嫌な男
残された俺とオーナーは、どちらかともなく苦笑い。そしてオーナーは「違うのよ、あの子はね……」と、珍しく歯切れが悪くなりそうな言い出しで目を泳がせた。とてもバツが悪そうな顔だ。オーナーのこんな顔は珍しい。だが、見たことがある顔。女の顔だ。お陰で俺は何となく察した。
「俺も変わったし、あんたも変わった。 それでいいじゃないか」
「ん~……」
返事とも何とも捉え様がない、微妙なニュアンスの呻き。煮え切らない関係なのだろう。たぶん肉体関係ではあるはずだ。だが、純粋な恋人同士ではない。勇気の方は少なからずオーナーを金づるだと思っているだろうが、同時に自分の女だとも思っているはずだ。アイツはそういうヤツだ。そしてオーナーの気持ちと微妙に噛み合っていない。
バツが悪そうなオーナー。そりゃあそういう顔にもなるだろう。何故ならオーナーは、あわよくば俺とヨリを戻そうとしたが、俺はそれを何となくかわし、舌の根も乾かないうちに他の男の存在を俺に知られた。しかもそれが俺の子飼いだった勇気なのだ。
「いや、違うっていうか。 違っ、う~ん……」
「気にするな。 今を変えたかったんだろ?」
俺の言葉にオーナーは切なそうな顔をした。読みは当たっていたのだろう。オーナーは勇気との関係を精算したかったんだ。同時に、久々に現れた俺に傾こうとした。その同時進行が露見してしまい、色んな感情が押し寄せているんだろう。
「軽蔑……したでしょ」
「いや、全く。 むしろ理解出来る」
あっけらかんと言い放つ俺に、オーナーは驚きの表情を見せる。目の泳ぎは一層激しくなり、頭をフル回転させて考えている最中なのが分かる。そりゃそうだ、勇気から俺に乗り換えようとして、それが俺にバレた形なのに、俺はそれを理解出来ると言ったのだ。
「優しくなったわね」
「違うな。 本当に理解出来るだけなんだ」
そう、本当に理解出来るだけだ。オーナーをフォローする意図は全くない。俺はデスクに軽く腰掛け、嫌な感情を持っていないことを告げる。遠くで車のクラクションが鳴った。
俺も今の俺になる為に、捨てたものが沢山ある。あの娘がいたから潔く捨てた。オーナーにとっての踏ん切るきっかけが俺がなのだとしたら、それは嬉しいことだと俺は思った。
「色んな人間見てるあんたが、一度離れた俺なんかにもう一度賭けようとしたなら嬉しいだけさ。 だけどごめんな。 前と同じにはなれない」
「もう、二度振られるってどうなのよ」
「すまん。 でも今の俺は、誰よりもあんたの右腕に相応しいと思う。 俺もあんたも、昔より分かり合えてるからな」
「本当に変わったわね。 毒気が抜けて」
「いい男になっただろ?」
「嫌な男になったわ」
勇気よりはマシなつもりだけどな。




