第27話 告白
「隼人くん居る?」
「は〜い。居るよ」
俺は脱衣所の壁にもたれて、浴室の中から話しかけてくる姉さんに返事をした。
かれこれ約10回目。姉さんは1分に1回ペースで俺がちゃんと居るかを確認している。
ちなみに俺が耳をイヤホンで塞いで待とうとしていたら「呼び掛けに反応しないと隼人くんが変態ってお義父さんに言いつけるよ」と脅されてしまった。それくらい必死なのだろう。
「隼人くん居る?」
「……ああ、居るよ」
今日は肌を焼くほどの暑い日差しに照らされ続けてもうヘトヘトだ。それに加えてマンネリ化したこの会話が俺の睡魔をより一層引き立てる。
早くふかふかのベッドにダイブして、昼過ぎまで寝たい……
「──とく──る?」
何か聞こえたような気が……空耳か。瞼がだんだん重くなり、視界が狭くなる。
俺がベッド……では無く夢の世界にダイブしかけたその時。脱衣所と浴室を繋ぐアクリル板で作られた扉が勢いよくスライドされる。
耳元で大きな音が聞こえ、目が覚めた俺は反射的に顔ごと音のする方へ視線を向けた。
「「うわっ!」」
そこにはお風呂から顔だけをひょこっと出した姉さんが。お互いの顔の距離が近すぎて、思わず驚いてしまった。
姉さんは自分の裸体が見られないように、すぐに扉を閉める。
「も、もうっ。居るならちゃんと返事してよ!」
「ごめんね。少し眠くてうとうとしてた」
「そ、そうなんだ……こちらこそごめんね。すぐに体洗うからもう少し待っててくれない?」
「もちろん!なんならお風呂に浸かっても大丈夫だから。さっきので目、覚めたから!」
「あ、ありがと……!」
それからすぐにボディタオルで体を洗う音が聞こえた。脱衣所にはその音だけが永遠と聞こえ、猛烈な気まづさを覚える。
急いでいるからだろうか。先程まで居るか聞いていたのが無くなっている事に今更気づく。
姉さんがシャワーで体を流している時も、先程の体を洗う音が永遠と脳内で再生されている。妄想でしかないが、彼女が体を洗っている姿と一緒に。
「隼人くん──」
「はい、居ますッ!」
「えっ……うん?」
薄いアクリル板を挟んで向こう側から混乱したような声が聞こえた。姉さんの事だ、きっと首を傾げているに違いない。
「──隼人くん!」
「は、はい!」
「良かったら少し話さない?」
「いいよ」
びっくりした。俺の考えている事を読まれたのかと思った……
ここのところ2日連続で姉さんに見せてはいけない姿を見せてきた。隼人くんは変態さんだから絶対変な事を妄想しているに違いない、と思われているのかと思ってヒヤヒヤした。
「ねぇ……私って"普通"?」
「……」
いきなりの重い話に少し戸惑い、黙ってしまう。言われてみれば"普通"って何だろう……
ふとお風呂の水面に水滴の落ちる音が聞こえた。
「ごめんね。聞き方がおかしかったよね──私って今まで通りで居られているかな?」
「もう少し詳しく聞いていいかな」
「虐められてからずっと怖い。詳しくは言葉に出来ないけれど、あの時感じた鋭い視線を思い出すと勝手に涙が出てくるの」
「えっ、でも……」
そんな姿俺は見たことないぞ。昨日服買いに行った時も先程停電する前に姉さんの部屋を訪ねた時もずっと笑顔だったじゃないか。
「隼人くんは実感無いよね。私でも驚いているのだけど、隼人くんといる時は自然と『楽しい』が勝つの」
「俺はずっと傍にいるよ。姉さんが苦しい時は慰める。姉さんが嬉しい時は俺も一緒に喜ぶよ。姉さんは俺にとって大切な家族だからね」
大切な家族に寄り添うのは当たり前の事だ。いつまでも俺が支える──そう心に誓った。
姉さんの咽び泣く声が聞こえた。浴室の構造上よく響いている。
俺は黙ったままそっと両手で耳を塞いだ。
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