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VTuberの姉さんを救ったら、甘すぎる毎日が始まりました。  作者: くまたに


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第23話 迷子の幼女

「ふんっ!もう隼人のことなんて知らないもんねーだ」


 少し揶揄い過ぎたか。夏鈴は珍しくむぅ、と唇を尖らしている。怒っているのだろうがむしろ可愛らしく見えてしまう。

 にやにやとそんな姿を眺めていたらぽこぽこと背中を叩かれたので、「ごめんて」と軽く謝っておいた。

 数分後にはシマウマに目を奪われていて、怒っていた事を忘れているようだった。


 ◆


「少し疲れた。日の当たらない涼しいところに行きたい……」


「同感だ」


 燦々と照る太陽に体力を奪われお互いにげっそりとしていた。俺は昼食を食べる時間が無かったので腹も減っている。

 たしか屋内にカフェがあったような──うん。入場ゲートで貰った地図に大きく書かれている。


「このカフェで休まないか?」


 手に持ったままの地図の中を指さて言ってみた。

 夏鈴は「ん〜?」と唸るような声を出しながら俺が指すところを覗くと、ぱぁっと目を輝かせて「行きたい!」と言ってくれた。

 善は急げだ。この動物園で人気なスイーツが売り切れてしまう前に食べに行こう。


 地図と至る所にある標識を頼りにカフェに向かう道中。俺達は今日1番の災難に遭遇した──


「──パパ!ママ!どこぉぉぉーっ!」


「きゃっ!」


 動物達を横目にぽつぽつと会話を続けていると、夏鈴は前の方から走ってきた幼女と正面からぶつかった。

 幼女の方はグッと足に力を入れてバランスをとった一方、夏鈴は背後に思いっきり揺れた。


「──危ない!」


 慌てて手を伸ばせば幸いにも夏鈴が倒れずに済んだ。しかし咄嗟だったためか──

 俺は夏鈴を抱きかかえるような体勢になってしまった。小学生の頃はお互いに異性として意識してなかったからか毎日ベタベタしていた。

 だが、今俺の腕の中にいる彼女の体は凄く小さく思える。力を入れたら潰れてしまいそうだ。

 夏鈴はやっぱり女の子だったんだな、と改めて痛感してしまった。


「あぅぅ……」


 弱々しい声に俺は正気に戻る。夏鈴は目をパチパチとさせて意識が朦朧(もうろう)としていた。


「大丈夫か!?」


 顔が真っ赤だぞ?熱でもあるんじゃないか──


「だ、だいじょぉぶ……それよりも、早く離し、て……」


 違った。ただただ恥ずかしいだけだ。

 すぐさま夏鈴を支えていた手を離すと、彼女は少し落ち着いたようで顔色がみるみるうちにマシになっていった。


「ごめんなさい……」


 俺達の行動を一部始終見ていた幼女は、目の端に涙を浮かべながら謝る。

 怒られる、とでも思っているのだろうか。小さい体は小刻みに震えていた。


「安心して、お兄ちゃん達は大丈夫だから!」


 出来る限りの明るい声を作ってみた。低くて小さい声で話しかけてもビビられるだけだからな。

 幼女は俺の顔を恐る恐る見上げてきたので、頑張って口の端を上げる。


「パパとママいない……」


 迷子の子か。それなら係員のたくさんいる場所へ連れて行ってあげないとだな。でないとこの幼女は誘拐されてしまうかもしれない。


「夏鈴……」


「大丈夫。この子を助けよう!」


「ありがと」


 優しい親友をもって良かった、と心から思えた。

 困っている人は見捨てる訳にはいかない。それが小さい子ならば尚更だ。


「お兄ちゃんとお姉ちゃんが君の親を探してあげるよ。ところで君の名前を教えてくれないか?」


「モモ!」


「モモちゃんって言うのか。可愛い名前だね」


 頭をぽん、と撫でながら褒めてあげると、モモちゃんは「わーい!」と満面の笑みで喜んでいた。

 やばい……ロリコンに目覚めるかと思った。


「隼人……今キモイこと考えてない?」


 どうして分かるんだ。なんてことは言えず──


「なわけねぇだろ。とにかくモモちゃんを係員がたくさんいる所に連れて行こう。もしかしたら放送で親を探してくれるかもしれないからな」


「むぅ。話逸らした……でもたしかに今はふざけてる場合じゃないよね」


 ふざけていたのかよ!思わず突っ込みたくなったが、それで話が元に戻ったらこちらとしては都合が悪い。何としてでも思い出させない。


「お兄ちゃんとお姉ちゃん、結婚してる?」


「ブッ!し、してないよ!どうしてそう思っちゃったかな」


「2人とも仲良し!パパとママみたい!」


「(それじゃあモモちゃんは私と隼人の娘みたいじゃない!)」


「なんか言ったか?」


「いいえ、何も」


 夏鈴が小さく呟くように言ったが、誰も詳しく理解することは出来ないのだった。

 モモちゃんの両親は早く見つかってほしいが、子連れの親子のような他愛のない会話を続けられたらもっといいなと心から思ったのだった。

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