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越冬  作者: 社 やすみ
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純粋なクズ

 釣り合いが取れていないと思うのならば、釣り合いが取れる様にならなきゃいけない。そうするにはまず金がなければダメだ。何せ、今の俺には金がない。金がなければどうしようもない。まずはこの問題をどうするか、だ。


 まともな社会人ならば、普通に働いて地道にやっていくのだろう。だが俺は、どう贔屓目に見ても、まともな社会人とは言い難い。というか、元ホストでヒモだった男がまともなわけがない。社会規範から大きく外れている。だが俺はまた夜の世界にしがみつくしかないだろう。俺はあの世界でなら今も稼げる気がするのだ。しかし、改めて考えてみると、社会規範から外れているのは、俺だけではない。夜の世界自体が社会規範と大きく外れている。どうしようもなく外れている。だからこそ生活感が見えず、一般人もホストを『女にモテて華やかな職業』と誤解する。ズレた認識でいる。これは意外と世間には理解されていないことだが、ホストはキャバクラ嬢と同業ではない。あちらは夜の蝶。こっちは蛾だ。根本的に違う。それを世間に分かってほしいと思うことがよくあった。俺たちは全く理解されていない。


 よく、ホストは金の亡者だと言われる。客が金に見えるなんて言うが、そんなのは当たり前だ。何故なら、ホストにはそもそも基本給などない。完全歩合制なんだ。指名されて金が入る。そしてボトルが入れば更に金が入る。ボトルの売り上げのうち、45%がホストに入る。残りは店が取るシステムだ。パーセンテージは店によっても違うというが、俺が入った店は45%だった。店を移ってもそうだったから、業界の基準がそうなんだろう。半々じゃないところが微妙に気持ちを萎えさせる。5%ぶん最初から損している気持ちになる。さらにここで曲者なのが、飲み放題ボトルという魔の存在だ。コイツがあるから、損している気持ちが年中くすぶり続ける。飲み放題ボトルは、高いボトルを入れなくても指名すればついてくる、いわば無料のお通しだ。ホストからすれば、飲み放題で居座る客はゴミでしかない。どれだけ相手をしても、金が入って来ないんだから当たり前の話だ。この無料の飲み放題ボトルで時間を浪費する女に捕まると最悪だ。指名料だけ払ってとっとと帰れと本気で思う。しかし稀に、指名してボトルだけ入れて帰る女がいる。出勤前のキャバ嬢や風俗嬢なんかにいるタイプだ。これに落ちてしまうホストは意外と多い。『生活の面倒を見てくれてる』と思ってしまうからだ。だが来る客はこんな都合のいい女ばかりではない。というか、基本的に女はケチだ。金を浪費する女にしても、心が広いタイプはほとんどいない。だいたいは虚栄心や他の客への対抗心から金を浪費する。つまり、めんどくさいヤツばかりだ。そのめんどくさいヤツばかりなのが女って生き物だ。だが、そんな女が俺たちに恋をする。こうなれば、本当にめんどくさいが手を出すしかない。まずは性欲とストレスの捌け口にして、こういう女を複数キープしたら生活が安定して、次の段階に入ることが出来る。ホストとしての軌道に乗る時が来た、ってヤツだ。まず、誰か一人に肩入れしてやる。そうすれば、対抗心から金を使う別の女が出て来る。そして稀に、明らかに羽振りがよくなる女が現れる。それが狙い目だ。キャバや風俗を始めた、もしくは借金して店に来る女だ。金を湯水の様に使い始める女がいたら、当面は本命として扱うんだ。こういう成金女が現れたら、どうあっても『彼氏』の座に収まるのがホストの正道といえる。こういう客が一人出来れば、そこからは対抗心を燃やす女が増えて、雪だるま式に金が転がり込んで来る。風俗に堕ちる女も目に見えて増えるし、最初に肩入れしていた女も、蜜月を取り戻したくて執着して金を注入してくる。こうやって客を増やすんだ。


 つまり、ホストと恋をしたい女は、指名だけして長く店にいてもダメだ。飲み放題ボトルで俺たちの時間を安く買い叩く女は、繰り返すがゴミだ。指名料3000円で朝まで飲み放題ボトルでねばられたら、実入りは指名料の45%だけだけなのだから。店側が徹底的にコストを抑える構造が出来ていて、その上に成り立つ拝金主義がホストの全てなんだ。


 つまり、金を注いでくれる女をどれだけ抱え込めるかがホストという世界だ。純愛なんてあり得ない。女にも、年収1000万以下の男はダメだ、とか、旦那はATMだ、と言い切るヤツがいる。あれと俺たちは一緒だ。人間のクズなんだ。相手は誰でもいい、楽させてくれる都合のいい金づるがほしいだけの人種なんだ。ある意味、純粋なんだ。純粋なクズなんだ。


 ホストの住居もひどいもんだ。これも拝金主義を確固たるものにする為のシステムの一つだ。店側にとって、稼げないホストは在庫だ。在庫は、寮とは名ばかりのワンルームに押し込むのがセオリー。俺が駆け出しの頃はロフトつきの十畳のワンルームだった。部屋は冷暖房がつけっぱなしで、それだけが雑魚寝部屋のいいところだが、本当にそれだけだ。十畳の部屋に八人が寝て、狭いったらありゃしないし、新入りは指名が入るまでは部屋への立ち入りすら許されないから、夏は暑いし冬は寒い。基本給がなく、指名が入らなければ、この環境からは抜け出せない。駆け出しの頃の俺もこれを経験したし、同期は次々に去った。あまりの環境に夢が壊れるんだ。これが新人ホストのリアルだ。


 ちなみに、俺が最初に入った店では、出勤時に(まかな)いのハヤシライスが出た。稼げなければ毎日このハヤシライス一食だけで生きていくことになる。幸い俺はすぐに稼げる様になり、いい思い出ていどに思っているが、毎日ハヤシライスばかり食っていたヤツらは、トマトベースの食い物全般が嫌いになっていった。客が手をつけなかったフルーツ盛りも食うから、メインであるメロンは嫌いになってゆく。この辺りは笑い話だが、異常な世界であることはわかるはずだ。こんな世界で生きて来て、こんな世界しか知らないのだから、俺が社会人としてまともなはずがないし、人間としてもおかしくならないわけがない。だから、今さら昼の世界になんて行けないんだ。そんな俺が稼ぐには夜の世界しかない。だから俺は、かつて在籍した店のオーナーに連絡を取った。

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