第16話
「はぁ……」
俺は数歩先を行く姉さんの背中を眺め、小さくため息を着く。
ずっと機嫌が良くならないまま。色々手を打ってみたが尽く失敗に終わった。
次で最後だ。これを無視されたら、俺にはどうしようも出来ない。
しかし姉さんと過ごした3年間の経験上、これが失敗した事は無い。
よし、いける。俺は心の中で何度もシュミレーションした。その上でこの自信。見てろよ姉さん、これが俺の本気だ──
「もう少し歩いたところに、去年『ジャパンシュークリームコンテスト』の大賞を受賞したシュークリームの店があるらしいけど、行く?」
「!……」
なに!?いつもならすぐさま飛びつくのに……でも少し反応があった。あともう一押しと言ったところか。
「サクサクのシュー生地に、全国各地の高級食材を使った超濃厚カスタードクリーム。これを食べたら市販のシュークリームを食べられなくなると言われているらしい……死ぬまでに一度は食べたいな……」
「……行く」
「え?」
「行く」
よし!俺の作戦に狂いは無かった。
姉さんはその店を探してキョロキョロと周りを見渡している。その姿はまるで宝を探す幼子のよう。その愛おしい姿に胸が締め付けられるような感覚になる。
「あれだ」
ひとめ見て分かった。この店が超人気シュークリーム店だということを。店の前には長蛇の列が出来ていた。
これ以上列が長くなる前に俺達はその最後尾に並んだ。
店の回転率が良かったからか、あっという間に店の中に入れた。
「いらっしゃいませー。ご注文はいかがなさいますか?」
「んー、俺はこの『特製!激甘☆カスタードシュー』で」
レジカウンターに設置されたメニュー表を指差して言うと、姉さんは「私もそれで」と小さく言い俺達はテーブル席に案内された。
「……」
「……」
気まずい……相変わらず姉さんはムスッとした顔している。早くシュークリーム来てくれないかな。そう思っていたら──
「お待たせしました。ご注文になられた『特製!激甘☆カスタードシュー』が2つです」
「「ありがとうございます」」
「ごゆっくりー」
シュークリームを持ってきてくれた若い女性店員は、ニコッと微笑み去っていった。
店の雰囲気も良く、店員は美男美女ばかり。これも人気な理由なのだろうか。
包み紙の中でシュークリームがキラキラと輝いている。その上にかけられた粉砂糖が、宝石の欠片のように見える。
「いただきます」
どんな味なのだろうか……俺は恐る恐る1口頬張った。
「──ッ!」
ほんのりと塩の味がする。よって甘さは抑えられ、食材本来の味が際立っている。
なんだこれは。美味すぎる……何個でも食べられるな。
姉さんは俺の食べる様子を観察しているようで、険しい顔でこちらを見ている。
「ちょーうめぇ」
心からそう思う。その言葉を聞いて姉さんはゆっくりとシュークリームを口に運ぶ。そして咀嚼する。
「──!!?」
姉さんの目がはっと開かれる。
頼む、機嫌を直してくれ!
今まで普通に流れていた時間が、ゆっくりに感じる。
「…………………………めっちゃ美味しいじゃん!たしかにこれを食べたら市販のシュークリームを食べられなくなっちゃう!これを食べた事無い人は人生損しているね……この店の事を教えてくれてありがとね、隼人くん!」
張り詰めていた気持ちの糸がスッと切れた。
良かったー……!ようやくいつもの姉さんに戻った。
今は凄く幸せそうな顔してシュークリームを頬張っている。小さな鼻歌を交えて。
俺は安堵の息を着いて、残りのシュークリームを口に放り込んだ。
やりきった感が甘さを強調させる。
「ごちそうさまでした」
姉さんもすぐに食べ終えたようで、一緒にゴミ箱にゴミを捨てに行った。
店を出ると、同じ歩調で足を進める。
その事実に自然と胸の奥がじーんと熱くなる。
「隼人くん……さっきはごめんね……」
姉さんは申し訳なさそうに言った。
そして俺が口を開くよりも先に、続けて言った。
「でもあれは隼人くんが悪いんだからね」
「え!?俺?」
「うんうん、俺だよ」
「えっと……俺何かしたっけ?」
「私が恥ずかしがってるのに、褒め殺そうとしてきたじゃん」
自覚が全く無いんだが……
「えっと……俺の褒め方が下手だったからじゃ無かったのか?」
「違うよ。隼人くんの褒め方が上手くて恥ずかしなったの!嬉しさのあまり試着した服を全部買っちゃったじゃん……」
マジで全部俺のせいじゃねぇかよ。
俺は叫びたい気持ちをぐっと堪えるのだった。
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