風を受けて歩く
日も高くなった昼前の時間帯。繁華街を歩く俺は、目的地であるオーナーの小料理屋周辺まで来ていた。堕落した生活と決別する為の接見がこの後あると思うと、柄にもなく身が引き締まった。
街路樹の葉が風で揺れ、乾いた音をたてる。一見するとまさに冬の情景だが、その風は、繁華街に続く細路地から吹いてきたビル風。それに気付いた俺は何だかしらけてしまいながら、時間潰しがてらにその細路地に入る。瞬間、向かい風が吹いた。繁華街に続く細路地から吹いてきた向かい風は、まるで繁華街の意思の様にかんじられた。街自体が俺を拒絶している錯覚にふと陥った俺だったが、すぐに瑠美架の美しい顔が思い浮かび、笑みをこぼしてしまう。俺と瑠美架の暮らしは、これからの俺にかかっている。そう思うと、いくらでも頑張れると思えた。俺は肩で風を切り、力強い歩みで細路地を進む。冷静に瑠美架の暮らしぶりを思い返してみると、きっと実家は裕福なのだろうと思う。だが、年頃の娘にあんな独り暮らしをさせているのはどこか異常だとも思うのだ。俺にとって瑠美架は既に守るべき大切な存在で、幸せにしたい相手だ。だからこそ、瑠美架を一人にしている親の気持ちが分からないし、俺なんかをただ慕ってくれる瑠美架の心の内幕を、あの環境に見た気がしていた。瑠美架は明確に何かを話してくれたわけではなかったが、俺だけが瑠美架を欲しているのではなく、瑠美架もまた俺に依存するだけの何かを秘めているはずだ。俺の心は今まさに春の様だが、瑠美架は何らかの冬にいるのかもしれない。それを俺に頼ることで春にしようとしているのではないか。だとしたら俺は、それに応えたい。なにしろ、瑠美架に誠実に向き合いたいと思っている今の俺は、瑠美架が作ってくれた、瑠美架だけの俺なのだ。だから俺も、瑠美架のこれからを作ってやりたい。これまでと違い、俺たちは一人ではなく二人なのだから。
そんなことを考えている内に、向かい風はやんだ。そして今度は後ろから風が吹く。この追い風に、何か見えない力の後押しを受けた様な気になった俺は、瑠美架のこぼれる様な笑顔を思い出したまま、いつも来ている馴染みの繁華街を、まるで久々に訪れたかの様に、感慨深く見回しながら練り歩く。色んな店を見て、馴染みの店員や、そうでない新入りを確認して回った。この挨拶回りは、また夜の街で戦うにあたっての、俺なりの復活準備だ。きっと何かの時に役に立つ。
そうこうしている内に、時間は正午をとっくに過ぎていて、いい頃合いになっていた。俺はあの女の待つ雑居ビルの前に到着していて、久々となる馴染みの魔窟を見上げ、中へと入った。




