誠実
俺が他人をこんな風に思える様になったのは、瑠美架に出会って、瑠美架を見続けたからだろう。瑠美架はおとなしい子だが、俺の正面に立って、俺の視界から外れようとしない。俺も瑠美架を視界から外そうとしない。結果、お互い、真正面から向き合ってきた。瑠美架は俺にとって、向き合っていたいと思わせてくれる相手だ。そしてオーナーも真正面からきた。それはある意味で、瑠美架の俺への接し方と似ているのだと思った。瑠美架とオーナーは性格そのものはぜんぜん違うが、スタンスが似ている。気持ちを伝えて来た後、俺の正面からどこうとしない。
「……」
「……」
以前のオーナーなら、気持ちをこんな風に吐露し、沈黙を続けることなんてなかったはずだ。俺の知るオーナーはプライドが高い。こんな、ともすれば弱々しく映る、精神的に俺にすがる様な態度は取らないはずだ。
「今……そっちの状況もあると思うから、すぐに私とヨリを戻しなさい、なんてことは言わないから……、ゆっくり、考えてくれたらいいと思ってる、から……」
オーナーは、亜希子やナギサより年上だ。瑠美架と比べれば、倍以上の年齢。だがこの時、俺には、オーナーがまるで瑠美架と似た、不器用だけど真っ直ぐな少女に見えた。俺はいつも退路を確保した生き方をしているので、それをしない瑠美架に胸打たれた部分はあって、それは瑠美架にしかない部分だと思っていたけども、オーナーにもある種の覚悟というか、プライドをかなぐり捨てた、裸の気持ちをかんじた様な気がした。
とはいえ、瑠美架と同じかといえば違う。似てはいても、違うのは違うのだ。どういうことかというと、金が絡んでいる。オーナーとの間には、給料という真っ当な形とはいえ、金銭の授受関係が横たわる。それは亜希子やナギサ、客との関係性と一緒だ。瑠美架を大切に思う以上は、他の女とのこの関係性を崩してはならない。瑠美架と俺の関係性の様に、自分の心を差し出し合う関係になってはいけない。それは瑠美架に対する裏切りだと俺は思う。だから、オーナーには、瑠美架に対しての俺ではなく、これまでの俺に近い接し方でいるべきだ。俺が誠実であろうとする相手は、瑠美架だけでいい。いや、瑠美架だけに誠実な俺でいたいのだ。




