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100.握り交わした手



 

 霊山ウララヌスの山頂にある火口。その中心部分に存在する小さな島に俺は立っていた。


 島の中心に突き立っているのは…魔力とは違う圧倒的な気配、”霊気”を放つ【霊剣アンゴルモア】。

 その横に立つ【ミスト】…全身をローブに包み込んで口元だけを表に出している背の低い男性が、俺に向かってニヤリと口角を吊り上げながら語りかけてきた。



『よぅ、アキ。久しぶりだな。

 …ふぅん。前に会ったときとはまるで別人ぢゃねーか。お前、いったい何があったんだ?』


 俺の全身を舐めるように観察しながら、面白そうな口調で俺の頭に直接話しかけてくる【ミスト】。俺は失われた目と腕を見せつけながら、彼に語りかけた。



「なぁ【ミスト】。あなたは前に会ったとき、俺に対してこう言ったよな?『お前は一人なのか?』って」

『…あぁ、言ったな』

「あのときの言葉の意味が分かったよ。俺は…一人じゃなかったんだ」


 ほぅ、と声を漏らす【ミスト】に対して、俺は歯を食いしばりながら説明し始めた。…これまでの出来事を。俺の身に…一体何があったのかを。





 話は俺がこの世界に来るきっかけとなった出来事から、最後にサトシが『邪神』として復活するところまで続いた。

 …長い長い、俺の人生の旅の物語。


 わざわざ大きな声で説明したのは、【ミスト】に伝えるだけではなく、その背後で大地に突き立った…【霊剣アンゴルモア】に対して聞こえるようにするため。俺は【ミスト】に語りかけながら、その実【アンゴルモア】に説明しているつもりだった。


 この世界で何が起こっているのかを知ってもらうとともに、俺のことを知ってほしい。そして…力を貸してほしいとの思いを込めて。






 長いようで短い俺の2年以上に及ぶこの世界エクスターニヤでの話を聞き終えると、【ミスト】は頭をポリポリかきながら口を開いた。



『…ふーん、おめぇもなかなか苦労したんだな。で、そんな話を我輩にしてどうするつもりなんだ?前回のよしみでここまで連れてきてやったが…正直おまえのやってることは無駄だぞ?』

「…無駄?」

『ああ。ハッキリ言っておめぇにはアンゴルモア様を持つ資格は無ぇよ』




 …やはり、俺に資格・・は無かったか。



 キッパリとした口調で、【ミスト】は俺にそう伝えてきた。だが俺は…若干はガッカリしたものの、別に失望したりはしなかった。



『…なんだ?思ったほど落ち込んでねぇな』

「まぁ…ね。そう言われるのはある程度予想していたから」



 なにせ相手はこれまで一万年もの間、人間に持たれることを拒んできた【覇王の器レガリア】だ。そう簡単に受け入れられると考えるほど、俺は幼稚でも無計画でも無かった。今回みたいな結果、最初から分かりきっていたことなんだ。



『…んじゃあおめぇはこれからどうするんだ?諦めてさっさと下山するのか?だったら…』

「いや、そうしない。最初から言ってるだろう?俺は…【霊剣アンゴルモア】の力を借りに来た・・・・・ってさ」


 そう口にすると、俺は呆気に取られる【ミスト】を無視して、今度は圧倒的なオーラを放っている【霊剣アンゴルモア】に向かって語りかけた。



「なぁ、魔界の神とまで呼ばれたアンゴルモアよ。あなたは・・・・そこに・・・居る・・んだよな?

 だったらあなたに頼みがある。俺に…力を貸してもらえないか?」








 俺の言葉を、【ミスト】は確認するかのように繰り返した。


『力を貸して欲しい…だと?』

「ああ。俺はアンゴルモアの主人あるじとしての資格は無いんだろう?でも…力を貸すとなると話は別だ。どうせ一万年もの長い間、この地に止まってたんだから、ちょっと力を貸したところで、彼にとってはほんの僅かな時間なんじゃないか?」

『そんなの…屁理屈だろうが?』

「屁理屈だってのも最初から分かってるよ。これは…理屈じゃないんだ」



 ここに来るまで、俺はずっと考えていた。

 今回俺が求めている【霊剣アンゴルモア】は、普通の存在オーブではない。自分の意思を持って相手を選ぶような…特別な存在レガリアだ。


 間違いなく【霊剣アンゴルモア】は自分の意思を持っている。そんな存在であれば、たとえ俺のことを受け入れなかったとしても”交渉”は可能なのではないか。俺はそう考えたんだ。



『力を借りる…ねぇ。お嬢ちゃん、あんたなかなか面白いことを言うな。

 だがな、アンゴルモア様もかつては”魔神”とまで呼ばれるほどの存在ではあったんだが、今では…単なるものだぞ?聞く耳なんて持っているのかどうか…』

「いや、違うね。彼には…明確に意思・・がある。意思があるなら話だって聞いてくれるはずだ」

『話…か。はたしてモノに話を聞くことなんて出来るかな。それに、そもそもおめぇには資格が無いんだぞ?』

「俺なんかに資格がないことは最初から分かりきってたことだよ。だから無い物ねだりはしない。それよりも…ただほんの少しだけ、俺に協力・・して欲しいんだ」



 俺は簡単には諦めない。

 絶対にこのオーブは己の意思を持っている。であれば、説得出来るか出来ないかは…俺次第だ。


 そこに才能や素質は関係ない。




「頼む、アンゴルモア。少しの時間で良い。俺に…力を貸してくれないか?」








 静寂が、霊山ウララヌスの山頂を包み込んだ。


 …やがて根負けしたかのように、ミスト】がふっと笑い声を漏らした。


『…ふふっ、おかしな奴だな。だがそこまでしてアンゴルモア様の力を借りるに当たって、お前はなにを差し出せる?借りるというからには、何かを代わりに差し出すんだろう?

 これほどの力を借り受ける対価として、何も持たないお前に、いったい何を支払えるというんだ?』

「対価はな、この俺の…命だ」

『なっ!?』



 驚きの声を上げたのは【ミスト】だった。よほど俺の申し出が予想外だったんだろう。

 でも俺からしたら、アンゴルモアほどの力を借りるにあたって、それは…当然の対価だった。


 俺は改めて【霊剣アンゴルモア】に向き合った。相変わらず圧倒的な霊気オーラを放ち続ける剣に向かって、俺は声高らかに宣言した。


「アンゴルモア、頼む!たった1日で良い。俺に…力を貸してくれ!

 もし力を貸してくれるのであれば、俺は…魂ごとあなたに捧げよう。だから…頼む!」

『おいおい、アキ。お前は何を考えてるんだ?強大な力を手に入れたところで、たった1日で死んじまったら何の意味もないだろうが』

「意味はある!これ以上無いほどにな」

『…たった1日で何が出来るって言うんだ?』

「友を…大切な存在を、救える!」

『っ!?』


 俺の言葉に、【ミスト】が息を飲むのが分かった。



『アキ、お前は…大切な存在とやらが救い出せるのであれば、そのあとはどうなっても良いのか?それで…満足なのか?』

「…ああ、満足だね。…もっとも、スターリィからは怒られるかもしれないけどな」


 ふと脳裏に浮かぶ、可愛らしいスターリィの怒った顔。

 きっと凄く怒るだろうな。でも…先に勝手なことをしたのはそっちのほうなんだぜ?


「…それじゃあもう良いか?俺は…アンゴルモアを手にしたいんだけど」

『ま、まてアキ!』


 俺が【霊剣アンゴルモア】を手に握ろうとしたときに、慌てた様子で【ミスト】が声をかけてきた。


『お前は、力を借りることすらできずに消滅するかもしれないんだぞ?それでも…そんな無謀なチャレンジをするのか?』

「ああ、する。これで魂ごと消滅するようだったら、俺はその程度の存在だってことだし、あとには…レイダーさんたちも控えている」

『だったら、そのレイダーとやらに託すことは考えられないのか?』

「ないね。なぜならこれは…俺の問題だからだ。ただ俺は俺のエゴのために、大切なものを助けるための力を借りる。その当然の対価として…俺は自分の命を捧げる覚悟はできてるんだよ」


 俺の覚悟の決まった目を見て諦めがついたのか、【ミスト】ははぁとため息を吐くと、投げやりにこう言ってきた。



『…ったく、お前はバカなやつだな』

「バカで結構」

『…ほんっとにバカだな』


 最後に見た【ミスト】は、口元を歪めて笑っているように感じたんだ。









 もうこれ以上【ミスト】と話すことはない。俺はゆっくりと歩を進めると、大きな岩に突き刺さったままの【霊剣アンゴルモア】の前に立った。

 レガリアとまで呼ばれているこの剣は、前回見たときと変わらず、俺を消滅させんとする霊気オーラを強く放ち続けている。


 ふぅ…

 いよいよ、このときが来ちまったな。


 俺は大きく深呼吸をして目を瞑ると、これまで俺の身に起こってきたことを改めて思い出していた。




 …行方不明となったサトシを探している最中に、まさかの転移。やってきた新世界エクスターニヤでのゾルバルやフランシーヌとの出会いと別れ。

 スターリィたち【星覇の羅針盤ヴァルハラ・コンパス】のメンバーとの冒険の数々。そして…学園で知り合った生徒たち。エリスやティーナ、ハインツの双子といった【白銀同盟】の面々の笑顔が思い浮かぶ。


 俺は…本当に良い人たちに出会えた。

 彼らを守るためだったら、俺はこの命…惜しくない。




「アンゴルモアよ」


 俺は改めて声を上げて剣に話しかけた。



「アンゴルモアよ。さっきも話した通り、今の俺は何も持たない。だけど俺は…あなたの力を必要としているんだ。

 それは…確かに俺のエゴのためかもしれない。だけどあいつは…サトシはこの世界エクスターニヤ魔界ルナティックムーンに滅びをもたらそうとしている。

 俺はそれを止めたい。なぜなら俺は…この世界の人たちが大好きだからだ。優しくて、厳しくて、暖かいこの世界の人たちが…ね。

 だから、そんな彼らを守るために、あなたの力を借して欲しい」



 ゆっくりと左手を剣の柄に伸ばす。ビリビリと、強い力が俺の皮膚を刺激してくるが、それでも構いやしない。



「もし俺が、力を貸すに値しないと思うなら、魂ごと消し去ってくれて構わない。それでも俺は…あなたに頼るしかないんだ」



 暴風のように吹き付ける霊気は、まるで俺を拒んでいるよう。いや違う。これは…護っている?



「俺には…あなたが何かを護るためにこの地にいるように感じられる。

 それが何かはわからないけど、俺のしようとしていることとあなたがしていることは、そんなに大きく違わないと思うんだ。

 だから…この世界を守るためにも、俺に力を貸して欲しい。いや違うな。俺に…力添えをさせてくれ」



 …さぁ、これでもう言うべきことはすべて言った。

 伝えるべきことは、すべて伝えた。



 …それじゃあ、いくか。



 俺は覚悟を決めると、一気に剣の柄を握りしめたんだ。









 ---









 ぶぅぅん。


 妙な音とともに、すべての音が消えて周りが真っ白な世界に包まれた。



 なんの音もしない、何も見えない白い世界に一人で浮かんでいる。


 あぁ、これは死んだかな?

 俺は…失敗したのか。





『…アキ、お前はほんっとにバカだな。だけど…そんなお前のこと、嫌いじゃないぜ?』


 不意に聞こえてくる声は…【ミスト】?

 気づくと、白色しか見えない目の前の景色に、黒いしみ・・のような存在が浮き上がってきた。…真っ黒なローブに身を包んだ【ミスト】だった。



「【ミスト】…か?なぜこんなところに?」


 そう問いかけながら、多分俺は答えを知っていた。

 あぁ、おそらく彼は…



『…その通りだ、アキ。我輩が…【アンゴルモア】だよ』



 肩に手を当て、黒いローブを脱ぎ捨てると、その下には…思っていたよりもはるかに若い男の顔があった。


 髪の毛の半分が白く、半分が黒い。真っ黒な瞳は…カノープスたち魔族の特徴を残していた。

 吊り上がった鋭い瞳に好奇心を携えて、いたずら好きな子供のような表情を浮かべた【ミスト】…いや【魔神アンゴルモア】は俺に笑いかけてきた。



「やっぱりあんたが【アンゴルモア】だったんだな。それで俺は…あんたに認められたのか?」

『まぁ、そういうこったな。だけどなアキ。我輩の存在は…人間の身体に収まるもんじゃない。お前の身体は持って1日だぞ?それを過ぎるとお前は死ぬ。それでも…本当に良いのか?』

「あぁ、良い。それで十分だ」





 俺が頷き返すと、【アンゴルモア】は苦笑いを浮かべた。そして自嘲気味に目を伏せると、独り言を呟いた。


『…我輩は一万年もの永い月日を、この地でずっと見守り続けてきた。いずれ現れるであろう、才覚を持った人物を待ち続けてきた。

 だがな、もしかしたら…お前のようなやつこそを待っていたのかもしれないな。

 命を賭して人のために尽くそうとする、その行為をエゴと言い切るようなやつをな』

「ははっ、褒めてるのか貶してるのか分からないな」

『あぁ、我輩の最大級の褒め言葉だよ』



 魔神【アンゴルモア】は不敵な笑みを浮かべると、俺の目をしっかりと見つめながらこう言ったんだ。


『…アキ。我輩は、お前に会うために一万年もの永い時を待ち続けていた。お前こそ…我輩が求めていた人物だ』


「…ありがとう、【アンゴルモア】。心から感謝する」







 そして最後に、彼は不思議な問いを投げかけてきた。



『アキ…お前は、その失われた右手で何を握る?』



 俺は迷わず答えた。




「友の手を…握る」




 ニヤリと笑うアンゴルモア。




『そうか、ならば…我輩がお前の右手を握りしめよう。

 お前の…友人として、な』





 ふいに、俺の喪われたはずの右手にずしりと重みを感じた。




 次の瞬間、俺の意識は…真っ白な光に包まれていった。









 ---







 ハッと意識を取り戻すと、俺は相変わらず霊山ウララヌスの山頂の小島に立っていた。ただ、これまでと違い、失われたはずの右腕に違和感を感じる。


 恐る恐る右手に目を向けると…喪われていたはずの右腕の部分に、透けて光り輝く白い手のようなものが存在していた。その右手には…一本の光り輝く剣が握られていた。


 見間違いようのない。先ほどまで岩に突き刺さっていた【霊剣アンゴルモア】だった。






 次の瞬間、俺の体に劇的な変化が訪れた。


 それは、これまでにないほど凄まじい、天地を揺るがすかのような出来事だった。



 まず初めに、俺の中からもの凄い力が湧き上がってきた。

 渦巻き、吹き出すように溢れてくるそれは…かつてサトシの力を借りていたときとは較べものにならないほどの量の魔力。

 いや違う。これは、魔力じゃない!魔力を超えた魔力…霊気だ!



 ビキッという音とともに、俺の中の何かが弾け飛ぶのが分かった。恐らく俺が《超越者イクシード》として覚醒した音。

 だが…それすらもただの通過点でしかなかった。



 俺の全身から、一気に黒と白の色を纏った魔力が吹き出してきた。膨大な霊気オーラは俺の服を破り、全てを新しく塗り替えていく。



 俯瞰するようにして俺は自分自身の変化を眺めていた。

 まず俺の喪われた右腕が再生していった。腕の付け根からモリモリと盛り上がっていき、透明だった右手を埋め尽くすようにして真っ白な肌の右手が復元していく。


 もちろん…右目も再生していた。しかも右目の黒目部分は真っ白だった。一方、茶色だった左目は真っ黒に変化していた。



 それだけじゃない。俺の髪の毛も変化していた。薄い茶色だった髪の毛は、白と黒が混じったストライプ柄へと変化していく。同時に長さもどんどん伸びていき、肩口くらいまでだったのが俺の腰くらいまでの長さになっていた。



 仕上げに…破れ飛んだ服の代わりに、真っ白な霊気オーラが勝手にドレスの形になって俺の体にフィットしていった。

 …あんまりスタイル良くないんだけど、結構際どい感じのドレスだ。おいおいこれミニスカすぎないか?しかも胸元も際どいんだが…



 最後に、俺の背中に“天使の翼“が具現化した。

 いや、これはもう翼なんて代物じゃない。白い霊気がまるでジェットのように吹き出し、その周りを七色の虹が幾重にも輪になって覆っていた。




 こうして俺は、ついに自分のオーブ…いや『覇王の器レガリア』を手に入れて、覚醒することが出来たのだった。


 まったく別人のような姿になって、ただ一人…霊山ウララヌスの山頂に立っていたんだ。






『アキ、申し訳ないが…お前の体を変化させてもらった。なにせ我輩の膨大な霊気を受け入れるだけの器が、お前の体にはなかったからな。

 それだけしても…やはりお前の体は1日しか持たない。残念だが、お前は1日後に死ぬ』

「それで十分だ、謝る必要なんてないよ。ありがとうな…アンゴルモア」


 俺は語りかけてくるアンゴルモアに礼を言いながら、全身に染み渡る魔力…いや霊気を確認した。

 溢れ出るこの力…此れなら間違いなく、サトシに届くっ!



 気がつくと、一年中霧に覆われていた霊山ウララヌスの山頂が、いつのまにか見事に晴れ渡っていた。

 まるで…それまでの役割を果たしたかのように。




『ほーら、あそこにお友達が見えてるぜ?』


 アンゴルモアの声に視線を向けると、霧が晴れて見通しの良くなったおかげで、自分がいる火口の島を見渡す外輪山にレイダーさんたちの姿が在るのが見えた。

 あー、なんかカノープスが子供みたいに必死に手を振ってるぞ。なんか可愛らしいな。



 俺はつい嬉しくなって…彼らに手を振り返したんだ。










 ******








 霊山ウララヌスの霧の中で惑わされたレイダーたち5人は、気がつくと頂上付近に辿り着いていた。

 そこで…アキと【ミスト】の対話を、霧の中に映し出された映像と、頭の中に響く声とともに聞かされることとなる。



 そして…アキが【霊剣アンゴルモア】を手にした瞬間、一気に目の前の霧が晴れた。

 やがて霧の晴れた山頂に姿を現したのは…まるで別人と化したアキの姿。



 全身から…霊山ウララヌスがそのまま化身したかのような神々しい霊気を放ち、黒と白が美しいコントラストを見せる髪の毛を躍らせながら、背中から噴出するジェットで宙に浮くアキ。

 そんな彼女の姿を…彼らはそれぞれの想いを持って眺めていた。




 アキに向かって必死に手を振りながら、カノープスは感極まって涙を流しながら隣のプリムラに語りかけた。


「ほら!見てみなよプリムラ!やっぱりぼくは間違ってなかった!アキは…ぼくたちの王たる資格を持つ人だったよ!いや、それすら超えて…アキはぼくたちの神、『魔神』になったんだ!」


 興奮するカノープスを宥めるようにして、それでも感動を抑えられない様子で…プリムラはアキに向かって片膝をついた。


「そうね、カノープス。あなたは正しかった。

 強い意思、熱い想い、命を賭けるその姿。あぁ、アキ様…あなたこそまことの我々魔族の神です。拙者らはあなた様に永遠の忠誠を誓います」



 少し離れたところでは、レイダーたち三人が穏やかな表情を浮かべながら、”魔神”と化した一人の少女…アキを眺めていた。



「いやー、大したタマだとは思ってたけど、まさかここまでとはなぁ」


 呆れたようにそう口にするガウェインに、ウェーバーが嬉しそうに頷いた。


「そうですね。私はまさか自分の龍生じんせいのなかで、神話サーガの誕生に立ち会えるとは思っていませんでしたよ。とても神秘的な光景ですね」



 そして最後にレイダーが、満足げな笑みを浮かべてこう呟いた。



「なぁ。みんなは俺のことを英雄だと持て囃すんだけど、そいつはとんでもないな。本当の英雄ってやつは…アキあいつみたいなやつのことを言うんだよ」




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