぁ、っと柱の陰に隠れた。


「よォ、王都にも冒険者がいんのかァ?」


 熟柿顔の中年男が千鳥足でやってきた。

 両手にビール瓶持参だ。

 ジョルコジより酒癖が悪そうだった。


 シャックスはおどけた調子で笑う。


「おいおい、どこの田舎もんだ? いるに決まってるだろうが。その様子じゃオレらのことなんて知らねえだろうな。『時は金なり(ダラープラント)』ってギルド名なんだが、聞いて驚くな。オレたちはな、Sランク冒険者ギルドなんだぜ?」


 もっとも解散しちまったがな、と付け加える。


「なあ、誰か王都のレベルを知っている奴はいるかー?」


「オレは王都でも冒険者やってたことあるぜ。レベルもクソもねえよ。あそこはC級ダンジョンしかねえからな。ぬるま湯育ちの雑魚しかいねえのさ」


「だな。王都のSランクはこっちじゃBってとこだぜ?」


「なんだよ。お上りさんがイキってるだけかよ。くだらねえ」


 冒険者たちがそんな話をしている。

 シャックスはわかりやすく火がついたようだった。


「生まれも育ちも王都のオレにお上りさんときたか。どうやら、こんなド田舎までは『健脚のシャックス』の雷名も轟いちゃいねえみたいだな。これだから、田舎もんは」


「……んだとォ?」


 売り言葉に買い言葉で今度は冒険者たちが燃え上がる。

 ロビーは喧嘩前特有の張り詰めた静けさで満たされていた。

 巻き添えは御免だ。

 早いとこ出ていきたいのだが、今コトリとでも音を立てたらそれが始まりのゴングになりかねない。

 俺は変顔で息を殺した。

 隣でフィオがブフッ、と噴き出した。


「それじゃぁよォ、力比べと行こうじゃねえかァ」


 静寂を破ったのは例の酔っ払い男だった。


「拳で白黒つけようぜェ。それがオレら冒険者の流儀だろうがよォ。ひっく……」


 よく言った、殺れ殺れー、と冒険者たちがあおり立てる。

 シャックスは受付台から軽やかに下りると、ゴキリと指を鳴らした。


「面白え。表に出やがれ。本物の拳ってやつを教えてやる」


 どいつもこいつも物好きなことだ。

 喧嘩なんかするより窓辺でうたた寝しているほうがずっと生産的だろうに。

 とはいえ、他人の喧嘩を眺める以上の娯楽もそうそうない。

 ついていってみることにした。


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