第11話
放課後。校門の脇で姉さんと待ち合わせをしていた。
数分前に姉さんから、『教室を出た』とメッセージがあったので、もう少しで来るだろう。
4月も残すところ1日となり、長かった夜は短くなった。そのせいか、空を見上げるとまだ昼のように明るい。
今週末にゴールデンウィークが待っている。部活動に所属していない俺は、久しぶりにぐうたらできる。
今年は何して過ごそうかな──なんて考えてはいるが結局、『菊月アオイ』の過去のアーカイブ配信を見ていたらゴールデンウィークなんてすぐに終わってしまうのだろう。
まあ生活の中に彼女が居るだけで、俺にとってはこの上ない喜びなのだが。
などと未来の事を考えていると、遠くから姉さんの声がした。
「おーい、遅くなってごめんねー!」
視線を空から落とすと、彼女は黒い鞄を肩にかけ、ぱあっと嬉しそうに笑いながら、こちらに向かって走って来ていた。
可愛いな、おい。などと浮ついた事を思いながら、軽く手を上げて反応しておいた。
「帰るか」
姉さんの息が整うのを待ってから、俺達は少し早めの帰路に着いた。
なんだろ。今までよりも肩身が軽く感じる。それほど姉さんの事で思い詰めていたという事だろう。
足取りは軽く、今なら空でも飛べてしまいそうな気がする。
俺達の間にある静寂を打ち破るかのように、姉さんがポツンと囁くように言った。
「ありがとね」
たったの5文字。それなのにじーんと胸の奥が熱くなる。
虐められ、自殺未遂を起こした姉さん。そんな彼女が、俺の隣で優しく微笑んでいる。
そんな姿を見せられると、頑張って良かったと心から思える。
「もちろん。また何かあったら、1人で抱え込まずに相談してくれ」
「分かってる。今回1人で抱え込んじゃったのは、今でも反省してる」
「ならいいんだ。姉さんは(家族として)大切な人だから」
「(大切な人だなんて……どうしてそんなに恥ずかしい事を真顔で言えるの?照れてる私がおかしいみたいじゃない)」
「何か言った?」
「何も言ってないよ」
ふと横目に見えた姉さんの耳が、真っ赤に染まっているように見えたのは、俺の気のせいだろうか。
その後、ポツポツと会話を挟んでいるとあっという間に家に着いた。
「今日は私がご飯を作るよ」
家族のグループチャットを見ながら、姉さんが言った。今日は両親共に仕事で、夜は俺達2人だけなのだ。
彼女は手を洗い、冷蔵庫を確認すると、慣れた手つきで料理に取り掛かった。
その様子に感心しつつ、自分も何かしなければと思い、俺は空いた皿や菜箸などを次々に洗った。
料理が出来たタイミングで、いつもより少し早いが晩御飯にした。
献立は白ご飯に味噌汁。そしてのどぐろの塩焼き。
姉さんがキッチンでパタパタと動き回っている隣で、ずっと楽しみにしていたのだ。
「「いただきます」」
手を合わせて言うと、俺は早速のどぐろを箸でつつく。
外はカリカリ、中はホロホロ。塩加減は完璧で、ご飯に乗せて食べると美味しさのあまり、頬っ辺が落ちそうだ。
味噌汁は味が薄くなく、濃くない。ちょうどいい塩梅だった。
姉さんの料理はお義母さんにも負けないくらい美味しいので、俺は大好きだ。
なんて事を考えていれば、気づいた時には皿の上にあったはずの料理が無くなっていた。
◆
『今日は以前出来なかった、ホラーゲーム配信していくよ〜!』
やったね。俺は俺以外誰もいない部屋で小さくガッツポーズをする。
2、3週間ぶりの配信は俺の好きなジャンルの配信。いつもは画面を恐る恐る見て、『アオイ』と同じタイミングで驚いている。
それなのに今日は、『アオイ』の叫び声がまるで、ASMRのように感じ、俺が微睡みの世界に落ちるまでに、あまり時間はかからなかった。
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