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越冬  作者: 社 やすみ
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こんな……

 帰路につく俺は、マンションのエレベーターの中でふと思い立ち、スマホを触った。そして、保存されている瑠美架の動画を消した。これは、俺と瑠美架が初めて体を重ねた時の動画だ。これを持ち続けていることが、何か、瑠美架に対する裏切りの様に俺には思えた。自分の保身など、有事の際の切り札など、瑠美架に対しては必要ない。そう思わずにはいられない。オーナーとの話は、俺の心を瑠美架へと更に前のめりにさせてくれた。


 俺の瑠美架への気持ちは、単なる恋ではなくなっていると気付かせてくれた。そして、何なら瑠美架になら、裏切られてもいいとすら思っている。そんなことにはならないとは思うが、絶対とは言い切れない。繁華街での俺の仕事をよく思わないかも知れないし、そもそも、過去に肉体関係があった女に世話してもらった仕事だと知れば、きっと瑠美架は(うつむ)くだろう。それでも、瑠美架が俺と相対する、離れるということにはならないとも思う。瑠美架は無垢に俺を愛してくれている。そして俺も瑠美架を無条件に愛している。俺のこれからの人生は、これだけでいいと思えるのだ。そして、瑠美架にとって俺が邪魔な存在になった時は、俺が退くし、場合によっては滅ぼされていい。例えば、亜希子の存在が、ナギサの存在が、瑠美架の顔を曇らせる時が来ないとは言い切れない。無論、もう関係しないが、瑠美架が俺の過去に難色を示したら、それは受け入れなければならないのではないか。そうはなりたくないし、瑠美架を諦めたくはない。だが、瑠美架の心に影を落とす存在になるぐらいならば、身を退くべきだと思う。瑠美架の障害になりたくない。なってはならない。


「こんな……」


 こんなヤツだったか?俺は。そう思った俺の言葉は、しかし、最後まで紡がれはしない。これを言ったら、俺は前の俺のままの様な気がしたからだ。逆に、言わなければ、自分の変化を受け入れて、新たな自分が始まる気がした。実際は、言おうが言うまいが、どちらであろうと、きっと大した意味なんてないし、大きく変わるものなんてないのかもしれない。だが、今の俺は、何にでもすがって、瑠美架のことを考える。考えてしまう。お陰で、自分の言葉ですらも、何らかの占い、まじない、願かけの一端になってしまっていて、苦笑してしまう面もあるが、こんなにも真剣に誰かのことを考えたことがない俺は、今の俺を何だか気に入りはじめている。


 俺はこれまで、自分勝手にワガママに生きてきたが、これからは、瑠美架の為に俺の人生を使いたい、なんて思っている。瑠美架はきっと、俺にすがっている部分があって、それはきっと家庭環境に起因している。瑠美架を取り巻く環境は、俺が育った環境とは随分違うと思うが、しかし親へのわだかまりは俺にだってあるし、瑠美架にもきっと相当なものがあるはずだ。年頃の少女が一人で暮らし、行きずりの男に無垢に寄り添うには、何らかの苦悩の日々の末のことなんじゃないかと俺は思う。いつか瑠美架の心の奥の奥までたどり着きたい。その為だったら何だってするつもりが俺にはある。……さて、そんなことを考えているうちに、エレベーターの上昇は続き、浮遊感の中、俺の愛の決意は、瑠美架のもとへと向かう高揚感へと微妙にすり変わってゆく。そこには肉欲も含まれていて、これが今の俺なんだな、大人げないな、と思う。俺は、オーナーとの話のお陰で、瑠美架に対して、子を見守る親の様な気持ちを持っていると気付いたが、とはいえ、いつだって瑠美架を抱きたい気持ちは途切れず持っている。そして、瑠美架も同じ気持ちを持っていてくれるかも、などという恋愛ボケした考えへと到達し、俺は複雑に思慮すればする程、もう単細胞と言ってもいいぐらいに、本能的にシンプルに瑠美架を求めている。

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