ユキグニと
待ち合わせの時間はもうすぐ。あと何分もしないうちに、アタシの彼氏があの角からやってくる。待ち合わせはいつもここ。地下への階段があるここでアタシは待ってる。
彼氏の名前はユキグニ。本名はユキマサだけど、字が雪匡だから雪国っぽいでしょ?だからユキグニ。昔からずっとそう呼ばれてる。アタシもずっとそう呼んでる。
ユキグニが来たら、一緒に階段を降りる。降りたらBARが一軒だけ。ここは思い出のお店。アタシらが再会したお店。アタシは週末、いつもユキグニとここで飲む。
「あっ、来た」
ユキグニの服はいつも真っ黒。サングラスだけオレンジ。夜でもサングラスかけてるのは何なんだろって思ったりするけど、似合ってるからいっか。何かちっちゃいオッサンと挨拶して、こっちをちらっと見る。そしてオッサンと何か一言二言話して、また挨拶。そしてこっちに歩いて来る。
「待ったよー」
「わりぃ」
「待ち合わせは5分後だけどねー」
「まぁな」
私はこの時間がたまらなく好き。待ってる時間がたまらなく好き。ユキグニは昔から時間にルーズなのに、私との待ち合わせだけ5分前に来ちゃう。それが嬉しくて、私はそれより15分前には来ちゃう。何か、愛されてるかんじがする。大事にされてるかんじがする。だから私は、この待ってる時間がたまらなく好き。
「何か食ったか?」
「食べてないよー」
ウソ。ほんとはちょっと食べた。ユキグニの前では少食でいたいから、カフェでスコーンを半分くらい。
「一杯飲んで、何か食い行くか」
「そだねー、お腹すいたー」
「お前、あんま食わないじゃん」
「食べてるじゃーん」
会う前にね。だって、少食で可愛いって思われたいじゃん。
「階段、気を付けろよ」
「わかってるよー」
階段を降りると、誰もいない。
ここでアタシたちは必ずキスをする。
「ナギサ」
「んっ」
ほんと、幸せ。




