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越冬  作者: 社 やすみ
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明るい街とナギサ

 食事が終わり、オーナーがさらっと言った。「仕事はいつからでもいいから」と。じゃあ何日かしたらまた来るわ、その時頼む、と言いながら立ち上がり、ほろ酔いで外に出ると、もううっすら暗くなり始めていた。昔はこのぐらいの時間から、この街をウロウロしていたな、なんて考えていると、何だか懐かしい気持ちになってきた俺は、ふらつく足取りで、繁華街を久々にぐるり一周してみることにした。空っ風が吹く中、ダウンジャケットの前を開けて歩く。酒で体が火照っている俺は、寒さなど感じず、千鳥足でふらふら歩く。


「随分、客層も変わったな」


 俺の口をついて出た言葉は、いかにも昔この街の住人だった男が久々に訪れた風で、自分で苦笑いしてしまう。というのも、俺は、この街には客として頻繁に来ている。その際に客層の変化に気付かないわけがないのだ。街の雰囲気は妙に明るく、道行く人の多くが、俺よりもだいぶ年下で、まだあどけなさが残る年代が多い様に見える。


「学生か」


 少年の雰囲気が残る男たちの一団が横に広がり、歩きながらはしゃいでいる。通行の邪魔になっている感がありありだが、それに気付かず、奇声にも似た笑い声をあげていて、今が一番楽しい時期といった雰囲気。昔のこの街だったら萎縮していそうな小僧どもが我が物顔で歩く様子を見ていると、この街の凋落(ちょうらく)を目の当たりにしているみたいで、溜め息が深くなる。かつてのこの街の怪しい雰囲気はどこへやらだが、これが思いのほか今の俺には居心地がよく思えた。脳裏には瑠美架の笑顔が浮かぶ。俺たちはこの街で出会って、この街で縁を結んだ。


「あっ、ユキグニ」


 不意に背後から、聞き覚えのある妙に明るい声。今のこの街の雰囲気に合う声ではある。振り返る俺は、相手の名前を口にする。


「ナギサ」


「元気ー?」


 明るい髪に、明るい表情。歳は三十路だが、まだ二十代に見える。着ているのは高級ブランドのロゴがこれでもかと入ったジャージ。高そうで、気取っていて、いかにもナギサらしい鼻につく格好だ。


 俺がナギサの部屋から出てからそんなに経っていないはずだが、何年も会っていない様に俺には思えた。とは言っても、恋しかったわけでもないし、再会に何か感慨があったわけじゃない。ただ、随分遠くなったと感じただけだ。前の俺は、ナギサを生きたアクセサリーの様に思っていたし、ナギサも俺をアクセサリーの様に思っていたはずだ。見栄っ張りでブランド志向のナギサは高い服を着るし、俺にも高い服を着せ続けた。そこに俺の意思はなかったが、俺はそれに、自分の意思で流されていた。何とも薄っぺらい関係性だと思う。だが、そう感じているのは俺だけなのだろう。ナギサは前と変わらない雰囲気で話しかけて来る。きっとナギサにとっては、俺は今もヒモの彼氏なのだろう。


「今仕事帰りなんだー。 ユキグニはー?」


 俺に向かって質問したナギサだが、すかさず二の句をついで、俺の返答を必要としない。これがナギサだ。俺の意思を必要とせず、俺は俺の意思で流されてきた。


「何食べたいー? それとも飲みー?」


 腕を組もうと手を伸ばしてくるが、俺はスルリと抜ける。ナギサはいつも通り、俺におごるつもりなんだろう。だが俺は手をかざす。


「いや、もう飲んで来た」


「そっかー。 うち来るー?」


「いや、行かない。 時間がない」


 拒絶だが、遠回しの言葉。

 穏便にかわす、遠回しの言葉。

 街は明るいが、俺の心はほの暗い。

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