第36話 仲睦まじくて安心です
空が明るいうちに両親は帰ってきた。
仕事は……大事な娘の誕生日、という事で早めに帰らせてもらったのだろう。
いい歳して手を繋いで帰ってきたので、息子としては面白くない。
「2人共仲良いね〜」
ソファーで隣に腰掛ける姉さんは、まるで眩しいものを見るかのように目を細めている。
「そうだね。でもここまでイチャイチャされるとこっちが恥ずかしくなる」
「それは分かるな。でも、お母さんってお義父さんに出会うまではずっと暗い顔してたから、こんなに楽しそうな姿を見られて嬉しいな……」
姉さんが今まで誕生日を祝って貰えなかったのと何か深い関係がありそうだったが、聞かないことにした。
──というか父さんもお義母さんも、まだ誕生日を祝ってないじゃん!
広いキッチンでベタベタしながら料理をしている2人に必死に目で合図を送るが、完全に2人の世界に入り込んでしまっていて届かない。
「目をパチパチさせてどうしたの。ゴミが入っちゃった?」
「う、うん。でもすぐに取れたから、もう大丈夫だよ!」
「目にゴミが入るのって地味に──というかかなり気になるよね」
「そうだね。気になって夜しか眠れなくなるよ」
「夜寝れていたら十分でしょ」
「たしかにそうかもね」
爆笑──とまではいかないがお互いに肩を揺らしている。
嫌いな人はいないと思うが、俺は人の笑顔が大好物なので姉さんを笑わせることに成功してとても嬉しく思う。
美人の笑顔──
「いい……」
「何がいいの〜?」
しまった!声に出ていた。
正直に、姉さんの笑顔がいい、とでも言ったら犬のフンを見るかのような目を向けられる。それだけはなんとしてでも避けたい。
「夜さえ寝れたらいいか、って思ってね」
「隼人くん休日は昼まで起きてるじゃん!」
「その分俺は朝早くに起きてるからノーカンだ」
「うわぁ〜、もうそれ"夜さえ"じゃなくなってるじゃん!」
「バレたか!」
とりあえず話は逸らせた。
ツッコミを入れる時に姉さんがさりげなくボディータッチをしてきて、驚きのあまり心臓が口から飛び出してしまいそうだった。
何気ないが幸せなひと時を過ごしていると、お義母さんの優しい声に呼ばれた。
「2人共〜、夜ご飯出来たら運ぶの手伝って〜」
「「はーい」」
昨日、お義母さんは「明日は瑠璃の誕生日なの♡」と嬉しそうに言っていたのだが、それが嘘かのように感じてしまう。
夜ご飯はいつもよりも少し豪華なものだった。
ポテトサラダとハンバーグ、しかもおろしポン酢と一緒に。
姉さんの好物じゃないか。
「うわぁ〜っ、ご馳走だ!」
目を大きく見開き体全体に嬉しさを出して、姉さんは喜んでいる。
「早く食べよ!早く食べよ!」
「そうね〜、みんな揃ってるから食べよう」
「「「「いただきます」」」」
こうして、家族全員で揃って食卓を囲むのはいつぶりだろうか。
大体は姉さんと2人、もしくは片親含め3人での食事なので新鮮さがあるが心安らぐ。
ゆっくりと近頃起きた出来事を話し合っていると、気がついた時には皿の上は綺麗さっぱり無くなっていた。
家族で分担して皿を洗い終えると、父さんとお義母さんが口を揃えて言った。
「「瑠璃、誕生日おめでと〜っ!」」
若干グダグダではあったが、想いが籠っているのでいいだろう。横目に姉さんの顔を覗いてみると、鼻をすすりながら顔を抑えていた。
俺はその姿を見て見ぬふりをする事しか出来なかった。
「あらあら泣かないで。せっかくの誕生日じゃない……瑠璃、今まで誕生日を祝ってあげられなくてごめんね」
「う、うぅ……ありがどぉ……」
「もう、せっかくの可愛い顔がぐちゃぐちゃじゃない」
そう言ってお義母さんはティッシュで優しく姉さんの涙を拭き取る。
「実はね、私と雅人くんから誕生日プレゼントを用意したの。喜んでくれると嬉しいわ」
「……えっ!?」
余程予想外の事だったのだろう。
つい泣いていた事を忘れて目をパチパチと瞬かせている。
お義母さんがリビングの外から取ってきたのは、手のひらサイズの小さな《《箱》》。高級感があり、隣にいる俺さえも中身が何なのか気になっている。
見かけによらず、ずっしりとしているようだが中身は一体──
「うふふ、開けてみて」
「そうだよ。早く反応が見たいな」
夫婦共に楽しそうに姉さんの事を眺めている。
一度大きく深呼吸をして涙と一緒に心が落ち着いた姉さんは、好奇心と不思議の混じったような目をして箱を開いた。
「──!」
俺は箱の中身に見覚えがあった。
キラキラと輝きつつも、大人らしいシックな感じの──
「凄く使いやすそうなシャーペンだ……!」
「それはね、仕組みは分からないけれど先端がずっと尖っているし、シャー芯が折れにくいの。その上持ちやすくて指が疲れにくい。今年受験生の瑠璃にピッタリだからこれにしたの──受験が終わってからも使ってくれると嬉しいわ」
「も、もちろん……!づか、使うに決まっ、でるじゃん……」
声が徐々に小さくなり、終いには消えて泣き声に変わった。
そんな姿を見ていられなくなったお義母さんは、彼女を優しく抱きしめた。
父さんは何かを思うような顔を浮かべるが、すぐに優しく微笑み、2人を見守っていた。
「小百合さんはね、ずっと後悔していたんだよ」
「えっと、それってどういう……」
ポツンと呟くように言ってきた言葉に戸惑いを覚え、聞き返すが答えが帰ってくることは無かった。
とにかく目の前の仲睦まじい様子にひとまず安心した。
義理ではあるが姉弟関係なので、何かあれば俺が助ける──とは言いつつも高校1年生に出来ることは大きく限られるだろう。
なので自分にできることを、出来る範囲で助けることにしよう。
今はただ、幸せそうな2人が輝いて見えた。
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