第22話 動物園!またの名はZOO。
今更ながら夏鈴の好きな物や事を知らないことに気づく。
アイツとは今までに服屋からカフェ、それからゲーセンと様々な場所に行ってきた。どこも同じくらい行ってきたから知らないんだな。
昼から予約無しで行けて尚且つ楽しめる所。そんな都合のいい所なんてある訳な──いや、あるわ。
動物園!またの名はZOO。
予約無しで行けて、楽しい!そして『思わずきゅんきゅんしちゃうデート』としては完璧なのでは?
そうと決まればスマホで距離やレビューを調べ、スマホのマッピングアプリを駆使して電車に乗り込んだ。
夏鈴にはどこに行くかはまだ秘密。隣で「隼人の男としての格が今決まる!」とノリノリで言っている。
まぁ見てろよ?俺の頭の中では完全無欠のプランが完成した。夏鈴が余裕そうな表情で居られるのも時間の問題だ。帰る頃には茹でダコよりも真っ赤になってるに違いない。
中学校に入学し、夏鈴がより一層女の子らしく見えてきてから(あくまで外見だけだが)グイグイと関われなくなっていた。
それから3年が経ち、今に至る。
俺の事を舐め腐ってるアイツが、本気で焦り散らかす姿。想像がつかないが楽しみだぜ。
◆
電車を乗り継ぎ、都心から少し離れたところにその動物園は位置する。
ネットのレビューによると餌やり体験が出来たり、特別なスイーツを食べたり出来るらしい。
そして俺がここを選んだ1番の決めては、空いているというところだ。動物園の周りには駅以外ほとんど何も無いので客が来にくいという。
都合が良すぎて嫌らしい笑みが口から溢れてしまいそうだ。
「ほほ~ぅ。隼人にしてはなかなかセンスがいいね……。それに人があまり多くない。ここは楽園か?」
実は夏鈴は人混みが苦手なのだ。以前2人で夏祭りに行った際に、彼女が「人混みに酔った。吐きそう」と言い出した時は世界の終わり並みに焦ったのを今でも覚えている。
そんな思い出すのも辛い過去も踏まえて選んだのだ。これは点数が高いだろ。
「ここを選んだのはマジでイカしてると思うけれど、私が褒めた後のドヤ顔がムカつくから0点」
「はっ!?」
「あれぇ。自分でドヤ顔しちゃってる事に気づいてなかった?恥ずかしいね~」
む、ムカつく……!「隼人がエスコートしても、いつも通り弄りやすいじゃん」って油断してるのがバレバレなんだよ。次だ!
◆
「うわぁ~っ!お猿さん可愛い~っ!」
猿が食事しているところを生で見たいと、たまたま通話していた際に言っていたので連れてきてみた。
案の定、飼育員が投げたバナナを美味そうに貪る猿に、夏鈴は目を釘付けにしていた。
猿の魅力が分からないが、それよりも心の底から楽しんでいる夏鈴に俺は目を奪われた。
「見て見て!あのお猿さん、私の事ガン見してるよ!私って可愛いから見惚れちゃったかな?」
なんという自信。そこが夏鈴のいいな、と思うところなのだが。
ここできゅんきゅんセリフを一発かましておこうか。
「言うの遅くなっちゃったけれどさ今日の服装凄く似合っているね」
普段から可愛らしい笑みを振りまき溌剌としているので、ショートパンツにTシャツの上に羽織ったフードの付いた可愛らしいジャケットが彼女の良さを引き立てている。
ショートパンツの下からはスラリとした美脚が伸びている。つるつる、スベスベそうで思わず頬擦りしたくなる。
俺のキモすぎる思想は放っておいて本当に夏鈴は可愛いな、と思う。それは幼馴染としての贔屓の目なんてものでは無くて、ずっと前から思っていたことだ。
「い、いきなりだね。ありがと……」
目を逸らしながら言う夏鈴の頬が、少し朱色に染まった。
効果ありだな。ならば──
「夏鈴って肌も綺麗だよな。ほら、頬っぺたはぷにぷにでスベスベじゃん」
大切な物を壊さないように優しく視界の下に写る綺麗に輝いて見える頬に触れて言った。夏鈴は昔から俺にスキンシップをとる事が多々あるので、それのお返しだ。
少し恋愛漫画の王子様になったような気がして恥ずかしいが今は我慢だ。
「あ、あわっ、あわわ……」
普段の夏鈴からは想像出来ないほど驚いて、恥ずかしがっている。
こんな顔も出来るんだな……
知らない一面を知れたようで嬉しくなる。それと同時に胸がどくん、と大きく跳ねた。
慌てて夏鈴の頬から手を離すが遅かった。目の前の彼女の顔が赤いように俺も赤くなってる気がする。耳まで熱いのですぐに分かった。
夏鈴の柔らかい頬からは嫌でも彼女が女子だということを感じさせられた。自分から仕掛けておいてだけどなんだよこのザマは。
夏鈴のお望み通りきゅんきゅんさせようとしただけだ。決して他意は無い。
だけど少しの間お互いの熱を冷やそう。
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