11話
「ギルド本部を案内してあげるわ。ついてきなさい、サグ」
フィオの強引な誘いもあり、お隣の大豪邸を見学することにした。
まず、門構えからして立派だ。
こちら貴族の家でございますって感じ。
そして、煌びやかな門扉を開けると、そこにはだだっ広い庭がある。
隣の芝生は青いというが、実際、青々としていた。
乗馬を楽しめるくらいの広さで、当たり前のように噴水がついている。
花壇には北国とは思えないほど多様な花が咲き誇っていた。
正門から入って玄関にたどり着くまでの道のりで俺はもうお腹いっぱいだった。
「ごちそうさま。帰るよ、それじゃ」
「まだ中を見てないでしょうが」
「遠慮すんなよ。お前の城でもあるんだぜ?」
フィオとシャックスにサイドを固められ、半ば連行される感じで白亜の豪邸に入る。
中にはメイドの列でもできているのかと思ったが、さすがにそんなことはなかった。
吹き抜けになった玄関ホールで、十数名の冒険者たちが家具や装備品の搬入作業を行っていた。
『時は金なり』のギルメンたちだ。
彼らは俺を見るとパーっと顔を輝かせた。
「サグマさん! お久しぶりですっ!」
「会いたかったぜ、サグマよォ!」
「グマ先輩! 元気そうでなによりっすー!」
熱烈な出迎えで面食らってしまった。
同時に、申し訳ない気持ちになる。
「悪いな。俺のせいでこんな田舎まで付き合わせてしまって」
「いいってことよぉ。オレっちたちはお前の腕にすっかり惚れ込んじまってんのさぁ。こんなとこまで追いかけてきちまうくらいになぁ」
酒臭い禿げ茶瓶――ジョルコジがヤクの売人みたいな顔で笑った。
俺はギルメンたちを見回した。
見慣れているはずの顔なのに、なんだか新鮮な感じがする。
いつも工房の作業台にかじりついていたから、仲間の顔すら見えていなかったらしい。
「こうして見ると、みんな意外と普通の冒険者って感じだな。俺はもっとこう、獰猛な狼みたいな連中だと思っていた」
「カーッ、言ってくれるぜ。向かうところ敵なしのトップ冒険者たちを普通とはな。さっすがサグマだぜ」
俺の背中をバシバシ叩いてからシャックスは声を張り上げた。
「おいおい野郎ども、ギルマス様のご帰還だぜ?」
「あんたたち、言うことがあるんじゃないの?」
「「おかえり、サグマ――――!!」」
「グマ先輩、ギルマス就任おめでとっすゥー!」
「やっぱお前さんがいねえとウチらしくねえよなァ! ガッハッハ!」
あらためて、割れんばかりの拍手で迎えられた。
「照れくさいな。でも、勝ち戦から凱旋した王様みたいで気持ちよくもある」
「みんな、そのくらいお前のことを慕っているってことだ」
「そうか。だが、余はリーダーシップなんて字の書き方すら知らないからな。就任演説とか抱負を述べるとかできないぞ?」
「誰も期待なんかしてないわよ。あんたは玉座で愚王ロールプレイングでもしてなさい」
そうする。
案内せよ。
3階建ての最上階にある一室に通される。
そこは、レッドカーペットを敷いた大広間だった。
……ということはなく、落ち着きのある執務室だった。
俺は革張りのデスクチェアにふんぞり返って鷹揚に周囲を睥睨する。
「大臣を呼べ。余はジュースが飲みたいぞよ」
「そんなことで大臣呼びつけてんじゃないわよ」
「妹でもよいぞ」
「妹もダメだっつの。マイヌちゃんが可哀想だろ」
もう少しボケ倒そうかと思ったが、シャックスがよそ行きのジャケットを羽織ったのでグッと我慢する。
「案内しきれなくて悪いが、オレたち、これから冒険者組合に行くんだ。依頼を見繕うためにな。明日にはベルトンヒル初のダンジョンだぜ。血がたぎって今夜は寝付けそうにねえな」
そういえば、活動を本格化するとか言っていたな。
「お前はどうするよ、サグマ。退屈なら依頼選びについてくるか?」
ふむ、と俺は賢王みたいな顔で思案する。
いちおう、ギルマスになったわけだ。
冒険者組合の場所すら把握していないとなると問題だろう。
「それじゃ行くかな。おい、そこなエルフよ。おんぶせよ。余は足を汚しとうない」
「蹴られたいなら尻出しなさいよ。好きなだけ蹴ってやるってのよ」
ということで、冒険者組合に向かうことにした。
徒歩で。




