非日常の日常
愛し合った翌朝、まだ暗い時間に瑠美架が起き出した。俺も寝ぼけ眼ながら起きる。
多分、俺がぐうたら寝ていても、瑠美架は文句一つ言わないだろう。それどころか、寝姿を見て微笑んでくれそうな気さえする。だが、今はとにかく一緒の時間をすごしたい。
「おはようございます」
微笑む瑠美架に、微笑む俺。俺たちは毎晩愛し合っているが、いつまで経っても、どこかに初々しい雰囲気が残っていて、気恥ずかしさから微笑み合ってしまう。俺は瑠美架に出会うまで、こんな感情を知らなかった。この寒い季節に、何だか俺の体の中をあたたかいものが流れている様な気になる。多分これが、本当に愛しているということなのだろう。俺は瑠美架を抱きしめて、瑠美架も俺を抱きしめた。万感の思いで俺は言う。
「おはよう」
瑠美架と一緒にいられること。これが俺にとっての唯一無二の幸せだ。実感せずにはいられない。幸せだ。
「……」
「……」
ひとしきり抱きしめ合った俺たちは、どちらともなく洗面所に向かった。瑠美架は朝起きると、まず洗面所で歯磨きをする。すると、俺もいつしか、寝起きすぐに歯磨きをする様になった。
鏡の前で並んで歯磨きをしていると、どちらともなく笑ってしまう。何だか楽しくて、何だか嬉しくて、そして俺の笑顔は、何だか瑠美架に似てきていて、自分でも優しい顔になってきた気がする。空虚に生きて来た、これまでの俺とはまるで別人だ。
「着替えますね」
歯磨きが終わると、瑠美架が制服に着替え始めた。俺は何度も瑠美架の裸を見ているのに、焦って目をそらして、先に部屋に戻る。少しして戻ってきた瑠美架は、制服の上からエプロンをつけて朝食を作り始めた。
「……」
「……」
お互いに何だか照れてしまい、無言になってしまった。だが、お互いにチラチラ見て、目が合うと笑い合った。そうこうしているうちに、朝食が出来上がり、俺が配膳する。今日の朝食は和食。味噌汁に西京焼きだった。
瑠美架は朝食を作ると同時に、昼食用のサンドイッチも用意していた。何故か俺の分まで、だ。俺はいい歳なのに、昼メシまで作ってもらって、全く何様なのだろう。
「……」
「……」
食事が終わった俺たちは、また並んで歯磨きをした。向き合って朝食をとり、再度の歯磨きを終えた俺たちは、束の間、お互いの心が全て分かる様になる。朝だというのに、お互いの体を貪り合いたい気持ちを分かり合ってしまう。
「はぁ……はぁ……。 行って……きます……」
抱き合っている俺たち。潤んだ目をした瑠美架が俺に口づけし、顔を真っ赤にしながら立ち上がって、行ってしまった。俺はしばらくぼんやりして、「そういや、金忘れてたな」の一言。先日、オーナーがくれると言った支度金だが、もらうのを忘れていたのだ。まあ、くれるといっていたものなので、明確に催促してみてもいいだろう。……などと考えているうちに、俺は眠くなってしまって、自分で気付かないうちに眠りに落ちてしまった。瑠美架の体を貪って朝から疲れてしまったのだ。ハッとして起きると、もう日が高くなっていて、サンドイッチが美味い昼メシ時になっていた。




