第24話 思わずきゅんきゅんしちゃうデ…
「「モモっ!」」
「パパ!ママ!」
係員の人が迅速に対応してくれたおかげか、モモちゃんの両親は10分もせずに駆けつけた。
2人共安堵の息をついてその場に脱力する。それほど娘のことを大切に思っているのだろう。
良かった。優しい両親で……俺の実の母親とは大違いだな。
「隼人……大丈夫?」
視界に大きく夏鈴が写る。その顔は凄く心配そう。
俺が母親から受けてきた事を知るのは、父さんと夏鈴──あとは祖父母くらいだろうか。
父さんには強く「言うな」と言ってあるので、姉さんもお義母さんも知らないはずだ。それほど知られたくもない辛い思い出だ。
「何が?」
夏鈴に気を使われるのも悪いので、きょとんと知らん振りをする。はたして上手く隠せているだろうか。
「ううん。何でもない!気にしないで!」
「りょーかいー」
却って気を使わせたか。しかしここでその話を持ち出すのはダメだ。せっかくのデート(?)が台無しになる。
これでよかったんだ、と心の中で呟き、1人で頷く。
タイミングが良いのか悪いのか、安心した表情を浮かべたモモちゃんが俺達目掛けて駆けてくる。
「お兄ちゃん!お姉ちゃん!パパとママを見つけてくれてありがと!」
「どういたしまして。モモちゃんの親が見つかって良かったよ~」
「そうね。私も嬉しいわ……」
夏鈴がどことなく元気が無いように見えるのは気のせいだろうか。
モモちゃんの両親は目に涙を浮かべてお礼を言ってくれた。自分は目の前にいるこの3人を救ったんだ、と思うと胸の奥がじーんと熱くなる。
「お姉ちゃん、お兄ちゃんのこと好き?」
「「ふぇ?」」
「こら、モモ!変なこと言わないの!」
「どうしてそう思ったの?」
かぁー、と赤くなった顔を抑える夏鈴に変わって俺が聞く。
「だってお姉ちゃん、ずっとお兄ちゃんのこと見てたから!」
「えっ!そうなの?」
「ち、違うっ!」
「だってさ。お姉ちゃんが俺のことを見ていたのは気のせいだと思うよ~?」
「う~ん……わかった!」
聞き分けの良い子で助かった。夏鈴が俺のことをずっと見ていたのは気になるが、きっとモモちゃんの勘違いだろう。
それからモモちゃんの気が済むまで話し、最後は笑顔で別れた。
太陽のように眩しい笑顔。将来はみんなを照らすアイドルとかになってたりして……
モモちゃん家族が居なくなった途端、俺達は長い長い静寂に包まれる。
俺達の間に流れる重い空気をリセットすべく、お互いに忘れている話を掘り返す。
「夏鈴さん、だーいじな事をお忘れでは?」
「だーいじな事?」
話を振ると、少しぎこちなさを帯びつつも反応してくれた。
右手を顎に当て、深く考えるような仕草をするが、間を開けずに「わかんない」と考えるのを放棄する。
「俺達は暑さで疲れていましたね?」
「うん」
「モモちゃんと出会う前に何か楽しみにしていたことってありませんでしたっけ?」
「……カフェ。そうだカフェだ!」
「正解。実はこの建物のすぐ隣がカフェなんですよー」
ちなみに今俺達が居るのは『案内所』だ。モモちゃんをここまで連れて来た時に、ふと視界に入ったのだ。
甘いスイーツやコーヒー豆の香ばしい匂いが漂っていたが、夏鈴はモモちゃんの事でいっぱいいっぱいで気づかなかったのだろう。
「さっき見た時は混んでなかったから、今すぐ行けばスムーズに入れるかも」
「行くよ!売り切れてたら許さないからね」
どうして俺がとばっちりを受けるのかは分からないが、夏鈴の様子はいつも通りに戻っていた。
姉さんもそうだが、甘い物に吊られる姿はとても愛くるしく思う。
「行こうか」
「レッツゴーカフェ!」
建物はすぐ隣にあるのだがまあいいか。見ていて恥ずかしいくらいに元気なところも含めて夏鈴は大事な親友なのだから。
それに元気なのはいつもの事だ。今更気にしてももう遅いな。
俺はライオンの見た目のプリンを。夏鈴は猿をイメージされたアイスを選び、頼んだ。
案内されたテーブルで待つこと数分。動物のカチューシャを着けた店員によって俺達の前に運ばれる。
「うわぁ〜っ!可愛すぎるよ!」
夏鈴は満足するまで眺めると、俺の頼んだプリンと一緒にスマホのカメラに収めていた。
そういう姿を見ていると女子だったんだな、と何故か感心してしまう。口に出したら怒られるのでここだけの話なのだが。
建物は空調設備がしっかりとしており、涼しく快適なものだった──いつまでもここで休んでいたいと思うくらいには。
そのおかげか夏鈴のアイスは溶けずに食べられることを待っていた。
ワイワイと今まで見た動物の話や、これからどこを見に行くかを話していたらあっという間に目の前のスイーツは無くなっていた。
夏鈴は可愛い、可愛いと思わず声を漏らしていた割には容赦なく猿の顔をガツガツ食べていた。
勢い余って、アイスの冷たさに頭を痛そうにしていたが自業自得だ。
楽しい時間って早く過ぎるよな。そう感じた時には閉園時間となっていた。
空はまだ明るいが、家に着く頃には暗くなっているだろう。
「隼人」
電車の中で、隣に座る夏鈴から名前を呼ばれた。
「なんだ」
「今日は付き合ってくれてありがとね。凄く楽しかったよ……」
囁くように小さな声で言われたが、しっかりと聞き分ける事が出来た。
「それは良かった。俺も楽しかった……よ?」
少し前まで起きていたのに。
話しながら隣に視線を向けると、そこには俺の肩に身を預けてすやすやと眠る夏鈴の姿が。
その表情はとても満足したようだ。初めに言われた『思わずきゅんきゅんしちゃうデート』は成功でいいよね?
流れる窓の外の景色を眺めながら、心の中でそう呟いた。
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