よせ
この感情はある意味で、父性の様なものも混じっているのかもしれない。俺はふとそう思った。だが、やはり違う、とも。俺も瑠美架ぐらいの年の頃に、一人暮らしをしたいと思ったこともあったが、それは単に女を連れ込みたいだけで、それ以外のことは一切頭になかった。もしあの頃の俺が瑠美架と同じ様に部屋を与えられていたら、メチャクチャだったろう。しかし瑠美架が浮わついたところを見せるのは、決まって俺に関する時だけだ。瑠美架を想うと、じわりじわりと、愛しい気持ちが俺の胸に広がってゆく。
「何? 若い女でも出来た?」
オーナーの言葉で、俺の意識はこの場に引き戻された。そう、若い女が出来た。
「いや、何だろうな……」
俺は言葉を濁す。
「何? ハッキリしないわね」
眉間にしわを寄せるオーナー。そうだった、この女は昔から、ハッキリしないことが嫌いなのだ。とはいえ、俺は瑠美架のことを話す気にはなれない。俺の瑠美架のことを、夜の世界の住人に話すことは、何だか瑠美架を汚すことに思えたからだ。俺はこれから夜の世界に舞い戻るつもりだし、この女は仕事を世話してくれる相手なのだが、古巣の仲間とは思えず、別世界の汚らわしい生き物の様に思えた。
だがそうなると、俺がいちばん汚らわしいのではないかとも思う。夜の世界の生き物で、瑠美架という少女を女として認識していて、その心と体を貪ることへの欲望が無限にわいてくるのだから、毒虫の様なものだろう。
「何か、別人みたいね」
「それはお互い様だ」
俺の返しに、オーナーは目を丸くした。こちらとしては、この女は昔とほとんど変わらない。俺はただ、言われたことを咄嗟に返しただけで、そこに他意はなかった。だがこの女にとっては刺さる言葉だったらしく、俺が見たことのない柔らかい表情で、俺を見つめてきた。
「分かっちゃうんだ?」
まるでその辺の女の様なことを言う。どうしたんだコイツは、と思いはしたが、俺も元ホストの端くれ、匂わせられれば食いついてみせる。ちなみに俺は、自分が何を分かっちゃったのか、全く分かっていない。
「何を考えてる」
だから当たり前に、聞いただけだ。深読みなど一切していない。俺は浅瀬でぼんやりしているだけだ。だがオーナーは何か堰が決壊した様で、目を伏せて小声になった。
「あんたに久々に会うってなって、分かったのよ、自分の気持ちが」
「よせ」
「私、あんたとやり直したい」
……断る。




