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104.邪神 VS 魔神

 

 魔本『新約レーヴ魔族召喚アポカリプス』から発生した黒い渦のようなものが、まるで意志を持った生き物のように俺とサトシの体を覆い尽くしてゆく。



『うがぁぁぁあ!!』


 渦に身を包まれながら絶叫を上げるサトシ。同様に俺の体をも黒い渦が吸い込もうとする。だけど俺は御構い無しにサトシに近接して、右手に霊気を集中させた。



「発動! 超・龍・形・態ウルトラドレイクモード!」


 俺の右手がビキビキと音を立てながら変形していき、龍のような鋭い爪が備わっていく。これまでとは比較にならない…まさに龍の腕そのものと化した右腕に、力を込めて振りかぶる。


「サトシ!返してもらうぞっ!!」

『なっ!?』


 渦に飲まれながらも接近してくる俺に、驚愕の表情を浮かべるサトシ。その胸元に、俺は狙いを定めた。

 標的ターゲットは…サトシの心臓部分にほんわかと輝いて見える”ティーナの魂”。



「だらぁぁあっ!!…【龍爪突ドレイクファング】!!」


 実体のないはずのサトシの胸に、霊気を込めて完全に龍化した俺の右腕が吸い込まれていった。本来であれば触れることのできないはずのティーナの魂を掴み取ると、そのまま一気に引き抜く。



「ティーナ!お前は…生きろっ!!」


 俺は気合を込めてそう叫ぶと、スターリィとともに時が停止したまま状態のティーナに向かって、手にした魂を放り投げた。

 淡い光を発しながら、魂はゆっくりと…黒い衣装を纏ったティーナの身体へと吸い込まれていくのを確認する。



 最後に、黒い渦を撒き散らしている『新約レーヴ魔族召喚アポカリプス』に霊気を飛ばす。すると、俺の霊気が魔本の周りに固く張り巡らされていた魔法障壁を打ち破り、これまでどんな攻撃でも傷つくことのなかった魔本『新約レーヴ魔族召喚アポカリプス』にとうとう火がついた。


 よかった…これでもう思い残すことはない。俺はほっと胸を撫で下ろした。



『…アキラァァ!きさまなにをしやがるっ!?』

「サトシ、これで準備は全部終わった。一緒に…征こう!!」


 俺はサトシに体当たりして組みつくと、そのまま二人一緒になって…『新約レーヴ魔族召喚アポカリプス』が生み出した黒い渦の中へと飛び込んでいった。









 ---









 飛び込んだ先は、まるで次元が歪んでいるかのような…うねりを伴いながら常に変貌を遂げる異質な空間だった。耳障りな音が常に俺の鼓膜を刺激してくる。さらには脳を破壊しようとするかのような不愉快な波動が絶え間なく襲いかかり、俺は思わず歯をくいしばった。


 だが、苦しんでいるのは俺だけではなかった。一緒に異空間に飛ばされてきたサトシも、苦痛に顔を歪めている。



『ぐぅううっ!?ま、まさかここはぁ…?』

「そうさ、サトシ。ここは…”異空間”。俺とお前がこの世界に運ばれるときに通ってきた空間だよ」

『う、ウソだろうっ?アキラお前、この場所がどんな場所かわかってんのか!?この空間に来てただで済むと思ってるのかよ!』

「あぁ、分かってるよ。ここが俺とお前の帰るべき場所だ」

『お前正気かよっ!?…がぁぁっ!』


 俺に詰め寄りながらも、押し寄せる波のように何度も絶え間無く襲いかかってくる苦痛に頭を抑えるサトシ。


『…あのなぁアキラ、この空間は”魂を殺す”場所なんだよ!こんなところにいたら、俺たちでさえ永くは持たんぞ!?』

「んなことは分かってるよ、サトシ。この空間はなぁ…俺たちの決戦の場なんだ」

『決戦の場…だと?』

「そうさ。ここなら誰の邪魔も入らない…俺とお前だけの水入らずの決戦場だ。ここで思う存分戦おうぜ。

 ラスボス戦にはピッタリの場所だろう?俺が…最期まで付き合ってやるよ」

『アキラァァァア!キサマァァァア!!』



 びきっ!サトシの絶叫に合わせるかのように、美しい美少女の姿をしていたサトシの身体が、鈍い音とともに急激に変化を遂げてゆく。

 内側から黒い肉がぶりゅっと…嫌な音を立てながら盛り上がっていき、さらには肉の塊の中心部分から新たな顔らしきものが生まれてくる。よく見てみると、あの顔は…もしかしてアンクロフィクサ?


 同様に、一つ一つ盛り上がっていく肉の塊には、サトシに喰われた魂の持ち主たちの顔が浮かんでいく。

 アンクロフィクサ、ミクローシア、シャリアール。それにあれは…俺と同じ顔、スカニヤーだな。ほかにもグィネヴィアや、ゾルバルの顔まで見える。


 やがてサトシは…背中に14枚の翼を携えて、自身を含め7人の顔を持った、黒い肉の塊のような禍々しい”邪神”へと変貌を遂げたのだった。




『アキラ…キサマやってくれたな!まさかこんな手を使ってくるとはな。

 だがなぁ、全てが無駄なんだよ!俺は…アンクロフィクサを喰っている。あいつは空間を行き来するゲートを司る能力を持ってるんだ。時間はかかるかもしれないが、俺はまたあの世界に戻ることはできるんだぞ?』

「…心配無用だ、サトシ。それは…出来ない」

『…なんでだ?』

「なぜなら…ここで俺と心中するからだよ」


 そう宣言すると、俺はそれまで自身を制御していた…魔力の制御弁リミッターを一気に解放したんだ。





 異空間に来るまでの間、あちらの世界で俺は本気を出すのを躊躇っていた。なぜなら、本気を出した瞬間に周りのみんなを消し去ってしまうかもしれないと危惧したからだ。

 それほどの霊気を…俺は体内に蓄えていた。それを一気に、この瞬間に開放したんだ。



 背中から吹き出すジェットのような白い翼が七色の虹の輪を放ち、俺の全身を包み込む白いドレスが再び光を放ち出す。同時に白色に輝く霊気がまるでオーラのように俺の身体から解き放たれた。

 こいつが俺の…本当の本気だ!



『なんだその力は!キサマ…力を隠してやがったな!ふざけやがって…』

「ふざけてなんてないさ。どうした?決着を付けるんだろう?」

『…分かったよ、アキラ。俺がお前をここで殺してやる。異空間の中で無残にお前一人で散るがいい』

「結構だ!かかってこい、サトシ!」



 こうしてついに…俺とサトシの最期の戦いが幕を開けたのだった。







 俺たちの周りはぐにゃりと歪んだ空間。決戦の舞台にはピッタリのクソみたいに居心地の悪いこの場所が、俺たちの最後の戦場となった。


 全身をボコボコの肉片に覆われ、6つの顔を浮き上がらせたサトシが、右手を前に掲げた。するとそこに…小さな7つのゲートが出現する。

 さらに左手を掲げると、大きな剣がその手に具現化された。



『…こいつはアンクロフィクサの能力である【七色の世界の扉ザ・ゲート・オブ・ワンダー】と、グィネヴィアの能力である【天地鳴動剣アシュラブレード】だ。こいつを食らって…無傷でいられるかな?』


 サトシが言い終わると同時に、7つの扉が開いてそこから七色の光線が放たれてきた。赤は炎、青は水、白は氷、黄色は稲妻、紫は瘴気、オレンジは溶岩、そして緑は…禍々しい木の力を宿して襲いかかってくる。


 俺は霊気を全開にしてサトシの放つ7つの色の光を受け止めた。そのスキにやつはもう一方の手に持った大剣を振るってきた。


 ゴゴゴゴッ…

 歪みきった異空間すらも切り裂く次元を超えた剣戟が、俺に迫ってくる。なんという強力無比な能力なんだ。

 さすがに躱せないと判断した俺は、腰に差したままだった霊剣アンゴルモアを抜き放つと、サトシの痛烈な一撃を受け止めた。


 ゴウゥゥン!

 あたり一面に何かがあれば全て砕け散ったであろう猛烈な衝撃波が、俺たちから放たれる。勢いは…互角?いや、やはり…俺が押されているだろうか。一瞬頬が裂けたものの、すぐに霊気で自動修復されていった。



『ほう…この剣の一撃を受け止めたか。だがいつまでそんな余裕が持つかな?』

「余裕なんて無いさ。だから俺も…全力を尽くしている」

『だったらなぜお前は固有能力アビリティを使わない?そんな余裕があるのか?』


 サトシの問いかけに、俺は首を横に振った。


 俺は…刻を待っていたのだ。能力を発動すべきタイミングを。

 今はまだその時ではなかった。だからずっと能力を解き放てる準備が整うのを待っていたんだ。



「サトシ、俺の能力は…人生においてたった一度しか発動できない」

『…ふっ。なんだそれは?そんな能力もん、使い物になるのか?』

「使い物になるかならないかなんて関係ない。ようはお前を止めることが出来れば、それで良いんだ」

『…ほう、言ってくれるじゃないか。で、お前がそれだけ勿体ぶる能力は、いったいどんなものなんだ?』


 サトシの問いかけに、俺は思わず苦笑いを浮かべてしまった。


「…わからない」

『は?』

「実は俺自身にも、どんな能力なのか分かっていないんだ」



 そう、俺は未だに自分の能力がどんなものなのか分かっていなかったのだ。現時点で分かっていることは、この能力はたった一度しか発動できないこと。発動したらおそらく俺は死んでしまうこと。

 そして…確実にサトシを仕留めることが出来るであろうこと。




 俺の言葉に、サトシは一瞬だけ固まったあと…ゆっくりと笑い始めた。


『…くくく。アキラ、お前はやっぱりバカだったなぁ。知ってたか?俺はな、心の中でずーっとお前のことをバカにしてきたんだよ』


 邪悪な笑みを浮かべる”邪神”サトシは、俺を小馬鹿にするような口調で言葉を続けた。



『アキラよ、以前俺に聞いてきたよな。なんで自分の命を救ったのか、どうして仲良くしてくれるのかってさ。

 答えを教えてやろうか?俺はな…お前のことをずーっと見下してたんだよ!お前みたいなダメ人間を間近に置くことで、俺の引き立て役になってもらってたんだよ!!

 そんなことも知らずに俺に馬鹿面で感謝するお前の、なんて滑稽だったことか!!あーっはっはっは!実に愚かでちっぽけなアキラ!』


「…知ってたよ」


『……なんだと?』


 俺が同意を示したことに、サトシは驚きの表情を浮かべた。


 負け惜しみでもなんでもなく、俺はサトシの言葉に傷つくことなど何もなかった。なぜなら…あいつの言っていたことはすべて真実だったのだから。



「…サトシ。お前が言う通り、俺は大したことない人間さ。お前みたいに輝いてる存在とは、住む世界が違う…ずっとそう思ってた」

『……おい、アキラ』

「だけどお前は、そんな俺にも優しくしてくれた。もしかしたら、さっきお前が言ったような下心があったのかもしれない。だけど、そうだとしても…俺が救われたという事実はなにも変わらないんだ」



 そう、サトシにどんな思いがあったとしても、そんなものは関係ない。

 俺は…サトシのおかげで死を乗り越えることができた。いまの俺があるのは、間違いなくサトシのおかげなんだ。



『…煩い…綺麗ごとはやめろ…』


 明らかに動揺の色が見えるサトシに、それでも俺は言葉を続けた。


「綺麗ごとなんかじゃないさ。たとえお前が俺を利用していたとしても、俺もお前によって生かされた事実は変わらない。俺たちは互いに自己中で私利私欲的で…ようはお互い様なんだよ。

 …でもなぁ、サトシ」



 俺はじっとサトシの目を見つめると、大事な言葉を言い放った。




「それでも俺はお前のことを…親友だと思っている」









 俺の言葉に、サトシの動きが止まった。



 見つめ合う、瞳と瞳。

 僅かに…サトシの瞳が揺れたような気がした。


 だがそれも一瞬のこと。サトシの瞳に再び暗い焔が宿る。



『アキラ、俺はなぁ…そんなお前が死ぬほど大っ嫌いなんだよ!そして…俺は、それ以上にお前のことが羨ましかったんだ』

「なっ!?」


 サトシの口から漏れ出た予想もしなかった言葉に、今度は俺が驚かされる番だった。



『アキラ、さっき俺に聞いたよな?失踪する前に何があったんだって。俺はなぁ…お前にずっと嫉妬してたんだよ』

「な、なんでサトシが俺に…?」

『最初お前を助けた時は、俺がお前の命綱を握ってるくらいの感覚だったよ。お前が忠犬よろしく俺に尻尾を振ってくるサマなんて、なんて可笑しくて気分が良かったことか!

 …だけど、いつの間にかお前は独り立ちしていきやがった』


 サトシの瞳に、暗い陰が宿る。初めて聞く…サトシの心の底からの言葉。


『気がついたらお前は自分の足で歩き出していた。お前は東京の大学に出て、自分の道を歩き始めたんだ。

 …なのに俺はどうだっ!?地元に埋もれ、たいしたこともできず…

 俺はこのまま田舎に消えていく定めだっていうのか!?そんなの我慢できない!俺は…そんな存在なんかじゃないはずなんだ!!』


「サトシ、お前…」


『そんなとき、あの声を聞いた。アンクロフィクサが俺を呼ぶ声。俺は狂喜したね!やっぱり俺は選ばれた存在なんだってなぁ!

 …だが、呼び出された結果はこのザマさ』



 己の手を見つめて、人外へと成り果てた姿にサトシは何を思う?



『…俺はもうダメだ。全てがどうでもよくなったんだよ。アキラ、だから俺は…全てをぶっ壊す』




 語り終えたサトシが、再び全身に強大な魔力を蓄え始めた。どうやら本気の攻撃を仕掛けようとしているのだろう。


 俺は…気がつくとサトシの話に涙を流していた。俺は何も知らなかった。サトシの気持ちも…苦しみも。


「…サトシ、俺は…」

『黙れアキラ。キサマの同情なんて、俺は死んでもゴメンだね。しかも…今の俺はかつての俺とは違う。強大な力を手に入れて”神”となったんだ。見ろよ、この力』


 サトシは両手を上に挙げると、やつのまわりに数百もの光球ビットが出現した。しかも光球ビット同士が雷の線でつながり合い、巨大な蜘蛛の網のように俺の周りを取り囲む。

 それはまさに…神の力。


『さぁ、決着ケリをつけようぜ。いまの俺たちは…”邪神”と”魔神”の最終戦争ラグナロックをやってんだろう?俺が手に入れた最強の6人の魂の力…お前に見せつけてやる。

 …そして、お前が7つ目のピースとなれ。俺はお前の魂を胸に抱いて…世界を滅ぼしてやる』



 俺は涙を拭うと、ゆっくりと顔を上げた。もう俺に…迷いはない。サトシの顔を再度見つめる。


「サトシ。俺は…お前の気持ちになにも気付いてやれなかった。そのことは本当に申し訳なかったと思っている」

『バカかお前は。俺はなぁ、お前なんかに気付いて欲しいなんて、これっぽっちも思ってなかったんだよ』

「…だけどな、サトシ。お前はやり過ぎた。超えてはいけない一線を越えてしまったんだ。

 …その罪は、償わなければならない」



 俺はゆっくりと両手を広げると、胸の奥から湧き上がってくる霊気を解き放つ準備を整えた。これまで溢れかえっていた霊気がウソみたいに穏やかに落ち着いている。


 これは、俺の能力を発動する準備がついに整ったことを意味していた。



『…ほう。お前はどうやって俺に罪を償わせるってんだ?』

「俺が…お前を倒す。俺の…本当の固有能力アビリティでな」


 そう宣言すると、俺はビシッと右手をサトシに向かって突き出した。


『やっと準備が出来たのか?ずいぶんといいかげんな能力なんだな』

「待たせて悪かったな。だけどもう…此れで終わりだ」

『…アキラ、お前なんかに俺を倒すことができんのか?俺は”神”だぞ?』

「お前が神だろうが親友だろうが関係ない。俺は…この不幸の連鎖に決着を付ける!」



 俺は意を決すると、ついに…最後の能力を解放させたんだ。



「発現せよ、俺の能力アビリティ

 解き放て!全ての霊力スピリット

 アンゴルモアよ、俺に…エナジーを…!

 今こそ覚醒セレンディピティを!!


『我、今こそこの命の全てを捧げ、力の解放を求めん。我が友を…救うために!』


  《魔神開放マギナブレイク》!【新世界シンセカイ感謝祭カーニヴァル】!!」



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