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VTuberの姉さんを救ったら、甘すぎる毎日が始まりました。  作者: くまたに


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第35話 1年に1度きりの特別な日

「ただいま」


 そう言うとすぐにリビングの方から「おかえりー」と、姉さんの優しい声が聞こえた。


 両親は……仕事のようだ。玄関に靴が無い。

 姉さんにプレゼントをする姿を、あの人達に見られるのは恥ずかしいので早いうちに渡そう。

 どこかに出かける様子でもないが私服に着替えており、少し派手な服装がとても似合っている。

 リビングに行くなり、ソファーに座ってスマホを弄る姉さんの隣に腰を下ろした。すると、彼女は顔を上げて不思議そうに聞いてくる。


「どこ行ってたのー?」


「さー。どこだろ」


「秘密かぁ……男子高校生だもんね。やましい事の一つや二つはあるか」


「勘違いしてると思うぞ──マジで違うからな」


 怪しそうに目を細める姉さんから苦戦しつつもなんとか誤解をとくと、俺は隣に置いてあった紙袋からラッピングされた箱を取り出した。


「えっ……」


 姉さんは何か分かっていない様子で戸惑いを隠せずにいる。

 おっと、これは反応が楽しみだ。


「誕生日おめでとう。今日は5月11日、姉さんの誕生日でしょ」


 そう。俺が必死こいて探していたのは姉さんに渡す誕生日プレゼントだったのだ。

 姉さんは『誕生日』という単語にハッと目を見開き、目を逸らしながら声を漏らす。


「あ、あはは……そういえば今日って私の誕生日だったね」


「忘れてたの?」


「う、うん……中学生になってからは誰も誕生日を祝ってくれなかったからね」


 無理やり口の端を上げて姉さんは言う。

 あの娘の事を誰よりも想うお義母さんが誕生日を祝ってくれなかった?しかも3年連続で。

 正直嘘だと思った。しかし姉さんの暗い目を見たら嫌でもそれが本当だと分かった。


「ま、まぁ……プレゼント開けてよ!」


「そ、そうだね……」


 逃げだ。気まづさを避けるために話を変えたのに、却って気まづさが増してしまった。

 それでも言われた通りにプレゼントを開いてくれる姉さんに感謝だな。

 丁寧にラッピングを剥がすと中からは、店員に激推しされて思わず買ったリップが顔を出す。


「うわぁ〜っ!」


 姉さんは心からの声をあげ、リップと俺の顔を交互に見ている。

 喜んでくれているようで良かった。ここには居ない店員のお姉さんに心の中で感謝を伝えた。


「ねえねえ隼人くん!早速使ってみていい?」


「もちろん」


「ありがと〜!」


 チラチラと恥ずかしそうにこちらに視線を向けながら、リップを塗る姿に自然と胸の鼓動が早くなる。

 リップを塗った姉さんの唇はツヤと潤いでキラキラと輝いており、ふっくらとしている。あまりの綺麗さに目が釘付けになってしまったが、何とか視線を逸らして平常心を保つ。


「す、凄い……こんなに良いリップは初めて!値段、高かったでしょ……!?」


「いやっ……そんなに?」


 咄嗟だったので嘘をついてしまった。でも誕生日プレゼントの値段を教えるのはルール違反だよね。


「プレゼントに喜んでいてくれてとっても嬉しいんだけどさ、実はまだ終わって無いんだよ」


 言葉足らずだったため姉さんはきょとん、と首を傾げていた。


「はい。これも誕生日プレゼント、早く開けてみて」


 姉さんは豪華なラッピングを全てめくり終えたかと思えば、中からは値段の高そうな分厚い箱が出てくる。

 これは開けるのにもなかなかの勇気がいるな、と苦笑しつつ彼女の顔を眺める。


「えっ……!?」


 小さく声をあげたかと思えば、姉さんは続けて口を開く。


「このブレスレット、キラキラしていてとっても綺麗……」


 きっと、俺がショーケースに飾られたこのブレスレットを見つけた時も同じ顔をしていたと思う。

 優しくブレスレットをすくい上げ、いろいろな方向から眺めている。

「うわぁー!」や、「きれい……」といった呟きが聞こえてきて、散財してよかったと心から思えた。


「着けてみていい?」


「もちろん――というか着けてください」


「ふふふ。じゃあ少し待っててね」


 姉さんはそう言い残して、リビングをあとにした。

 元から私服だったので、ここで着けても良かったのでは、と思うが気を悪くさせると困るので敢えて言葉を飲み込む。


 姉さんが自室に消えた途端、リビングは静寂に包まれる。

 絶対に似合う、と思って購入したので似合っているのは分かっているが、自分の買ったものを身に着けてもらうと考えると無性に恥ずかしくなる。


 ソファーの上でポツンと座っていると、2階にある姉さんの部屋からバタバタと忙しない物音が聞こえてくる。

 何をしているのか分からないが、忙しそうに部屋の中を走り回る姿が容易に想像出来て、自然と頬が緩む。


 音が小さくなった、と思えば少し間を開けて扉の向こう側から姉さんに話しかけられる。


「バッチリだよ。心の準備は出来てる?入るからね」


「うん」


「じゃじゃーん!」


 セルフ効果音付きで姉さんはリビングに入ってきて、モデルのようなポーズをキメる。

 シンプルなデザインのブレスレットに合わせるためか、服装もシンプルなものに着替えていた。


 そして俺があげたブレスレットを大切そうに撫でている。気に入ってくれてるようだ。


「可愛い……」


 意図せずとも声が漏れてしまった。

 仕方ないだろ。自分があげたものをここまで大切に、嬉しそうに扱ってくれたら誰でも心を打たれるだろ。


「あ、ありがと……」


 姉さんはボッ、と音が着きそうな勢いで顔を赤くしている。

 そんな姿も含めて愛おしく思える。

 気まづい雰囲気になって、一時はどうなるかと思ったが心配不要だったようだ。


 ──今回の誕生日はこれだけでは終わらないからね。俺は口の端を上げて心の中でそう呟くのだった。

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